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高市氏の「電波停止」発言に対する抗議会見(全文1)会見の趣旨ほか
2016.02.29 19:39 THE PAGE
政治的公平性を欠く放送を繰り返した放送局に「電波停止」を命じる可能性に言及した高市早苗総務相の発言に抗議して、田原総一朗氏らテレビ放送関係者が29日午後2時半から都内で記者会見を行った。
参加者は田原氏のほかに、鳥越俊太郎氏、岸井成格氏、大谷昭宏氏、金平茂紀氏、青木理氏ら。
田原総一郎氏らは「私たちは怒っている」という声明を発表。「放送局の電波は、国民のものであって、所管する省庁のものではない」とし、大臣による判断で電波停止ができるというのは、放送による表現の自由や健全な民主主義の発達をうたった放送法の精神に著しく反するものだと抗議した。
会見の趣旨(アピール文)
金平:最初に会見の趣旨ということで私たちが用意したアピール文を、ごめんなさい、参加者たちも紹介しようと思いましたが省略します。最初に鳥越さんのほうからこのアピール分を読み上げていただきたいと思います。
鳥越:一応、半になったら始めます。はい、2時半になりましたので、ここから始めさせていただきます。私たちは怒(いか)っている。高市総務大臣の電波停止発言は憲法、放送法の精神に反している。今年の2月8日と9日、高市早苗総務大臣が国会の衆議院予算委員会において、放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性について言及した。誰が判断するのかについては同月23日の答弁で、総務大臣が最終的に判断するということになると存じますと明言している。私たちはこの一連の発言に驚き、そして怒(いか)っている。
そもそも公共放送に預かる放送局の電波は国民のものであって、所管する省庁ものではない。所管大臣の判断で電波停止などという行政処分が可能であるなどという認識は、放送による表現の自由を確保すること、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすることをうたった、放送法の第1条の精神にも著しく反するものである。さらには放送法にうたわれている放送による表現の自由は、憲法21条「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」の条文によって支えられているものだ。
高市大臣は処分のよりどころとする放送法第4条の規定は、多くのメディア法学者の間では放送事業者が自らを律する倫理規定とするのが通説である。また放送法成立当時の経緯を少しでも研究すると、この法律が戦争時の苦い経験を踏まえた放送番組への政府の干渉の排除、放送の自由、独立の確保が強く企図されていることがうかがわれる。私たちはテレビというメディアを通じて日々のニュースや情報を市民に伝達し、その背景や意味について解説し、自由な議論を展開することによって国民の知る権利に資することを目指してきた。テレビ放送が開始されてから62年になる。
男性:64年ですよ。
鳥越:64年ですか。64年になる。これまでも政治権力とメディアの間ではさまざまな葛藤や介入、干渉があったことを肌身をもって経験してきた。現在のテレビ報道を取り巻く環境が著しく息苦しさを増していないか。私たち自身もそれがなぜなのかを自らに問い続けている。外からの放送への介入、監修によってもたらされた息苦しさならはね返すこともできよう。だが自主規制、そんたく、萎縮が放送現場の内部から広がることになっては危機は一層深刻である。私たちが今日ここに集い、意思表示する理由の強い一端もそこにある。以上、呼びかけ人、青木理、大谷昭宏、金平茂紀、岸井成格、田勢康宏、田原総一朗氏、鳥越俊太郎、以上です。
金平:鳥越さんありがとうございました。それでは今日、ここに参加している呼びかけ人が順番にだいたい3分ぐらいですよね。ということで青木さんのほうから順番にお願いいたします。
メディアとジャーナリズムの原則が根腐れしかねないという危機感を抱いている(青木氏)
青木:青木理と申します。この中では僕が一番若いようなんですけれども、詳しいことは先輩方がおそらく発言なられると思うので、僕がここに来た思いだけを最初に本当に簡単に申し上げます。
こういう会見をするっていうときによく出てくるのが、いろんな方々、俺は群れるのが好きじゃないからというようなことをおっしゃる方もいらっしゃって、僕自身も実は組織をスピンアウトするぐらいなので、もともとあんまり群れたりとか、こういう形でいろんな人と声を上げるっていうのはもともと好きではないんですけれども、しかしこの仕事に関わっているものが、原理とか原則とか、メディアとかジャーナリズムの矜持に関わるような事件が起きたときっていうのはやっぱり、組織とか個人とかの枠を超えて連帯して声を上げなくちゃいけないときっていうのは絶対あるんだろうなというふうに僕は思っているわけです。
そういう意味で今回の放送法発言、それから同時に岸井さんに対しての意見広告とか政権側、あるいは政権の応援団の方々がメディアとジャーナリズム、あるいはテレビ報道の原則っていうのを非常に不当な形で攻撃してきているという事実を、僕は本当に真剣に受け止めて、これは黙っていられないという思いでここに来ました。このままどんどん押し込まれてしまうと、本当にメディアとジャーナリズムの原則が根腐れしかねないなという危機感を僕自身、抱いております。それが僕の、ここに来ている思いであります。
被災地のNHKに対する不信感はものすごい(大谷氏)
大谷:大谷昭宏です。今回こういうアピールに至った、それから一連の各メディアに対する陰に陽にの圧力、あるいは今、お話があった岸井さんに対する嫌がらせとも言うべきさまざまな攻撃。こういったことについてはほかのキャスターの皆さま方からも発言があると思いますんで、そこら辺はちょっとはしょらせていただいて、一言で申し上げるとわれわれがここで突っ張っとかないと、視聴者の皆さんにすでに多大な影響が出てるんじゃないかなという率直な思いで、非常にやむにやまれない気持ちでおるわけです。
今、私実は、東日本大震災の被災地の女川から今朝、大急ぎで帰ってきたところでして、週末ごとに今、被災地に入っています。被災地に入って、こういう問題がいろんなところで影響を与えてるんだなっていうのを如実に感じるのは、われわれが取材に行って、例えば原発の取材に行く、あるいは非常に復興が進んでいるという報道をしにいくと。本当に復興が進んでるところもあるんで、その点が1つ女川にもあるわけです。しかしそれを放送したいと言って、申し上げると復興がなってないのにあなた方はそういう報道をさせられているんだろうと。福島の除染が進んでるだろうという、報道をさせられに来ているんだろうという意識が、被災者の皆さん、非常に強まってるんです。これは阪神・淡路大震災のときに全くなかったことです。そこまでつまりわれわれはもう、手先になってるんだろうと思われるような事態が来てしまっている。
もし、言うと非常に傷つけることになるかもしれませんけど、大変悪い言い方をすればNHKさんに対するその不信感ってすごいんです。変な話で、あってはならないことですけど、私は民放の取材に行くと、「だったらまだいいか」というような答えさえ返ってきていると。これはわれわれメディアではなくて、被災者、ひいては今、国民の不幸になりつつあるというような思いでこの場に来ております。皆さま方も同じメディアの中にいらっしゃるわけですから、どうかその危機感を共有していただきたいと思っております。
日本の世界の報道自由度ランキングは180国のうち61位(金平氏)
金平:金平と申します。今、日本のメディアが海外からどう見られてるかっていうと、2015年の世界の報道の自由度ランキングっていう、これはパリにある国境なき記者団っていうところが毎年発表しているものですけども、日本は今、61位です。61位です。180国のうち61位というそういう今、ポジションにいます。僕はとてもこれは恥ずべき自体だというふうに思います。戦後の今、日本のテレビ報道の歴史っていうのを自分なりに勉強しなおしてるんですけれども、やっぱり今、感じるのは、今という時期が特別に息苦しい時期だろうなというふうに思います。
その息苦しさっていうのが、さっきのアピール文にありましたように外からの攻撃で息苦しくなっているっていうんであればいいんですが、どうもその息苦しさの原因っていうのが内側、メディアの内側とかあるいはジャーナリストの内側のほうに生まれてきているんじゃないかという思いがあって、やむにやまれず今日、こういう会見をしようということで、呼び掛けをしたところ、こういう顔ぶれになりました。自主規制とかそんたくとか、あるいは過剰な同調圧力みたいなものが、それによって生じる萎縮みたいなものが、今ぐらい蔓延してることはないんじゃないかというふうに私は自分の記者経験の中から思います。
こういうアピール自体がもう、遅きに失したんじゃないかという声ももちろんあると思いますが、こういうアピール自体がどれだけの訴求力があるかどうかは分かりませんけれども、非常にそういうもの自体が見えにくくなっていて。ただ1つだけ言えることは、何も発言せずに息を潜めて、やがていい時期が来るよっていうような態度とは、私たちは一線を画したいというふうに思っています。
考えてみますとテレビのキャスターとか、コメンテーターっていう人たちがこうやって一堂に局を越えて何かするというのは、2001年の4月に個人情報保護法に異議をするキャスター声明っていうのがあってだいたい同じ顔ぶれだったんですよね。そのときは実はテレビの各チャンネルのキャスターたちがみんな勢ぞろいしました。筑紫さんがまだ存命だったですね、安藤優子さんとか、日テレからもテレビ東京からもフジテレビからも来ました。それが今、できなくなっています。
それから2013年の11月20日に特定秘密保護法に対して反対した顔ぶれが全く同じようにありましたですけど、ほぼ同じ顔ぶれですよね、これね、そのときとね。ということはつまり、広がってないんですね。僕らの呼び掛けみたいなものが横に広がっていない、縦に広がっていないということを認めざるを得ません。皆さんは取材という形でここにお集まりいただいているんですけども、今日のアピール文の呼び掛けの対象のかなりの部分っていうのは、もしかすると僕は取材されている皆さんじゃないかというふうに思っている次第です。
政治的公平性は権力側が判断することではない(岸井氏)
岸井:はい、岸井です。よろしくお願いいたします。アピール文にはほとんど過不足なく盛られてると私は思いますので、多くを語ることはありませんけれども、今、金平さんが言われた自由度について、61まで、OECDの先進国の中ではもう断トツに低い地位が落ちてるんですね。それはもう最近の『エコノミスト』も、それからいろんなね、『ガーディアン』でもそうでしたけど、とにかく今の日本の報道に関する懸念というのはものすごく海外で、むしろ強くなってるんですね。
だから特定秘密保護法もそうですけど、最近そういう評価をどんどん落としてるのがやっぱり、どうも日本のメディアは自粛が過ぎるんじゃないかと。何を、何に遠慮してそんなことやってんの、っていう意識が非常に海外メディアに不信感が広がってるっていうことを感じます。いろんな形で取材も受けますけども、そこはもう本当に考えなきゃいけないなと思いますね。
それから私も高市発言を聞いたときはもう、まず第一の印象は驚くだけじゃなくて、ちょっとあきれ果てましたね。憲法の精神、あるいは放送法の精神とか目的っていうものを知らないで、もしああいう発言をしてるとすればもう大臣失格、資格ありません。それが第一ですね。
もし仮に知ってて、曲解をしてる、いうことであれば意図的にある一歩を進めて、言論統制に進みたいという意図があると思われても仕方がありません。それについてきちっとしなきゃいけないっていうことですよね、だから先ほどから海外から非常に日本のメディアが不信感を持たれるようなことになってる中で、ああいう発言が出てるっていうことはものすごく重要なことだと思うんですよね。これを黙って見過ごすわけにはいかないわけですね。だから高市発言があった日も、私も番組で取り上げて、とにかくあり得ないことだし、絶対にあってはならないことだということを申し上げました。
それからあえて、これは皆さん報道に携わる方たちですから、お釈迦様に説法になりますけど、私自身、新聞社の論説委員長をやり主筆もやりました。だからそういう意味では報道、そして政治の公平性と、それから使命、メディアの使命、ジャーナリズムの役割っていうものについて、ずっとそれなりに考えてきたつもりであります。
それ、政治的公平性っていうのは、権力側が判断することではないんです。これはわれわれメディアが一番気を付けなきゃいけないことです。こういう言い方すると、よく政治家との大討論になることがありますけども、われわれは先輩から常に、政治、政治家、官僚、これは必ず大事なことはしゃべらないか隠す。場合によってはうそをつく。このことが前提で取材しない限り、本当の報道っていうのはできないんだということですよね。それはもうずっと感じてきました。それは暴くっていうだけじゃなくて、本当のことを知らせることが、国民の知る権利にきちっとメディアが応えるということですからね。
だからそれを常に公平性という中で考える。逆に言うと、政府権力側の言うことだけを流してれば、それは本当に公平性を欠く、国民の知る権利を阻害するということになる、ということだと思うんですね。そのことをきちっともう1回、胸に刻んでやらなきゃいけない。そのぐらい今は危機的状況に入ってきたなと。言いたいこといろいろありますけどね、取りあえずはまず感じたことを申し上げたということです。
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