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慰安婦問題合意、識者はどうみる? 日米韓の3人に聞く
2015年12月31日08時30分 朝日新聞
日韓関係で最大の懸案だった慰安婦問題を解決させるとした28日の合意について、その評価や今後の課題を日米韓の識者に聞いた。
■歩み寄り、対中関係改善にも
《シーラ・スミス氏 米外交問題評議会上級研究員(日本政治・外交政策)》
日韓両政府が合意にこぎ着けたのは、うれしい驚きだ。双方の立場には開きがありすぎて、妥協は難しいと思っていた。今年は国交正常化50周年であり、双方の指導者にとって年内合意が重要だったのだろう。
合意内容には、建設的な外交の成果が見てとれる。安倍晋三首相にとっては、おわびの言葉と旧日本軍の関与を明言したことで保守派の反発を招く可能性がある。ただ、保守派の安倍政権だからこそ妥協できた面はあると思う。民主党政権では、より激しい反発を招いただろう。朴槿恵(パククネ)大統領も「最終的かつ不可逆的」という表現を受け入れた。韓国側としても、とても心地よいとは言えない内容だ。
今後は、合意の実施に移る。両政府にとって簡単ではなく、批判も強まるだろう。悲観的になる必要はないが、手放しで楽観的でいられるわけでもない。韓国政府がソウルの日本大使館そばの慰安婦少女像の問題を完全にコントロールできるとは思えない。米国でも、韓国系住民グループによる慰安婦像の建設に対し、韓国政府が説得に動くのかどうか興味深い。
今回の合意には、米政府は直接的な役割は果たさなかった。米国の圧力で両国が歩み寄ったという見方があるが、それは違う。少なくとも米政府の当局者たちは、最終的には日韓両国が和解しなければならない問題であり、米国が圧力をかけるのは筋違いだと見ていたからだ。
日米韓、日中韓の二つの3カ国関係にとっても、合意の意味は大きい。安全保障上の懸案になっている日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結は、すぐには難しいだろうが、成り行きを見守りたい。日中韓では、韓国がより中立的な立場を取り戻し、関係改善に向かうだろう。これは米国にも有益だ。(聞き手・小林哲)
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専門は日本政治・外交政策。米コロンビア大学で博士号(政治学)を取得。ボストン大などを経て現職。東大、慶大、琉球大でも研究した経験がある。
■新財団は被害者の意見尊重を
《鄭鉉柏氏 韓国・成均館大教授(歴史学)》
今回の合意は、過去よりも多少進展があったが、法的責任が明記されていないのは残念だ。依然、被害者らが反発している点にも注目すべきだ。過去の歴史を清算する過程では、まず被害者の意見が重要だ。被害者たちの理解と納得、受け入れが先行しなければならない。
韓国政府が少女像の移転について、被害者や女性団体との協議なしに外交交渉で議論して発表したことは正しくない。政府の一方的な交渉に対し、韓国の市民社会は怒っている。
合意で日韓が新たに設立する財団を通じたお金の使い道は、まず被害女性たちの意見を聴き、それに従うべきだ。韓国政府は現在、被害者支援財団の設立を急いでおり、市民団体の反発を招いている。市民団体は、基金を使った財団について、適切ではない人々が起用され、政策が決められることを懸念している。
女性団体は、「民族の恥を表に出すな」という韓国男性の圧力のなか、戦争による女性の人権侵害問題を国際社会に告発した。これは韓国社会が民主化したからこそ可能だった。
韓国挺身隊(ていしんたい)問題対策協議会(挺対協)の運動が民族主義的な傾向を持っている、という評価は正しくない。すでに挺対協は、慰安婦問題が韓日間の問題だという認識を超え、世界各地の戦争や内乱の際に起きる女性暴力との闘いに、活動の中心を移しつつある。
今回の慰安婦問題合意が高度の政治判断であることは事実だ。「年内妥結」を公言した朴槿恵大統領の功績を実現するためでもあった。米国の要求を受け入れた面もある。慰安婦問題という人権問題を、韓日政府がそのように政治的に利用したことを遺憾に思う。(聞き手・牧野愛博)
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1953年生まれ。「韓国女性団体連合」「21世紀女性フォーラム」など女性の人権問題を扱った市民運動で長く活躍。86年から現職。現在、「市民団体連帯会議」や「市民平和フォーラム」の共同代表も務める。
■足りない被害者との対話、補う相当な努力必要
《吉沢文寿氏 新潟国際情報大教授(朝鮮現代史)》
慰安婦問題は、1965年の国交正常化時に日韓政府が置き去りにした戦争被害者の人権回復が根本だ。にもかかわらず、今回も両政府が元慰安婦の女性たちと対話した形跡はない。50年前、日米韓三国の「反共同盟」強化を優先し、政治家・官僚主導で合意を強行したことが今日の問題を招いた、という歴史的省察がなされていない。
日本政府はアジア女性基金の反省を踏まえ、民間からの募金ではなく、日本の国家予算で事業を進めることを約束した。とはいえ、今回の日韓合意を意味あるものとするならば、被害者との対話など、足りない部分を補う相当な努力が必要だ。
被害者が何よりも求めているのは金銭ではなく、誠意だ。韓国政府ばかりに説得を任せるのではなく、日本側もどのような事実に責任があるのかを、被害者に対して明確に伝える必要がある。この問題を真摯(しんし)に考えるなら、安倍首相は「代読」の謝罪ではなく、パフォーマンスと非難される覚悟で訪韓し、被害者に向かって自らの言葉で直接伝えてほしい。
被害者に対して「これしかないから受け入れなさい」と言うことは、和解を強要するハラスメントになる。ソウルの日本大使館前の「平和の碑」(いわゆる少女像)の移転にメディアの関心が集まっているが、目障りだから消したいのではないかと受け取られれば、被害者の不信感は募るばかりだ。この問題を前面に持ち出すと、事業は進まなくなるだろう。(聞き手・武田肇)
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朝鮮現代史専攻。日韓国交正常化の過程を研究し、近著に「日韓会談1965――戦後日韓関係の原点を検証する」がある。「日韓会談文書・全面公開を求める会」の共同代表。
http://www.asahi.com/articles/ASHD003SKHDZUHBI028.html
http://www.asyura2.com/15/senkyo198/msg/861.html#c1