40. 2016年3月10日 21:26:24 : jNMlQMuI1Q : mv@Lk5jad5Q[1]
福井地裁が昨年12月、高浜原発3、4号機の再稼働を認めた保全異議審の決定書は、200ページを超えていたが、今回の大津地裁は3分の1以下しかなく、大津地裁が提出された証拠を十分に検討したのかという疑問さえ抱かせる。大津地裁は1つ1つの争点に対して、「説明が足りない」の一言で片づけてしまっている。
昨年4月に再稼働を差し止めた福井地裁の仮処分決定では、「ゼロリスク」を求めるがゆえに、その見解に沿う事実を集めた印象だが、今回の大津地裁は判断の根拠となる事実を実質的に検討すらしていない。「大津地裁は手を抜いているな」と感じる。
日本人の「安全」に対する考え方が問われている。
「ゼロリスク」を求めていては何もできない。
「絶対安全」はあり得ない。
対策を尽くしてもなお残るリスクが「受け入れ可能かどうか」こそが大事なのだ。
ごく低い確率でしか起きない事態を心配するよりも、原子炉が壊れたとしても、「住民に被害が及ばない」という対策に重点を置くべきだ。
きちんと検討したリスクは、工学的な対策で減らしていける。
高浜原発3、4号機が動かせなければ月に100億円の利益を失うとみられている。2015年4月に出された福井地裁による差し止めの仮処分は8カ月後に取り消された。仮に8カ月の間、稼働できなければ逸失利益は800億円に膨れ上がる。「再稼働すれば2016年5月に電気料金を値下げする」との方針は見送らざるを得ないだろう。
民間企業が利益を損なえば、企業価値が下がり、株主利益にも影響が広がる。電力会社であれば、電気料金を押し上げ、電気利用者の負担が重くなってしまう。原発の再稼働の差し止めには、経済的なデメリットが存在することも留意されるべきだ。
原発の再稼働を巡っては、経済面と社会的な影響の両面を見るべきだ。再稼働の難易度が上がり、あまりにも経済性を無視した動きが盛んになれば、逆に国民の不利益になることを忘れてはならない。
高浜3、4号機差し止め仮処分 2016年3月10日
大津地裁が、関西電力高浜原子力発電所3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを関電に命じる仮処分を決定した。運転中の原発を止める初の司法判断となる。異例の決定が持つ意味や、今後予想される影響について、3人の専門家に聞いた。
結論ありきの決定 疑問
中央大法科大学院教授 升田純氏
京都大学法学部卒、弁護士。専門は民事法。1996年から東京高裁判事を務めた。2004年4月から現職。65歳。
大津地裁の仮処分決定は、内容も分量も説得力に乏しく、はじめから結論ありきだったのではないか、と言わざるを得ない。
1つは、立証責任の所在が関電側にあるとした上で、説明不足を指摘している点だ。決定では「行政庁側がまず相当な根拠や資料に基づき、主張、立証する必要がある」とした1992年の四国電力伊方原発訴訟の最高裁判決の論理を踏襲し、主張が尽くされない場合、関電の判断に不合理な点があることが推認できる、とした。
しかし、伊方訴訟が正式裁判だったのに対し、今回は仮処分だ。正式裁判で求められる「証明」よりも簡易な「疎明」で足りるはずで、提出できる証拠も限られている。
にもかかわらず、争点となった過酷事故対策については、裁判所として関電が行うべき安全対策の基準を示さないまま、「主張及び疎明が不十分な状態」だと断じている。これでは関電がどうしていいか分からないだろう。伊方判決の趣旨をはき違えているように思える。
2つ目は、検討内容の乏しさだ。福井地裁が昨年12月、高浜原発3、4号機の再稼働を認めた保全異議審の決定書は、200ページを超えていたが、今回は3分の1以下しかなく、提出された証拠を十分に検討したのかという疑問さえ抱かせる。1つ1つの争点に対して、「説明が足りない」の一言で片づけてしまっている。
昨年4月に再稼働を差し止めた福井地裁の仮処分決定では、「ゼロリスク」を求めるがゆえに、その見解に沿う事実を集めた印象だが、今回は判断の根拠となる事実を実質的に検討すらしていない。元裁判官としては、「手を抜いているな」と感じる。
3つ目として、仮処分の要件の1つである「保全の必要性」に関する言及も不十分だ。決定は、原発が既に再稼働したことのみを根拠としているが、原発が動いたことで、保全の要件となる「著しい損害または急迫の危険」があると言えるのだろうか。
原発の差し止めを求める判断は、高浜原発で3回目、九州電力川内原発でも1回行われている。同じような証拠で審理しているはずなのに、裁判所の判断がこうもコロコロ変わるのかと、国民にとっては驚きのはずだ。これによって、司法そのものに対する信頼が損なわれることを懸念する。
裁判官は原発の科学的な安全性については素人だ。専門家が詳細に検討した内容を尊重して判断するのがあるべき姿なのではないだろうか。
想定超えたリスク 語れ
工学博士・弁護士 近藤恵嗣氏
1982年に東京大学院を修了し工学博士。1984年に弁護士。福田・近藤法律事務所(東京)で知的財産を専門に活動。著書に「法工学入門」(共著)など。64歳。
福島第一原子力発電所の事故は、東京電力が想定していなかった規模の津波によって、原子炉を冷やせなくなり、大変な災害になってしまった。その最大の教訓は、「想定が甘かった」と片づけるのではなく、「想定を超える事態はありうる」という前提で対策を考え、たとえ事故が起きても周辺住民に被害が及ばないようにすることだ。
原子力規制委員会は、新規制基準で過酷事故対策を義務づけ、安全審査でもそれをチェックしていると思う。ところが、原発をめぐる裁判では、「想定が正しいか」「事故が起きないか」の論争になってしまう。今回も、使用済み燃料プールについては「水が漏れても大丈夫か」を論じているが、全体には「地震の想定が十分か」といったレベルにとどまっているようだ。
電力会社は、停電したらどのような手段で原子炉を冷やすのかなど、綿密に練った過酷事故対策を説明して、「もし想定を超えて、原発が壊れても、原告の皆さんに大きなリスクはありません」という主張を前面に出すべきではないか。過去の裁判では例がないと思うが、タブーにしてはいけない。
日本人の「安全」に対する考え方が問われていると言ってもよい。日本機械学会は、福島事故の教訓について検討し、私も委員となって3年前に報告書をまとめた。その中で、日本人は「『お上』の決めたことは安全である」と考えがちであることを指摘した。「絶対安全」はあり得ない。対策を尽くしてもなお残るリスクが「受け入れ可能かどうか」こそが大事だ。
その意味では、規制委の活断層評価にも違和感がある。ごく低い確率でしか動かない断層に白黒つけるよりも、「万が一、断層が動いて、原子炉が壊れたとしても、住民に被害が及ばない」という対策に重点を置くべきではないか。直下の断層が新しいと「どんな対策をとってもダメ」で、古ければ「対策は要らない」のはおかしい。
故障や事故を完全に防げないのは、どのような機械も同じだが、たとえば飛行機は「翼が折れても大丈夫」というまでの設計はしない。しかし、原発はどんな壊れ方をしても、なお放射性物質の飛散を防ぐなどの対策を考えねばならない。きちんと検討したリスクは、工学的な対策で減らしていける。
学会で報告書をまとめた時、「安全」の考え方を転換する機会にしたいと考えたが、福島の事故から5年たっても変わっていないのは残念だ。変わらない限り、今回のような判断が続くかもしれない。今こそ、電力会社も市民も、リスクに向き合うことを改めて考えるべきだ。
規制委審査 正当性揺るがず
慶応大特任教授 遠藤典子氏
専門はエネルギー政策。経済誌副編集長などを経て現職。京都大で博士号を取得。2014年度、著書「原子力損害賠償制度の研究」が大沸次郎論壇賞を受賞。47歳。
司法判断で運転が差し止められても、今後の原子力発電の再稼働には、さほど影響しないだろう。原発は、原子力規制委員会の新しい規制基準に適合していることが確認されれば、基本的に再稼働できることになっている。
今回の仮処分決定は規制委の審査のあり方にも触れているが、規制委は法律に基づいた行政委員会で、独自に権限を行使できることになっている。正当性は揺るがない。今後もそうした基準で、合理的に審査を進めていくべきだ。司法判断を受けて規制委のあり方を見直さなくてはならない、という問題ではない。
エネルギー政策への影響も考えにくい。今回の司法判断によって、電力会社が原発から撤退する動きに直接つながるとも考えづらい。あくまで関西電力への「局地的な」影響にとどまる。
原発停止を強いられる関西電力の経営には、大きな影響がありそうだ。高浜原発3、4号機が動かせなければ月に100億円の利益を失うとみられている。昨年4月に出された福井地裁による差し止めの仮処分は8カ月後に取り消された。仮に8カ月の間、稼働できなければ逸失利益は800億円に膨れ上がる。「再稼働すれば5月に電気料金を値下げする」との方針は見送らざるを得ないだろう。
民間企業が利益を損なえば、企業価値が下がり、株主利益にも影響が広がる。電力会社であれば、電気料金を押し上げ、電気利用者の負担が重くなってしまう。原発の再稼働の差し止めには、経済的なデメリットが存在することも留意されるべきだ。
仮処分は、原発が立地する福井県の隣県の住民が申し立てた。
東京電力福島第一原発の事故前には、原発の立地自治体の住民の合意が大切だった。だが、いったん過酷事故が起きると、その影響の大きさから同意を得るべき地域が拡大した。そして、国民全体の問題に変わった。
今回の司法判断が、原発そのものに対する社会の大きな逆風になり得るかどうか、今後どうなるかはまだ見通せない。ただ、国も電力会社も、社会が原発を受け入れるかどうかのハードルが上がっていることを、改めて認識する必要がありそうだ。
とはいえ、原発の再稼働を巡っては、経済面と社会的な影響の両面を見るべきだ。再稼働の難易度が上がり、あまりにも経済性を無視した動きが盛んになれば、逆に国民の不利益になることを忘れてはならない。
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