59. 2020年7月29日 14:12:20 : 5TrTcJ4QKI : cVVWRnJWaGJNWDI=[1]
以下は、参考になる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/14/3/14_3_3_76/_pdf
76学術の動向 2009.3特集2
◆歴史認識問題と国際関係「従軍慰安婦」問題と歴史認識安丸良夫
社会化された「従軍慰安婦」問題「従軍慰安婦」と慰安所の存在については、戦地へ行ったことのある人たちにとっては周知のことであり、文学作品などでとりあげられたこともあった。性風俗としてはかなり知られていたのだが、長いあいだ、そのことが重要な社会問題とされたり歴史認識の主題とされることはなかった。この問題が大きな社会的関心をひき、歴史認識の問題としても大きくとりあげられるようになったのは、「従軍慰安婦」だった人たちがカムアウトして、日本政府の責任を追及し、補償を求めるようになったからである。問題の当事者性が前面に押し出されることで、この問題がはじめて社会化されたことに留意しておく必要がある。・・・
ところで、日本近代史研究者吉見義明は、金たちの記者会見をテレビで見ていて、自分は関係資料を見たことがあると思った。改めて資料を調べなおした吉見は、翌年一月一一日(引用者:1月11日か?)に記者会見して資料を公表し、そのことは朝日新聞で大きく報道された。それは宮澤首相の訪韓を目前にした時期のことで、あわてた政府は、吉見の記者会見の翌日に官房長官談話でこの問題への日本軍の関与を認め、謝罪談話を発表、訪韓した宮澤首相も首脳会談で謝罪した。九三年八月四日の河野洋平官房長官談話では、政府側の調査結果が公表されて、軍の関与の事実を認めて「心からお詫びと反省の気持ち」を表明し、それがその後の政府側の公式見解となった。こうした事態の進展を背景として、九三年より高校日本史教科書のすべてにこの問題が記述されるようになり、九七年からは中学社会科教科書のすべてにもこの問題が記述されることとなった。地道な聞き取り調査と吉見の実証的歴史研究が、いくつかの媒介をへて大きな社会的な役割を果したことが注目されよう。・・・
歴史認識の問題としては、この問題には歴史修正主義の認識方法の典型的な事例が示されている。批判的な歴史認識の全体像のなかから、実証の弱そうな論点をひとつだけ取り出して、そこに批判を集中し、そのことによって問題の全体を消去しようとする。この問題についての「強制連行」問題の取り扱いはそのようなものである。動物狩りのような「強制連行」は、少なくとも朝鮮半島では存在しなかったが、しかしそのことは甘言・偽言による誘拐、前借金による束縛など、はるかに手の込んだ「強制」を否定する根拠にはならない。そうした「強制」を可能にする複雑な社会関係が存在していたことにもっと留意する必要があるし、戦争には残虐なレイプなどが付きまとっているとはいえ、慰安所のような制度が恒常化されていたのは、第二次世界大戦期の日本とドイツという全体主義的国家の特徴らしいことにももっと注意する必要がある。性奴隷制といわれるようなこうした制度はいかにして可能となり、制度の持続性を支えた社会的根拠はどのようなものであり、またこうした制度の存在が長いあいだ人々の社会意識から消去されていたのはなぜか。こうした諸問題への認識を深めることで、私たち歴史研究者は、みずからの歴史認識を深めるとともに、現代日本社会における意識変革に貢献することができるはずだと考える。