54. 2016年1月29日 16:22:57 : MIQJguNp9I : Ysm_sJSq1CA[1]
安倍総理だろうが、いつでも嵌められる「悪意」の献金は避けられない
http://ironna.jp/article/2755?p=1
潮匡人(評論家、元3等陸佐)
甘利明・経済再生担当相が28日の会見で認めた通り、政治家というのは「脇が甘く」なればこうなるということです。甘利さんにすれば嵌められたという見方になるのかもしれないが、はっきり言って騙された方も悪い。それは戦争も軍隊も政治も同じ。そんな言い訳がまかり通るなら、これまでだって誰も大臣を辞める必要なんてなかった。もし、秘書のせいにしていたら一昨年、約3億円の虚偽記載で元秘書2人が有罪となって辞任した小渕優子さんとの違いは何だ、ということになる。甘利さんにはもはや、辞任以外の結論はなかった。
でも、「悪意」のある人が政治家を貶める目的で献金し、それをネタにしてマスコミに売り込んだスキャンダルが発覚すれば、必ず大臣を辞めなければいけないということになると、政治家はすべての献金者の素性を調べてからでないと、政治資金を受け取れないということになる。当たり前の話だが、すべての献金者の身元を調べるなんてことは、国会議員の事務所や政治家秘書の能力をはるかに超えていることで、事実上不可能です。ということは安倍総理であれ、嵌めようと思えばいつでも嵌められるっていうことです。
記者会見で閣僚辞任の意向を表明し、涙ぐむ甘利経済再生相=28日夕方、内閣府
甘利さんは政治資金報告書に後日記載したとはいえ、大臣室と事務室でそれぞれ50万円ずつ直接もらっている。秘書が500万円もらって200万円しか申告せず、残りの300万円は全部遊興費に使ったということですから、普通なら収賄罪が成立します。少なくとも、500万円のケースについては政治資金規正法が守られていなかったわけですから、たとえ秘書が単独でやったにせよ、議員の責任が問われるのは当然のことです。こうなると、甘利さんが辞任しない限り、国会の審議も始まりませんし、参院選の日程も組めなくなる。6月1日までに通常国会が終わらなければ、国政運営は大変なことになる。結論は初めから甘利さんを本気で続投させるのか、やめていただくかの二つに一つしかなかった。
ただ、 『週刊文春』の記事を読んだ人は誰もがおかしいと感じたと思いますが、なぜ甘利さんの会話が録音され、隠しカメラで撮られていたのか。政治家が何か悪いことをしたのがバレて、正義の『週刊文春』がスクープしたという構図とは全然違うことは誰でも分かる。どうしても、金を渡し文春にネタを売った告発した人物の側にきな臭さを感じる。『週刊文春』にしてみれば、大臣の首一つ取ったわけですから、週刊誌ジャーナリズムとしては「金星」です。ただ、問題なのはそれで今後こういうことが起きないのか? いや、きっとまた起きるでしょうという。与野党を問わず小選挙区の厳しい選挙を勝ち上がらなければならない国会議員にとって、同様な手法で「悪意」のある人がアクセスしてきたら、我が身を守るのは非常に難しいだろうということが、今回すべての政治家が学ぶべき教訓とも言えます。
実を言うと、私も2010年12月から2011年6月まで、宇都隆史参院議員の政策秘書を務めた経験がありますが、国会議員の周りに群がってくるのはすごく「変な人」が多いんです。まともな人や常識のある人は頻繁に事務所に来たりしません。議員会館の中を意味もなくうろうろする「政治ゴロ」と呼ばれる人たちがいる。おいしい話があれば、ガンガン食い込んでいって飯を食っているような連中がいっぱいいて、大体が筋の悪い人たちです。そういう人であっても、小選挙区を抱える国会議員は地元の選挙民だったら「胡散臭いやつだなあ…」と思いながらも、とりあえず大臣室に入れざるを得ないのが実情なんです。
甘利さんの金銭授受疑惑について限って言えば、甘利さんは当初の対応がちょっとまずかったと思います。「記憶を整理したい」とは、政治家が絶対に言ってはいけない「禁句」だった。甘利さんを擁護するつもりはないけれど、例えば『週刊文春』の記事になぜ甘利氏の写真、録音があったのかということを読者もいま一度冷静に考えるべきだと思います。
今回のような記事内容の『週刊文春』が完売するというのが、われわれが今生きているこの国の世論なんです。それが日本の主権者の意識であり、レベルなんです。政治家は献金に対してもっと慎重であるべきだし、読者ももっと賢くなるべきです。「辞任した甘利大臣は最後は潔かった」などと適当なことを言うのではなく、甘利さんはどこがまずかったのか、刑法の第何条に違反しているのか。もし仮に法律上の問題がないのであれば、なぜ甘利さんは大臣を辞任しなければならなかったのか。それをきちんと説明できない人は、意見を求められても言うべきではない。
いま純粋な「善意」で政治家を応援し、献金をするような日本国民がどれだけいるでしょうか? 正直いないのではないでしょうか。政治家に献金する人たちは何か「下心」があるというのが実際のところではないでしょうか。アメリカだったら、オバマさんを絶対大統領にしたいと思って手弁当で選挙応援をするとか、巨額な献金をするとか、見返りを求めない純粋な支援者がゴマンといるわけです。創価学会や民青は別にして、普通の政治家に投票している普通の国民はただ投票しているだけです。私に言わせれば、あんまり政治を批判する資格がないんじゃないかということです。
今回の一件に関して言えば、問題を起こした甘利さんの公設秘書がまずかったということになるんでしょうが、別の事務所から移籍してきた人物だと聞いています。そもそも秘書という職業には「人格」がない。永田町では名前を呼ばず、「秘書さん」という呼び方をします。政治家本人の代理人であり代行者であり、自衛隊で言うと当直幕僚みたいなものだから、秘書がお金をもらうのは政治家本人がもらったのと同じことで、秘書がまずかったでは通らない。
では問題を起こさないような秘書を雇えるかというとこれが簡単ではない。例えば、一番給料が高い政策担当秘書は、弁護士や医師の国家資格があれば国家試験なしでもなることができますが、実際、医者や弁護士をやめてまで秘書になろうという人がいるでしょうか。逆立ちしても国家試験には受からない学力の人しか秘書になっていないということです。「秘書さん」扱いをし、何の敬意も払われていないわけです。その人たちに高い倫理観を求めるのは身勝手な話ではないですか。政治家は落選したら「ただの人」といいますが、秘書も大変です。
自民党議員の秘書の後任に元民主党議員の秘書がなるといったことが政治の世界では普通にある。だから、国会議員は秘書に相当気を使っていないと優秀な人であれば、どんどん辞めてしまいます。石破茂・元防衛庁長官の政策担当秘書、吉村麻央さんは永田町では珍しく、ちゃんと試験に合格した政策担当秘書で、石破氏が合格者名簿から面接し、制度が始まってすぐ採用されたそうですが、そんな秘書についての「美談」を他の政治家の事務所で聞くことなんて、ほとんどないですよ(笑)。
今回のような閣僚辞任劇は、また繰り返されるでしょう。なかなか難しいですが一旦仕切り直して政治献金に関する新たなルールをつくるのが一番良い方法だと思います。政党助成金は一つの解決策にはなり得たが、より透明性を持たせつつも、「悪意」のある反社会的勢力からお金を受け取ったとしても罪には問われない、社会的な非難も制裁も受けないような規範を作る。そういう風にしていかないと、国会議員を嵌めたやつだけが得をする、本末転倒の結果をもたらすのだということを、これを機会に多くの人が考えるべきです。
(聞き手、iRONNA編集部・溝川好男)
うしお・まさと 昭和35(1960)年生まれ。早稲田大学法学部卒。旧防衛庁・航空自衛隊に入隊。大学院研修(早大院法学研究科博士前期課程修了)、長官官房などを経て3等空佐で退官。帝京大准教授など歴任。東海大学海洋学部非常勤講師(海洋安全保障論)。『日本人が知らない安全保障学』(中公新書ラクレ)など著書多数。
http://www.asyura2.com/16/senkyo200/msg/201.html#c54