1. 2015年12月13日 18:00:07 : AykskwsSZd : RHNoS1KdNRo[1]
(日曜に想う)欧米の背、中国の背 特別編集委員・山中季広
2015年12月13日05時00分 朝日新聞
官民挙げた努力が実って、日本の新幹線がインドへ輸出されることになった。格別に胸のすく思いがする。
日本が中国に敗れたインドネシアの一件がくすぶっているせいだろう。あの鉄道事業で競り負けたのは結局なぜだったのか。遅まきながら先月末、現地ジャカルタを訪ねた。
「ひと言で申し上げると、中国が『3年でログイン前の続き完成させる』とハッタリ気味の売り込みをした。インドネシアが『タダなら』と飛びついた。そういう構図です」。ジャカルタ都心にある日本大使館の一室。担当の貴島善子公使はさばさばした表情で語った。
大使館は国際協力機構(JICA)とともにインドネシア関係省庁と折衝してきた。手ごたえは上々だった。
中国の猛攻勢を知ったのは3月。ジョコ大統領が北京を訪問し、習近平(シーチンピン)国家主席と会談した。ジョコ政権はまず日中両案をてんびんにかけた。9月に入って両案ともボツにすると言い、月末にいきなり中国案に軍配を上げた。
「これほどの大規模事業ならきちんと国際入札に付し、両案を公平に吟味してほしかった。それが国際社会の常識。なのに唐突に入札をやめ、中国との随意契約に移った。残念です」
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鉄道政策に詳しいインドネシア交通研究所のダルマニングティアス所長(53)は「決め手は融資条件だった」と話す。「わが国の予算を1ルピアも使わない、政府の保証も求めない。のみがたい2条件を中国はのんだ。日本より柔軟でした」
ジョコ大統領は3月、東京で安倍晋三首相と会っている。東京から名古屋まで新幹線に試乗した。のぞみの車中なぜか居眠りをした。「新幹線は寝入ってしまうほど快適。快適すぎてわが国には時期尚早だ」。訪問中に大統領はそう腹を決めたと所長は見る。
「大統領は目に見える成果を求めていた」と話すのは、新幹線に同乗したテレビ記者(26)。再選のかかる2019年選挙より前に実績が要る。日本案では21年完成だが、中国案なら18年に終わる。それが大きかったと言う。
実は現地の大勢はいま、事業の行方に懐疑的だ。3年の工期では用地確保やトンネル掘削など到底終わりそうにない。黒字化に必要な1日6万人の乗客を確保する見通しも立っていない。
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さて今回の取材で私自身、何より驚いたのは、自分の発する質問が徐々に国士のような熱を帯びたことだ。
「日中どちらの鉄道が安全か」「4年前に浙江省で起きた死傷事故は忘れられたのか」「中国はインドネシア高官に一体どんな攻勢をかけたのか」
われながら狭量すぎる。日本の新聞社で働く記者なのだから当然といえば当然なのだが、どうも競争相手が中国となると肩に力が入ってしまう。
最近の例で言えば、国産ジェット機についても似た心境になった。初飛行が成功した三菱航空機のMRJには、中国にARJ21という好敵手がいる。
MRJの納入は再来年春の見通しだが、ARJは先月末に納入が始まった。300機を受注し、来春には就航すると聞くと、何やら心配になる。
航空機ビジネスに通じた三菱総合研究所の奥田章順さん(57)によると、ARJの発注元には中国やアフリカの企業が多い。実績面でも営業面でもMRJの前を飛ぶのは中国機ではなく、カナダ機やブラジル機だそうだ。専門家にそう言われると、妙に安心する。
おそらく欧米の背を追うという立場が私たちには居心地がよいのだろう。明治から慣れ親しんだ位置ゆえか。逆に何であれ中国に追い抜かれたとなると、われらが心は千々に乱れる。
いまや中国の国内総生産(GDP)は日本の倍の規模だ。軍事予算は3倍を超す。人民元は国際通貨として円をおびやかし、五輪の獲得メダルでも月面探査でも日本のはるか先を行く。
中国が建てられるか危ぶまれている新駅予定地に立ち、屈折したわが対中意識を紙にくるんでゴミ箱に捨てた。
http://www.asahi.com/articles/DA3S12115502.html
http://www.asyura2.com/15/senkyo198/msg/123.html#c1