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ソレイマニ将軍
イラン国民に人気高まる将軍、その正体とは
米当局者はテロ支援者だとみなすが、イラン国民は英雄視する
ウォール・ストリート・ジャーナル
2018 年 2 月 21 日 11:57 JST
米当局者たちは、イラン革命防衛隊(IRGC)の精鋭組織「コッズ部隊」の司令官を務めるカセム・ソレイマニ将軍をテロ支援者とみなしており、数千人に上る米軍兵士や中東同盟国の兵士の戦死の究極的な責任者だと考えている。
だが多くのイラン人は、ソレイマニ将軍が中東地域で影響力を増大させつつあるイランの顔であり、外国からの侵略を防御するための最善の人物だとみている。
ハッサン・ロウハニ大統領の支持率が低下しているのとは対照的に、ソレイマニ将軍への国民の注目度は急上昇している。米メリーランド大学が最近行った調査によると、イラン人のうち、同将軍を「非常に好意的」に見ているとの回答は64.7%に上った。これに対し、ロウハニ大統領への好意的な見方は23.5%にとどまった。この数字からは、イランの中東での戦争の立役者が、同国で最も人気の権力者であることがうかがえる。
1982年にイラン・イラク戦争に参加したカセム・ソレイマニ将軍(左) Photo: AY-COLLECTION/SIPA/Associated Press
これは、イランが中東で自国の影響力保持に取り組んでいることに国民の支持が集まっていることの表れだ。イラン各地では最近、経済の低迷、厳格な社会規範、そしてロウハニ大統領が2015年に結んだ核合意に伴う制裁緩和の効果が期待外れなことをめぐり、抗議デモが行われていた。
テヘランで宝飾品店を営むラミン・モザファリアンさん(42)は、「彼の人気は、戦争の英雄でありながら、それをメディアで自慢しないことから来ている」と語った。「彼はイランの力を象徴する存在だ。全ての国民が彼を誇りに思っていると思う。そう思わない人などいるのだろうか」
イランの大胆な外交政策の一端は、今月に入っても垣間見えた。イスラエル当局は先に、シリアから飛来してきたイランの無人機(ドローン)を自国領内で撃ち落としたと発表。イランはシリアのバッシャール・アサド大統領を支援している。イスラエルはシリア領内のイラン人ないしイランが支援する標的を攻撃してドローン侵入事件に応じたが、今度はシリアの防空ミサイルがイスラエルの戦闘機を撃墜。米国は「イランによる計算された脅威の増大と、力と支配力を顕示しようとする野心」に警告を発した。
ソレイマニ将軍は現在60歳。イランが進めるイラクでのシーア派民兵の武装化やアサド政権への支援を代表する顔であり、イランで最も有名な人物の1人だ。前線を訪れる際にはカメラマンたちが随行する。白いひげと白髪が特徴的な同将軍は、イラクやシリアの民兵たちとの自撮りにも応じている。ユーチューブには、同将軍に敬意を示す動画が数多く投稿されている。
イラクのサラフディン州で前線を視察するソレイマニ将軍(2015年3月) Photo: REUTERS
同将軍が率いるコッズ部隊は国外での作戦を担当し、最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師の直属部隊だ。イラン革命防衛隊(IRGC)は国内で政治的弾圧の過去を持っているが、ソレイマニ将軍の人気から若干の恩恵が受けられるとみられる。それは、IRGCの影響力を抑えようとするロウハニ大統領の試みを阻止する一助になるだろう。
IRGC当局者を通じてソレイマニ将軍との接触を試みたが、実現には至らなかった。
米国は2007年、コッズ部隊をテロ支援組織に指定。イランがイラクやシリア、レバノン、イエメンでシーア派民兵集団に資金や装備などを提供する工作の背後にいる重要人物として、ソレイマニ将軍を特定した。
イランは数々の拠点を設け、自分たちに忠誠を誓う集団を支援することで、隣国イラクからの軍事的脅威を防ごうとしている。また、テヘランからレバノンの地中海沿岸につながる回廊を作ろうとしており、それによって陸路で武器や人員などを補充する構えだ。
イラン国内でソレイマニ将軍は、過激派組織「イスラム国(IS)」を国境に近づけないようにしたとして高く評価されている。メリーランド大の調査によると、シリア内戦勃発から7年がたった今、イランがISと戦う集団への支援を増やすべきだと考えるイラン人は55%に上っている。支援を減らすべきだと答えた人はわずか10%だった。
テヘランで開催されたイラン革命防衛隊の会合に参加するソレイマニ将軍(2016年9月) Photo: Press Office of Iranian Supreme Leader/Anadolu Agency/Getty Images
多くのイランの指導者には汚職疑惑がつきまとうが、ソレイマニ将軍は富を避け、イラン・イスラム共和国のためなら進んで殉教者になるというイメージを打ち出してきた。
国際問題を専門とするワシントンのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」の非常勤フェローであるアリ・アルフォネ氏は、「ソレイマニ氏を公の場に登場させることは、中東におけるイランの戦争に世界中のシーア派教徒を動員しようとする作戦の1つだ。この種の英雄をイラン体制は必要としている」と述べる。
IRGCの評判は、2009年の反体制運動弾圧を受けて下がっていたが、財政的には、バラク・オバマ前米大統領時代に科された米国主導の制裁からかえって恩恵を受けた。IRGCはイランの治安組織を牛耳っていたため、外国企業が撤退した空白に入り込むことができたのだ。建設、空港の運営や文化面の投資といった活動により、IRGCは有力な政治勢力になっている。
ソレイマニ将軍は政治的争いから一線を画し、大統領選への出馬要請を無視してきた。だが、シリアやイラクで外交的なアプローチを取ろうとするロウハニ大統領らの試みには手厳しく反応している。外交では「国防の殉教者」の仕事をなし得ないと言うのだ。
レバノンのシーア派武装組織ヒズボラの旗を振るシリアの要衝クサイルの住民(2013年6月) Photo: AFP/Getty Images
シリアでは、ソレイマニ将軍はアサド体制の生き残りに貢献してきた。例えば2013年、アサド大統領が化学兵器を使用したとしてイラン政府が同盟関係を断ちたがっているように見えた時、将軍はレバノンのシーア派武装組織ヒズボラの戦闘員2000人に動員を要請し、シリア政府軍が要衝クサイルを奪還できるようにした。それがシリア内戦の転換点になった。
イラクでは、シーア派民兵を武装化し、PR工作を展開して個人的な信奉者を構築することによって、戦場を支配すると同様に政治も支配するよう努めた。
イランがイラクでシーア派民兵集団を活用しているが、これは「レバノンでヒズボラを使っているのと同じ方法だ。治安面で大きな影響力を確保するとともに、実質的な政治力をも獲得するためだ」と元米中央情報局(CIA)長官のデービッド・ペトレイアス退役陸軍大将は言う。ペトレイアス氏は、ソレイマニ将軍を研究したことがあり、仲介者を通じて連絡したこともあるという。
イランの最高指導者ハメネイ師(左)とソレイマニ将軍(2015年3月) Photo: AP
ペトレイアス氏はメールで「こうした民兵組織は、イラクなどでの多くの米国人の死亡に責任があり、米同盟国などのはるかに多くの兵士の戦死や市民の犠牲に責任がある」と述べた。
米国の懸念の兆候として、マイク・ポンペオCIA長官は昨年12月、ソレイマニ将軍に送った書簡で「(同将軍の部隊)管理下にある勢力によってイラクにある米国の権益が攻撃を受けたら」、同将軍が説明を負わねばならないだろうと警告した。
ハメネイ師の側近によれば、ソレイマニ将軍は「私は(ポンペオ長官の)書簡を受け取らないし、読まないだろう。こうした人々に何も言うことはない」と語ったという。