20. 2015年12月23日 00:23:22 : FfDmJFy3aA : VXMklEslYsk[1]
人民元「国際通貨化」の脅威に立ち向かえ
破綻しかけた中国経済の延命に欧米諸国が次々となびく
異形の党支配経済、延命は決定的!?
国際通貨基金(IMF)は2015年11月末の理事会で、中国の人民元を来年(2016年)秋から特別引き出し権(SDR)の構成通貨(現在はドル、ユーロ、円、ポンド)への追加を決める。人民元は国際通貨としてのお墨付きを得ることになるが、単なる経済事案ではない。通貨とは基軸通貨ドルが示すように、国家そのものであり、経済のみならず政治・外交・軍事すべてを根底から支え、運営を誤れば揺るがす。
中国の場合、人民元は共産党通貨であり、それを世界で通用させることは、破綻しかけた共産党指令経済を延命させることはもとより、対外的な膨張を助長させる。日本にとっては脅威の増大を意味する。
共産党中央が指令する中国経済は事実上マイナス成長に落ち込んでいる。習近平党総書記・国家主席の中国は手負いの巨大怪物も同然だが、愚かではない。習氏は米英が仕切る国際金融市場の総元締め、国際通貨基金(IMF)に人民元を国際準備通貨として認定させる道を付けた。
現在の代表的な国際通貨はドル、ユーロ、円、ポンドであり、IMFの国際準備通貨である特別引き出し権(SDR)を構成している。SDRは帳簿上で記載されるだけで、流通するわけではないが、各国中央銀行は通常、SDR構成通貨を準備通貨として保有するので、民間はSDRを構成する通貨での支払いや決済に安心して応じる。
これまでの人民元は、韓国のウォンや東南アジア各国の通貨同様、ローカル通貨であり、これらの各国は外貨準備を積み上げながら、外貨の流出を防ぐと同時に、外貨が流入するように金融、財政政策を調整しなければならない。
人民元の国際通貨化が党支配経済存続の鍵になるという切実な事情は2つある。現在の中国は、外貨の流入が細り、資本の流出に加速がかかり、外貨準備が急速に減少している。もう1つ、人民元資金を使った対外融資や投資を増やす対外戦略上の必要性である。中国は固定資産投資主導による高度成長路線が限界に来ており、このままでは経済崩壊してしまいかねない。それを打開するためには、国有企業の再編成など合理化・競争力強化策が必要だが、党幹部の既得権益調整に手間取るので短期間では実現不可能だ。手っ取り早いのは、対外投資を増やして、輸出を増強することで成長率を引き上げる方法だ。その決め手とするのが、中国とユーラシア大陸及び東南アジア、インド、中近東・アフリカを結ぶ陸と海の「一帯一路」のインフラ・ネットワーク整備構想である。
習近平政権はその投融資を行うための基金や国際開発金融機関を相次いで発足させようとしている。代表例が、2015年年内設立を目指す多国間のアジアインフラ投資銀行(AIIB、本部北京)である。AIIBは国際金融市場でドルなど外貨を調達してインフラ資金とする計画で、英独仏など欧州や韓国、東南アジア、ロシアなどが参加したが、世界最大の債権国日本と国際金融シェアが最大の米国が参加しないこともあって、AIIBの信用力は弱い。このために、国際金融市場での長期で低利が必要となるインフラ資金の調達は困難だ。それを打開するためには、中国が人民元資金を提供するしかない。しかし、人民元がローカル通貨である以上、人民元による決済は限られる。翻って、人民元が国際通貨になれば、その障害は少なくなる。
人民元が国際通貨になるためには、ドル、ユーロ、円、ポンドと同様、SDR構成通貨への組み込みをIMF理事会が認定することが前提となる。IMF理事会審議会の鍵を握るのは英国など欧州と、IMFの唯一の拒否権保有国米国である。厳密に言うと、SDR認定事項は最重要案件とはみなされず、議決権シェアで7割以上の賛成があれば、米国の拒否権を無効にできるが、SDRの新規発行は米国の賛同が必要だ。したがって米国の同意がないと、人民元が加わった後のSDRの追加配分に支障が出る。習氏は米欧各国に対し、実利を提示することで、抱き込みを図ってきた。日本は対米追従なので、対日工作の必要はなかった。
足元をみられた欧州、詭弁にやられたる米国の甘さ
2015年10月下旬の習氏の訪英は大成功だった。キャメロン首相の発表によると、習主席訪英中に決まった中国の対英投資案件の総額は約400億ポンド(約7兆4000億円)。さらに、習氏は、ロンドンに人民元建ての国際決済センターの特権を提供し、元建て国債の発行を表明した。これに応えて、キャメロン政権は「国際通貨人民元」支持を表明した。ドイツ、フランスなど残る欧州主要国も自国市場に人民元の国際決済業務の拡大を期待して、なだれを打つように人民元のSDR組み込みへの支持を表明した。
米国はどうか。ルー米財務長官は2015年3月時点では人民元のSDR認可には反対表明したが、習氏の訪米後の2015年10月6日には、「IMFの条件が満たされれば、支持する」と表明した。2015年6月の上海株暴落後の中国当局による市場統制や2015年8月の人民元切り下げは金融市場自由化原則に逆行する。ところが、オバマ政権は態度を軟化させた。上海株式市場の統制は緊急措置であり、人民元切り下げについて「人民元の市場実勢に沿う改革の一環」とする北京の説明を大筋で受け入れたのだ。
習政権は2015年6月の上海株暴落以降、党・政府指令による経済支配を強化している。これだと、誰が見ても国際的に自由利用可能であるというSDR通貨認定条件に反するはずだが、IMFはそう見ない。フランス出身のラガルド専務理事は2015年3月下旬の訪中時に、「人民元のSDR通貨承認は時間の問題だ」と習氏に約束している。IMFは2015年8月、上海市場の規制を当面は容認すると同時に、人民元をより大きく市場実勢を反映させる改革案を示せば、人民元を来年(2016年)9月からSDR通貨に認定してもよい、というシグナルを送った。市場原理とはおよそ無縁な小出しの自由化でよしとする、対中国だけのワシントンの二重基準である。
習氏は2015年9月訪米時、ワシントンの甘さに付け入った。
「中国は輸出刺激のための切り下げはしない。人民元を市場原理により大きく委ねていく改革の方向性は変わらない」
「中国政府は市場安定策を講じて市場のパニックを抑制した。今や中国の株式市場は自律回復と自律調整の段階に達した」
「外貨準備は豊富であり、国際的な基準では依然として高水準にある」
「人民元国際化に伴って、外貨準備が増減することは極めて正常であり、これに過剰反応する必要はない」
中国伝統の白を黒と言いくるめてみせるレトリックである。2015年8月11日の人民元切り下げは過剰設備の重圧にあえぐ国有企業が背後にあるが、4%代半ばの人民元安にとどめざるを得なかったのは、資本逃避が加速したためだ。人民元相場を市場実勢に反映させると言うなら、外国為替市場への介入を抑制すべきなのだが、実際には人民元買い介入によって人民元の暴落を食い止めるのに躍起となっている。
株式市場は自律的に回復しているというが、当局が市場取引を制限しているため、上海株の売買代金は2015年6月のピーク時の4分の1まで雌伏したままだ。
外準減少が正常、というのも詭弁である。資金流出は加速し、人民元買い介入のために外準を大幅に取り崩す。国内の資金不足を背景に対外債務は膨張を続け、「高水準の外準」を大きく上回る。外準を支える対中投資の大半は香港経由であり、そのうちかなりは外資を装った中国の投資家で、ほとんどが党幹部に直結している。建前上は厳しい資本流出入規制を実施している中国で、特権を駆使する党幹部だけがその網の目をくぐれる。言い換えると、中国は党支配体制だからこそ資本逃避が慢性化する構造になっている。習氏が党総書記就任前の2012年前半にわずかずつ人民元を低めに誘導すると、資本逃避が起きた。慌てて人民元を高目誘導したらデフレ圧力が高くなったので、2014年前半には再び人民元安方向に修正したら、やはり資本逃避が再発する。
景気の方は2014年初めから停滞感が強くなる一方である。中国当局発表では2014年は7%台半ば、2015年も7%弱の実質成長を続けているが、モノの動きを忠実に反映する鉄道貨物輸送量は前年同期を下回り、以来マイナス幅は拡大するばかりである。その場合、金利を下げ、人民元安にするのが景気対策というものだが、すると資本逃避で国内資金が不足する。人民元のSDR通貨認定は、北京にとってまさに焦眉の急である。
人民元帝国誕生で軍拡も加速
米英の国際金融資本にとって中国はグローバル金融市場の中の巨大なフロンティアである。小出しでも中国の金融市場の対外開放や自由化は、米金融界にとって中国市場でのシェア拡大を有利に進められる。北京は特定の米金融大手を一般釣りにして特権を与えるからだ。ゴールドマン・サックス、シティグループなどは江沢民政権時代以来、とっくに党中央と気脈が通じ合っている。ニューヨーク・ウォール街代表者が政権中枢を担うオバマ政権では、グローバル金融市場に中国の人民元金融を取り込むことが国益と見做されるだろうし、人民元そのものが脅威となる日本と利害が微妙に異なる。
中国の対外貿易規模は日本のそれの3倍以上であり、すでにアジアでの人民元建て貿易は円建てを超えている。中国は「国際通貨」人民元を振りかざしながら、アジア全域を人民元経済圏に塗り替えるだろう。日本の銀行や企業は人民元金融や人民元建て決済を認可してもらうために、北京の顔色をうかがうしかない。それは、日本外交の手足を縛る。すでに金融界は浮足立ち、「中国嫌い」で評判の麻生太郎財務相ですら、中国側に東京に人民元決済センター設置を要望する始末だ。中国との通貨スワップに頼る韓国はますます北京に頭が上がらなくなる。
国際通貨ともなれば、中国は刷った人民元で戦略物資やハイテク兵器を入手できるようになり、軍拡は一層進む。
これでは日本は立ち上がれぬ 危機意識なき財務官僚たち
日本としての今後取るべき策は、何が何でも人民元の完全自由変動相場制移行と資本市場の全面自由化を早期に実現させることだ。国境を超える資本移動の自由化は、外国資本や金融機関による対中証券投資や融資制限の撤廃、さらに中国市場からの引き上げを自由にすることを意味する。人民元の完全自由変動相場制は、人民元の対ドルや対円相場の変動を自由にし、中国当局による市場介入や管理を取り払う。
中国が人民元を乱発すれば、人民元相場は暴落不安が起き、中国からの資本逃避が起きる恐れがある。SDR通貨として認定されても、通貨の国際的な信認は国内の政策次第で失われる。そんな懸念から、北京は金融や財政政策で自制せざるを得なくなる。つまり、市場のチェック機能を持たせることで、人民元の暴走にブレーキをかけられる。党による市場統制力は次第に弱まるだろう。
考えてみれば、これまでの中国の人民元管理変動相場制は中国のとめどない膨張を支えてきた。管理変動相場制のもとでは、自由変動相場制とは全く異なって、対ドル相場は人為的に安定させられる。
人民元の安定を背景に、中国にはこれまで順調に外資が流入し、その外資の量に応じて中国人民銀行は人民元を刷り増しし、国有商業銀行、国有企業、地方政府に資金を流し込んで、不動産開発を進めて、投資主導による高度成長を達成した。国有企業は増産しては輸出を増やしてきた。ところが、不動産投資も国有企業の増産投資も過剰となり、景気は急降下し、地方政府や国有企業の債務は膨張を続けている。鉄鋼などの過剰生産は、安値での輸出攻勢を引き起こす。反面で、鉄鉱石など一次産品の国際商品市況は急落し、産出国経済を直撃している。市場需給を無視した党主導による金融は世界経済不安の元凶になっているのだ。
来年(2016年)は米大統領選挙だ。日本としては米国のまともな勢力と組み、人民元の完全自由変動相場制移行と金融の全面自由化の早期実行を北京に迫るしかない。仮に北京が為替や金融の全面自由化を約束したところで、実行するはずはない。
何しろ中国の国際ルール無視ぶりは目に余る。中国は2001年末、難交渉のうえに世界貿易機関(WTO)に加盟したが、ダンピング輸出、知的財産権無視などが横行している。国内総生産(GDP)統計は偽装の産物だというのが国際常識だ。外交・軍事では南シナ海の砂地埋め立てと軍事拠点化、絶え間のない外国に対するサイバー攻撃と、あげればきりがない。人権の尊重、言論・表現の自由は、自由で公正な金融市場ルールの下地のはずだが、党中央にはその意識のかけらもない。
米国とはそれでも、日本の危機意識を共有できる余地はある。正式候補に決まるとは限らないが、民主党のヒラリー氏はウォール街に批判的で対中警戒派だし、共和党のトランプ氏は「大統領になれば、中国を為替操作国として罰する」と息巻いている。日本として、人民元のSDR化で習近平政権は軍事を含む対外膨張路線をひた走るだろう、と伝えるべきだ。
問題は通貨・金融を自省の専管事項とする財務官僚だ。IMFにおいて中国のSDR通貨工作のなすがままにした。そればかりか、IMFで精を出しているのは、消費税増税をIMFに対日勧告させて予定通りの増税に追い込む根回しだ。語るに落ちる裏切りぶりである。
http://www.asyura2.com/15/hasan103/msg/687.html#c20