18. 母系社会[1103] leqMbo7Qie8 2015年12月23日 17:56:57 : IdFHzGVDSI : th8jpK0GTmk[1]
●この「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が公表した写真が、本当にシリアのバース党政権に虐殺された反政府派活動家の写真かどうかはわからないが、「アラブの春」以前から、バース党政権が多数の反政府派活動家を虐殺してきたことは事実だと思われる。というのは、シリアには極少数だが第四インター系と思われる左派勢力があり、シリア・バース党政権の過酷な弾圧についての証言があるからだ。
しかし、だからといってバース党政権側だけが、一方的に「悪い」のではない。不幸にもシリアでは、「アラブの春」以前からバース党政権派と、バース党政権に反対する様々な反政府派との世界観=「パラダイム」レベルでの相違にも起因する政治的・経済的対立が、暗殺も含めた武力的対立として、密かに続いていたからである。
★とは言えシリア・バース党は政権を握っていたのであるから、バース党政権には、この武力的対立を対話による平和的対立へと転換する力量もあったし、義務も負っていたのである。だから、欧米や他のイスラム主義国が介入しているとは言え、今回の内戦については、どちらかと言えばバース党政権の方に、より多くの責任がある。
(この第四インター系の左派が、どのような左派であるかはわからないが、第四インターなどの大部分の左派はマルクス思想を誤解し、唯物論(科学理論)も宗教と同じ一つの信念体系=イデオロギーであることを理解せず、唯物論を絶対的真理と過信して宗教を「妄想体系」であるかのように見下し、時には過剰に弾圧してきた歴史を自己批判していない。それで、イスラム世界でも左派は宗教勢力から敵視され、無用な対立を生み出しているのだが、この反シリア政府側の左派勢力がシリアでは最も信頼できる勢力と思われる)
●1922年に崩壊した「オスマン帝国」は、トルコ系のイスラム教徒であるスルタン(カリフ兼任)が支配する超大国だったが、多数派のイスラム教徒が少数派の異教徒を迫害する暴動を起こすと、スルタンはイスラム教徒であるのに軍隊を派遣して、迫害したイスラム教徒を容赦なく鎮圧し、少数派の異教徒を守った。
ヨーロッパでは、魔女狩りや異端派の弾圧、新旧キリスト教徒の宗教戦争が行われていた頃、当時としては開明的な「イスラム法」により統治されていた「オスマン帝国」では、18世紀末ぐらいまでの約300年間、様々な宗派や民族は、おおむね平和裏に共存していた。(パレスチナでもシオニストが乱入するまでは、イスラム教徒とユダヤ教徒は仲良く共存していた)
この「オスマン帝国」の平和を破壊したのは、ヨーロッパから流入した「民族自決論」などの近代思想=近代の機械論的自然観・個人主義的人間観に基づく「妄想体系」である。
もちろん、それ以前から、それぞれの民族は独自の「神話」を持ち、それなりに固有の「民族意識」を保持していた。しかし、ヨーロッパから流入した近代思想で、<民族には政治的自決権がある>と民族の概念が変化し、「オスマン帝国」内で共存していた諸民族は、「オスマン帝国」から独立を目指すようになった。
●この民族意識の変化と、シリアがフランスやイギリスにより造られたウクライナのような「人工国家」=「モザイク国家」であること、近年の気候変化で北アフリカや西アジアの放牧・農業が崩壊し、北シリアで難民が発生したこと、更に重大な影響を与えたのは、2008年の米国発の「リーマン・ショック」による「世界金融危機」で起きた世界同時不況が、世界中の途上国経済を直撃し、その中でも最も経済が弱体化していた中東諸国で失業者を増大させ、食料品も値上がりし、生存の危機に陥った国民が蜂起して、シリアも含めた一連の「アラブの春」が起きた。
特にシリアは、米国による「テロ支援国家」指定で30年以上も経済封鎖により、経済がボロボロとなった。この何重もの経済危機を、腐敗・堕落したシリアのバース党政権はスンナ派富裕層と結託し、貧困層の国民を切り捨てる「市場経済化」=「新自由主義経済化」で克服しようとして、内戦となったのである。だからシリア内戦は、単純なスンナ派対シーア派等の宗教対立などではない。
●しかし、腐敗した独裁政権を武力で打倒する場合は、大多数の国民を蜂起させ、軍や治安警察を中立化したり、革命側に寝返りさせ、最小限の犠牲で完了させるべきである。しかし、今回は欧米やサウジなどが介入したため、反政府側の陣形が整う前に蜂起させられ、泥沼化した。
大部分の反政府側は「イスラム世界」の敵である欧米帝国主義諸国や、隣国トルコやサウジの支援を受けているため、イスラム教徒であることやアラブ民族であることよりも、シリア国民であることを重視するスンナ派やシーア派、その他の宗派の国民は、両者とも支持していないと思われる。
それで、欧米が「穏健派」と呼ぶ反政府勢力には、「モスレム同胞団」系国民以外の一般の世俗派シリア国民は参加せず、外国から動員された武闘派のイスラム主義者や傭兵部隊も多いと推測される。
★だから、現在の反政府側は、シリア国民の半数近くが難民となる大参事となっても、シリア政府と無条件で話し合い妥協して、内戦を終結させようとはしない。要するに、現在の反政府派は、シリア国民よりも自分たちの利益や目的を優先させているので、もはや革命勢力とは言えない。このように、大多数のシリア国民にとっては、反政府勢力もバース党政権勢力も同じと見なされていると思われる。
両者は即時・無条件で停戦すべきであるが、少なくとも欧米諸国やトルコ、ロシアなどイスラム世界の外部の者たちは介入を自己批判するべきである。イスラム世界の外部の者たちの介入は、相互に「外国の手先」という疑念=憎悪を増大させ、内戦が激化させるからである。
また、結果としてシリア全体が「イスラム国」となったとしても、「イスラム国」はシリア国民の、またイスラム世界住民の支持なくしては存立不可能なので、それはシリアやイスラム世界の選択であるから、外部のわれわれは受け入れ、尊重すべき選択である。
(「オスマン帝国」の場合も初期の戦争期には、戦国時代の日本と同じように残虐で野蛮な事態が起きたが、その後のイスラム教徒たちは、江戸時代の日本のように、現在の欧米社会以上に寛容で安定した社会を創り上げた)
WIKI「オスマン帝国」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%83%B3%E5%B8%9D%E5%9B%BD
WIKI「シリア」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%82%A2#.E7.B5.8C.E6.B8.88