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[リバイバル3] 投資損失でも自己破産はできる 常識は嘘だらけ 中川隆
8. 中川隆[-8185] koaQ7Jey 2024年12月17日 07:12:11 : A85XnA9QFo : QlB2Zk5uMHFTY3M=[1]
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投資損失でも自己破産はできる 常識は嘘だらけ
2024.12.17
https://www.thutmosev.com/archives/41159135.html

自己破産できる、できないの中間として「一部免責」などがある

image007
引用:http://自己破産東京.com/lp-common/images/image007.jpg
投資で負けたら自己破産できない?

投資やギャンブルで負けても自己責任なので自己破産できず免責は認められない、これは常識として定着しているが必ずしも正しくありません

このようなケースでは原則として全額は認められない事が多いが、裁判官の裁量によってほとんど認められることも、一部免責の事もある

投資で儲けた人も損をした人もいると思いますが、統計的に投資は9割の人が損をして利益を得るのは1割以下だそうです

その分「勝ち組」の人は投資資金を何倍も、あるいは何十倍にも増やせるのですが、失敗して負けた人はどうなるのでしょうか

証券会社などに預けたお金が減るだけなら良いのですが、追証で借金になったり、そもそも借金で投資している人もかなり居ます

パチンコや競馬などのギャンブルで勝つ人はほとんど居らず、ほぼ100%の人が負ける事によってJRAやパチンコ店の経営が成り立っているのです

実社会で作る借金は徐々に増えていく、段階を踏んで増えますが、投資の借金はある日払いきれない借金を背負います

例えば年収300万なのに追証数千万円を請求された人が実際に居て、しかもこんな話は珍しくもなく一夜にして莫大な負債を抱えて絶望する人が多い

FXとか先物取引などレバレッジを掛ける投資は僅かな変動で損失が大きく膨らみ、その代わりに僅かな変動で莫大な利益も手にできます

例えば10倍のレバレッジ(倍率)を掛けていたら10%の値動きで資産の100%を失うが、逆に10%の値動きで資産が2倍になることもある

FXをレバ10で運用していて1ドルが10円も逆に動いたら証拠金はゼロになっている筈で、ある心理的効果によって傷口を広げます

多くの人は自分の子供を失うようなショックを受けて、ポジションを支える為に追加入金をし、その為にサラ金から借金をしています

さてそれからどうするべきなのでしょう?

借金で投資する人は100%負けている
負けて全財産を失ったという現実を認めたくないので、追加入金によって相場が元に戻ったら損失が帳消しになる可能性を残したいのです

ですが相場の動きは非情なので、借金をしてポジションを支えている人を必ず強制決済に導き助かる事はありません

まるで相場自身が邪悪な意思を持っているかのように、株でも先物でもFXでもパチンコでも、困っている人に対しては必ず逆方向に行きます

そして結局、払いきれないほど多額の借金だけを残して投資を終える事になり、多くの場合家庭が崩壊して彼の人生も終わりを迎えます

投資で多額の借金を背負うのは珍しくないので、そうした人がネットの相談室で解決法を探して相談をする事が多い

ネット相談室ではネットを見ている人が回答するようになっていて、法律に詳しい人も、まったくの素人回答者も居るという状況です

投資の借金を減額したい、あるいは自己破産したいという相談には、必ず「投資で自己破産はできない」と回答されている

投資の負けは自己破産できる
根拠としては「破産法252条1項の免責不許可事由」の中に上げられている、自己破産が認められない事例に含まれている

「浪費又はとばくその他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと」

投資や投機は射幸行為に該当するので、裁判所は免責を認めないというのが「認められない派」の主張です

調べてみると確かに投資での自己破産は認められないし、免責は降りない『事になっている』

『事になっている』というのは現実には免責が認められているし、自己破産は出来ているからです

理屈と現実の違いというか、法律では「裁量免責」の余地が裁判所に与えられていて、「裁判官が判断して良い」という事です

投資で本来は免責されないのだが、その借金の為に生活が破綻していて、到底払える金額ではないとき認められるのです

裁判官の「裁量」なので認められたり認められなかったりするが、多くの場合は債務の大幅な減額が認められる

例えば年収300万なのに1000万の借金になった時、「800万を減額して200万だけ払いなさい」などの決定が出される

これを「一部免責」と言って法律で定められて居ないので、一般に知られておらず、出来ないものと思われている

証券会社や金融業者はこんな免責があるのは不都合なので、なるべく知られないように隠しています

弁護士も悪く言えば業者とグルなので、こうした免責がある事を宣伝したりはしない

そして都市伝説のように「投資の借金は免責されない」という定説が一人歩きしました

自己破産制度はサラ金騒動で有名になり利用する人が増えましたが、まだまだ「破産は悪い事」という常識が日本にはある

リスクを負って失敗して破産するのは、ある意味資本主義では必ず起こる事で、必ずしもその人の責任という訳ではない
https://www.thutmosev.com/archives/41159135.html
http://www.asyura2.com/09/revival3/msg/1017.html#c8

[昼休み54] 「紀州のドンファン」こと野崎幸助さん 急性覚醒剤中毒死 _ 55歳下の新婚妻は AV女優だった? 中川隆
104. 中川隆[-8184] koaQ7Jey 2024年12月17日 08:25:18 : A85XnA9QFo : QlB2Zk5uMHFTY3M=[2]
【紀州のドン・ファン事件】(9)元妻に 無罪判決! 検察・警察の負け!摂取方法が立証されていない… 判決理由を徹底解説!【小川泰平の事件考察室】# 1801
小川泰平の事件考察室 Ogawa Taihei 2024/12/16
https://www.youtube.com/watch?v=vP98XZmrhqA


【ライブ配信】1部 元 警視庁捜査一課 佐藤誠 氏 対談ライブ 紀州のドン・ファン事件 元妻に無罪判決!【小川泰平の事件考察室】# 1797
小川泰平の事件考察室 Ogawa Taihei 2024/12/14
https://www.youtube.com/watch?v=lCgF0BbhFg0

【ライブ配信】2部 紀州のドン・ファン事件 無罪判決! 家政婦と元妻との関係!【小川泰平の事件考察室】# 1798
小川泰平の事件考察室 Ogawa Taihei 2024/12/15
https://www.youtube.com/watch?v=hVMvujGGOYM&t=1300s
http://www.asyura2.com/17/lunchbreak54/msg/198.html#c104

[番外地6] 牧野田 彩(AYA)が AV に出演させられた理由とは 中川隆
185. 中川隆[-8183] koaQ7Jey 2024年12月17日 08:26:12 : A85XnA9QFo : QlB2Zk5uMHFTY3M=[3]
【紀州のドン・ファン事件】(9)元妻に 無罪判決! 検察・警察の負け!摂取方法が立証されていない… 判決理由を徹底解説!【小川泰平の事件考察室】# 1801
小川泰平の事件考察室 Ogawa Taihei 2024/12/16
https://www.youtube.com/watch?v=vP98XZmrhqA


【ライブ配信】1部 元 警視庁捜査一課 佐藤誠 氏 対談ライブ 紀州のドン・ファン事件 元妻に無罪判決!【小川泰平の事件考察室】# 1797
小川泰平の事件考察室 Ogawa Taihei 2024/12/14
https://www.youtube.com/watch?v=lCgF0BbhFg0

【ライブ配信】2部 紀州のドン・ファン事件 無罪判決! 家政婦と元妻との関係!【小川泰平の事件考察室】# 1798
小川泰平の事件考察室 Ogawa Taihei 2024/12/15
https://www.youtube.com/watch?v=hVMvujGGOYM&t=1300s
http://www.asyura2.com/13/ban6/msg/190.html#c185

[外国人参政権・外国人住民基本法01] トヨタの為に毒塗オレンジを食べさせられている日本人 _ 日本を農業の無い国にして良いのか? 中川隆
156. 中川隆[-8182] koaQ7Jey 2024年12月17日 09:15:20 : A85XnA9QFo : QlB2Zk5uMHFTY3M=[4]
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内田樹の研究室
農を語る(前編)2024-12-16 lundi
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1921.html

食料の自給自足は国の根幹である

藤井聡 今回は、神戸女学院大学名誉教授で武道家でもあられる内田樹先生にお越しいただきました。内田先生は文学や思想、社会科学などいろいろな側面から時勢的な問題について論じられていますが、以前この「農を語る」にもご登壇いただいた堤未果さんと食と農の問題について対談されていましたよね 。それを拝見したこともありまして、今回お越しいただいた次第です。どうぞよろしくお願いいたします。
 早速ですが、内田先生は現在の「農」についてどのようにお考えでしょうか。

内田 僕への講演依頼で一番多いのは教育関係ですが、次に多いのが医療と農業です。JAさんをはじめいろいろな団体から声がかかっていて、あちこちで講演しています。演題として多いのは人口減少についてですね。今農村は急激な人口減少で、もはや過疎地を通り越して無住地化しつつあります。農村の現場の細かいことは研究者じゃないのでよく知らないのですが、大風呂敷を広げるのは得意なので、人口減少の文明史的な意味とは一体どういうものなのかという話をした上で、農業従事者の皆さん方はどう対処すべきかについて意見を申し上げます。僕からの提言は絶対に里山や農業を捨ててはいけないということです。

藤井 愚問かもしれませんが、絶対に捨ててはいけないとご主張される理由はどういったところにあるのでしょうか。

内田 農業は国の基本だからです。エネルギーと食料の自給自足は国の根幹です。これはどちらも足りなくなったからといって、いつでも必要な量だけ、必要な時に市場で調達できるというものではありません。そのことはコロナでよく分かったはずです。サプライチェーンが途絶したら、お金がいくらあったって欲しいものが買えなくなる。アメリカはマスクや防護服のようなものは途上国に作らせて輸入した方が安いという理由でほとんどをアウトソーシングしていたせいで、輸入が途絶えたとたんに医療崩壊が起きて多数の死者が出ました。マスクや防護服や検査キットのような、シンプルで安価な医療資源は、賃金の高いアメリカ国内で作る必要なんかない、在庫も要らない。「要る時に金を出せばいい」という「賢い」経営判断のせいで、たくさんの人が死んだ。「こんなものはいつでも買える」と思っていたものが買えなくなることがある。それについての想像力の不足が一番怖いんです。今の日本だって、いつ南海トラフ巨大地震が来るのか分からない。米中戦争だって起こるかもしれない。何が起きても国民を守ることが国の責務なんですから、エネルギーと食料と医療の自給自足はどんなことがあっても最優先で目指すべき最重要課題だと思います。

藤井 アメリカなどの先進国、G7諸国は食料自給率一〇〇%、二〇〇%を目指して輸出産業としても育てているのが一般的で、そのためにかなりの国費を投入して自給率を上げていますが、日本はそういう雰囲気になっていませんよね。カロリーベースの自給率はたったの三八%しかありませんし。

内田 東京大学の鈴木宣弘先生によると、実際には十%を切るそうです。

日本の食料自給率が下がればアメリカの国益になる

藤井 自給率を高めるには二つの方法があり、一つは補助金をしっかりと出して農業所得を保障してあげることです。いわば「公共事業」として、農家の人たちを公務員のような格好でお雇いするという考え方です。もう一つ、「関税」を高めて農業を保護するという伝統的な方法もあります。
この二つの方法が基本ですが、前者の補助金はどんどん少なくなっていますし、後者の関税もTPPをはじめとする自由化を通じて下げるのが善であるかのような風潮があります。これは本当に由々しき事態ですよね。

内田 日本の国益を考えたら、あらゆる手立てを尽くして農業を守り、自給率を上げるのが最も合理的な解です。でも、そうなっていない。ということは、日本の農業が政府の補助で維持され、日本の食料自給率が上がることを望まない「外圧」が存在するということになる。誰が考えても、それはアメリカ以外にない。アメリカが政官財のさまざまなチャンネルを通じて、今の日本の農業政策をコントロールしている。そう考えるのが合理的だと思います。

藤井 いわゆる「ジャパンハンドラー」と呼ばれる人たちがアメリカにいますよね。CSIS(戦略国際問題研究所)などはジャパンハンドラーたちの巣窟であり、小泉進次郎さんもそこで研究されていましたからね。彼は自民党の農林部会の部会長をやっていた時期があり、農協の株式会社化や農林中金の自由化などを主張されています。しかもそれが「改革」と呼ばれ、何か良いものであるかのように言われていますよね。

内田 自民党の総裁選に出ている政治家たち、立憲民主党の代表選に出ている政治家たちの話を聴いていると、明らかに日本国民ではなく、ホワイトハウスに向けてシグナルを送っているということが分かります。例えば、「在日米軍の既得権には決して手を付けません」というような公約は国内的には支持率の向上にはつながるはずがない。それでも必ず公約するのは、それがアメリカ向けのジェスチャーだからです。「私が日本の首相になっても、アメリカの国益に抵触するようなことは決してしません。だから承認してください」とアピールしている。

藤井 多くの政治家は口には出さないでしょうけれども、アメリカを怒らせたら政治家として続かないという恐怖心があるのでしょうね。

内田 それは遠く田中角栄から、鳩山由紀夫、小沢一郎の前例から明らかですからね。

藤井 総理大臣としての政治生命を絶たれてしまうという、控えめな表現をすれば「都市伝説」があるわけです。事実であればもっと有効性がありますが、仮に都市伝説だったとしてもそれだけで一定の効果がありますよね。

内田 アメリカが実際に手を出して政治生命を奪うということはしていないと思いますが、日本の政治家と官僚とメディアがアメリカの意を「忖度」して、アメリカの国益に資するように動いている。

藤井 現在、自民党の総裁候補として小泉進次郎さんの名前が挙がっていますが、CIAやホワイトハウスが直接彼に電話して指示しているわけではないですからね。もしかしたら電話委しているのかもしれませんが(笑)。

内田 CIAかどこかのアメリカのシンクタンクから派遣された人が政策ブレーンとして政治家たちの周りにいて、アドバイスを求められたときに「こうすればアメリカは喜びますよね」と知恵を付けている可能性はありますね。あくまでそういう間接的なコントロールにとどまっていて、「ホットライン」でアメリカから指示が出ているということはないと思います。

インテリジェンス研究が軽視される日本

藤井 外国ではCIAやKGBなどを研究対象にした「インテリジェンス研究」というのがありますが、日本にはないんですよね。
 KGBの幹部がイギリスに亡命する際に持ち出したスパイ関連の機密文書が「ミトロヒンアーカイブス」という資料として残っているのですが、そこに「Japan」という章があります。でも、誰も訳していなかったので京都大学の僕の研究室で訳して、記事として公表しました。例えば○○新聞の誰がエージェントだとか、○○党のこの人はエージェントだとかいったことが全部書いてあります。エージェントにもいろいろなタイプがいて、事実上エージェントの人とか、単にソ連と仲が良いだけで勝手にソ連のために動いてくれる人とかもいるようです。おそらく、アメリカもそういう誘導の仕方をしているのでしょうね。

内田 そうでしょうね。エージェントも多種多様で、自分で気づかないうちにエージェントの役割を果たしてしまっている人も相当数いると思います。自民党と民社党には結党時点ですでにアメリカの情報機関の金が入り込んでいるし、岸信介も賀屋興宣もCIAのエージェントでした。共産党にはソ連のエージェントが入っていましたし、敗戦後から60年代にかけてはどの政党もそれぞれの「ボス」である外国と何らかのチャンネルを持っていたはずです。自分たちは日本のためだと思って、外国の工作員だという自覚はなかったんでしょうけれど。

藤井 日本テレビもそうやって作られたということもよく知られた事実ですよね。こういうことを言うと陰謀論者だと思われがちなのですが、外国では「インテリジェンス研究」が大学の研究機関に存在していますから、本来は政治学者がやるべき仕事です。ただ、日本の政治学会でそういうことをやると「やばい奴」扱いされてしまうので、なかなかできないですよね。

内田 本来なら歴史学者と政治学者の共同作業でやるべきことですよね。

公文書の隠ぺいが「陰謀論」を強める

内田 アメリカは公文書をどんどん公開しますよね。あの姿勢は素晴らしいと思います。僕は大学卒業後友だちと翻訳会社をやっていた時期があり、当時GHQの資料を大量に訳したことがあります。僕の遠い親戚に平野力三という政治家がいます。片山哲内閣で農林大臣をやっていた右派社会党の活動家でしたが、戦前軍国主義者だったという告発を受けて公職追放されました。それから数十年して、アメリカで公文書が公開されたのを機会に、自分にかかわるすべての公文書のコピーを取り寄せたんです。そしたら、誰が平野力三を「軍国主義者だ」とGHQに告げ口したのかが公文書に書いてあった。西尾末広と曽祢益という民社党の二人でした。彼らが政敵である平野を陥れるために、平野の戦前の経歴について明らかに虚偽の情報をGHQ提供して公職追放をそそのかしたのです。そのことが分かって、のちに平野はカーター大統領から名誉回復を勝ち取りました。

藤井 そうですね。アメリカは公文書に関してはフェアですよね。ちゃんと公開するというノーム(規範)があるのでしょうね。

内田 日本は公文書はすぐに廃棄しますからね。敗戦の時、市谷で陸軍参謀本部が公文書を全部燃やしてからの伝統ですね。東京五輪の財務資料なんかもう燃やしてしまっているんじゃないですか。

藤井 本当だったら捕まる人がたくさん出てくると言われていましたからね。

内田 大阪万博だって、終わった後に住民が監査請求をしても、「帳簿は全部廃棄しました」と言って逃げ出すと思いますよ。

藤井 噂レベルなので固有名詞は出しませんが、今回の総裁選で小泉進次郎さんを推しているある人は、自分の息のかかった人でないと捕まってしまうから実質的に子分である進次郎さんを推薦しているそうです。小泉純一郎さんは「五〇歳になるまでは総裁選に出たら駄目だ」と進次郎さんに言っていたのに、そのお父さんを説得して息子を総裁にさせようとしているとまことしやかに言われています。そういう不正がまかり通るんですよね。

内田 陰謀論が広がるのは、公文書や帳簿などのドキュメントが公開されないからなんです。全部隠すから、「本当は何が起きたのか」が分からなくなってしまう。

「反米世論」が弱まり、コントロールしやすくなった日本

藤井 TPPが典型ですが、アメリカが工作しているというよりも、アメリカが言っていることに日本が明確に従っているというのが実際のところなのでしょうね。
 政府機関が外国の国民世論を操作する「パブリック・ディプロマシー」と呼ばれる外交戦略があり、アメリカは日本の世論に対して散々そういうことをやってきました。内政干渉じゃないかという気もしますが、アメリカからすれば自国の国益の最大化を追求するのが当たり前ですから、彼らを責められないところもあります。そういう現実があるわけですから、それに対するカウンターを作らないといけないですし、我々もそういうことを正々堂々とやることが必要ですよね。
そう考えると日本の農業は本当に悲惨というか、アメリカに食われっぱなしの状況ですよね。

内田 アメリカの対日戦略の一環として「日本の農業を潰す」ことはアメリカにとっては合理的な解ですから、あって当然だと思います。

藤井 それは大航海時代や帝国主義の頃からそうですよね。当時に比べればやり口がソフィスティケート(洗練)されて合法的な見かけにはなってきていますが、基本的には他の国から奪えるものは奪おうとしているわけです。特に一九世紀後半や二〇世紀に入ってからは、需要を奪うのがメインになってきましたよね。最初は資源を奪っていましたが、途中から需要のある喜ばれそうなものを作って買わせるようになっていく。そうして買わせたうえで、さらにプランテーションで働かせたわけです。だから、労働も搾取するし需要も搾取するという二重の搾取を近代の帝国主義国家はやってきたわけです。
第二次世界大戦以降は、軍隊ではなく経済学者を宣教師のように使ってグローバリズムを広げ、マーケットを取るようになっていきます。その際にはその国の産業を潰すのが基本ですよね。自国で作れるものは買ってくれないからです。だから規制緩和で農家を潰して農産物を買わせたり、タクシー産業を潰してウーバーを参入させたりするわけです。アメリカは歴史的に考えれば当たり前のことをやっているわけで、それに対するカウンターを考えないといけないのに、小泉進次郎さんを筆頭に売国政策を嬉々として続けている状況があります。

内田 やっていることは植民地主義の時代と変わらないんですけれど、以前はそれでももう少しソフィスティケートされたやり方だったと思います。最近はそのやり方が露骨になってきた感じがします。たぶん日本側が全く抵抗しなくなったので、ハンドルするのに技巧や隠蔽が不要になったんでしょう。ジャパンハンドラーたちの手口が洗練されたものではなくなって、むしろ野卑で露骨になってきた気がする。

藤井 前はもう少し気をつけていたけれど、意外とアホだったということが分かってきたのでしょうね(笑)。

内田 これまではあまり露骨にハンドルすると、反米世論が高まってかえって日本がハンドルできなくなるかもしれないというリスクがあったので、多少は抑制的だったんですけど、そのリスクがなくなった。

藤井 八〇年代のオレンジと牛肉の自由化のときは大騒ぎでしたよね。

内田 六〇年安保以来、日本の反体制運動を駆動していた基本的な情念は「反米愛国」でしたからね。60年代末からの全国学園紛争も、もとはベトナム戦争に対する反対闘争でした。その頃は市民運動も労働運動も盛んでしたし、革新自治体が全国各地に広がっていました。だから、あの時代には日本国内の反米機運を鎮めることがアメリカにとっては急務だったのだけれど、うっかり露骨に日本の学生運動、労働運動を弾圧しようとするとむしろ日本の反米機運に火がついて、場合によってはソ連や中国の干渉を招く可能性もあった。ですから、対日工作はやるにしても丁寧にやろうという配慮はあったんだと思います。でも、二十一世紀に入ってからは「日本には反米世論を作るような力はもはやないから、何をやっても大丈夫だ」というふうに気が緩んできた感じがします。

藤井 そうですね。本誌の前身である『発言者』『表現者』は西部邁が始めたわけですが、彼はもともと東大で左翼の学生運動をやっていました。そしてその先輩には、森田実というあの砂川闘争を戦い抜いた男もいました。西部邁はその後左翼の運動をやめて経済学を勉強するのですが、二〇世紀の終わりごろから「保守」を名乗るようになります。なぜそうなったかというと、左翼にはいろいろな澱が溜まってきていたので、改めて日本国民のナショナリズムをベースに「反米」を展開しようとして左から右に旋回したわけです。つまり、独立のための「反米」が目的だったのです。

内田 まずは国家主権と国土の回復が基本だったということですよね。

藤井 生まれ落ちた以上奴隷ではないように生きていこうとするのは人として当然ですから、国家として隷属している状況があればそこから脱却するというのはすべてに優先する話です。そうでなかったら生きている意味は何にもないわけで、その意味でこの戦後空間は映画『マトリックス』のようにプログラミングされたまやかしだと言えるのでしょうね。
(『表現者クライテリオン』、10月号)

(2024-12-16 19:21)
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1921.html


農を語る 中編 2024-12-16 lundi
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1933.html

「対米自立」という気概の喪失

内田 「対米従属を通じての対米自立」というトリッキーな国家戦略が60年代までの自民党政治にはあったと思います。アメリカからの国家主権の回復、北方領土と南方領土(沖縄)の奪還がわが国の最優先目標であることについては、六〇年代ぐらいまでは左右問わずに国民的な合意がありました。けれども、ある時点から誰も「対米自立」を口にしなくなった。

藤井 それを言うと「アホか」という雰囲気になってきましたよね。特に現政府与党関係者達の中で対米自立を主張すると「藤井さんは青いな。中国や北朝鮮に対抗するためにはアメリカとうまくやらなきゃいけないじゃないか」と言われてしまいますから。中国や北朝鮮に対抗するためにはアメリカの「奴隷」であることが必要であり、「奴隷」と言うのが嫌だから「同盟」と言うんですよね。だから「日米安保」を「日米同盟」と言い始めるわけです。少女バイシュンを「援助交際」や「パパ活」と呼ぶのと同じですよ(笑)。日米同盟でも何でもないものを日米同盟とか言い出したことと、農業を守るという気概がなくなってきたことが完全に一致していますよね。

内田 文脈としては全く同じです。農業は国の基幹産業ですから、農業に手を突っ込んでくると激しい反米世論が巻き起こる可能性があった。だから手を触れなかった。けれども、日本の政治家から対米自立の気概がなくなったのを見てとってから対日戦略が一気に粗雑で、露骨になってきた。そういう感じがします。

藤井 誰か司令官がいて日本の隷属化を進めているというよりも、徐々に空気としてそう変わってきたということでしょうね。

内田 今の日本の総理大臣はもう「属領の代官」でしかありません。政権維持のためには、アメリカに朝貢して、ホワイトハウスから官位を「冊封」されるのが最も手堅いと信じている。

藤井 大岡昇平の『俘虜記』という小説がありますが、それと一緒ですね。この小説ではアメリカ人の若い将校がフィリピンの捕虜収容所を管理しているのですが、その収容所の捕虜達の中から一人日本人のリーダーを選ぶんです。勿論とくに明確な基準も無く適当に選ぶ。とはいえ、何の権限もなくて実際には若いアメリカ人が全部仕切っていて、ここで道徳の退廃がどんどん進んでいくという話です。大岡は最後にこれが日本なのだと書いています。つまりその収容所のリーダーが日本の総理大臣だということを、アメリカと戦った大岡は我々戦後日本人に伝えようとしたのだと思います。でも、そういう気概が本当になくなりましたね。

内田 戦後生まれの僕たちは実は主権国家の国民であった経験がないんです。親たちの世代までは大日本帝国の臣民だった。敗戦で帝国は滅びましたけれど、その国運を決定したのは自分たち自身です。他国に指示されたわけじゃない。でも、敗戦で国家主権を失った。そのことの喪失感の深さは戦後生まれの僕たちにはたぶん想像が及ばないと思うんです。彼らには「戻るべき原状」のイメージがあった。「国家主権の奪還・国土の回復」という言葉にリアリティーを感じることができた。でも、僕たちにとってその文字列はしだいに空語になりつつある。

藤井 サンフランシスコ講和条約で主権を取り戻したことにはなっていますが、「なんちゃって主権」でしかないですからね。沖縄のことも放置していますし。

内田 僕は子供の頃「日本国憲法は我々日本国民が作った」と教えられました。子どもですから、教えられるままそうなのかと思っていましたが、ある時期からそんなわけないということに気がつきました。これはほんとうに罪が深いと思うんです。日本人の自己認識の出発点は「われわれは主権国家の国民ではない」という欠落感でなければならないのに、まるで戦争には負けましたが、すぐに国家主権は回復しましたみたいな作話をした。

藤井 そうですそうです。僕もそうでした。ですが実際には国会の公式文書の中にも憲法がGHQによって押し付けられたという経緯が載っているくらい、明白な事実なわけです。なのにそれを子供の頃は知らなかった。でも、今の子供たちも押し付けられたということを知らないでしょうね。

内田 どういう歴史的経緯で日本国憲法が起草されたのかについての国民的合意がないんです。誰がどの条項をどういう意図で書き込んだのかについては諸説があって、どれも決定的ではない。憲法のある条項がどういう議論の末に決定され、なぜこの文言が採択されたかについては、条項そのものの当否とは別のレベルで「歴史的事実」として確定されていなければならないと思うんです。条項の適否についての議論はその先の話です。どうしてこんな条項が書かれたのかについて決定的なことを誰も知らないというところで憲法を議論できるはずがない。

日本の政治家はアメリカを怖がり過ぎている?

藤井 そうですね。昔の自民党、あるいは昔の社会党とかの政治家はそれなりにこういうことを議論していたと思います。しかし、今の政治家は派閥の論理の中で日和見して、どちらについたら得をするかということばかりに頭を使っていて、基本的な教養がなくなっていますよね。

内田 安倍晋三は原爆を落とされてからポツダム宣言が押し付けられたという程度の歴史認識でしたからね。こういう基礎的な事実を知らない人間が憲法について重要な決定を下すというというようなことはあってはならない。

藤井 今回の総裁選でも小泉進次郎氏が典型ですが、そういうことに関心がある人が少ないですよね。立憲民主党も先日代表選がありましたが、そういう議論をどこまで認識しているのか疑問です。

内田 認識していないと思いますね。立憲民主党も何とかして政権交代を実現したい。でも、政権与党であるためにはホワイトハウスから「属国の代官」として適格であるという許諾状を交付されないといけない。総理大臣としての適格性の最優先の根拠が「ホワイトハウスからの承認」であるというのはまことに悲しい話です。

藤井 実際には都市伝説的な部分もありますよね。要するに怖がり過ぎているということです。アメリカ人は、こちらがフェアであれば"That's make sense"(道理にかなっている)と納得してくれますから。核武装の問題に関しても、ちゃんと筋を通せばこちらの言い分をある程度は聞くはずですよ。なのに、進次郎みたいにポエムを言っていたら絶対に無理ですが(笑)。

内田 僕もそう思います。

藤井 場合によっては暗殺が起こることもあるでしょうし、実際にCIAはこれまで途上国で何度もそういうことをやってきましたが、G7の一角である日本でそう簡単にはできないはずです。だから、アメリカと対抗するために一番大事なのは、右だろうが左だろうが普通にロジックを展開してフェアに"make sense"できるような議論をすることだと思います。

内田 そうですね。アメリカといっても別に一枚岩ではありません。日米同盟に関してもさまざまな意見が併存している。日米安保条約を廃止した方がいいと言う人もいるし、在日米軍基地を撤収すべきだと言う人もいる。「日米同盟基軸」を言い立てている人たちはジャパン・ハンドラーの代理人ですから、彼らと異なるアメリカ国内世論を決して紹介しない。でも、トランプが大統領になったら、日米安保条約廃棄の「ブラフ」は仕掛けてくる可能性がありますよ。

藤井 トランプもホワイトハウスに入ったことで説得されて意見を変えたとは言われていますが、そう言い出す可能性は十分にありますよね。

アメリカの対日世論を変える外交努力をすべし

内田 アメリカの中にだって、今のように日本を収奪し過ぎると、日本そのものの国力が衰微して、結果的にアメリカの西太平洋秩序の維持が難しくなるから、日本を植民地扱いするのは止めて、国家主権を認めた方が長期的にはアメリカの国益にかなうという考え方をする人だって当然いるはずです。そういう人たちときちんとコミュニケーションをとって、アメリカの対日世論を変えていくというのが本来の外交だと思います。「アメリカ」とひとくくりにするのがよくない。

藤井 そうですね。田舎の人間が「東京って」と東京のことをひとくくりにして思っているのと一緒ですね。

内田 アメリカは今シリアスな国民的分断にさらされていて、「内戦の危機」だとまで言われています。だったら、その中で最も日本の国益を利する立場の人たちとコミュニケーションをとって、アメリカの対日国内世論を形成する。いわば「アメリカ・ハンドラー」をこそ育ててゆくべきだと思います。

藤井 もちろんそうですよね。「パブリック・ディプロマシー」によって相手の世論を変えることだってできますし、それが本来の政治主権ですよね。

内田 でも、そういうふうにして、アメリカの政治に日本がコミットしていくという発想は欠片もないですね。

藤井 僕は一時期アメリカの学会にかなり出ていましたし、ヨーロッパの心理学の研究会にも行っていて、英語は下手でも完全に対等に議論していたと思います。そうすることができれば認めてくれるわけですが、日本の先輩や後輩でそんな奴はほとんど見たことありません。"Tempura! Fujiyama!"とか言っているだけの田舎者なんですよ(笑)。アメリカ人やヨーロッパ人に引け目を感じているのだと思います。僕は三十歳ぐらいのときにスウェーデンに留学しましたが、当時は九〇年代だったから日本のほうが文化も上で、日本のIT機器や電気製品も勢いがあったから、ヨーロッパ人に対して「俺が教えたろうか」くらいの気持ちでいました。アメリカに行っても「アホばかりやんけ」という気持ちだったのですが、そう思っている人がほかにいなかったんですよね。
 たぶん、それと同じように誇りも何もない田舎者の外交がいろいろなところで展開されているのだと思います。進次郎なんて国連会議の記者会見で、日常英語を使えるのをみせてちょっとカッコつけたかったのか"gotta be......"みたいな大臣としては著しく相応しくない砕けた英語を使っていましたからね。

日米同盟以外のシナリオを想定しない政治学者や政治家たち

内田 だいぶ前ですけれど、日本のある高名な政治学者と対談したことがあって、「日本の安全保障戦略として日米同盟基軸以外にどういうシナリオがあるとお考えですか?」と聞いたことがあります。別に困らせるつもりじゃなくて、専門家の意見を知りたかったのです。でも、彼は絶句してしまった。日米同盟基軸以外にどんなシナリオがあり得るのか、考えたことがなかったらしい。でも、これはおかしいと思うんです。アメリカの政治学者に「西太平洋の安全保障戦略として、日米安保条約以外にどういうオプションがあり得えますか?」と訊いたら、いくつかのシナリオを答えてくれるはずです。ヨーロッパの学者に「NATO以外にどういうヨーロッパの安全保障の枠組みがあり得るか」訊いても、たぶんいくつかのシナリオを示してくれると思う。ところが、日本人は日米同盟基軸以外のシナリオについてそもそも考えない。でも、思考実験として、中国と同盟する、韓国と同盟する...などなどいろいろなシナリオについて、その現実性と効果について検討することはしてもいいと思うんです。

藤井 日本人は政治家も学者も延髄が切れているのでしょうね(笑)。ただ『俘虜記』の捕虜収容所のようなところに八十年間近くもいるとそうなる人が多数派になってくるのかもしれないですね。

内田 「対米従属を通じての対米自立」という国家戦略はその時点では十分な合理性があったと思います。それ以外に選択肢がなかったのだから仕方がない。でも、「対米自立」という目的を捨てて、「対米従属」が手段から目的になってしまったら、日本はこらから何のために存在するんですか。

藤井 「国が滅びる」という言葉にはいろいろな定義があると思いますが、もう滅んでいると言ってもいいかもしれませんね。

内田 滅びの道に向かってますね。

藤井 五十五年体制ができたときの最初の綱領に「外国駐留軍の撤退に備える」という条項があって、そのために憲法をどうするかとか、国内法をどう整備するかといった議論があったわけですが、二〇〇〇年ぐらいに綱領の見直しがあって、「日米同盟を基軸に」という文言が入ってしまいました。要するに、自民党は党として外国駐留軍の撤退に備える気がなくなってしまったわけです。

内田 在日米軍はもともと政府から派遣されていた単なる現地軍だったはずなのに、八十年も巨大固定基地で暮らしているうちに気が大きくなって、横田や沖縄を「アメリカの海外領土」だと思うようになってしまった。ホワイトハウスが返せと言っても、在日米軍は返す気がないんじゃないですか。

藤井 本来であれば、政治家がきちんと議論をしていけば時間はかかるかもしれないけれど必ず返ってくるはずですよね。

内田 フィリピンは憲法を改正して、国内に外国軍は駐留できないという条項を入れて、スービック基地とクラーク基地から米軍を撤退させました。韓国だって在韓米軍基地を三分の一まで削減しています。地位協定も世界のどの同盟国でも改訂されている。在日米軍の言いなりで、何もしていないのは日本だけです。

壊滅しつつある日本の農業

藤井 今回は「農を語る」というテーマですが、この議論は「農を語る」ための根幹ですよね。

内田 対米従属文脈の中で、日本の農業が破壊され、食糧が自給不能になり、アメリカから農作物を輸入する以外に国民が食えなくなるという依存体質を作り込もうとしている、そういう理解でいいと思いますけど。

藤井 前編で申し上げたように、農業を守るためには公的資金をきちんと入れることと関税を高めることが必要ですが、現実にはTPPだとか自由化だと言って関税を下げていき、農業への補助金に関しても財務省の緊縮財政によって削減されている状況があります。つまり、「公助」が駄目になって農家の所得が下がっているわけです。最後の頼みの綱である農協という「共助」にしても、小泉進次郎が出てきて株式会社化を進めようとしたり、農林中金を自由化したりして解体しようとしています。
 僕はTPPの反対論を展開していたので、「藤井はTPPに入って日本は滅びるとか言っていたが、滅びていないやんけ」とよく言われます。でも、二〇四〇年に日本の農家は三分の一になり、二〇五〇年には五分の一になると言われているんですよ。しかも、今の農家の最新の平均所得(農業の収入と農業を行うのに必要な支出の差額)は一万円にまでなっているんです。ですから、今の農家の方は平均すると貯金を食いつぶしてお米を作ってくださっているわけで、さらに農家の平均年齢は令和五年で六十八・七歳になっています。

内田 皆さん、いずれ鬼籍にお入りになる年齢になっていますよね。

藤井 しかも若い人が入ってきていないですから、これは日本の農業の壊滅を意味しますよ。そのシグナルが今年スーパーで米が消えたことなのだと思います。昔は古米が大量に余っていて、多少高くてもいくらでも買えたはずなのに、それすらできなくなっている。つまり、日本人が米を食えなくなりつつあるわけですよね。だから、すでにこの国は滅びの道に完全に入っているのではないかと思います。

内田 このままだと滅びますよね。滅びる方向にまっすぐ向かっていて、誰も止めていないわけですから。

藤井 しかも、小泉進次郎だとかそのバックにいる菅義偉だとか、自民党のど真ん中にいる政治家連中がそう仕向けているわけですから、ホントに救いようがないですね。

「表現者 クライテリオン」11月号

(2024-12-16 19:33)
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1933.html


農を語る 後編
2024-12-16 lundi
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1941.html

地方を見捨てるようになった日本人

内田 かつての自民党の支持基盤は農村部でしたけれども、農村部は衰退しているから政治的な発言力がどんどんなくなっています。そうすると、地方にいい顔をしなくてもいいということになりますよね。能登半島地震にしても、元の姿に復興する気がありませんし。

藤井 農業の議論とも全く同じだと思いますが、二〇一一年の東日本大震災のときにも棄民的な発言が結構ありました。「東北なんて田舎だから放っておけばええやん」と経産省の役人が言っていて、それが大問題になって懲戒処分になりましたよね。当時は復興しないといけないという気持ちがあったわけですが、それから十三年経った今は平然と「あそこは田舎だから復興しなくていい。カネも無尽蔵にあるわけではないのだから復興するところとしないところを分けよう」という議論がなされています。そこで、僕はそんなことを政治家が言っているのはおかしいという記事を書きました。十三年前にも同じようなことを書いて、当時は賛同されていたのですが、今回は炎上したんです。「アホか。そんなところ復興してどうすんねん!カネもないのだから能登なんて放っておけばええやないか!」と批判されて、びっくりしましたね。

内田 この十数年の間にそういう世論形成が着実に進行していて、「人口過疎地に住んでいる人間は健康で文化的な生活をする権利なんかない。だからそこに住んでいるのは自己責任だ」と言われるようになってきていますよね。

藤井 過疎地に住んでいると準反社会的人間のような扱いを受けるということですね(笑)。

内田 そうです。「お前らのために道路やトンネルを通したり橋を架けたりしても、その道の先には人口が数百人しかいないじゃないか。そのために何億円も使うのは税金の無駄遣いだ」というわけです。少なくとも二〇一一年には、そういうことを平然と言う人はそこまでいませんでしたが、今は完全にそうなっています。

藤井 僕は能登に今住んでいる人のことも見ていますが、百年前、二百年前、五百年前、千年前の能登の風土も見ているわけです。輪島なんて江戸時代には北前船のおかげで豪商が生まれて、ものすごく栄えた町でしたよね。そこで輪島塗も生まれて、今や世界中の人が使っています。つまり、能登半島という先代から引き継いだ日本の宝を現代の人間はお守りする義務があるというイメージがあるんです。だから高速道路を通さないといけないし、農業も振興しないといけない。食料自給率の面でもそうですし、棚田のような伝統や文化を残す意味でもそうです。それに価値がないと思う奴は馬鹿ですよ。

人口減少よりも東京一極集中が問題

内田 全国津々浦々に固有の文化があって、かつてエネルギーも食料も自給自足していた二七六の藩があって、その全部に固有の文化があって伝統芸能があったわけですが、当時の日本の人口は三千万人ですよ。今は一億二千五百万人もいて、これで人口が少ないというのは違うでしょう。東京に一極集中しているだけであって、地方に人口を戻すのが最優先です。

藤井 昭和の日本まではそういう感覚があったと思いますし、ヨーロッパの国々には明確に残っています。僕はスウェーデンに留学していましたが、あんな広いスカンジナビアの国土に一千万人しか住んでいないんですよ。僕は第二の都市である四十五万人ぐらいのイェテボリに住んでいましたが、いろんなところにちゃんと町や村が残っていて、高速道路も繋がっていました。アウトレットみたいな近代的なものもありますが、地方の田園の風景がずっと広がっていて、それが無駄という議論はなかったですよ。だって、子供が五人生まれて「コイツは小さいから無駄やな」なんて言う親はいないじゃないですか。本来都市を守るというのはそのぐらいの感覚のはずですから、僕は今の日本人は人間ではないと思います。

内田 おかしいと思いますよね。一億二千五百万人で人口が少ないと大騒ぎしていますが、僕らが子供の時代は九千万人でしたからね。明治四十年の日露戦争の頃は五千万人ですよ。
 二十一世紀の終わりに五千万人まで減ると言っているけれど、明治四十年だって全国津々浦々にきちんと生業があって、高等教育機関も医療拠点もあって、文化的な発信をしている人もたくさんいたわけだから、人口が少ないという言い訳は通らないと思います。問題は分布ですよ。そして、人口を首都圏に集めているのは完全にビジネスマインドですよね。つまり金儲けのためです。普通は金儲けより国家の存続を優先するだろうという話です。

藤井 そうですよ。だって、陵辱され侮辱され、馬鹿にされてもお金があるからよろしいですねなんていう人生はあり得ないですからね。人として生きる基本はお金よりも前にあるわけで、それが国土であり田園であり、伝統であり文化であるという主張をしないといけないはずですよね。

内田 「国破れて山河あり」という言葉もありますからね。このままだと次に破れたとき山河はなくなっていますよ。

藤井 そうなりますよね。本誌は政治的には「保守思想誌」という立場ですが、保守もリベラルも関係ないですよね。

内田 共産党の人も今日の議論はほとんど賛成しますよね。

藤井 不思議なもので、自分のことを「保守」だと思っている奴ほどこういう議論に賛成しません。どちらかというと「左翼」と言われる共産党とかの人の方が賛成するんですよね。だから僕は共産党の人とも山本太郎とも喋りますし、左翼も右翼も関係なく話をします。「右」「左」ではなく「真っ当」か「真っ当」でないかという当たり前の話だと思います。

内田 パトリオットかどうかということですよね。僕はナショナリストではないですがパトリオットではあると思っています。「イズム」ではなくて愛郷心や愛国心ですね。ただこの国の山河を守りたいと思っているだけです。日本は山紫水明でご飯も美味しいし、植物相も動物相も豊かな国なのに、それをわざわざ暮らしにくくしているわけです。何を考えているのだろうと思います。

過疎地から人を排除しようとする「ビジネスマインド」

藤井 こういう議論をしていると、農業を守るのは当たり前のことだと誰でも思いますよね。

内田 最優先の政治課題として農業を守らなければいけないわけです。でも、過疎地に人がいるとビジネス的には困るんですよね。行政コストがかかるしあまり使い道がないですから。そこで全部無住地にすることで、一気にビジネスチャンスを広げようとするわけです。ソーラーパネルを敷き詰めたり原発を作ったり風力発電をしたり、あるいは産業廃棄物を捨てたりとか。地域住民がいないので、生態系なんかいくら壊してもいいわけですよね。
 今の日本のビジネスマンは「過疎地は金がかかってしょうがないのだから人口をゼロにしろ。そうすればコストをかけなくて済む」と考えているのでしょうし、僕がもし邪悪な性格のビジネスマンだったら絶対にそう考えます。今だって国土の六二%が無住地ですから、これが七〇%や八〇%になっても誰も気がつかないと思うでしょうね。

藤井 TPPとか自由化とか緊縮をやって、二〇四〇年に農家が三分の一に減ったら無住地だらけになりますよね。

内田 そうです。彼らは明確に全国の無住地化を目指していると思います。生態系を管理するコストは莫大にかかりますよね。川や森や海を管理しなければならないわけですから。そこに人が住んで生き延びるためには絶対必要だから、生態系の維持に膨大なコストをかけるのだけれども、人が住んでいなかったら生態系の維持にコストをかける必要がなくなり、破壊し放題なわけです。発電ビジネスをやっている人たちはそれを絶対に狙っていると思います。それで日本に住めなくなったら、「ハワイにコンドミニアムがあるからそこに移る」となるのでしょうね。

藤井 それこそ、自分の娘がべっぴんだからどこかに売ろうか、みたいな話と変わらないですよね。なぜこういう下品な比喩を申し上げたかというと、国土は有機物だと思うからです。和辻哲郎の風土論もそういうものですが、国土を無住地化するということは無機物化するということであり、それはレイプと一緒ですよね。女性に尊厳があるからレイプが駄目なのに、その尊厳を壊すのがレイプという行為だとすると、ソーラーパネルを山河に敷き詰めているのは国土をレイプしているのと同じですよ。

内田 実際に見るとそう感じますよ。普通の感受性なら、お金が欲しくてこんなことをするはずはなくて、明らかに自然を陵辱していますし、悪意ですよ。

藤井 そう思いますね。でも、そこに田園や畑があれば決してそう思わないですよね。気候と人間とが共存するのが農という営みで、雨が降ってきて水田を作って収穫して、また虫が育っていく。生態系と人間の営みが循環の中で溶け合っていくことが大切ですよね。

内田 それによって新しい価値が生まれてくるんですよね。

藤井 そうですね。太陽光発電もレイプも一回の行為で終わりじゃないですか。そうではなく循環することが大事で、家族で愛し合うだとか、国土と愛し合うとか、そういうものが人間の人間らしさであって、国土を道具として使うというのは友達や女性を道具として使っているのと一緒だと思いますね。

「農」の破壊の背後にある「悪意」

内田 僕の友達に想田和弘という映画監督がいて、彼は岡山県牛窓というところに住んでいます。この前彼の家に遊びに行ったら小高い丘の上に連れて行ってくれて、目の前に瀬戸内海が広がっていました。その北側に錦海湾という湾があるのですが、湾が一面真っ黒になっていました。錦海湾は、かつては浅海で豊かな漁場だったのですが、一九七〇年代に製塩業をやろうと言った奴がいて埋め立てたんです。その後、製塩業が全くビジネスにならなくて廃棄されてしまいました。一度製塩に利用した土地は農業に使えなくなるので、産業廃棄物の処分場や工場を建てたのですが、最終的にソーラーパネルを敷き詰めることになり、湾が真っ黒になってしまったわけです。それを見たときに「何と愚かなことをしたんだ」と思いました。
 短期的な金儲けのために埋め立ててビジネスをやったら大失敗して、その後ソーラーパネルを敷き詰めて、これも何年か経ったら全部産廃にされてしまうわけです。短期的にしかものを考えない人間たちが自然を壊している光景を見て、僕は悪意を感じましたね。

藤井 レイプする人はそこで欲望を満たそうとしているのでしょうが、それと同じような悪意を感じますよね。

内田 人が大事にしているものを破壊することによって全能感を感じるのでしょうね。皆が綺麗だと思っている海に土足で踏み込んで、皆が悲しむのを見て「俺はこれだけの人たちに悲しみを与えられるのだ」と思うのでしょう。イーロン・マスクがTwitterを買収して世界のユーザーがショックを受けましたが、あれもおそらく金儲けのためではなく、世界の何億人ものユーザーが絶望に打ちひしがれている姿を見て、自分の全能感を感じているのでしょう。ああいう人間っているんですよ。

藤井 僕は『エクソシスト』とかの悪魔映画が好きで山ほど観ているのですが、ホラー映画は現実の人々の行動の中にある悪魔を純化して描いているわけです。キリスト教の悪魔や日本の悪霊として出てくるのはそういうものだと思うのですが、日本が悪魔化、悪霊化していくと農は滅び去る運命にあるということですね。

内田 今の日本で農を破壊しているのは、ある種のすごく邪悪な意思だと思います。本人はおそらく気がついていなくて、最新のビジネスモデルに適合しているとか、あるいはアメリカの国家戦略、世界戦略に適合していると思っているのかもしれないけれども、実際に駆動しているのは非常にドロドロした邪悪な意思だと思いますね。

藤井 本誌では文芸批評家の浜崎洋介さんを中心に「文学座談会」をずっとやっていたのですが、そこで「国土の荒廃」というテーマで石牟礼道子さんの『苦海浄土』と富岡多恵子さんの『波うつ土地』を取り上げたことがあります。どちらも国土が陵辱されるというお話を描いている本で、この感覚を我々は忘れているんですよね。「金が儲かったらええやないか」というものではないんです。こういう感覚をちゃんと持っておくことが人として、そして真っ当な国として存在していく必要条件であって、その必要条件が満たされているかどうかというリトマス紙が、その国が農をどれだけ大事にしているかということになのでしょうね。

内田 全くその通りですね。

藤井 今日は内田先生に初めてお目にかかりましたが、非常に面白かったです。内田先生はどちらかというと「左翼」と言われることが多いと思われますし、僕は保守なので「藤井と内田先生は違うんちゃうか?」と思っている人もいるかもしれませんが、ほぼ同じことを考えていると思います。真っ当な保守と「ビジネス保守」がいるように、左翼も真っ当な左翼と「ビジネス左翼」的な人がいるのかもしれませんね。

内田 ビジネス左翼はあまりいないと思いますが、非常に教条主義的でものの見方が固定化している人は多いですね。

藤井 朝日新聞とかはかなりビジネス化しているところもあるでしょうが、教条主義的な人と、そうではなくしっかりと議論できる人がそれぞれにいるということが改めて見えましたし、こういった思想的な問題の果てに農の問題があるということを確認できたと思います。
 内田先生は前からお話ししたいと思っておりまして、お時間がありましたら食事でもご一緒できればと思いますし、これを機にいろいろなところでお話ができればと思います。どうもありがとうございました。

内田 こちらこそありがとうございました。

(2024-12-16 19:41)
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1941.html



http://www.asyura2.com/09/gaikokujin01/msg/518.html#c156

[近代史4] アメリカの食料戦略 中川隆
10. 中川隆[-8181] koaQ7Jey 2024年12月17日 09:15:37 : A85XnA9QFo : QlB2Zk5uMHFTY3M=[5]
<■641行くらい→右の▽クリックで次のコメントにジャンプ可>
内田樹の研究室
農を語る(前編)2024-12-16 lundi
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1921.html

食料の自給自足は国の根幹である

藤井聡 今回は、神戸女学院大学名誉教授で武道家でもあられる内田樹先生にお越しいただきました。内田先生は文学や思想、社会科学などいろいろな側面から時勢的な問題について論じられていますが、以前この「農を語る」にもご登壇いただいた堤未果さんと食と農の問題について対談されていましたよね 。それを拝見したこともありまして、今回お越しいただいた次第です。どうぞよろしくお願いいたします。
 早速ですが、内田先生は現在の「農」についてどのようにお考えでしょうか。

内田 僕への講演依頼で一番多いのは教育関係ですが、次に多いのが医療と農業です。JAさんをはじめいろいろな団体から声がかかっていて、あちこちで講演しています。演題として多いのは人口減少についてですね。今農村は急激な人口減少で、もはや過疎地を通り越して無住地化しつつあります。農村の現場の細かいことは研究者じゃないのでよく知らないのですが、大風呂敷を広げるのは得意なので、人口減少の文明史的な意味とは一体どういうものなのかという話をした上で、農業従事者の皆さん方はどう対処すべきかについて意見を申し上げます。僕からの提言は絶対に里山や農業を捨ててはいけないということです。

藤井 愚問かもしれませんが、絶対に捨ててはいけないとご主張される理由はどういったところにあるのでしょうか。

内田 農業は国の基本だからです。エネルギーと食料の自給自足は国の根幹です。これはどちらも足りなくなったからといって、いつでも必要な量だけ、必要な時に市場で調達できるというものではありません。そのことはコロナでよく分かったはずです。サプライチェーンが途絶したら、お金がいくらあったって欲しいものが買えなくなる。アメリカはマスクや防護服のようなものは途上国に作らせて輸入した方が安いという理由でほとんどをアウトソーシングしていたせいで、輸入が途絶えたとたんに医療崩壊が起きて多数の死者が出ました。マスクや防護服や検査キットのような、シンプルで安価な医療資源は、賃金の高いアメリカ国内で作る必要なんかない、在庫も要らない。「要る時に金を出せばいい」という「賢い」経営判断のせいで、たくさんの人が死んだ。「こんなものはいつでも買える」と思っていたものが買えなくなることがある。それについての想像力の不足が一番怖いんです。今の日本だって、いつ南海トラフ巨大地震が来るのか分からない。米中戦争だって起こるかもしれない。何が起きても国民を守ることが国の責務なんですから、エネルギーと食料と医療の自給自足はどんなことがあっても最優先で目指すべき最重要課題だと思います。

藤井 アメリカなどの先進国、G7諸国は食料自給率一〇〇%、二〇〇%を目指して輸出産業としても育てているのが一般的で、そのためにかなりの国費を投入して自給率を上げていますが、日本はそういう雰囲気になっていませんよね。カロリーベースの自給率はたったの三八%しかありませんし。

内田 東京大学の鈴木宣弘先生によると、実際には十%を切るそうです。

日本の食料自給率が下がればアメリカの国益になる

藤井 自給率を高めるには二つの方法があり、一つは補助金をしっかりと出して農業所得を保障してあげることです。いわば「公共事業」として、農家の人たちを公務員のような格好でお雇いするという考え方です。もう一つ、「関税」を高めて農業を保護するという伝統的な方法もあります。
この二つの方法が基本ですが、前者の補助金はどんどん少なくなっていますし、後者の関税もTPPをはじめとする自由化を通じて下げるのが善であるかのような風潮があります。これは本当に由々しき事態ですよね。

内田 日本の国益を考えたら、あらゆる手立てを尽くして農業を守り、自給率を上げるのが最も合理的な解です。でも、そうなっていない。ということは、日本の農業が政府の補助で維持され、日本の食料自給率が上がることを望まない「外圧」が存在するということになる。誰が考えても、それはアメリカ以外にない。アメリカが政官財のさまざまなチャンネルを通じて、今の日本の農業政策をコントロールしている。そう考えるのが合理的だと思います。

藤井 いわゆる「ジャパンハンドラー」と呼ばれる人たちがアメリカにいますよね。CSIS(戦略国際問題研究所)などはジャパンハンドラーたちの巣窟であり、小泉進次郎さんもそこで研究されていましたからね。彼は自民党の農林部会の部会長をやっていた時期があり、農協の株式会社化や農林中金の自由化などを主張されています。しかもそれが「改革」と呼ばれ、何か良いものであるかのように言われていますよね。

内田 自民党の総裁選に出ている政治家たち、立憲民主党の代表選に出ている政治家たちの話を聴いていると、明らかに日本国民ではなく、ホワイトハウスに向けてシグナルを送っているということが分かります。例えば、「在日米軍の既得権には決して手を付けません」というような公約は国内的には支持率の向上にはつながるはずがない。それでも必ず公約するのは、それがアメリカ向けのジェスチャーだからです。「私が日本の首相になっても、アメリカの国益に抵触するようなことは決してしません。だから承認してください」とアピールしている。

藤井 多くの政治家は口には出さないでしょうけれども、アメリカを怒らせたら政治家として続かないという恐怖心があるのでしょうね。

内田 それは遠く田中角栄から、鳩山由紀夫、小沢一郎の前例から明らかですからね。

藤井 総理大臣としての政治生命を絶たれてしまうという、控えめな表現をすれば「都市伝説」があるわけです。事実であればもっと有効性がありますが、仮に都市伝説だったとしてもそれだけで一定の効果がありますよね。

内田 アメリカが実際に手を出して政治生命を奪うということはしていないと思いますが、日本の政治家と官僚とメディアがアメリカの意を「忖度」して、アメリカの国益に資するように動いている。

藤井 現在、自民党の総裁候補として小泉進次郎さんの名前が挙がっていますが、CIAやホワイトハウスが直接彼に電話して指示しているわけではないですからね。もしかしたら電話委しているのかもしれませんが(笑)。

内田 CIAかどこかのアメリカのシンクタンクから派遣された人が政策ブレーンとして政治家たちの周りにいて、アドバイスを求められたときに「こうすればアメリカは喜びますよね」と知恵を付けている可能性はありますね。あくまでそういう間接的なコントロールにとどまっていて、「ホットライン」でアメリカから指示が出ているということはないと思います。

インテリジェンス研究が軽視される日本

藤井 外国ではCIAやKGBなどを研究対象にした「インテリジェンス研究」というのがありますが、日本にはないんですよね。
 KGBの幹部がイギリスに亡命する際に持ち出したスパイ関連の機密文書が「ミトロヒンアーカイブス」という資料として残っているのですが、そこに「Japan」という章があります。でも、誰も訳していなかったので京都大学の僕の研究室で訳して、記事として公表しました。例えば○○新聞の誰がエージェントだとか、○○党のこの人はエージェントだとかいったことが全部書いてあります。エージェントにもいろいろなタイプがいて、事実上エージェントの人とか、単にソ連と仲が良いだけで勝手にソ連のために動いてくれる人とかもいるようです。おそらく、アメリカもそういう誘導の仕方をしているのでしょうね。

内田 そうでしょうね。エージェントも多種多様で、自分で気づかないうちにエージェントの役割を果たしてしまっている人も相当数いると思います。自民党と民社党には結党時点ですでにアメリカの情報機関の金が入り込んでいるし、岸信介も賀屋興宣もCIAのエージェントでした。共産党にはソ連のエージェントが入っていましたし、敗戦後から60年代にかけてはどの政党もそれぞれの「ボス」である外国と何らかのチャンネルを持っていたはずです。自分たちは日本のためだと思って、外国の工作員だという自覚はなかったんでしょうけれど。

藤井 日本テレビもそうやって作られたということもよく知られた事実ですよね。こういうことを言うと陰謀論者だと思われがちなのですが、外国では「インテリジェンス研究」が大学の研究機関に存在していますから、本来は政治学者がやるべき仕事です。ただ、日本の政治学会でそういうことをやると「やばい奴」扱いされてしまうので、なかなかできないですよね。

内田 本来なら歴史学者と政治学者の共同作業でやるべきことですよね。

公文書の隠ぺいが「陰謀論」を強める

内田 アメリカは公文書をどんどん公開しますよね。あの姿勢は素晴らしいと思います。僕は大学卒業後友だちと翻訳会社をやっていた時期があり、当時GHQの資料を大量に訳したことがあります。僕の遠い親戚に平野力三という政治家がいます。片山哲内閣で農林大臣をやっていた右派社会党の活動家でしたが、戦前軍国主義者だったという告発を受けて公職追放されました。それから数十年して、アメリカで公文書が公開されたのを機会に、自分にかかわるすべての公文書のコピーを取り寄せたんです。そしたら、誰が平野力三を「軍国主義者だ」とGHQに告げ口したのかが公文書に書いてあった。西尾末広と曽祢益という民社党の二人でした。彼らが政敵である平野を陥れるために、平野の戦前の経歴について明らかに虚偽の情報をGHQ提供して公職追放をそそのかしたのです。そのことが分かって、のちに平野はカーター大統領から名誉回復を勝ち取りました。

藤井 そうですね。アメリカは公文書に関してはフェアですよね。ちゃんと公開するというノーム(規範)があるのでしょうね。

内田 日本は公文書はすぐに廃棄しますからね。敗戦の時、市谷で陸軍参謀本部が公文書を全部燃やしてからの伝統ですね。東京五輪の財務資料なんかもう燃やしてしまっているんじゃないですか。

藤井 本当だったら捕まる人がたくさん出てくると言われていましたからね。

内田 大阪万博だって、終わった後に住民が監査請求をしても、「帳簿は全部廃棄しました」と言って逃げ出すと思いますよ。

藤井 噂レベルなので固有名詞は出しませんが、今回の総裁選で小泉進次郎さんを推しているある人は、自分の息のかかった人でないと捕まってしまうから実質的に子分である進次郎さんを推薦しているそうです。小泉純一郎さんは「五〇歳になるまでは総裁選に出たら駄目だ」と進次郎さんに言っていたのに、そのお父さんを説得して息子を総裁にさせようとしているとまことしやかに言われています。そういう不正がまかり通るんですよね。

内田 陰謀論が広がるのは、公文書や帳簿などのドキュメントが公開されないからなんです。全部隠すから、「本当は何が起きたのか」が分からなくなってしまう。

「反米世論」が弱まり、コントロールしやすくなった日本

藤井 TPPが典型ですが、アメリカが工作しているというよりも、アメリカが言っていることに日本が明確に従っているというのが実際のところなのでしょうね。
 政府機関が外国の国民世論を操作する「パブリック・ディプロマシー」と呼ばれる外交戦略があり、アメリカは日本の世論に対して散々そういうことをやってきました。内政干渉じゃないかという気もしますが、アメリカからすれば自国の国益の最大化を追求するのが当たり前ですから、彼らを責められないところもあります。そういう現実があるわけですから、それに対するカウンターを作らないといけないですし、我々もそういうことを正々堂々とやることが必要ですよね。
そう考えると日本の農業は本当に悲惨というか、アメリカに食われっぱなしの状況ですよね。

内田 アメリカの対日戦略の一環として「日本の農業を潰す」ことはアメリカにとっては合理的な解ですから、あって当然だと思います。

藤井 それは大航海時代や帝国主義の頃からそうですよね。当時に比べればやり口がソフィスティケート(洗練)されて合法的な見かけにはなってきていますが、基本的には他の国から奪えるものは奪おうとしているわけです。特に一九世紀後半や二〇世紀に入ってからは、需要を奪うのがメインになってきましたよね。最初は資源を奪っていましたが、途中から需要のある喜ばれそうなものを作って買わせるようになっていく。そうして買わせたうえで、さらにプランテーションで働かせたわけです。だから、労働も搾取するし需要も搾取するという二重の搾取を近代の帝国主義国家はやってきたわけです。
第二次世界大戦以降は、軍隊ではなく経済学者を宣教師のように使ってグローバリズムを広げ、マーケットを取るようになっていきます。その際にはその国の産業を潰すのが基本ですよね。自国で作れるものは買ってくれないからです。だから規制緩和で農家を潰して農産物を買わせたり、タクシー産業を潰してウーバーを参入させたりするわけです。アメリカは歴史的に考えれば当たり前のことをやっているわけで、それに対するカウンターを考えないといけないのに、小泉進次郎さんを筆頭に売国政策を嬉々として続けている状況があります。

内田 やっていることは植民地主義の時代と変わらないんですけれど、以前はそれでももう少しソフィスティケートされたやり方だったと思います。最近はそのやり方が露骨になってきた感じがします。たぶん日本側が全く抵抗しなくなったので、ハンドルするのに技巧や隠蔽が不要になったんでしょう。ジャパンハンドラーたちの手口が洗練されたものではなくなって、むしろ野卑で露骨になってきた気がする。

藤井 前はもう少し気をつけていたけれど、意外とアホだったということが分かってきたのでしょうね(笑)。

内田 これまではあまり露骨にハンドルすると、反米世論が高まってかえって日本がハンドルできなくなるかもしれないというリスクがあったので、多少は抑制的だったんですけど、そのリスクがなくなった。

藤井 八〇年代のオレンジと牛肉の自由化のときは大騒ぎでしたよね。

内田 六〇年安保以来、日本の反体制運動を駆動していた基本的な情念は「反米愛国」でしたからね。60年代末からの全国学園紛争も、もとはベトナム戦争に対する反対闘争でした。その頃は市民運動も労働運動も盛んでしたし、革新自治体が全国各地に広がっていました。だから、あの時代には日本国内の反米機運を鎮めることがアメリカにとっては急務だったのだけれど、うっかり露骨に日本の学生運動、労働運動を弾圧しようとするとむしろ日本の反米機運に火がついて、場合によってはソ連や中国の干渉を招く可能性もあった。ですから、対日工作はやるにしても丁寧にやろうという配慮はあったんだと思います。でも、二十一世紀に入ってからは「日本には反米世論を作るような力はもはやないから、何をやっても大丈夫だ」というふうに気が緩んできた感じがします。

藤井 そうですね。本誌の前身である『発言者』『表現者』は西部邁が始めたわけですが、彼はもともと東大で左翼の学生運動をやっていました。そしてその先輩には、森田実というあの砂川闘争を戦い抜いた男もいました。西部邁はその後左翼の運動をやめて経済学を勉強するのですが、二〇世紀の終わりごろから「保守」を名乗るようになります。なぜそうなったかというと、左翼にはいろいろな澱が溜まってきていたので、改めて日本国民のナショナリズムをベースに「反米」を展開しようとして左から右に旋回したわけです。つまり、独立のための「反米」が目的だったのです。

内田 まずは国家主権と国土の回復が基本だったということですよね。

藤井 生まれ落ちた以上奴隷ではないように生きていこうとするのは人として当然ですから、国家として隷属している状況があればそこから脱却するというのはすべてに優先する話です。そうでなかったら生きている意味は何にもないわけで、その意味でこの戦後空間は映画『マトリックス』のようにプログラミングされたまやかしだと言えるのでしょうね。
(『表現者クライテリオン』、10月号)

(2024-12-16 19:21)
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1921.html


農を語る 中編 2024-12-16 lundi
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1933.html

「対米自立」という気概の喪失

内田 「対米従属を通じての対米自立」というトリッキーな国家戦略が60年代までの自民党政治にはあったと思います。アメリカからの国家主権の回復、北方領土と南方領土(沖縄)の奪還がわが国の最優先目標であることについては、六〇年代ぐらいまでは左右問わずに国民的な合意がありました。けれども、ある時点から誰も「対米自立」を口にしなくなった。

藤井 それを言うと「アホか」という雰囲気になってきましたよね。特に現政府与党関係者達の中で対米自立を主張すると「藤井さんは青いな。中国や北朝鮮に対抗するためにはアメリカとうまくやらなきゃいけないじゃないか」と言われてしまいますから。中国や北朝鮮に対抗するためにはアメリカの「奴隷」であることが必要であり、「奴隷」と言うのが嫌だから「同盟」と言うんですよね。だから「日米安保」を「日米同盟」と言い始めるわけです。少女バイシュンを「援助交際」や「パパ活」と呼ぶのと同じですよ(笑)。日米同盟でも何でもないものを日米同盟とか言い出したことと、農業を守るという気概がなくなってきたことが完全に一致していますよね。

内田 文脈としては全く同じです。農業は国の基幹産業ですから、農業に手を突っ込んでくると激しい反米世論が巻き起こる可能性があった。だから手を触れなかった。けれども、日本の政治家から対米自立の気概がなくなったのを見てとってから対日戦略が一気に粗雑で、露骨になってきた。そういう感じがします。

藤井 誰か司令官がいて日本の隷属化を進めているというよりも、徐々に空気としてそう変わってきたということでしょうね。

内田 今の日本の総理大臣はもう「属領の代官」でしかありません。政権維持のためには、アメリカに朝貢して、ホワイトハウスから官位を「冊封」されるのが最も手堅いと信じている。

藤井 大岡昇平の『俘虜記』という小説がありますが、それと一緒ですね。この小説ではアメリカ人の若い将校がフィリピンの捕虜収容所を管理しているのですが、その収容所の捕虜達の中から一人日本人のリーダーを選ぶんです。勿論とくに明確な基準も無く適当に選ぶ。とはいえ、何の権限もなくて実際には若いアメリカ人が全部仕切っていて、ここで道徳の退廃がどんどん進んでいくという話です。大岡は最後にこれが日本なのだと書いています。つまりその収容所のリーダーが日本の総理大臣だということを、アメリカと戦った大岡は我々戦後日本人に伝えようとしたのだと思います。でも、そういう気概が本当になくなりましたね。

内田 戦後生まれの僕たちは実は主権国家の国民であった経験がないんです。親たちの世代までは大日本帝国の臣民だった。敗戦で帝国は滅びましたけれど、その国運を決定したのは自分たち自身です。他国に指示されたわけじゃない。でも、敗戦で国家主権を失った。そのことの喪失感の深さは戦後生まれの僕たちにはたぶん想像が及ばないと思うんです。彼らには「戻るべき原状」のイメージがあった。「国家主権の奪還・国土の回復」という言葉にリアリティーを感じることができた。でも、僕たちにとってその文字列はしだいに空語になりつつある。

藤井 サンフランシスコ講和条約で主権を取り戻したことにはなっていますが、「なんちゃって主権」でしかないですからね。沖縄のことも放置していますし。

内田 僕は子供の頃「日本国憲法は我々日本国民が作った」と教えられました。子どもですから、教えられるままそうなのかと思っていましたが、ある時期からそんなわけないということに気がつきました。これはほんとうに罪が深いと思うんです。日本人の自己認識の出発点は「われわれは主権国家の国民ではない」という欠落感でなければならないのに、まるで戦争には負けましたが、すぐに国家主権は回復しましたみたいな作話をした。

藤井 そうですそうです。僕もそうでした。ですが実際には国会の公式文書の中にも憲法がGHQによって押し付けられたという経緯が載っているくらい、明白な事実なわけです。なのにそれを子供の頃は知らなかった。でも、今の子供たちも押し付けられたということを知らないでしょうね。

内田 どういう歴史的経緯で日本国憲法が起草されたのかについての国民的合意がないんです。誰がどの条項をどういう意図で書き込んだのかについては諸説があって、どれも決定的ではない。憲法のある条項がどういう議論の末に決定され、なぜこの文言が採択されたかについては、条項そのものの当否とは別のレベルで「歴史的事実」として確定されていなければならないと思うんです。条項の適否についての議論はその先の話です。どうしてこんな条項が書かれたのかについて決定的なことを誰も知らないというところで憲法を議論できるはずがない。

日本の政治家はアメリカを怖がり過ぎている?

藤井 そうですね。昔の自民党、あるいは昔の社会党とかの政治家はそれなりにこういうことを議論していたと思います。しかし、今の政治家は派閥の論理の中で日和見して、どちらについたら得をするかということばかりに頭を使っていて、基本的な教養がなくなっていますよね。

内田 安倍晋三は原爆を落とされてからポツダム宣言が押し付けられたという程度の歴史認識でしたからね。こういう基礎的な事実を知らない人間が憲法について重要な決定を下すというというようなことはあってはならない。

藤井 今回の総裁選でも小泉進次郎氏が典型ですが、そういうことに関心がある人が少ないですよね。立憲民主党も先日代表選がありましたが、そういう議論をどこまで認識しているのか疑問です。

内田 認識していないと思いますね。立憲民主党も何とかして政権交代を実現したい。でも、政権与党であるためにはホワイトハウスから「属国の代官」として適格であるという許諾状を交付されないといけない。総理大臣としての適格性の最優先の根拠が「ホワイトハウスからの承認」であるというのはまことに悲しい話です。

藤井 実際には都市伝説的な部分もありますよね。要するに怖がり過ぎているということです。アメリカ人は、こちらがフェアであれば"That's make sense"(道理にかなっている)と納得してくれますから。核武装の問題に関しても、ちゃんと筋を通せばこちらの言い分をある程度は聞くはずですよ。なのに、進次郎みたいにポエムを言っていたら絶対に無理ですが(笑)。

内田 僕もそう思います。

藤井 場合によっては暗殺が起こることもあるでしょうし、実際にCIAはこれまで途上国で何度もそういうことをやってきましたが、G7の一角である日本でそう簡単にはできないはずです。だから、アメリカと対抗するために一番大事なのは、右だろうが左だろうが普通にロジックを展開してフェアに"make sense"できるような議論をすることだと思います。

内田 そうですね。アメリカといっても別に一枚岩ではありません。日米同盟に関してもさまざまな意見が併存している。日米安保条約を廃止した方がいいと言う人もいるし、在日米軍基地を撤収すべきだと言う人もいる。「日米同盟基軸」を言い立てている人たちはジャパン・ハンドラーの代理人ですから、彼らと異なるアメリカ国内世論を決して紹介しない。でも、トランプが大統領になったら、日米安保条約廃棄の「ブラフ」は仕掛けてくる可能性がありますよ。

藤井 トランプもホワイトハウスに入ったことで説得されて意見を変えたとは言われていますが、そう言い出す可能性は十分にありますよね。

アメリカの対日世論を変える外交努力をすべし

内田 アメリカの中にだって、今のように日本を収奪し過ぎると、日本そのものの国力が衰微して、結果的にアメリカの西太平洋秩序の維持が難しくなるから、日本を植民地扱いするのは止めて、国家主権を認めた方が長期的にはアメリカの国益にかなうという考え方をする人だって当然いるはずです。そういう人たちときちんとコミュニケーションをとって、アメリカの対日世論を変えていくというのが本来の外交だと思います。「アメリカ」とひとくくりにするのがよくない。

藤井 そうですね。田舎の人間が「東京って」と東京のことをひとくくりにして思っているのと一緒ですね。

内田 アメリカは今シリアスな国民的分断にさらされていて、「内戦の危機」だとまで言われています。だったら、その中で最も日本の国益を利する立場の人たちとコミュニケーションをとって、アメリカの対日国内世論を形成する。いわば「アメリカ・ハンドラー」をこそ育ててゆくべきだと思います。

藤井 もちろんそうですよね。「パブリック・ディプロマシー」によって相手の世論を変えることだってできますし、それが本来の政治主権ですよね。

内田 でも、そういうふうにして、アメリカの政治に日本がコミットしていくという発想は欠片もないですね。

藤井 僕は一時期アメリカの学会にかなり出ていましたし、ヨーロッパの心理学の研究会にも行っていて、英語は下手でも完全に対等に議論していたと思います。そうすることができれば認めてくれるわけですが、日本の先輩や後輩でそんな奴はほとんど見たことありません。"Tempura! Fujiyama!"とか言っているだけの田舎者なんですよ(笑)。アメリカ人やヨーロッパ人に引け目を感じているのだと思います。僕は三十歳ぐらいのときにスウェーデンに留学しましたが、当時は九〇年代だったから日本のほうが文化も上で、日本のIT機器や電気製品も勢いがあったから、ヨーロッパ人に対して「俺が教えたろうか」くらいの気持ちでいました。アメリカに行っても「アホばかりやんけ」という気持ちだったのですが、そう思っている人がほかにいなかったんですよね。
 たぶん、それと同じように誇りも何もない田舎者の外交がいろいろなところで展開されているのだと思います。進次郎なんて国連会議の記者会見で、日常英語を使えるのをみせてちょっとカッコつけたかったのか"gotta be......"みたいな大臣としては著しく相応しくない砕けた英語を使っていましたからね。

日米同盟以外のシナリオを想定しない政治学者や政治家たち

内田 だいぶ前ですけれど、日本のある高名な政治学者と対談したことがあって、「日本の安全保障戦略として日米同盟基軸以外にどういうシナリオがあるとお考えですか?」と聞いたことがあります。別に困らせるつもりじゃなくて、専門家の意見を知りたかったのです。でも、彼は絶句してしまった。日米同盟基軸以外にどんなシナリオがあり得るのか、考えたことがなかったらしい。でも、これはおかしいと思うんです。アメリカの政治学者に「西太平洋の安全保障戦略として、日米安保条約以外にどういうオプションがあり得えますか?」と訊いたら、いくつかのシナリオを答えてくれるはずです。ヨーロッパの学者に「NATO以外にどういうヨーロッパの安全保障の枠組みがあり得るか」訊いても、たぶんいくつかのシナリオを示してくれると思う。ところが、日本人は日米同盟基軸以外のシナリオについてそもそも考えない。でも、思考実験として、中国と同盟する、韓国と同盟する...などなどいろいろなシナリオについて、その現実性と効果について検討することはしてもいいと思うんです。

藤井 日本人は政治家も学者も延髄が切れているのでしょうね(笑)。ただ『俘虜記』の捕虜収容所のようなところに八十年間近くもいるとそうなる人が多数派になってくるのかもしれないですね。

内田 「対米従属を通じての対米自立」という国家戦略はその時点では十分な合理性があったと思います。それ以外に選択肢がなかったのだから仕方がない。でも、「対米自立」という目的を捨てて、「対米従属」が手段から目的になってしまったら、日本はこらから何のために存在するんですか。

藤井 「国が滅びる」という言葉にはいろいろな定義があると思いますが、もう滅んでいると言ってもいいかもしれませんね。

内田 滅びの道に向かってますね。

藤井 五十五年体制ができたときの最初の綱領に「外国駐留軍の撤退に備える」という条項があって、そのために憲法をどうするかとか、国内法をどう整備するかといった議論があったわけですが、二〇〇〇年ぐらいに綱領の見直しがあって、「日米同盟を基軸に」という文言が入ってしまいました。要するに、自民党は党として外国駐留軍の撤退に備える気がなくなってしまったわけです。

内田 在日米軍はもともと政府から派遣されていた単なる現地軍だったはずなのに、八十年も巨大固定基地で暮らしているうちに気が大きくなって、横田や沖縄を「アメリカの海外領土」だと思うようになってしまった。ホワイトハウスが返せと言っても、在日米軍は返す気がないんじゃないですか。

藤井 本来であれば、政治家がきちんと議論をしていけば時間はかかるかもしれないけれど必ず返ってくるはずですよね。

内田 フィリピンは憲法を改正して、国内に外国軍は駐留できないという条項を入れて、スービック基地とクラーク基地から米軍を撤退させました。韓国だって在韓米軍基地を三分の一まで削減しています。地位協定も世界のどの同盟国でも改訂されている。在日米軍の言いなりで、何もしていないのは日本だけです。

壊滅しつつある日本の農業

藤井 今回は「農を語る」というテーマですが、この議論は「農を語る」ための根幹ですよね。

内田 対米従属文脈の中で、日本の農業が破壊され、食糧が自給不能になり、アメリカから農作物を輸入する以外に国民が食えなくなるという依存体質を作り込もうとしている、そういう理解でいいと思いますけど。

藤井 前編で申し上げたように、農業を守るためには公的資金をきちんと入れることと関税を高めることが必要ですが、現実にはTPPだとか自由化だと言って関税を下げていき、農業への補助金に関しても財務省の緊縮財政によって削減されている状況があります。つまり、「公助」が駄目になって農家の所得が下がっているわけです。最後の頼みの綱である農協という「共助」にしても、小泉進次郎が出てきて株式会社化を進めようとしたり、農林中金を自由化したりして解体しようとしています。
 僕はTPPの反対論を展開していたので、「藤井はTPPに入って日本は滅びるとか言っていたが、滅びていないやんけ」とよく言われます。でも、二〇四〇年に日本の農家は三分の一になり、二〇五〇年には五分の一になると言われているんですよ。しかも、今の農家の最新の平均所得(農業の収入と農業を行うのに必要な支出の差額)は一万円にまでなっているんです。ですから、今の農家の方は平均すると貯金を食いつぶしてお米を作ってくださっているわけで、さらに農家の平均年齢は令和五年で六十八・七歳になっています。

内田 皆さん、いずれ鬼籍にお入りになる年齢になっていますよね。

藤井 しかも若い人が入ってきていないですから、これは日本の農業の壊滅を意味しますよ。そのシグナルが今年スーパーで米が消えたことなのだと思います。昔は古米が大量に余っていて、多少高くてもいくらでも買えたはずなのに、それすらできなくなっている。つまり、日本人が米を食えなくなりつつあるわけですよね。だから、すでにこの国は滅びの道に完全に入っているのではないかと思います。

内田 このままだと滅びますよね。滅びる方向にまっすぐ向かっていて、誰も止めていないわけですから。

藤井 しかも、小泉進次郎だとかそのバックにいる菅義偉だとか、自民党のど真ん中にいる政治家連中がそう仕向けているわけですから、ホントに救いようがないですね。

「表現者 クライテリオン」11月号

(2024-12-16 19:33)
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農を語る 後編
2024-12-16 lundi
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地方を見捨てるようになった日本人

内田 かつての自民党の支持基盤は農村部でしたけれども、農村部は衰退しているから政治的な発言力がどんどんなくなっています。そうすると、地方にいい顔をしなくてもいいということになりますよね。能登半島地震にしても、元の姿に復興する気がありませんし。

藤井 農業の議論とも全く同じだと思いますが、二〇一一年の東日本大震災のときにも棄民的な発言が結構ありました。「東北なんて田舎だから放っておけばええやん」と経産省の役人が言っていて、それが大問題になって懲戒処分になりましたよね。当時は復興しないといけないという気持ちがあったわけですが、それから十三年経った今は平然と「あそこは田舎だから復興しなくていい。カネも無尽蔵にあるわけではないのだから復興するところとしないところを分けよう」という議論がなされています。そこで、僕はそんなことを政治家が言っているのはおかしいという記事を書きました。十三年前にも同じようなことを書いて、当時は賛同されていたのですが、今回は炎上したんです。「アホか。そんなところ復興してどうすんねん!カネもないのだから能登なんて放っておけばええやないか!」と批判されて、びっくりしましたね。

内田 この十数年の間にそういう世論形成が着実に進行していて、「人口過疎地に住んでいる人間は健康で文化的な生活をする権利なんかない。だからそこに住んでいるのは自己責任だ」と言われるようになってきていますよね。

藤井 過疎地に住んでいると準反社会的人間のような扱いを受けるということですね(笑)。

内田 そうです。「お前らのために道路やトンネルを通したり橋を架けたりしても、その道の先には人口が数百人しかいないじゃないか。そのために何億円も使うのは税金の無駄遣いだ」というわけです。少なくとも二〇一一年には、そういうことを平然と言う人はそこまでいませんでしたが、今は完全にそうなっています。

藤井 僕は能登に今住んでいる人のことも見ていますが、百年前、二百年前、五百年前、千年前の能登の風土も見ているわけです。輪島なんて江戸時代には北前船のおかげで豪商が生まれて、ものすごく栄えた町でしたよね。そこで輪島塗も生まれて、今や世界中の人が使っています。つまり、能登半島という先代から引き継いだ日本の宝を現代の人間はお守りする義務があるというイメージがあるんです。だから高速道路を通さないといけないし、農業も振興しないといけない。食料自給率の面でもそうですし、棚田のような伝統や文化を残す意味でもそうです。それに価値がないと思う奴は馬鹿ですよ。

人口減少よりも東京一極集中が問題

内田 全国津々浦々に固有の文化があって、かつてエネルギーも食料も自給自足していた二七六の藩があって、その全部に固有の文化があって伝統芸能があったわけですが、当時の日本の人口は三千万人ですよ。今は一億二千五百万人もいて、これで人口が少ないというのは違うでしょう。東京に一極集中しているだけであって、地方に人口を戻すのが最優先です。

藤井 昭和の日本まではそういう感覚があったと思いますし、ヨーロッパの国々には明確に残っています。僕はスウェーデンに留学していましたが、あんな広いスカンジナビアの国土に一千万人しか住んでいないんですよ。僕は第二の都市である四十五万人ぐらいのイェテボリに住んでいましたが、いろんなところにちゃんと町や村が残っていて、高速道路も繋がっていました。アウトレットみたいな近代的なものもありますが、地方の田園の風景がずっと広がっていて、それが無駄という議論はなかったですよ。だって、子供が五人生まれて「コイツは小さいから無駄やな」なんて言う親はいないじゃないですか。本来都市を守るというのはそのぐらいの感覚のはずですから、僕は今の日本人は人間ではないと思います。

内田 おかしいと思いますよね。一億二千五百万人で人口が少ないと大騒ぎしていますが、僕らが子供の時代は九千万人でしたからね。明治四十年の日露戦争の頃は五千万人ですよ。
 二十一世紀の終わりに五千万人まで減ると言っているけれど、明治四十年だって全国津々浦々にきちんと生業があって、高等教育機関も医療拠点もあって、文化的な発信をしている人もたくさんいたわけだから、人口が少ないという言い訳は通らないと思います。問題は分布ですよ。そして、人口を首都圏に集めているのは完全にビジネスマインドですよね。つまり金儲けのためです。普通は金儲けより国家の存続を優先するだろうという話です。

藤井 そうですよ。だって、陵辱され侮辱され、馬鹿にされてもお金があるからよろしいですねなんていう人生はあり得ないですからね。人として生きる基本はお金よりも前にあるわけで、それが国土であり田園であり、伝統であり文化であるという主張をしないといけないはずですよね。

内田 「国破れて山河あり」という言葉もありますからね。このままだと次に破れたとき山河はなくなっていますよ。

藤井 そうなりますよね。本誌は政治的には「保守思想誌」という立場ですが、保守もリベラルも関係ないですよね。

内田 共産党の人も今日の議論はほとんど賛成しますよね。

藤井 不思議なもので、自分のことを「保守」だと思っている奴ほどこういう議論に賛成しません。どちらかというと「左翼」と言われる共産党とかの人の方が賛成するんですよね。だから僕は共産党の人とも山本太郎とも喋りますし、左翼も右翼も関係なく話をします。「右」「左」ではなく「真っ当」か「真っ当」でないかという当たり前の話だと思います。

内田 パトリオットかどうかということですよね。僕はナショナリストではないですがパトリオットではあると思っています。「イズム」ではなくて愛郷心や愛国心ですね。ただこの国の山河を守りたいと思っているだけです。日本は山紫水明でご飯も美味しいし、植物相も動物相も豊かな国なのに、それをわざわざ暮らしにくくしているわけです。何を考えているのだろうと思います。

過疎地から人を排除しようとする「ビジネスマインド」

藤井 こういう議論をしていると、農業を守るのは当たり前のことだと誰でも思いますよね。

内田 最優先の政治課題として農業を守らなければいけないわけです。でも、過疎地に人がいるとビジネス的には困るんですよね。行政コストがかかるしあまり使い道がないですから。そこで全部無住地にすることで、一気にビジネスチャンスを広げようとするわけです。ソーラーパネルを敷き詰めたり原発を作ったり風力発電をしたり、あるいは産業廃棄物を捨てたりとか。地域住民がいないので、生態系なんかいくら壊してもいいわけですよね。
 今の日本のビジネスマンは「過疎地は金がかかってしょうがないのだから人口をゼロにしろ。そうすればコストをかけなくて済む」と考えているのでしょうし、僕がもし邪悪な性格のビジネスマンだったら絶対にそう考えます。今だって国土の六二%が無住地ですから、これが七〇%や八〇%になっても誰も気がつかないと思うでしょうね。

藤井 TPPとか自由化とか緊縮をやって、二〇四〇年に農家が三分の一に減ったら無住地だらけになりますよね。

内田 そうです。彼らは明確に全国の無住地化を目指していると思います。生態系を管理するコストは莫大にかかりますよね。川や森や海を管理しなければならないわけですから。そこに人が住んで生き延びるためには絶対必要だから、生態系の維持に膨大なコストをかけるのだけれども、人が住んでいなかったら生態系の維持にコストをかける必要がなくなり、破壊し放題なわけです。発電ビジネスをやっている人たちはそれを絶対に狙っていると思います。それで日本に住めなくなったら、「ハワイにコンドミニアムがあるからそこに移る」となるのでしょうね。

藤井 それこそ、自分の娘がべっぴんだからどこかに売ろうか、みたいな話と変わらないですよね。なぜこういう下品な比喩を申し上げたかというと、国土は有機物だと思うからです。和辻哲郎の風土論もそういうものですが、国土を無住地化するということは無機物化するということであり、それはレイプと一緒ですよね。女性に尊厳があるからレイプが駄目なのに、その尊厳を壊すのがレイプという行為だとすると、ソーラーパネルを山河に敷き詰めているのは国土をレイプしているのと同じですよ。

内田 実際に見るとそう感じますよ。普通の感受性なら、お金が欲しくてこんなことをするはずはなくて、明らかに自然を陵辱していますし、悪意ですよ。

藤井 そう思いますね。でも、そこに田園や畑があれば決してそう思わないですよね。気候と人間とが共存するのが農という営みで、雨が降ってきて水田を作って収穫して、また虫が育っていく。生態系と人間の営みが循環の中で溶け合っていくことが大切ですよね。

内田 それによって新しい価値が生まれてくるんですよね。

藤井 そうですね。太陽光発電もレイプも一回の行為で終わりじゃないですか。そうではなく循環することが大事で、家族で愛し合うだとか、国土と愛し合うとか、そういうものが人間の人間らしさであって、国土を道具として使うというのは友達や女性を道具として使っているのと一緒だと思いますね。

「農」の破壊の背後にある「悪意」

内田 僕の友達に想田和弘という映画監督がいて、彼は岡山県牛窓というところに住んでいます。この前彼の家に遊びに行ったら小高い丘の上に連れて行ってくれて、目の前に瀬戸内海が広がっていました。その北側に錦海湾という湾があるのですが、湾が一面真っ黒になっていました。錦海湾は、かつては浅海で豊かな漁場だったのですが、一九七〇年代に製塩業をやろうと言った奴がいて埋め立てたんです。その後、製塩業が全くビジネスにならなくて廃棄されてしまいました。一度製塩に利用した土地は農業に使えなくなるので、産業廃棄物の処分場や工場を建てたのですが、最終的にソーラーパネルを敷き詰めることになり、湾が真っ黒になってしまったわけです。それを見たときに「何と愚かなことをしたんだ」と思いました。
 短期的な金儲けのために埋め立ててビジネスをやったら大失敗して、その後ソーラーパネルを敷き詰めて、これも何年か経ったら全部産廃にされてしまうわけです。短期的にしかものを考えない人間たちが自然を壊している光景を見て、僕は悪意を感じましたね。

藤井 レイプする人はそこで欲望を満たそうとしているのでしょうが、それと同じような悪意を感じますよね。

内田 人が大事にしているものを破壊することによって全能感を感じるのでしょうね。皆が綺麗だと思っている海に土足で踏み込んで、皆が悲しむのを見て「俺はこれだけの人たちに悲しみを与えられるのだ」と思うのでしょう。イーロン・マスクがTwitterを買収して世界のユーザーがショックを受けましたが、あれもおそらく金儲けのためではなく、世界の何億人ものユーザーが絶望に打ちひしがれている姿を見て、自分の全能感を感じているのでしょう。ああいう人間っているんですよ。

藤井 僕は『エクソシスト』とかの悪魔映画が好きで山ほど観ているのですが、ホラー映画は現実の人々の行動の中にある悪魔を純化して描いているわけです。キリスト教の悪魔や日本の悪霊として出てくるのはそういうものだと思うのですが、日本が悪魔化、悪霊化していくと農は滅び去る運命にあるということですね。

内田 今の日本で農を破壊しているのは、ある種のすごく邪悪な意思だと思います。本人はおそらく気がついていなくて、最新のビジネスモデルに適合しているとか、あるいはアメリカの国家戦略、世界戦略に適合していると思っているのかもしれないけれども、実際に駆動しているのは非常にドロドロした邪悪な意思だと思いますね。

藤井 本誌では文芸批評家の浜崎洋介さんを中心に「文学座談会」をずっとやっていたのですが、そこで「国土の荒廃」というテーマで石牟礼道子さんの『苦海浄土』と富岡多恵子さんの『波うつ土地』を取り上げたことがあります。どちらも国土が陵辱されるというお話を描いている本で、この感覚を我々は忘れているんですよね。「金が儲かったらええやないか」というものではないんです。こういう感覚をちゃんと持っておくことが人として、そして真っ当な国として存在していく必要条件であって、その必要条件が満たされているかどうかというリトマス紙が、その国が農をどれだけ大事にしているかということになのでしょうね。

内田 全くその通りですね。

藤井 今日は内田先生に初めてお目にかかりましたが、非常に面白かったです。内田先生はどちらかというと「左翼」と言われることが多いと思われますし、僕は保守なので「藤井と内田先生は違うんちゃうか?」と思っている人もいるかもしれませんが、ほぼ同じことを考えていると思います。真っ当な保守と「ビジネス保守」がいるように、左翼も真っ当な左翼と「ビジネス左翼」的な人がいるのかもしれませんね。

内田 ビジネス左翼はあまりいないと思いますが、非常に教条主義的でものの見方が固定化している人は多いですね。

藤井 朝日新聞とかはかなりビジネス化しているところもあるでしょうが、教条主義的な人と、そうではなくしっかりと議論できる人がそれぞれにいるということが改めて見えましたし、こういった思想的な問題の果てに農の問題があるということを確認できたと思います。
 内田先生は前からお話ししたいと思っておりまして、お時間がありましたら食事でもご一緒できればと思いますし、これを機にいろいろなところでお話ができればと思います。どうもありがとうございました。

内田 こちらこそありがとうございました。

(2024-12-16 19:41)
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1941.html



http://www.asyura2.com/20/reki4/msg/140.html#c10

[近代史3] 補助金なしの価格では日本の農作物はアメリカや欧州より安く、日本の農業は欧米より効率的 中川隆
16. 中川隆[-8180] koaQ7Jey 2024年12月17日 09:16:17 : A85XnA9QFo : QlB2Zk5uMHFTY3M=[6]
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内田樹の研究室
農を語る(前編)2024-12-16 lundi
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食料の自給自足は国の根幹である

藤井聡 今回は、神戸女学院大学名誉教授で武道家でもあられる内田樹先生にお越しいただきました。内田先生は文学や思想、社会科学などいろいろな側面から時勢的な問題について論じられていますが、以前この「農を語る」にもご登壇いただいた堤未果さんと食と農の問題について対談されていましたよね 。それを拝見したこともありまして、今回お越しいただいた次第です。どうぞよろしくお願いいたします。
 早速ですが、内田先生は現在の「農」についてどのようにお考えでしょうか。

内田 僕への講演依頼で一番多いのは教育関係ですが、次に多いのが医療と農業です。JAさんをはじめいろいろな団体から声がかかっていて、あちこちで講演しています。演題として多いのは人口減少についてですね。今農村は急激な人口減少で、もはや過疎地を通り越して無住地化しつつあります。農村の現場の細かいことは研究者じゃないのでよく知らないのですが、大風呂敷を広げるのは得意なので、人口減少の文明史的な意味とは一体どういうものなのかという話をした上で、農業従事者の皆さん方はどう対処すべきかについて意見を申し上げます。僕からの提言は絶対に里山や農業を捨ててはいけないということです。

藤井 愚問かもしれませんが、絶対に捨ててはいけないとご主張される理由はどういったところにあるのでしょうか。

内田 農業は国の基本だからです。エネルギーと食料の自給自足は国の根幹です。これはどちらも足りなくなったからといって、いつでも必要な量だけ、必要な時に市場で調達できるというものではありません。そのことはコロナでよく分かったはずです。サプライチェーンが途絶したら、お金がいくらあったって欲しいものが買えなくなる。アメリカはマスクや防護服のようなものは途上国に作らせて輸入した方が安いという理由でほとんどをアウトソーシングしていたせいで、輸入が途絶えたとたんに医療崩壊が起きて多数の死者が出ました。マスクや防護服や検査キットのような、シンプルで安価な医療資源は、賃金の高いアメリカ国内で作る必要なんかない、在庫も要らない。「要る時に金を出せばいい」という「賢い」経営判断のせいで、たくさんの人が死んだ。「こんなものはいつでも買える」と思っていたものが買えなくなることがある。それについての想像力の不足が一番怖いんです。今の日本だって、いつ南海トラフ巨大地震が来るのか分からない。米中戦争だって起こるかもしれない。何が起きても国民を守ることが国の責務なんですから、エネルギーと食料と医療の自給自足はどんなことがあっても最優先で目指すべき最重要課題だと思います。

藤井 アメリカなどの先進国、G7諸国は食料自給率一〇〇%、二〇〇%を目指して輸出産業としても育てているのが一般的で、そのためにかなりの国費を投入して自給率を上げていますが、日本はそういう雰囲気になっていませんよね。カロリーベースの自給率はたったの三八%しかありませんし。

内田 東京大学の鈴木宣弘先生によると、実際には十%を切るそうです。

日本の食料自給率が下がればアメリカの国益になる

藤井 自給率を高めるには二つの方法があり、一つは補助金をしっかりと出して農業所得を保障してあげることです。いわば「公共事業」として、農家の人たちを公務員のような格好でお雇いするという考え方です。もう一つ、「関税」を高めて農業を保護するという伝統的な方法もあります。
この二つの方法が基本ですが、前者の補助金はどんどん少なくなっていますし、後者の関税もTPPをはじめとする自由化を通じて下げるのが善であるかのような風潮があります。これは本当に由々しき事態ですよね。

内田 日本の国益を考えたら、あらゆる手立てを尽くして農業を守り、自給率を上げるのが最も合理的な解です。でも、そうなっていない。ということは、日本の農業が政府の補助で維持され、日本の食料自給率が上がることを望まない「外圧」が存在するということになる。誰が考えても、それはアメリカ以外にない。アメリカが政官財のさまざまなチャンネルを通じて、今の日本の農業政策をコントロールしている。そう考えるのが合理的だと思います。

藤井 いわゆる「ジャパンハンドラー」と呼ばれる人たちがアメリカにいますよね。CSIS(戦略国際問題研究所)などはジャパンハンドラーたちの巣窟であり、小泉進次郎さんもそこで研究されていましたからね。彼は自民党の農林部会の部会長をやっていた時期があり、農協の株式会社化や農林中金の自由化などを主張されています。しかもそれが「改革」と呼ばれ、何か良いものであるかのように言われていますよね。

内田 自民党の総裁選に出ている政治家たち、立憲民主党の代表選に出ている政治家たちの話を聴いていると、明らかに日本国民ではなく、ホワイトハウスに向けてシグナルを送っているということが分かります。例えば、「在日米軍の既得権には決して手を付けません」というような公約は国内的には支持率の向上にはつながるはずがない。それでも必ず公約するのは、それがアメリカ向けのジェスチャーだからです。「私が日本の首相になっても、アメリカの国益に抵触するようなことは決してしません。だから承認してください」とアピールしている。

藤井 多くの政治家は口には出さないでしょうけれども、アメリカを怒らせたら政治家として続かないという恐怖心があるのでしょうね。

内田 それは遠く田中角栄から、鳩山由紀夫、小沢一郎の前例から明らかですからね。

藤井 総理大臣としての政治生命を絶たれてしまうという、控えめな表現をすれば「都市伝説」があるわけです。事実であればもっと有効性がありますが、仮に都市伝説だったとしてもそれだけで一定の効果がありますよね。

内田 アメリカが実際に手を出して政治生命を奪うということはしていないと思いますが、日本の政治家と官僚とメディアがアメリカの意を「忖度」して、アメリカの国益に資するように動いている。

藤井 現在、自民党の総裁候補として小泉進次郎さんの名前が挙がっていますが、CIAやホワイトハウスが直接彼に電話して指示しているわけではないですからね。もしかしたら電話委しているのかもしれませんが(笑)。

内田 CIAかどこかのアメリカのシンクタンクから派遣された人が政策ブレーンとして政治家たちの周りにいて、アドバイスを求められたときに「こうすればアメリカは喜びますよね」と知恵を付けている可能性はありますね。あくまでそういう間接的なコントロールにとどまっていて、「ホットライン」でアメリカから指示が出ているということはないと思います。

インテリジェンス研究が軽視される日本

藤井 外国ではCIAやKGBなどを研究対象にした「インテリジェンス研究」というのがありますが、日本にはないんですよね。
 KGBの幹部がイギリスに亡命する際に持ち出したスパイ関連の機密文書が「ミトロヒンアーカイブス」という資料として残っているのですが、そこに「Japan」という章があります。でも、誰も訳していなかったので京都大学の僕の研究室で訳して、記事として公表しました。例えば○○新聞の誰がエージェントだとか、○○党のこの人はエージェントだとかいったことが全部書いてあります。エージェントにもいろいろなタイプがいて、事実上エージェントの人とか、単にソ連と仲が良いだけで勝手にソ連のために動いてくれる人とかもいるようです。おそらく、アメリカもそういう誘導の仕方をしているのでしょうね。

内田 そうでしょうね。エージェントも多種多様で、自分で気づかないうちにエージェントの役割を果たしてしまっている人も相当数いると思います。自民党と民社党には結党時点ですでにアメリカの情報機関の金が入り込んでいるし、岸信介も賀屋興宣もCIAのエージェントでした。共産党にはソ連のエージェントが入っていましたし、敗戦後から60年代にかけてはどの政党もそれぞれの「ボス」である外国と何らかのチャンネルを持っていたはずです。自分たちは日本のためだと思って、外国の工作員だという自覚はなかったんでしょうけれど。

藤井 日本テレビもそうやって作られたということもよく知られた事実ですよね。こういうことを言うと陰謀論者だと思われがちなのですが、外国では「インテリジェンス研究」が大学の研究機関に存在していますから、本来は政治学者がやるべき仕事です。ただ、日本の政治学会でそういうことをやると「やばい奴」扱いされてしまうので、なかなかできないですよね。

内田 本来なら歴史学者と政治学者の共同作業でやるべきことですよね。

公文書の隠ぺいが「陰謀論」を強める

内田 アメリカは公文書をどんどん公開しますよね。あの姿勢は素晴らしいと思います。僕は大学卒業後友だちと翻訳会社をやっていた時期があり、当時GHQの資料を大量に訳したことがあります。僕の遠い親戚に平野力三という政治家がいます。片山哲内閣で農林大臣をやっていた右派社会党の活動家でしたが、戦前軍国主義者だったという告発を受けて公職追放されました。それから数十年して、アメリカで公文書が公開されたのを機会に、自分にかかわるすべての公文書のコピーを取り寄せたんです。そしたら、誰が平野力三を「軍国主義者だ」とGHQに告げ口したのかが公文書に書いてあった。西尾末広と曽祢益という民社党の二人でした。彼らが政敵である平野を陥れるために、平野の戦前の経歴について明らかに虚偽の情報をGHQ提供して公職追放をそそのかしたのです。そのことが分かって、のちに平野はカーター大統領から名誉回復を勝ち取りました。

藤井 そうですね。アメリカは公文書に関してはフェアですよね。ちゃんと公開するというノーム(規範)があるのでしょうね。

内田 日本は公文書はすぐに廃棄しますからね。敗戦の時、市谷で陸軍参謀本部が公文書を全部燃やしてからの伝統ですね。東京五輪の財務資料なんかもう燃やしてしまっているんじゃないですか。

藤井 本当だったら捕まる人がたくさん出てくると言われていましたからね。

内田 大阪万博だって、終わった後に住民が監査請求をしても、「帳簿は全部廃棄しました」と言って逃げ出すと思いますよ。

藤井 噂レベルなので固有名詞は出しませんが、今回の総裁選で小泉進次郎さんを推しているある人は、自分の息のかかった人でないと捕まってしまうから実質的に子分である進次郎さんを推薦しているそうです。小泉純一郎さんは「五〇歳になるまでは総裁選に出たら駄目だ」と進次郎さんに言っていたのに、そのお父さんを説得して息子を総裁にさせようとしているとまことしやかに言われています。そういう不正がまかり通るんですよね。

内田 陰謀論が広がるのは、公文書や帳簿などのドキュメントが公開されないからなんです。全部隠すから、「本当は何が起きたのか」が分からなくなってしまう。

「反米世論」が弱まり、コントロールしやすくなった日本

藤井 TPPが典型ですが、アメリカが工作しているというよりも、アメリカが言っていることに日本が明確に従っているというのが実際のところなのでしょうね。
 政府機関が外国の国民世論を操作する「パブリック・ディプロマシー」と呼ばれる外交戦略があり、アメリカは日本の世論に対して散々そういうことをやってきました。内政干渉じゃないかという気もしますが、アメリカからすれば自国の国益の最大化を追求するのが当たり前ですから、彼らを責められないところもあります。そういう現実があるわけですから、それに対するカウンターを作らないといけないですし、我々もそういうことを正々堂々とやることが必要ですよね。
そう考えると日本の農業は本当に悲惨というか、アメリカに食われっぱなしの状況ですよね。

内田 アメリカの対日戦略の一環として「日本の農業を潰す」ことはアメリカにとっては合理的な解ですから、あって当然だと思います。

藤井 それは大航海時代や帝国主義の頃からそうですよね。当時に比べればやり口がソフィスティケート(洗練)されて合法的な見かけにはなってきていますが、基本的には他の国から奪えるものは奪おうとしているわけです。特に一九世紀後半や二〇世紀に入ってからは、需要を奪うのがメインになってきましたよね。最初は資源を奪っていましたが、途中から需要のある喜ばれそうなものを作って買わせるようになっていく。そうして買わせたうえで、さらにプランテーションで働かせたわけです。だから、労働も搾取するし需要も搾取するという二重の搾取を近代の帝国主義国家はやってきたわけです。
第二次世界大戦以降は、軍隊ではなく経済学者を宣教師のように使ってグローバリズムを広げ、マーケットを取るようになっていきます。その際にはその国の産業を潰すのが基本ですよね。自国で作れるものは買ってくれないからです。だから規制緩和で農家を潰して農産物を買わせたり、タクシー産業を潰してウーバーを参入させたりするわけです。アメリカは歴史的に考えれば当たり前のことをやっているわけで、それに対するカウンターを考えないといけないのに、小泉進次郎さんを筆頭に売国政策を嬉々として続けている状況があります。

内田 やっていることは植民地主義の時代と変わらないんですけれど、以前はそれでももう少しソフィスティケートされたやり方だったと思います。最近はそのやり方が露骨になってきた感じがします。たぶん日本側が全く抵抗しなくなったので、ハンドルするのに技巧や隠蔽が不要になったんでしょう。ジャパンハンドラーたちの手口が洗練されたものではなくなって、むしろ野卑で露骨になってきた気がする。

藤井 前はもう少し気をつけていたけれど、意外とアホだったということが分かってきたのでしょうね(笑)。

内田 これまではあまり露骨にハンドルすると、反米世論が高まってかえって日本がハンドルできなくなるかもしれないというリスクがあったので、多少は抑制的だったんですけど、そのリスクがなくなった。

藤井 八〇年代のオレンジと牛肉の自由化のときは大騒ぎでしたよね。

内田 六〇年安保以来、日本の反体制運動を駆動していた基本的な情念は「反米愛国」でしたからね。60年代末からの全国学園紛争も、もとはベトナム戦争に対する反対闘争でした。その頃は市民運動も労働運動も盛んでしたし、革新自治体が全国各地に広がっていました。だから、あの時代には日本国内の反米機運を鎮めることがアメリカにとっては急務だったのだけれど、うっかり露骨に日本の学生運動、労働運動を弾圧しようとするとむしろ日本の反米機運に火がついて、場合によってはソ連や中国の干渉を招く可能性もあった。ですから、対日工作はやるにしても丁寧にやろうという配慮はあったんだと思います。でも、二十一世紀に入ってからは「日本には反米世論を作るような力はもはやないから、何をやっても大丈夫だ」というふうに気が緩んできた感じがします。

藤井 そうですね。本誌の前身である『発言者』『表現者』は西部邁が始めたわけですが、彼はもともと東大で左翼の学生運動をやっていました。そしてその先輩には、森田実というあの砂川闘争を戦い抜いた男もいました。西部邁はその後左翼の運動をやめて経済学を勉強するのですが、二〇世紀の終わりごろから「保守」を名乗るようになります。なぜそうなったかというと、左翼にはいろいろな澱が溜まってきていたので、改めて日本国民のナショナリズムをベースに「反米」を展開しようとして左から右に旋回したわけです。つまり、独立のための「反米」が目的だったのです。

内田 まずは国家主権と国土の回復が基本だったということですよね。

藤井 生まれ落ちた以上奴隷ではないように生きていこうとするのは人として当然ですから、国家として隷属している状況があればそこから脱却するというのはすべてに優先する話です。そうでなかったら生きている意味は何にもないわけで、その意味でこの戦後空間は映画『マトリックス』のようにプログラミングされたまやかしだと言えるのでしょうね。
(『表現者クライテリオン』、10月号)

(2024-12-16 19:21)
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1921.html


農を語る 中編 2024-12-16 lundi
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1933.html

「対米自立」という気概の喪失

内田 「対米従属を通じての対米自立」というトリッキーな国家戦略が60年代までの自民党政治にはあったと思います。アメリカからの国家主権の回復、北方領土と南方領土(沖縄)の奪還がわが国の最優先目標であることについては、六〇年代ぐらいまでは左右問わずに国民的な合意がありました。けれども、ある時点から誰も「対米自立」を口にしなくなった。

藤井 それを言うと「アホか」という雰囲気になってきましたよね。特に現政府与党関係者達の中で対米自立を主張すると「藤井さんは青いな。中国や北朝鮮に対抗するためにはアメリカとうまくやらなきゃいけないじゃないか」と言われてしまいますから。中国や北朝鮮に対抗するためにはアメリカの「奴隷」であることが必要であり、「奴隷」と言うのが嫌だから「同盟」と言うんですよね。だから「日米安保」を「日米同盟」と言い始めるわけです。少女バイシュンを「援助交際」や「パパ活」と呼ぶのと同じですよ(笑)。日米同盟でも何でもないものを日米同盟とか言い出したことと、農業を守るという気概がなくなってきたことが完全に一致していますよね。

内田 文脈としては全く同じです。農業は国の基幹産業ですから、農業に手を突っ込んでくると激しい反米世論が巻き起こる可能性があった。だから手を触れなかった。けれども、日本の政治家から対米自立の気概がなくなったのを見てとってから対日戦略が一気に粗雑で、露骨になってきた。そういう感じがします。

藤井 誰か司令官がいて日本の隷属化を進めているというよりも、徐々に空気としてそう変わってきたということでしょうね。

内田 今の日本の総理大臣はもう「属領の代官」でしかありません。政権維持のためには、アメリカに朝貢して、ホワイトハウスから官位を「冊封」されるのが最も手堅いと信じている。

藤井 大岡昇平の『俘虜記』という小説がありますが、それと一緒ですね。この小説ではアメリカ人の若い将校がフィリピンの捕虜収容所を管理しているのですが、その収容所の捕虜達の中から一人日本人のリーダーを選ぶんです。勿論とくに明確な基準も無く適当に選ぶ。とはいえ、何の権限もなくて実際には若いアメリカ人が全部仕切っていて、ここで道徳の退廃がどんどん進んでいくという話です。大岡は最後にこれが日本なのだと書いています。つまりその収容所のリーダーが日本の総理大臣だということを、アメリカと戦った大岡は我々戦後日本人に伝えようとしたのだと思います。でも、そういう気概が本当になくなりましたね。

内田 戦後生まれの僕たちは実は主権国家の国民であった経験がないんです。親たちの世代までは大日本帝国の臣民だった。敗戦で帝国は滅びましたけれど、その国運を決定したのは自分たち自身です。他国に指示されたわけじゃない。でも、敗戦で国家主権を失った。そのことの喪失感の深さは戦後生まれの僕たちにはたぶん想像が及ばないと思うんです。彼らには「戻るべき原状」のイメージがあった。「国家主権の奪還・国土の回復」という言葉にリアリティーを感じることができた。でも、僕たちにとってその文字列はしだいに空語になりつつある。

藤井 サンフランシスコ講和条約で主権を取り戻したことにはなっていますが、「なんちゃって主権」でしかないですからね。沖縄のことも放置していますし。

内田 僕は子供の頃「日本国憲法は我々日本国民が作った」と教えられました。子どもですから、教えられるままそうなのかと思っていましたが、ある時期からそんなわけないということに気がつきました。これはほんとうに罪が深いと思うんです。日本人の自己認識の出発点は「われわれは主権国家の国民ではない」という欠落感でなければならないのに、まるで戦争には負けましたが、すぐに国家主権は回復しましたみたいな作話をした。

藤井 そうですそうです。僕もそうでした。ですが実際には国会の公式文書の中にも憲法がGHQによって押し付けられたという経緯が載っているくらい、明白な事実なわけです。なのにそれを子供の頃は知らなかった。でも、今の子供たちも押し付けられたということを知らないでしょうね。

内田 どういう歴史的経緯で日本国憲法が起草されたのかについての国民的合意がないんです。誰がどの条項をどういう意図で書き込んだのかについては諸説があって、どれも決定的ではない。憲法のある条項がどういう議論の末に決定され、なぜこの文言が採択されたかについては、条項そのものの当否とは別のレベルで「歴史的事実」として確定されていなければならないと思うんです。条項の適否についての議論はその先の話です。どうしてこんな条項が書かれたのかについて決定的なことを誰も知らないというところで憲法を議論できるはずがない。

日本の政治家はアメリカを怖がり過ぎている?

藤井 そうですね。昔の自民党、あるいは昔の社会党とかの政治家はそれなりにこういうことを議論していたと思います。しかし、今の政治家は派閥の論理の中で日和見して、どちらについたら得をするかということばかりに頭を使っていて、基本的な教養がなくなっていますよね。

内田 安倍晋三は原爆を落とされてからポツダム宣言が押し付けられたという程度の歴史認識でしたからね。こういう基礎的な事実を知らない人間が憲法について重要な決定を下すというというようなことはあってはならない。

藤井 今回の総裁選でも小泉進次郎氏が典型ですが、そういうことに関心がある人が少ないですよね。立憲民主党も先日代表選がありましたが、そういう議論をどこまで認識しているのか疑問です。

内田 認識していないと思いますね。立憲民主党も何とかして政権交代を実現したい。でも、政権与党であるためにはホワイトハウスから「属国の代官」として適格であるという許諾状を交付されないといけない。総理大臣としての適格性の最優先の根拠が「ホワイトハウスからの承認」であるというのはまことに悲しい話です。

藤井 実際には都市伝説的な部分もありますよね。要するに怖がり過ぎているということです。アメリカ人は、こちらがフェアであれば"That's make sense"(道理にかなっている)と納得してくれますから。核武装の問題に関しても、ちゃんと筋を通せばこちらの言い分をある程度は聞くはずですよ。なのに、進次郎みたいにポエムを言っていたら絶対に無理ですが(笑)。

内田 僕もそう思います。

藤井 場合によっては暗殺が起こることもあるでしょうし、実際にCIAはこれまで途上国で何度もそういうことをやってきましたが、G7の一角である日本でそう簡単にはできないはずです。だから、アメリカと対抗するために一番大事なのは、右だろうが左だろうが普通にロジックを展開してフェアに"make sense"できるような議論をすることだと思います。

内田 そうですね。アメリカといっても別に一枚岩ではありません。日米同盟に関してもさまざまな意見が併存している。日米安保条約を廃止した方がいいと言う人もいるし、在日米軍基地を撤収すべきだと言う人もいる。「日米同盟基軸」を言い立てている人たちはジャパン・ハンドラーの代理人ですから、彼らと異なるアメリカ国内世論を決して紹介しない。でも、トランプが大統領になったら、日米安保条約廃棄の「ブラフ」は仕掛けてくる可能性がありますよ。

藤井 トランプもホワイトハウスに入ったことで説得されて意見を変えたとは言われていますが、そう言い出す可能性は十分にありますよね。

アメリカの対日世論を変える外交努力をすべし

内田 アメリカの中にだって、今のように日本を収奪し過ぎると、日本そのものの国力が衰微して、結果的にアメリカの西太平洋秩序の維持が難しくなるから、日本を植民地扱いするのは止めて、国家主権を認めた方が長期的にはアメリカの国益にかなうという考え方をする人だって当然いるはずです。そういう人たちときちんとコミュニケーションをとって、アメリカの対日世論を変えていくというのが本来の外交だと思います。「アメリカ」とひとくくりにするのがよくない。

藤井 そうですね。田舎の人間が「東京って」と東京のことをひとくくりにして思っているのと一緒ですね。

内田 アメリカは今シリアスな国民的分断にさらされていて、「内戦の危機」だとまで言われています。だったら、その中で最も日本の国益を利する立場の人たちとコミュニケーションをとって、アメリカの対日国内世論を形成する。いわば「アメリカ・ハンドラー」をこそ育ててゆくべきだと思います。

藤井 もちろんそうですよね。「パブリック・ディプロマシー」によって相手の世論を変えることだってできますし、それが本来の政治主権ですよね。

内田 でも、そういうふうにして、アメリカの政治に日本がコミットしていくという発想は欠片もないですね。

藤井 僕は一時期アメリカの学会にかなり出ていましたし、ヨーロッパの心理学の研究会にも行っていて、英語は下手でも完全に対等に議論していたと思います。そうすることができれば認めてくれるわけですが、日本の先輩や後輩でそんな奴はほとんど見たことありません。"Tempura! Fujiyama!"とか言っているだけの田舎者なんですよ(笑)。アメリカ人やヨーロッパ人に引け目を感じているのだと思います。僕は三十歳ぐらいのときにスウェーデンに留学しましたが、当時は九〇年代だったから日本のほうが文化も上で、日本のIT機器や電気製品も勢いがあったから、ヨーロッパ人に対して「俺が教えたろうか」くらいの気持ちでいました。アメリカに行っても「アホばかりやんけ」という気持ちだったのですが、そう思っている人がほかにいなかったんですよね。
 たぶん、それと同じように誇りも何もない田舎者の外交がいろいろなところで展開されているのだと思います。進次郎なんて国連会議の記者会見で、日常英語を使えるのをみせてちょっとカッコつけたかったのか"gotta be......"みたいな大臣としては著しく相応しくない砕けた英語を使っていましたからね。

日米同盟以外のシナリオを想定しない政治学者や政治家たち

内田 だいぶ前ですけれど、日本のある高名な政治学者と対談したことがあって、「日本の安全保障戦略として日米同盟基軸以外にどういうシナリオがあるとお考えですか?」と聞いたことがあります。別に困らせるつもりじゃなくて、専門家の意見を知りたかったのです。でも、彼は絶句してしまった。日米同盟基軸以外にどんなシナリオがあり得るのか、考えたことがなかったらしい。でも、これはおかしいと思うんです。アメリカの政治学者に「西太平洋の安全保障戦略として、日米安保条約以外にどういうオプションがあり得えますか?」と訊いたら、いくつかのシナリオを答えてくれるはずです。ヨーロッパの学者に「NATO以外にどういうヨーロッパの安全保障の枠組みがあり得るか」訊いても、たぶんいくつかのシナリオを示してくれると思う。ところが、日本人は日米同盟基軸以外のシナリオについてそもそも考えない。でも、思考実験として、中国と同盟する、韓国と同盟する...などなどいろいろなシナリオについて、その現実性と効果について検討することはしてもいいと思うんです。

藤井 日本人は政治家も学者も延髄が切れているのでしょうね(笑)。ただ『俘虜記』の捕虜収容所のようなところに八十年間近くもいるとそうなる人が多数派になってくるのかもしれないですね。

内田 「対米従属を通じての対米自立」という国家戦略はその時点では十分な合理性があったと思います。それ以外に選択肢がなかったのだから仕方がない。でも、「対米自立」という目的を捨てて、「対米従属」が手段から目的になってしまったら、日本はこらから何のために存在するんですか。

藤井 「国が滅びる」という言葉にはいろいろな定義があると思いますが、もう滅んでいると言ってもいいかもしれませんね。

内田 滅びの道に向かってますね。

藤井 五十五年体制ができたときの最初の綱領に「外国駐留軍の撤退に備える」という条項があって、そのために憲法をどうするかとか、国内法をどう整備するかといった議論があったわけですが、二〇〇〇年ぐらいに綱領の見直しがあって、「日米同盟を基軸に」という文言が入ってしまいました。要するに、自民党は党として外国駐留軍の撤退に備える気がなくなってしまったわけです。

内田 在日米軍はもともと政府から派遣されていた単なる現地軍だったはずなのに、八十年も巨大固定基地で暮らしているうちに気が大きくなって、横田や沖縄を「アメリカの海外領土」だと思うようになってしまった。ホワイトハウスが返せと言っても、在日米軍は返す気がないんじゃないですか。

藤井 本来であれば、政治家がきちんと議論をしていけば時間はかかるかもしれないけれど必ず返ってくるはずですよね。

内田 フィリピンは憲法を改正して、国内に外国軍は駐留できないという条項を入れて、スービック基地とクラーク基地から米軍を撤退させました。韓国だって在韓米軍基地を三分の一まで削減しています。地位協定も世界のどの同盟国でも改訂されている。在日米軍の言いなりで、何もしていないのは日本だけです。

壊滅しつつある日本の農業

藤井 今回は「農を語る」というテーマですが、この議論は「農を語る」ための根幹ですよね。

内田 対米従属文脈の中で、日本の農業が破壊され、食糧が自給不能になり、アメリカから農作物を輸入する以外に国民が食えなくなるという依存体質を作り込もうとしている、そういう理解でいいと思いますけど。

藤井 前編で申し上げたように、農業を守るためには公的資金をきちんと入れることと関税を高めることが必要ですが、現実にはTPPだとか自由化だと言って関税を下げていき、農業への補助金に関しても財務省の緊縮財政によって削減されている状況があります。つまり、「公助」が駄目になって農家の所得が下がっているわけです。最後の頼みの綱である農協という「共助」にしても、小泉進次郎が出てきて株式会社化を進めようとしたり、農林中金を自由化したりして解体しようとしています。
 僕はTPPの反対論を展開していたので、「藤井はTPPに入って日本は滅びるとか言っていたが、滅びていないやんけ」とよく言われます。でも、二〇四〇年に日本の農家は三分の一になり、二〇五〇年には五分の一になると言われているんですよ。しかも、今の農家の最新の平均所得(農業の収入と農業を行うのに必要な支出の差額)は一万円にまでなっているんです。ですから、今の農家の方は平均すると貯金を食いつぶしてお米を作ってくださっているわけで、さらに農家の平均年齢は令和五年で六十八・七歳になっています。

内田 皆さん、いずれ鬼籍にお入りになる年齢になっていますよね。

藤井 しかも若い人が入ってきていないですから、これは日本の農業の壊滅を意味しますよ。そのシグナルが今年スーパーで米が消えたことなのだと思います。昔は古米が大量に余っていて、多少高くてもいくらでも買えたはずなのに、それすらできなくなっている。つまり、日本人が米を食えなくなりつつあるわけですよね。だから、すでにこの国は滅びの道に完全に入っているのではないかと思います。

内田 このままだと滅びますよね。滅びる方向にまっすぐ向かっていて、誰も止めていないわけですから。

藤井 しかも、小泉進次郎だとかそのバックにいる菅義偉だとか、自民党のど真ん中にいる政治家連中がそう仕向けているわけですから、ホントに救いようがないですね。

「表現者 クライテリオン」11月号

(2024-12-16 19:33)
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1933.html


農を語る 後編
2024-12-16 lundi
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1941.html

地方を見捨てるようになった日本人

内田 かつての自民党の支持基盤は農村部でしたけれども、農村部は衰退しているから政治的な発言力がどんどんなくなっています。そうすると、地方にいい顔をしなくてもいいということになりますよね。能登半島地震にしても、元の姿に復興する気がありませんし。

藤井 農業の議論とも全く同じだと思いますが、二〇一一年の東日本大震災のときにも棄民的な発言が結構ありました。「東北なんて田舎だから放っておけばええやん」と経産省の役人が言っていて、それが大問題になって懲戒処分になりましたよね。当時は復興しないといけないという気持ちがあったわけですが、それから十三年経った今は平然と「あそこは田舎だから復興しなくていい。カネも無尽蔵にあるわけではないのだから復興するところとしないところを分けよう」という議論がなされています。そこで、僕はそんなことを政治家が言っているのはおかしいという記事を書きました。十三年前にも同じようなことを書いて、当時は賛同されていたのですが、今回は炎上したんです。「アホか。そんなところ復興してどうすんねん!カネもないのだから能登なんて放っておけばええやないか!」と批判されて、びっくりしましたね。

内田 この十数年の間にそういう世論形成が着実に進行していて、「人口過疎地に住んでいる人間は健康で文化的な生活をする権利なんかない。だからそこに住んでいるのは自己責任だ」と言われるようになってきていますよね。

藤井 過疎地に住んでいると準反社会的人間のような扱いを受けるということですね(笑)。

内田 そうです。「お前らのために道路やトンネルを通したり橋を架けたりしても、その道の先には人口が数百人しかいないじゃないか。そのために何億円も使うのは税金の無駄遣いだ」というわけです。少なくとも二〇一一年には、そういうことを平然と言う人はそこまでいませんでしたが、今は完全にそうなっています。

藤井 僕は能登に今住んでいる人のことも見ていますが、百年前、二百年前、五百年前、千年前の能登の風土も見ているわけです。輪島なんて江戸時代には北前船のおかげで豪商が生まれて、ものすごく栄えた町でしたよね。そこで輪島塗も生まれて、今や世界中の人が使っています。つまり、能登半島という先代から引き継いだ日本の宝を現代の人間はお守りする義務があるというイメージがあるんです。だから高速道路を通さないといけないし、農業も振興しないといけない。食料自給率の面でもそうですし、棚田のような伝統や文化を残す意味でもそうです。それに価値がないと思う奴は馬鹿ですよ。

人口減少よりも東京一極集中が問題

内田 全国津々浦々に固有の文化があって、かつてエネルギーも食料も自給自足していた二七六の藩があって、その全部に固有の文化があって伝統芸能があったわけですが、当時の日本の人口は三千万人ですよ。今は一億二千五百万人もいて、これで人口が少ないというのは違うでしょう。東京に一極集中しているだけであって、地方に人口を戻すのが最優先です。

藤井 昭和の日本まではそういう感覚があったと思いますし、ヨーロッパの国々には明確に残っています。僕はスウェーデンに留学していましたが、あんな広いスカンジナビアの国土に一千万人しか住んでいないんですよ。僕は第二の都市である四十五万人ぐらいのイェテボリに住んでいましたが、いろんなところにちゃんと町や村が残っていて、高速道路も繋がっていました。アウトレットみたいな近代的なものもありますが、地方の田園の風景がずっと広がっていて、それが無駄という議論はなかったですよ。だって、子供が五人生まれて「コイツは小さいから無駄やな」なんて言う親はいないじゃないですか。本来都市を守るというのはそのぐらいの感覚のはずですから、僕は今の日本人は人間ではないと思います。

内田 おかしいと思いますよね。一億二千五百万人で人口が少ないと大騒ぎしていますが、僕らが子供の時代は九千万人でしたからね。明治四十年の日露戦争の頃は五千万人ですよ。
 二十一世紀の終わりに五千万人まで減ると言っているけれど、明治四十年だって全国津々浦々にきちんと生業があって、高等教育機関も医療拠点もあって、文化的な発信をしている人もたくさんいたわけだから、人口が少ないという言い訳は通らないと思います。問題は分布ですよ。そして、人口を首都圏に集めているのは完全にビジネスマインドですよね。つまり金儲けのためです。普通は金儲けより国家の存続を優先するだろうという話です。

藤井 そうですよ。だって、陵辱され侮辱され、馬鹿にされてもお金があるからよろしいですねなんていう人生はあり得ないですからね。人として生きる基本はお金よりも前にあるわけで、それが国土であり田園であり、伝統であり文化であるという主張をしないといけないはずですよね。

内田 「国破れて山河あり」という言葉もありますからね。このままだと次に破れたとき山河はなくなっていますよ。

藤井 そうなりますよね。本誌は政治的には「保守思想誌」という立場ですが、保守もリベラルも関係ないですよね。

内田 共産党の人も今日の議論はほとんど賛成しますよね。

藤井 不思議なもので、自分のことを「保守」だと思っている奴ほどこういう議論に賛成しません。どちらかというと「左翼」と言われる共産党とかの人の方が賛成するんですよね。だから僕は共産党の人とも山本太郎とも喋りますし、左翼も右翼も関係なく話をします。「右」「左」ではなく「真っ当」か「真っ当」でないかという当たり前の話だと思います。

内田 パトリオットかどうかということですよね。僕はナショナリストではないですがパトリオットではあると思っています。「イズム」ではなくて愛郷心や愛国心ですね。ただこの国の山河を守りたいと思っているだけです。日本は山紫水明でご飯も美味しいし、植物相も動物相も豊かな国なのに、それをわざわざ暮らしにくくしているわけです。何を考えているのだろうと思います。

過疎地から人を排除しようとする「ビジネスマインド」

藤井 こういう議論をしていると、農業を守るのは当たり前のことだと誰でも思いますよね。

内田 最優先の政治課題として農業を守らなければいけないわけです。でも、過疎地に人がいるとビジネス的には困るんですよね。行政コストがかかるしあまり使い道がないですから。そこで全部無住地にすることで、一気にビジネスチャンスを広げようとするわけです。ソーラーパネルを敷き詰めたり原発を作ったり風力発電をしたり、あるいは産業廃棄物を捨てたりとか。地域住民がいないので、生態系なんかいくら壊してもいいわけですよね。
 今の日本のビジネスマンは「過疎地は金がかかってしょうがないのだから人口をゼロにしろ。そうすればコストをかけなくて済む」と考えているのでしょうし、僕がもし邪悪な性格のビジネスマンだったら絶対にそう考えます。今だって国土の六二%が無住地ですから、これが七〇%や八〇%になっても誰も気がつかないと思うでしょうね。

藤井 TPPとか自由化とか緊縮をやって、二〇四〇年に農家が三分の一に減ったら無住地だらけになりますよね。

内田 そうです。彼らは明確に全国の無住地化を目指していると思います。生態系を管理するコストは莫大にかかりますよね。川や森や海を管理しなければならないわけですから。そこに人が住んで生き延びるためには絶対必要だから、生態系の維持に膨大なコストをかけるのだけれども、人が住んでいなかったら生態系の維持にコストをかける必要がなくなり、破壊し放題なわけです。発電ビジネスをやっている人たちはそれを絶対に狙っていると思います。それで日本に住めなくなったら、「ハワイにコンドミニアムがあるからそこに移る」となるのでしょうね。

藤井 それこそ、自分の娘がべっぴんだからどこかに売ろうか、みたいな話と変わらないですよね。なぜこういう下品な比喩を申し上げたかというと、国土は有機物だと思うからです。和辻哲郎の風土論もそういうものですが、国土を無住地化するということは無機物化するということであり、それはレイプと一緒ですよね。女性に尊厳があるからレイプが駄目なのに、その尊厳を壊すのがレイプという行為だとすると、ソーラーパネルを山河に敷き詰めているのは国土をレイプしているのと同じですよ。

内田 実際に見るとそう感じますよ。普通の感受性なら、お金が欲しくてこんなことをするはずはなくて、明らかに自然を陵辱していますし、悪意ですよ。

藤井 そう思いますね。でも、そこに田園や畑があれば決してそう思わないですよね。気候と人間とが共存するのが農という営みで、雨が降ってきて水田を作って収穫して、また虫が育っていく。生態系と人間の営みが循環の中で溶け合っていくことが大切ですよね。

内田 それによって新しい価値が生まれてくるんですよね。

藤井 そうですね。太陽光発電もレイプも一回の行為で終わりじゃないですか。そうではなく循環することが大事で、家族で愛し合うだとか、国土と愛し合うとか、そういうものが人間の人間らしさであって、国土を道具として使うというのは友達や女性を道具として使っているのと一緒だと思いますね。

「農」の破壊の背後にある「悪意」

内田 僕の友達に想田和弘という映画監督がいて、彼は岡山県牛窓というところに住んでいます。この前彼の家に遊びに行ったら小高い丘の上に連れて行ってくれて、目の前に瀬戸内海が広がっていました。その北側に錦海湾という湾があるのですが、湾が一面真っ黒になっていました。錦海湾は、かつては浅海で豊かな漁場だったのですが、一九七〇年代に製塩業をやろうと言った奴がいて埋め立てたんです。その後、製塩業が全くビジネスにならなくて廃棄されてしまいました。一度製塩に利用した土地は農業に使えなくなるので、産業廃棄物の処分場や工場を建てたのですが、最終的にソーラーパネルを敷き詰めることになり、湾が真っ黒になってしまったわけです。それを見たときに「何と愚かなことをしたんだ」と思いました。
 短期的な金儲けのために埋め立ててビジネスをやったら大失敗して、その後ソーラーパネルを敷き詰めて、これも何年か経ったら全部産廃にされてしまうわけです。短期的にしかものを考えない人間たちが自然を壊している光景を見て、僕は悪意を感じましたね。

藤井 レイプする人はそこで欲望を満たそうとしているのでしょうが、それと同じような悪意を感じますよね。

内田 人が大事にしているものを破壊することによって全能感を感じるのでしょうね。皆が綺麗だと思っている海に土足で踏み込んで、皆が悲しむのを見て「俺はこれだけの人たちに悲しみを与えられるのだ」と思うのでしょう。イーロン・マスクがTwitterを買収して世界のユーザーがショックを受けましたが、あれもおそらく金儲けのためではなく、世界の何億人ものユーザーが絶望に打ちひしがれている姿を見て、自分の全能感を感じているのでしょう。ああいう人間っているんですよ。

藤井 僕は『エクソシスト』とかの悪魔映画が好きで山ほど観ているのですが、ホラー映画は現実の人々の行動の中にある悪魔を純化して描いているわけです。キリスト教の悪魔や日本の悪霊として出てくるのはそういうものだと思うのですが、日本が悪魔化、悪霊化していくと農は滅び去る運命にあるということですね。

内田 今の日本で農を破壊しているのは、ある種のすごく邪悪な意思だと思います。本人はおそらく気がついていなくて、最新のビジネスモデルに適合しているとか、あるいはアメリカの国家戦略、世界戦略に適合していると思っているのかもしれないけれども、実際に駆動しているのは非常にドロドロした邪悪な意思だと思いますね。

藤井 本誌では文芸批評家の浜崎洋介さんを中心に「文学座談会」をずっとやっていたのですが、そこで「国土の荒廃」というテーマで石牟礼道子さんの『苦海浄土』と富岡多恵子さんの『波うつ土地』を取り上げたことがあります。どちらも国土が陵辱されるというお話を描いている本で、この感覚を我々は忘れているんですよね。「金が儲かったらええやないか」というものではないんです。こういう感覚をちゃんと持っておくことが人として、そして真っ当な国として存在していく必要条件であって、その必要条件が満たされているかどうかというリトマス紙が、その国が農をどれだけ大事にしているかということになのでしょうね。

内田 全くその通りですね。

藤井 今日は内田先生に初めてお目にかかりましたが、非常に面白かったです。内田先生はどちらかというと「左翼」と言われることが多いと思われますし、僕は保守なので「藤井と内田先生は違うんちゃうか?」と思っている人もいるかもしれませんが、ほぼ同じことを考えていると思います。真っ当な保守と「ビジネス保守」がいるように、左翼も真っ当な左翼と「ビジネス左翼」的な人がいるのかもしれませんね。

内田 ビジネス左翼はあまりいないと思いますが、非常に教条主義的でものの見方が固定化している人は多いですね。

藤井 朝日新聞とかはかなりビジネス化しているところもあるでしょうが、教条主義的な人と、そうではなくしっかりと議論できる人がそれぞれにいるということが改めて見えましたし、こういった思想的な問題の果てに農の問題があるということを確認できたと思います。
 内田先生は前からお話ししたいと思っておりまして、お時間がありましたら食事でもご一緒できればと思いますし、これを機にいろいろなところでお話ができればと思います。どうもありがとうございました。

内田 こちらこそありがとうございました。

(2024-12-16 19:41)
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1941.html



http://www.asyura2.com/18/reki3/msg/528.html#c16

[近代史4] 農業補助金が収入の5割 アメリカ農業は競争社会ではない 中川隆
7. 中川隆[-8179] koaQ7Jey 2024年12月17日 09:16:31 : A85XnA9QFo : QlB2Zk5uMHFTY3M=[7]
<■641行くらい→右の▽クリックで次のコメントにジャンプ可>
内田樹の研究室
農を語る(前編)2024-12-16 lundi
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1921.html

食料の自給自足は国の根幹である

藤井聡 今回は、神戸女学院大学名誉教授で武道家でもあられる内田樹先生にお越しいただきました。内田先生は文学や思想、社会科学などいろいろな側面から時勢的な問題について論じられていますが、以前この「農を語る」にもご登壇いただいた堤未果さんと食と農の問題について対談されていましたよね 。それを拝見したこともありまして、今回お越しいただいた次第です。どうぞよろしくお願いいたします。
 早速ですが、内田先生は現在の「農」についてどのようにお考えでしょうか。

内田 僕への講演依頼で一番多いのは教育関係ですが、次に多いのが医療と農業です。JAさんをはじめいろいろな団体から声がかかっていて、あちこちで講演しています。演題として多いのは人口減少についてですね。今農村は急激な人口減少で、もはや過疎地を通り越して無住地化しつつあります。農村の現場の細かいことは研究者じゃないのでよく知らないのですが、大風呂敷を広げるのは得意なので、人口減少の文明史的な意味とは一体どういうものなのかという話をした上で、農業従事者の皆さん方はどう対処すべきかについて意見を申し上げます。僕からの提言は絶対に里山や農業を捨ててはいけないということです。

藤井 愚問かもしれませんが、絶対に捨ててはいけないとご主張される理由はどういったところにあるのでしょうか。

内田 農業は国の基本だからです。エネルギーと食料の自給自足は国の根幹です。これはどちらも足りなくなったからといって、いつでも必要な量だけ、必要な時に市場で調達できるというものではありません。そのことはコロナでよく分かったはずです。サプライチェーンが途絶したら、お金がいくらあったって欲しいものが買えなくなる。アメリカはマスクや防護服のようなものは途上国に作らせて輸入した方が安いという理由でほとんどをアウトソーシングしていたせいで、輸入が途絶えたとたんに医療崩壊が起きて多数の死者が出ました。マスクや防護服や検査キットのような、シンプルで安価な医療資源は、賃金の高いアメリカ国内で作る必要なんかない、在庫も要らない。「要る時に金を出せばいい」という「賢い」経営判断のせいで、たくさんの人が死んだ。「こんなものはいつでも買える」と思っていたものが買えなくなることがある。それについての想像力の不足が一番怖いんです。今の日本だって、いつ南海トラフ巨大地震が来るのか分からない。米中戦争だって起こるかもしれない。何が起きても国民を守ることが国の責務なんですから、エネルギーと食料と医療の自給自足はどんなことがあっても最優先で目指すべき最重要課題だと思います。

藤井 アメリカなどの先進国、G7諸国は食料自給率一〇〇%、二〇〇%を目指して輸出産業としても育てているのが一般的で、そのためにかなりの国費を投入して自給率を上げていますが、日本はそういう雰囲気になっていませんよね。カロリーベースの自給率はたったの三八%しかありませんし。

内田 東京大学の鈴木宣弘先生によると、実際には十%を切るそうです。

日本の食料自給率が下がればアメリカの国益になる

藤井 自給率を高めるには二つの方法があり、一つは補助金をしっかりと出して農業所得を保障してあげることです。いわば「公共事業」として、農家の人たちを公務員のような格好でお雇いするという考え方です。もう一つ、「関税」を高めて農業を保護するという伝統的な方法もあります。
この二つの方法が基本ですが、前者の補助金はどんどん少なくなっていますし、後者の関税もTPPをはじめとする自由化を通じて下げるのが善であるかのような風潮があります。これは本当に由々しき事態ですよね。

内田 日本の国益を考えたら、あらゆる手立てを尽くして農業を守り、自給率を上げるのが最も合理的な解です。でも、そうなっていない。ということは、日本の農業が政府の補助で維持され、日本の食料自給率が上がることを望まない「外圧」が存在するということになる。誰が考えても、それはアメリカ以外にない。アメリカが政官財のさまざまなチャンネルを通じて、今の日本の農業政策をコントロールしている。そう考えるのが合理的だと思います。

藤井 いわゆる「ジャパンハンドラー」と呼ばれる人たちがアメリカにいますよね。CSIS(戦略国際問題研究所)などはジャパンハンドラーたちの巣窟であり、小泉進次郎さんもそこで研究されていましたからね。彼は自民党の農林部会の部会長をやっていた時期があり、農協の株式会社化や農林中金の自由化などを主張されています。しかもそれが「改革」と呼ばれ、何か良いものであるかのように言われていますよね。

内田 自民党の総裁選に出ている政治家たち、立憲民主党の代表選に出ている政治家たちの話を聴いていると、明らかに日本国民ではなく、ホワイトハウスに向けてシグナルを送っているということが分かります。例えば、「在日米軍の既得権には決して手を付けません」というような公約は国内的には支持率の向上にはつながるはずがない。それでも必ず公約するのは、それがアメリカ向けのジェスチャーだからです。「私が日本の首相になっても、アメリカの国益に抵触するようなことは決してしません。だから承認してください」とアピールしている。

藤井 多くの政治家は口には出さないでしょうけれども、アメリカを怒らせたら政治家として続かないという恐怖心があるのでしょうね。

内田 それは遠く田中角栄から、鳩山由紀夫、小沢一郎の前例から明らかですからね。

藤井 総理大臣としての政治生命を絶たれてしまうという、控えめな表現をすれば「都市伝説」があるわけです。事実であればもっと有効性がありますが、仮に都市伝説だったとしてもそれだけで一定の効果がありますよね。

内田 アメリカが実際に手を出して政治生命を奪うということはしていないと思いますが、日本の政治家と官僚とメディアがアメリカの意を「忖度」して、アメリカの国益に資するように動いている。

藤井 現在、自民党の総裁候補として小泉進次郎さんの名前が挙がっていますが、CIAやホワイトハウスが直接彼に電話して指示しているわけではないですからね。もしかしたら電話委しているのかもしれませんが(笑)。

内田 CIAかどこかのアメリカのシンクタンクから派遣された人が政策ブレーンとして政治家たちの周りにいて、アドバイスを求められたときに「こうすればアメリカは喜びますよね」と知恵を付けている可能性はありますね。あくまでそういう間接的なコントロールにとどまっていて、「ホットライン」でアメリカから指示が出ているということはないと思います。

インテリジェンス研究が軽視される日本

藤井 外国ではCIAやKGBなどを研究対象にした「インテリジェンス研究」というのがありますが、日本にはないんですよね。
 KGBの幹部がイギリスに亡命する際に持ち出したスパイ関連の機密文書が「ミトロヒンアーカイブス」という資料として残っているのですが、そこに「Japan」という章があります。でも、誰も訳していなかったので京都大学の僕の研究室で訳して、記事として公表しました。例えば○○新聞の誰がエージェントだとか、○○党のこの人はエージェントだとかいったことが全部書いてあります。エージェントにもいろいろなタイプがいて、事実上エージェントの人とか、単にソ連と仲が良いだけで勝手にソ連のために動いてくれる人とかもいるようです。おそらく、アメリカもそういう誘導の仕方をしているのでしょうね。

内田 そうでしょうね。エージェントも多種多様で、自分で気づかないうちにエージェントの役割を果たしてしまっている人も相当数いると思います。自民党と民社党には結党時点ですでにアメリカの情報機関の金が入り込んでいるし、岸信介も賀屋興宣もCIAのエージェントでした。共産党にはソ連のエージェントが入っていましたし、敗戦後から60年代にかけてはどの政党もそれぞれの「ボス」である外国と何らかのチャンネルを持っていたはずです。自分たちは日本のためだと思って、外国の工作員だという自覚はなかったんでしょうけれど。

藤井 日本テレビもそうやって作られたということもよく知られた事実ですよね。こういうことを言うと陰謀論者だと思われがちなのですが、外国では「インテリジェンス研究」が大学の研究機関に存在していますから、本来は政治学者がやるべき仕事です。ただ、日本の政治学会でそういうことをやると「やばい奴」扱いされてしまうので、なかなかできないですよね。

内田 本来なら歴史学者と政治学者の共同作業でやるべきことですよね。

公文書の隠ぺいが「陰謀論」を強める

内田 アメリカは公文書をどんどん公開しますよね。あの姿勢は素晴らしいと思います。僕は大学卒業後友だちと翻訳会社をやっていた時期があり、当時GHQの資料を大量に訳したことがあります。僕の遠い親戚に平野力三という政治家がいます。片山哲内閣で農林大臣をやっていた右派社会党の活動家でしたが、戦前軍国主義者だったという告発を受けて公職追放されました。それから数十年して、アメリカで公文書が公開されたのを機会に、自分にかかわるすべての公文書のコピーを取り寄せたんです。そしたら、誰が平野力三を「軍国主義者だ」とGHQに告げ口したのかが公文書に書いてあった。西尾末広と曽祢益という民社党の二人でした。彼らが政敵である平野を陥れるために、平野の戦前の経歴について明らかに虚偽の情報をGHQ提供して公職追放をそそのかしたのです。そのことが分かって、のちに平野はカーター大統領から名誉回復を勝ち取りました。

藤井 そうですね。アメリカは公文書に関してはフェアですよね。ちゃんと公開するというノーム(規範)があるのでしょうね。

内田 日本は公文書はすぐに廃棄しますからね。敗戦の時、市谷で陸軍参謀本部が公文書を全部燃やしてからの伝統ですね。東京五輪の財務資料なんかもう燃やしてしまっているんじゃないですか。

藤井 本当だったら捕まる人がたくさん出てくると言われていましたからね。

内田 大阪万博だって、終わった後に住民が監査請求をしても、「帳簿は全部廃棄しました」と言って逃げ出すと思いますよ。

藤井 噂レベルなので固有名詞は出しませんが、今回の総裁選で小泉進次郎さんを推しているある人は、自分の息のかかった人でないと捕まってしまうから実質的に子分である進次郎さんを推薦しているそうです。小泉純一郎さんは「五〇歳になるまでは総裁選に出たら駄目だ」と進次郎さんに言っていたのに、そのお父さんを説得して息子を総裁にさせようとしているとまことしやかに言われています。そういう不正がまかり通るんですよね。

内田 陰謀論が広がるのは、公文書や帳簿などのドキュメントが公開されないからなんです。全部隠すから、「本当は何が起きたのか」が分からなくなってしまう。

「反米世論」が弱まり、コントロールしやすくなった日本

藤井 TPPが典型ですが、アメリカが工作しているというよりも、アメリカが言っていることに日本が明確に従っているというのが実際のところなのでしょうね。
 政府機関が外国の国民世論を操作する「パブリック・ディプロマシー」と呼ばれる外交戦略があり、アメリカは日本の世論に対して散々そういうことをやってきました。内政干渉じゃないかという気もしますが、アメリカからすれば自国の国益の最大化を追求するのが当たり前ですから、彼らを責められないところもあります。そういう現実があるわけですから、それに対するカウンターを作らないといけないですし、我々もそういうことを正々堂々とやることが必要ですよね。
そう考えると日本の農業は本当に悲惨というか、アメリカに食われっぱなしの状況ですよね。

内田 アメリカの対日戦略の一環として「日本の農業を潰す」ことはアメリカにとっては合理的な解ですから、あって当然だと思います。

藤井 それは大航海時代や帝国主義の頃からそうですよね。当時に比べればやり口がソフィスティケート(洗練)されて合法的な見かけにはなってきていますが、基本的には他の国から奪えるものは奪おうとしているわけです。特に一九世紀後半や二〇世紀に入ってからは、需要を奪うのがメインになってきましたよね。最初は資源を奪っていましたが、途中から需要のある喜ばれそうなものを作って買わせるようになっていく。そうして買わせたうえで、さらにプランテーションで働かせたわけです。だから、労働も搾取するし需要も搾取するという二重の搾取を近代の帝国主義国家はやってきたわけです。
第二次世界大戦以降は、軍隊ではなく経済学者を宣教師のように使ってグローバリズムを広げ、マーケットを取るようになっていきます。その際にはその国の産業を潰すのが基本ですよね。自国で作れるものは買ってくれないからです。だから規制緩和で農家を潰して農産物を買わせたり、タクシー産業を潰してウーバーを参入させたりするわけです。アメリカは歴史的に考えれば当たり前のことをやっているわけで、それに対するカウンターを考えないといけないのに、小泉進次郎さんを筆頭に売国政策を嬉々として続けている状況があります。

内田 やっていることは植民地主義の時代と変わらないんですけれど、以前はそれでももう少しソフィスティケートされたやり方だったと思います。最近はそのやり方が露骨になってきた感じがします。たぶん日本側が全く抵抗しなくなったので、ハンドルするのに技巧や隠蔽が不要になったんでしょう。ジャパンハンドラーたちの手口が洗練されたものではなくなって、むしろ野卑で露骨になってきた気がする。

藤井 前はもう少し気をつけていたけれど、意外とアホだったということが分かってきたのでしょうね(笑)。

内田 これまではあまり露骨にハンドルすると、反米世論が高まってかえって日本がハンドルできなくなるかもしれないというリスクがあったので、多少は抑制的だったんですけど、そのリスクがなくなった。

藤井 八〇年代のオレンジと牛肉の自由化のときは大騒ぎでしたよね。

内田 六〇年安保以来、日本の反体制運動を駆動していた基本的な情念は「反米愛国」でしたからね。60年代末からの全国学園紛争も、もとはベトナム戦争に対する反対闘争でした。その頃は市民運動も労働運動も盛んでしたし、革新自治体が全国各地に広がっていました。だから、あの時代には日本国内の反米機運を鎮めることがアメリカにとっては急務だったのだけれど、うっかり露骨に日本の学生運動、労働運動を弾圧しようとするとむしろ日本の反米機運に火がついて、場合によってはソ連や中国の干渉を招く可能性もあった。ですから、対日工作はやるにしても丁寧にやろうという配慮はあったんだと思います。でも、二十一世紀に入ってからは「日本には反米世論を作るような力はもはやないから、何をやっても大丈夫だ」というふうに気が緩んできた感じがします。

藤井 そうですね。本誌の前身である『発言者』『表現者』は西部邁が始めたわけですが、彼はもともと東大で左翼の学生運動をやっていました。そしてその先輩には、森田実というあの砂川闘争を戦い抜いた男もいました。西部邁はその後左翼の運動をやめて経済学を勉強するのですが、二〇世紀の終わりごろから「保守」を名乗るようになります。なぜそうなったかというと、左翼にはいろいろな澱が溜まってきていたので、改めて日本国民のナショナリズムをベースに「反米」を展開しようとして左から右に旋回したわけです。つまり、独立のための「反米」が目的だったのです。

内田 まずは国家主権と国土の回復が基本だったということですよね。

藤井 生まれ落ちた以上奴隷ではないように生きていこうとするのは人として当然ですから、国家として隷属している状況があればそこから脱却するというのはすべてに優先する話です。そうでなかったら生きている意味は何にもないわけで、その意味でこの戦後空間は映画『マトリックス』のようにプログラミングされたまやかしだと言えるのでしょうね。
(『表現者クライテリオン』、10月号)

(2024-12-16 19:21)
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1921.html


農を語る 中編 2024-12-16 lundi
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1933.html

「対米自立」という気概の喪失

内田 「対米従属を通じての対米自立」というトリッキーな国家戦略が60年代までの自民党政治にはあったと思います。アメリカからの国家主権の回復、北方領土と南方領土(沖縄)の奪還がわが国の最優先目標であることについては、六〇年代ぐらいまでは左右問わずに国民的な合意がありました。けれども、ある時点から誰も「対米自立」を口にしなくなった。

藤井 それを言うと「アホか」という雰囲気になってきましたよね。特に現政府与党関係者達の中で対米自立を主張すると「藤井さんは青いな。中国や北朝鮮に対抗するためにはアメリカとうまくやらなきゃいけないじゃないか」と言われてしまいますから。中国や北朝鮮に対抗するためにはアメリカの「奴隷」であることが必要であり、「奴隷」と言うのが嫌だから「同盟」と言うんですよね。だから「日米安保」を「日米同盟」と言い始めるわけです。少女バイシュンを「援助交際」や「パパ活」と呼ぶのと同じですよ(笑)。日米同盟でも何でもないものを日米同盟とか言い出したことと、農業を守るという気概がなくなってきたことが完全に一致していますよね。

内田 文脈としては全く同じです。農業は国の基幹産業ですから、農業に手を突っ込んでくると激しい反米世論が巻き起こる可能性があった。だから手を触れなかった。けれども、日本の政治家から対米自立の気概がなくなったのを見てとってから対日戦略が一気に粗雑で、露骨になってきた。そういう感じがします。

藤井 誰か司令官がいて日本の隷属化を進めているというよりも、徐々に空気としてそう変わってきたということでしょうね。

内田 今の日本の総理大臣はもう「属領の代官」でしかありません。政権維持のためには、アメリカに朝貢して、ホワイトハウスから官位を「冊封」されるのが最も手堅いと信じている。

藤井 大岡昇平の『俘虜記』という小説がありますが、それと一緒ですね。この小説ではアメリカ人の若い将校がフィリピンの捕虜収容所を管理しているのですが、その収容所の捕虜達の中から一人日本人のリーダーを選ぶんです。勿論とくに明確な基準も無く適当に選ぶ。とはいえ、何の権限もなくて実際には若いアメリカ人が全部仕切っていて、ここで道徳の退廃がどんどん進んでいくという話です。大岡は最後にこれが日本なのだと書いています。つまりその収容所のリーダーが日本の総理大臣だということを、アメリカと戦った大岡は我々戦後日本人に伝えようとしたのだと思います。でも、そういう気概が本当になくなりましたね。

内田 戦後生まれの僕たちは実は主権国家の国民であった経験がないんです。親たちの世代までは大日本帝国の臣民だった。敗戦で帝国は滅びましたけれど、その国運を決定したのは自分たち自身です。他国に指示されたわけじゃない。でも、敗戦で国家主権を失った。そのことの喪失感の深さは戦後生まれの僕たちにはたぶん想像が及ばないと思うんです。彼らには「戻るべき原状」のイメージがあった。「国家主権の奪還・国土の回復」という言葉にリアリティーを感じることができた。でも、僕たちにとってその文字列はしだいに空語になりつつある。

藤井 サンフランシスコ講和条約で主権を取り戻したことにはなっていますが、「なんちゃって主権」でしかないですからね。沖縄のことも放置していますし。

内田 僕は子供の頃「日本国憲法は我々日本国民が作った」と教えられました。子どもですから、教えられるままそうなのかと思っていましたが、ある時期からそんなわけないということに気がつきました。これはほんとうに罪が深いと思うんです。日本人の自己認識の出発点は「われわれは主権国家の国民ではない」という欠落感でなければならないのに、まるで戦争には負けましたが、すぐに国家主権は回復しましたみたいな作話をした。

藤井 そうですそうです。僕もそうでした。ですが実際には国会の公式文書の中にも憲法がGHQによって押し付けられたという経緯が載っているくらい、明白な事実なわけです。なのにそれを子供の頃は知らなかった。でも、今の子供たちも押し付けられたということを知らないでしょうね。

内田 どういう歴史的経緯で日本国憲法が起草されたのかについての国民的合意がないんです。誰がどの条項をどういう意図で書き込んだのかについては諸説があって、どれも決定的ではない。憲法のある条項がどういう議論の末に決定され、なぜこの文言が採択されたかについては、条項そのものの当否とは別のレベルで「歴史的事実」として確定されていなければならないと思うんです。条項の適否についての議論はその先の話です。どうしてこんな条項が書かれたのかについて決定的なことを誰も知らないというところで憲法を議論できるはずがない。

日本の政治家はアメリカを怖がり過ぎている?

藤井 そうですね。昔の自民党、あるいは昔の社会党とかの政治家はそれなりにこういうことを議論していたと思います。しかし、今の政治家は派閥の論理の中で日和見して、どちらについたら得をするかということばかりに頭を使っていて、基本的な教養がなくなっていますよね。

内田 安倍晋三は原爆を落とされてからポツダム宣言が押し付けられたという程度の歴史認識でしたからね。こういう基礎的な事実を知らない人間が憲法について重要な決定を下すというというようなことはあってはならない。

藤井 今回の総裁選でも小泉進次郎氏が典型ですが、そういうことに関心がある人が少ないですよね。立憲民主党も先日代表選がありましたが、そういう議論をどこまで認識しているのか疑問です。

内田 認識していないと思いますね。立憲民主党も何とかして政権交代を実現したい。でも、政権与党であるためにはホワイトハウスから「属国の代官」として適格であるという許諾状を交付されないといけない。総理大臣としての適格性の最優先の根拠が「ホワイトハウスからの承認」であるというのはまことに悲しい話です。

藤井 実際には都市伝説的な部分もありますよね。要するに怖がり過ぎているということです。アメリカ人は、こちらがフェアであれば"That's make sense"(道理にかなっている)と納得してくれますから。核武装の問題に関しても、ちゃんと筋を通せばこちらの言い分をある程度は聞くはずですよ。なのに、進次郎みたいにポエムを言っていたら絶対に無理ですが(笑)。

内田 僕もそう思います。

藤井 場合によっては暗殺が起こることもあるでしょうし、実際にCIAはこれまで途上国で何度もそういうことをやってきましたが、G7の一角である日本でそう簡単にはできないはずです。だから、アメリカと対抗するために一番大事なのは、右だろうが左だろうが普通にロジックを展開してフェアに"make sense"できるような議論をすることだと思います。

内田 そうですね。アメリカといっても別に一枚岩ではありません。日米同盟に関してもさまざまな意見が併存している。日米安保条約を廃止した方がいいと言う人もいるし、在日米軍基地を撤収すべきだと言う人もいる。「日米同盟基軸」を言い立てている人たちはジャパン・ハンドラーの代理人ですから、彼らと異なるアメリカ国内世論を決して紹介しない。でも、トランプが大統領になったら、日米安保条約廃棄の「ブラフ」は仕掛けてくる可能性がありますよ。

藤井 トランプもホワイトハウスに入ったことで説得されて意見を変えたとは言われていますが、そう言い出す可能性は十分にありますよね。

アメリカの対日世論を変える外交努力をすべし

内田 アメリカの中にだって、今のように日本を収奪し過ぎると、日本そのものの国力が衰微して、結果的にアメリカの西太平洋秩序の維持が難しくなるから、日本を植民地扱いするのは止めて、国家主権を認めた方が長期的にはアメリカの国益にかなうという考え方をする人だって当然いるはずです。そういう人たちときちんとコミュニケーションをとって、アメリカの対日世論を変えていくというのが本来の外交だと思います。「アメリカ」とひとくくりにするのがよくない。

藤井 そうですね。田舎の人間が「東京って」と東京のことをひとくくりにして思っているのと一緒ですね。

内田 アメリカは今シリアスな国民的分断にさらされていて、「内戦の危機」だとまで言われています。だったら、その中で最も日本の国益を利する立場の人たちとコミュニケーションをとって、アメリカの対日国内世論を形成する。いわば「アメリカ・ハンドラー」をこそ育ててゆくべきだと思います。

藤井 もちろんそうですよね。「パブリック・ディプロマシー」によって相手の世論を変えることだってできますし、それが本来の政治主権ですよね。

内田 でも、そういうふうにして、アメリカの政治に日本がコミットしていくという発想は欠片もないですね。

藤井 僕は一時期アメリカの学会にかなり出ていましたし、ヨーロッパの心理学の研究会にも行っていて、英語は下手でも完全に対等に議論していたと思います。そうすることができれば認めてくれるわけですが、日本の先輩や後輩でそんな奴はほとんど見たことありません。"Tempura! Fujiyama!"とか言っているだけの田舎者なんですよ(笑)。アメリカ人やヨーロッパ人に引け目を感じているのだと思います。僕は三十歳ぐらいのときにスウェーデンに留学しましたが、当時は九〇年代だったから日本のほうが文化も上で、日本のIT機器や電気製品も勢いがあったから、ヨーロッパ人に対して「俺が教えたろうか」くらいの気持ちでいました。アメリカに行っても「アホばかりやんけ」という気持ちだったのですが、そう思っている人がほかにいなかったんですよね。
 たぶん、それと同じように誇りも何もない田舎者の外交がいろいろなところで展開されているのだと思います。進次郎なんて国連会議の記者会見で、日常英語を使えるのをみせてちょっとカッコつけたかったのか"gotta be......"みたいな大臣としては著しく相応しくない砕けた英語を使っていましたからね。

日米同盟以外のシナリオを想定しない政治学者や政治家たち

内田 だいぶ前ですけれど、日本のある高名な政治学者と対談したことがあって、「日本の安全保障戦略として日米同盟基軸以外にどういうシナリオがあるとお考えですか?」と聞いたことがあります。別に困らせるつもりじゃなくて、専門家の意見を知りたかったのです。でも、彼は絶句してしまった。日米同盟基軸以外にどんなシナリオがあり得るのか、考えたことがなかったらしい。でも、これはおかしいと思うんです。アメリカの政治学者に「西太平洋の安全保障戦略として、日米安保条約以外にどういうオプションがあり得えますか?」と訊いたら、いくつかのシナリオを答えてくれるはずです。ヨーロッパの学者に「NATO以外にどういうヨーロッパの安全保障の枠組みがあり得るか」訊いても、たぶんいくつかのシナリオを示してくれると思う。ところが、日本人は日米同盟基軸以外のシナリオについてそもそも考えない。でも、思考実験として、中国と同盟する、韓国と同盟する...などなどいろいろなシナリオについて、その現実性と効果について検討することはしてもいいと思うんです。

藤井 日本人は政治家も学者も延髄が切れているのでしょうね(笑)。ただ『俘虜記』の捕虜収容所のようなところに八十年間近くもいるとそうなる人が多数派になってくるのかもしれないですね。

内田 「対米従属を通じての対米自立」という国家戦略はその時点では十分な合理性があったと思います。それ以外に選択肢がなかったのだから仕方がない。でも、「対米自立」という目的を捨てて、「対米従属」が手段から目的になってしまったら、日本はこらから何のために存在するんですか。

藤井 「国が滅びる」という言葉にはいろいろな定義があると思いますが、もう滅んでいると言ってもいいかもしれませんね。

内田 滅びの道に向かってますね。

藤井 五十五年体制ができたときの最初の綱領に「外国駐留軍の撤退に備える」という条項があって、そのために憲法をどうするかとか、国内法をどう整備するかといった議論があったわけですが、二〇〇〇年ぐらいに綱領の見直しがあって、「日米同盟を基軸に」という文言が入ってしまいました。要するに、自民党は党として外国駐留軍の撤退に備える気がなくなってしまったわけです。

内田 在日米軍はもともと政府から派遣されていた単なる現地軍だったはずなのに、八十年も巨大固定基地で暮らしているうちに気が大きくなって、横田や沖縄を「アメリカの海外領土」だと思うようになってしまった。ホワイトハウスが返せと言っても、在日米軍は返す気がないんじゃないですか。

藤井 本来であれば、政治家がきちんと議論をしていけば時間はかかるかもしれないけれど必ず返ってくるはずですよね。

内田 フィリピンは憲法を改正して、国内に外国軍は駐留できないという条項を入れて、スービック基地とクラーク基地から米軍を撤退させました。韓国だって在韓米軍基地を三分の一まで削減しています。地位協定も世界のどの同盟国でも改訂されている。在日米軍の言いなりで、何もしていないのは日本だけです。

壊滅しつつある日本の農業

藤井 今回は「農を語る」というテーマですが、この議論は「農を語る」ための根幹ですよね。

内田 対米従属文脈の中で、日本の農業が破壊され、食糧が自給不能になり、アメリカから農作物を輸入する以外に国民が食えなくなるという依存体質を作り込もうとしている、そういう理解でいいと思いますけど。

藤井 前編で申し上げたように、農業を守るためには公的資金をきちんと入れることと関税を高めることが必要ですが、現実にはTPPだとか自由化だと言って関税を下げていき、農業への補助金に関しても財務省の緊縮財政によって削減されている状況があります。つまり、「公助」が駄目になって農家の所得が下がっているわけです。最後の頼みの綱である農協という「共助」にしても、小泉進次郎が出てきて株式会社化を進めようとしたり、農林中金を自由化したりして解体しようとしています。
 僕はTPPの反対論を展開していたので、「藤井はTPPに入って日本は滅びるとか言っていたが、滅びていないやんけ」とよく言われます。でも、二〇四〇年に日本の農家は三分の一になり、二〇五〇年には五分の一になると言われているんですよ。しかも、今の農家の最新の平均所得(農業の収入と農業を行うのに必要な支出の差額)は一万円にまでなっているんです。ですから、今の農家の方は平均すると貯金を食いつぶしてお米を作ってくださっているわけで、さらに農家の平均年齢は令和五年で六十八・七歳になっています。

内田 皆さん、いずれ鬼籍にお入りになる年齢になっていますよね。

藤井 しかも若い人が入ってきていないですから、これは日本の農業の壊滅を意味しますよ。そのシグナルが今年スーパーで米が消えたことなのだと思います。昔は古米が大量に余っていて、多少高くてもいくらでも買えたはずなのに、それすらできなくなっている。つまり、日本人が米を食えなくなりつつあるわけですよね。だから、すでにこの国は滅びの道に完全に入っているのではないかと思います。

内田 このままだと滅びますよね。滅びる方向にまっすぐ向かっていて、誰も止めていないわけですから。

藤井 しかも、小泉進次郎だとかそのバックにいる菅義偉だとか、自民党のど真ん中にいる政治家連中がそう仕向けているわけですから、ホントに救いようがないですね。

「表現者 クライテリオン」11月号

(2024-12-16 19:33)
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1933.html


農を語る 後編
2024-12-16 lundi
http://blog.tatsuru.com/2024/12/16_1941.html

地方を見捨てるようになった日本人

内田 かつての自民党の支持基盤は農村部でしたけれども、農村部は衰退しているから政治的な発言力がどんどんなくなっています。そうすると、地方にいい顔をしなくてもいいということになりますよね。能登半島地震にしても、元の姿に復興する気がありませんし。

藤井 農業の議論とも全く同じだと思いますが、二〇一一年の東日本大震災のときにも棄民的な発言が結構ありました。「東北なんて田舎だから放っておけばええやん」と経産省の役人が言っていて、それが大問題になって懲戒処分になりましたよね。当時は復興しないといけないという気持ちがあったわけですが、それから十三年経った今は平然と「あそこは田舎だから復興しなくていい。カネも無尽蔵にあるわけではないのだから復興するところとしないところを分けよう」という議論がなされています。そこで、僕はそんなことを政治家が言っているのはおかしいという記事を書きました。十三年前にも同じようなことを書いて、当時は賛同されていたのですが、今回は炎上したんです。「アホか。そんなところ復興してどうすんねん!カネもないのだから能登なんて放っておけばええやないか!」と批判されて、びっくりしましたね。

内田 この十数年の間にそういう世論形成が着実に進行していて、「人口過疎地に住んでいる人間は健康で文化的な生活をする権利なんかない。だからそこに住んでいるのは自己責任だ」と言われるようになってきていますよね。

藤井 過疎地に住んでいると準反社会的人間のような扱いを受けるということですね(笑)。

内田 そうです。「お前らのために道路やトンネルを通したり橋を架けたりしても、その道の先には人口が数百人しかいないじゃないか。そのために何億円も使うのは税金の無駄遣いだ」というわけです。少なくとも二〇一一年には、そういうことを平然と言う人はそこまでいませんでしたが、今は完全にそうなっています。

藤井 僕は能登に今住んでいる人のことも見ていますが、百年前、二百年前、五百年前、千年前の能登の風土も見ているわけです。輪島なんて江戸時代には北前船のおかげで豪商が生まれて、ものすごく栄えた町でしたよね。そこで輪島塗も生まれて、今や世界中の人が使っています。つまり、能登半島という先代から引き継いだ日本の宝を現代の人間はお守りする義務があるというイメージがあるんです。だから高速道路を通さないといけないし、農業も振興しないといけない。食料自給率の面でもそうですし、棚田のような伝統や文化を残す意味でもそうです。それに価値がないと思う奴は馬鹿ですよ。

人口減少よりも東京一極集中が問題

内田 全国津々浦々に固有の文化があって、かつてエネルギーも食料も自給自足していた二七六の藩があって、その全部に固有の文化があって伝統芸能があったわけですが、当時の日本の人口は三千万人ですよ。今は一億二千五百万人もいて、これで人口が少ないというのは違うでしょう。東京に一極集中しているだけであって、地方に人口を戻すのが最優先です。

藤井 昭和の日本まではそういう感覚があったと思いますし、ヨーロッパの国々には明確に残っています。僕はスウェーデンに留学していましたが、あんな広いスカンジナビアの国土に一千万人しか住んでいないんですよ。僕は第二の都市である四十五万人ぐらいのイェテボリに住んでいましたが、いろんなところにちゃんと町や村が残っていて、高速道路も繋がっていました。アウトレットみたいな近代的なものもありますが、地方の田園の風景がずっと広がっていて、それが無駄という議論はなかったですよ。だって、子供が五人生まれて「コイツは小さいから無駄やな」なんて言う親はいないじゃないですか。本来都市を守るというのはそのぐらいの感覚のはずですから、僕は今の日本人は人間ではないと思います。

内田 おかしいと思いますよね。一億二千五百万人で人口が少ないと大騒ぎしていますが、僕らが子供の時代は九千万人でしたからね。明治四十年の日露戦争の頃は五千万人ですよ。
 二十一世紀の終わりに五千万人まで減ると言っているけれど、明治四十年だって全国津々浦々にきちんと生業があって、高等教育機関も医療拠点もあって、文化的な発信をしている人もたくさんいたわけだから、人口が少ないという言い訳は通らないと思います。問題は分布ですよ。そして、人口を首都圏に集めているのは完全にビジネスマインドですよね。つまり金儲けのためです。普通は金儲けより国家の存続を優先するだろうという話です。

藤井 そうですよ。だって、陵辱され侮辱され、馬鹿にされてもお金があるからよろしいですねなんていう人生はあり得ないですからね。人として生きる基本はお金よりも前にあるわけで、それが国土であり田園であり、伝統であり文化であるという主張をしないといけないはずですよね。

内田 「国破れて山河あり」という言葉もありますからね。このままだと次に破れたとき山河はなくなっていますよ。

藤井 そうなりますよね。本誌は政治的には「保守思想誌」という立場ですが、保守もリベラルも関係ないですよね。

内田 共産党の人も今日の議論はほとんど賛成しますよね。

藤井 不思議なもので、自分のことを「保守」だと思っている奴ほどこういう議論に賛成しません。どちらかというと「左翼」と言われる共産党とかの人の方が賛成するんですよね。だから僕は共産党の人とも山本太郎とも喋りますし、左翼も右翼も関係なく話をします。「右」「左」ではなく「真っ当」か「真っ当」でないかという当たり前の話だと思います。

内田 パトリオットかどうかということですよね。僕はナショナリストではないですがパトリオットではあると思っています。「イズム」ではなくて愛郷心や愛国心ですね。ただこの国の山河を守りたいと思っているだけです。日本は山紫水明でご飯も美味しいし、植物相も動物相も豊かな国なのに、それをわざわざ暮らしにくくしているわけです。何を考えているのだろうと思います。

過疎地から人を排除しようとする「ビジネスマインド」

藤井 こういう議論をしていると、農業を守るのは当たり前のことだと誰でも思いますよね。

内田 最優先の政治課題として農業を守らなければいけないわけです。でも、過疎地に人がいるとビジネス的には困るんですよね。行政コストがかかるしあまり使い道がないですから。そこで全部無住地にすることで、一気にビジネスチャンスを広げようとするわけです。ソーラーパネルを敷き詰めたり原発を作ったり風力発電をしたり、あるいは産業廃棄物を捨てたりとか。地域住民がいないので、生態系なんかいくら壊してもいいわけですよね。
 今の日本のビジネスマンは「過疎地は金がかかってしょうがないのだから人口をゼロにしろ。そうすればコストをかけなくて済む」と考えているのでしょうし、僕がもし邪悪な性格のビジネスマンだったら絶対にそう考えます。今だって国土の六二%が無住地ですから、これが七〇%や八〇%になっても誰も気がつかないと思うでしょうね。

藤井 TPPとか自由化とか緊縮をやって、二〇四〇年に農家が三分の一に減ったら無住地だらけになりますよね。

内田 そうです。彼らは明確に全国の無住地化を目指していると思います。生態系を管理するコストは莫大にかかりますよね。川や森や海を管理しなければならないわけですから。そこに人が住んで生き延びるためには絶対必要だから、生態系の維持に膨大なコストをかけるのだけれども、人が住んでいなかったら生態系の維持にコストをかける必要がなくなり、破壊し放題なわけです。発電ビジネスをやっている人たちはそれを絶対に狙っていると思います。それで日本に住めなくなったら、「ハワイにコンドミニアムがあるからそこに移る」となるのでしょうね。

藤井 それこそ、自分の娘がべっぴんだからどこかに売ろうか、みたいな話と変わらないですよね。なぜこういう下品な比喩を申し上げたかというと、国土は有機物だと思うからです。和辻哲郎の風土論もそういうものですが、国土を無住地化するということは無機物化するということであり、それはレイプと一緒ですよね。女性に尊厳があるからレイプが駄目なのに、その尊厳を壊すのがレイプという行為だとすると、ソーラーパネルを山河に敷き詰めているのは国土をレイプしているのと同じですよ。

内田 実際に見るとそう感じますよ。普通の感受性なら、お金が欲しくてこんなことをするはずはなくて、明らかに自然を陵辱していますし、悪意ですよ。

藤井 そう思いますね。でも、そこに田園や畑があれば決してそう思わないですよね。気候と人間とが共存するのが農という営みで、雨が降ってきて水田を作って収穫して、また虫が育っていく。生態系と人間の営みが循環の中で溶け合っていくことが大切ですよね。

内田 それによって新しい価値が生まれてくるんですよね。

藤井 そうですね。太陽光発電もレイプも一回の行為で終わりじゃないですか。そうではなく循環することが大事で、家族で愛し合うだとか、国土と愛し合うとか、そういうものが人間の人間らしさであって、国土を道具として使うというのは友達や女性を道具として使っているのと一緒だと思いますね。

「農」の破壊の背後にある「悪意」

内田 僕の友達に想田和弘という映画監督がいて、彼は岡山県牛窓というところに住んでいます。この前彼の家に遊びに行ったら小高い丘の上に連れて行ってくれて、目の前に瀬戸内海が広がっていました。その北側に錦海湾という湾があるのですが、湾が一面真っ黒になっていました。錦海湾は、かつては浅海で豊かな漁場だったのですが、一九七〇年代に製塩業をやろうと言った奴がいて埋め立てたんです。その後、製塩業が全くビジネスにならなくて廃棄されてしまいました。一度製塩に利用した土地は農業に使えなくなるので、産業廃棄物の処分場や工場を建てたのですが、最終的にソーラーパネルを敷き詰めることになり、湾が真っ黒になってしまったわけです。それを見たときに「何と愚かなことをしたんだ」と思いました。
 短期的な金儲けのために埋め立ててビジネスをやったら大失敗して、その後ソーラーパネルを敷き詰めて、これも何年か経ったら全部産廃にされてしまうわけです。短期的にしかものを考えない人間たちが自然を壊している光景を見て、僕は悪意を感じましたね。

藤井 レイプする人はそこで欲望を満たそうとしているのでしょうが、それと同じような悪意を感じますよね。

内田 人が大事にしているものを破壊することによって全能感を感じるのでしょうね。皆が綺麗だと思っている海に土足で踏み込んで、皆が悲しむのを見て「俺はこれだけの人たちに悲しみを与えられるのだ」と思うのでしょう。イーロン・マスクがTwitterを買収して世界のユーザーがショックを受けましたが、あれもおそらく金儲けのためではなく、世界の何億人ものユーザーが絶望に打ちひしがれている姿を見て、自分の全能感を感じているのでしょう。ああいう人間っているんですよ。

藤井 僕は『エクソシスト』とかの悪魔映画が好きで山ほど観ているのですが、ホラー映画は現実の人々の行動の中にある悪魔を純化して描いているわけです。キリスト教の悪魔や日本の悪霊として出てくるのはそういうものだと思うのですが、日本が悪魔化、悪霊化していくと農は滅び去る運命にあるということですね。

内田 今の日本で農を破壊しているのは、ある種のすごく邪悪な意思だと思います。本人はおそらく気がついていなくて、最新のビジネスモデルに適合しているとか、あるいはアメリカの国家戦略、世界戦略に適合していると思っているのかもしれないけれども、実際に駆動しているのは非常にドロドロした邪悪な意思だと思いますね。

藤井 本誌では文芸批評家の浜崎洋介さんを中心に「文学座談会」をずっとやっていたのですが、そこで「国土の荒廃」というテーマで石牟礼道子さんの『苦海浄土』と富岡多恵子さんの『波うつ土地』を取り上げたことがあります。どちらも国土が陵辱されるというお話を描いている本で、この感覚を我々は忘れているんですよね。「金が儲かったらええやないか」というものではないんです。こういう感覚をちゃんと持っておくことが人として、そして真っ当な国として存在していく必要条件であって、その必要条件が満たされているかどうかというリトマス紙が、その国が農をどれだけ大事にしているかということになのでしょうね。

内田 全くその通りですね。

藤井 今日は内田先生に初めてお目にかかりましたが、非常に面白かったです。内田先生はどちらかというと「左翼」と言われることが多いと思われますし、僕は保守なので「藤井と内田先生は違うんちゃうか?」と思っている人もいるかもしれませんが、ほぼ同じことを考えていると思います。真っ当な保守と「ビジネス保守」がいるように、左翼も真っ当な左翼と「ビジネス左翼」的な人がいるのかもしれませんね。

内田 ビジネス左翼はあまりいないと思いますが、非常に教条主義的でものの見方が固定化している人は多いですね。

藤井 朝日新聞とかはかなりビジネス化しているところもあるでしょうが、教条主義的な人と、そうではなくしっかりと議論できる人がそれぞれにいるということが改めて見えましたし、こういった思想的な問題の果てに農の問題があるということを確認できたと思います。
 内田先生は前からお話ししたいと思っておりまして、お時間がありましたら食事でもご一緒できればと思いますし、これを機にいろいろなところでお話ができればと思います。どうもありがとうございました。

内田 こちらこそありがとうございました。

(2024-12-16 19:41)
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44. 中川隆[-8178] koaQ7Jey 2024年12月17日 17:32:29 : A85XnA9QFo : QlB2Zk5uMHFTY3M=[8]
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40. 中川隆[-8177] koaQ7Jey 2024年12月17日 17:32:48 : A85XnA9QFo : QlB2Zk5uMHFTY3M=[9]
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[近代史4] イスラム教 中川隆
9. 中川隆[-8176] koaQ7Jey 2024年12月17日 17:54:15 : A85XnA9QFo : QlB2Zk5uMHFTY3M=[10]
【日本と国際社会】イスラム教が日本で問題を起こす理由!「平和の宗教」とは言えません!
世界史解体新書 2024/12/16
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