9. 知ってる人が特をする[1] km2CwYLEgumQbIKqk8GC8IK3guk 2024年2月11日 10:28:51 : ed1QEu8v3o : SzE1VGNNTnV5US4=[1]
収束せぬウクライナ「停戦」実現するただ1つの方法
「ロシアを打ち負かせ」の視点では情勢を見誤る
https://toyokeizai.net/articles/-/629963
プーチンのロシアがウクライナに攻め込み、今日に至っていることは事実です。ロシア軍の行動は一刻も早く抑制されるべき。私も含め、多くの人はそこに異論はないでしょう。
まずは停戦に持ち込むのが必須。これ以上、罪のない子どもたちや女性、高齢者、意に反して駆り出された戦闘員らの犠牲を増やしてはなりません。被害の拡大は憎悪の連鎖につながります。プラスは何もありません。
しかし、ウクライナ戦争の本質は、どこにあるか。停戦に向けてはそこを見極めなければならないでしょう。ゼレンスキーが完全な善で、プーチンが完全な悪とする見方は、一方的なものであり、プーチンの立場に立てば、この戦争にはプーチンなりの“道理”“正義”があると思います。「プーチンは正気を失った」といった見方が一部で出ていましたが、そんなことはまったくありません。
――具体的にはどういうことでしょう?
ウクライナ戦争は冷戦崩壊時から押さえていく必要があると思います。
1990年の東西ドイツ統一の際、アメリカのベーカー国務長官は「1インチたりとも」NATOを東方拡大させないと述べ、ゴルバチョフ大統領も東側の軍事同盟・ワルシャワ条約機構を解体しました。
ところが、ロシアの期待に反して、ソ連の支配を脱した東欧諸国はNATOの存続を主張し、自らもNATOに加盟します。同時に、アメリカとロシアの粘り強い交渉により、1997年にNATO・ロシア基本議定書が結ばれ、双方は「互いを敵と見なさない」という宣言を発した。
しかし、NATOの東方拡大は止まらず、2008年には旧ソ連構成国であり、ロシアと国境を接するウクライナとグルジア(現・ジョージア)をNATOに原則加盟させることが決まってしまいます。
モンゴル、ナポレオン、ヒトラーから侵略された歴史を持つロシアには、かねて「被包囲者のメンタリティー」が根付いています。ロシアの視点に立てば、とくにウクライナのNATO参加により、ロシアの安全が脅かされていくという意識は、決定的脅威となります。国の再発展と祖国防衛を最優先するプーチンにすれば、ウクライナのNATO加盟は、決して受け入れられない脅威でしかなかったはずです。
プーチンがウクライナに求める絶対要求事項
――その後は?
よく知られているように、ウクライナ南東部やクリミア半島にはロシア系住民が多数暮らしており、ロシア語は日常的に使われています。彼らが「ロシア系ウクライナ人」として安全かつ平和に暮らすことは、プーチンがウクライナに求めるもう1つの絶対要求事項です。
2014年、ウクライナでは親ロ派政権が「マイダン革命」で倒されましたが、危機を感じたプーチンは、ロシア系ウクライナ人が最も多く住むクリミアを国民投票という形でロシア領に併合します。その後に誕生したポロシェンコ政権は、クリミアに次いでロシア系ウクライナ人が多く住むドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)におけるロシア系ウクライナ人の保護を、2015年2月に「ミンスクU」という合意によって担保する約束をしました。ここでいったんウクライナ問題は小康状態に入りました。
今回のウクライナ戦争は、こうした冷戦後の流れの中にあります。そこには、ロシアにはロシアなりの理屈があるわけです。事態が急変したのは、ウクライナにゼレンスキー大統領が、アメリカにバイデン大統領が現れた2021年1月以降です。もちろん、だからといって、ロシア軍の侵攻を正当化することにはなりません。
アメリカのバイデン政権は、ウクライナ問題にどう向き合ってきたのでしょうか。
まさにバイデンこそ、「プーチンは悪、ゼレンスキーは善」という徹底した二元論的立場に立っています。そのうえで「善のゼレンスキー」と一体化している。それがアメリカの正義です。
実は先ほど話したマイダン革命後の2015年、オバマ政権の副大統領だったバイデンはドイツのミュンヘンで演説し、ウクライナへの武器を供与することがNATO諸国の道義的義務だと訴え、ウクライナへの軍事支援を約束しました。
ネオコンともつながりのあるバイデンの立場は明確です。アメリカの掲げる自由と民主主義という価値観は絶対的なものであり、冷戦後の欧州でその価値を実践する場がウクライナだ、と。実践の主体たるアメリカは善、邪魔するロシアは悪だ、と。大統領に就任してから、その姿勢を明確化していったと言ってよいでしょう。
停戦が可能だった時期があった
――そうした前史があって、今年の2月にウクライナ戦争が始まったわけですが、開戦直後には停戦交渉も行われていました。停戦のチャンスはなかったのでしょうか。
停戦は可能だった時期があります。外交による解決には、完全なる勝利も完全なる敗北もありません。
通常は「51対49」とか、互いのメンツを立てながら、ぎりぎりの内容を詰めていくわけです。相手を徹底的に打ち破れという「100対0」だと、少なくともどちらかの国家または国民は破滅です。
ウクライナ戦争において、最大の停戦の可能性は3月29日のイスタンブールでの和平交渉にありました。詳細は避けますが、その場で示されたウクライナ側の10項目の提案を読んだとき、私は驚きました。
ウクライナの中立化・非NATO化が第1項目に盛り込まれたほか、領土については、クリミアは2015年の話し合い、ドンバスについてもそれに近い内容でした。首都キーウでの軍事作戦縮小を表明し、東部への戦線を縮小していたロシアはこの内容を評価し、このままいけば、プーチンとゼレンスキー両大統領が会談する可能性も伝えられていました。
ところが、思わぬことが起きました。戦争勃発後、ロシアとウクライナが最も接近した瞬間は、もろくも崩れ去りました。
「思わぬこと」と言いますと?
キーウでの軍事作戦縮小を発表し、実際にロシア軍は撤退を始めた直後、ウクライナ軍が戻ってきます。キーウ近郊のブチャにも、ロシア軍撤収の3日後、ウクライナ軍が戻ってきます。そこからロシア軍によるウクライナ市民の虐殺が行われていたという情報が流れ始めました。
皆さん、覚えているでしょうか。最初は4月2日、キーウ周辺のプチャという街の市長が、プチャだけで280人の遺体を埋葬したと発表したことが発端です。14歳の女の子、後ろ手に縛られた男性……。多くの遺体が路上に放置されていたというニュースはロイター通信などによって瞬く間に世界へ発信されました。
ゼレンスキーは「ジェノサイドだ」と非難。バイデンは「プーチンは戦争犯罪人だ」と述べ、対ロ制裁を追加実施します。
これに対し、ロシア外相は「30日にロシア軍がプチャを離れた後、地元市長は3日間テレビに出演していたが、その際にロシア軍の撤収は歓迎しつつも虐殺については一言も発言していない」などと反論しましたが、現段階では正確なことはわかりません。いずれにしろ、この問題が浮上したことで、停戦は一気に遠のきました。
ウクライナ戦争と太平洋戦争の開戦は似ている
――ところで、ウクライナ戦争の開戦に至る経緯は、かつての太平洋戦争に至る日本の経緯と似ている、と東郷さんは新著に書かれています。どういうことでしょうか。
太平洋戦争は、中国の権益をめぐる日本とアメリカの激突が基本でしたが、交渉の最後の局面で日本側は甲案(中国からの撤兵)と乙案(南部仏印から撤兵しアメリカは石油輸出を再開)を用意して交渉しました。
しかし、最後には全要求を網羅したハルノートを日本が受け取ることになり、日本は開戦を決意します。
ウクライナではどうだったでしょうか。戦争が始まる前、2021年初頭にウクライナを包囲していくプーチンに対し、アメリカはその危険を一年中、宣伝していました。
ところが、ブリンケン国務長官は年末の緊張が高まるギリギリのアメリカとロシアの交渉で、「ウクライナの加盟の権利はNATO条約で保障されており、奪うことはできない」と姿勢を表明しました。ハルノートが日本に与えたインパクトと同様のショックをプーチンに与えたと言えるのではないでしょうか。
――この先、ウクライナ戦争はどう展開していくと見通していますか? どんな終わり方が想定できますか。
ウクライナがクリミアを含む全領土からロシアを追い出すまで戦うと主張する以上、プーチンがこれに応じる可能性はありません。希望的観測を伴って一部で語られているような、プーチン政権の崩壊なども起こらないでしょう。
したがって、ウクライナはアメリカの代理としてロシアと戦争を続け、双方に果てしない人的被害が発生し続けるでしょう。命を軽視した戦いが無期限に続くことになります。
途中で話したように、目下のウクライナ戦争の停戦は「ロシアもウクライナもどちらも負けてはいない」という形にするしか方法はないと思います。これは戦場における結果の反映でもありますが、同時にそういう「出口戦略」を関係者全員が知恵を絞ることによって生まれるものでもあります。そういう方向性でしかウクライナ戦争は終わらないでしょう。
対ロ制裁に追随するだけが対応策ではない
――日本政府や日本の国民ができること、すべきことはあるでしょうか。
命を重視する戦略にウクライナとロシアの双方が転換し、関係者がこの戦争の出口戦略に向かって共通の知恵を絞るように、関係者すべてに働きかけることです。とくに、バイデン大統領とゼレンスキー大統領に、です。やる気になれば、日本外交はそういう対応を取ることができるはずです。対ロ制裁に追随することだけが対応策ではありません。
もう十分過ぎるほど犠牲は払われました。ロシアの侵攻が免責されることはありませんが、とにかく今は、これ以上の犠牲者を出さないよう、日本は最善の努力をすべきだと考えます。