2. 2015年12月25日 15:54:34 : oLShHzBbYM : Eeyw9@1MG64[1]
2015年12月25日 週刊ダイヤモンド編集部
いまだ危険なイメージが消えない福島への誤解
竜田一人×開沼博対談(1)
2016年3月で東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故からちょうど5年経つ。この間福島は、それを取り巻く世論はどう変わったのか。廃炉作業の日常を実際に作業員として働きつつルポマンガで描いたマンガ家と、福島生まれの気鋭の社会学者が語り合った。本稿では『週刊ダイヤモンド』12月21日発売号の特集「2016年総予測」に収録しきれなかった対談内容を、3回にわたってお届けする。(聞き手・構成/週刊ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
――開沼さんは福島県いわき市出身で、06年から浜通りの原発立地自治体の状況について研究をされ、震災発災後も継続的に浜通りでフィールドワークを行っていらっしゃいます。一方、竜田さんも12年から第一原発で廃炉作業員として勤務してこられました。その経験を踏まえて、現在の福島の浜通りの状況と、原発廃炉の状況について教えてください。
かいぬま・ひろし/福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員、福島県いわき市生まれ。06年から福島県原発立地地域の研究を続ける。著書に『漂白される社会』(小社刊)『はじめての福島学』(イーストプレス)など。
開沼 当初はがれき処理や物資不足など喫緊の問題があり、その奥にある問題が見えなくなっている状態だったのですが、現在はそれが解消したことで、課題は整理されてきました。
まず、風評問題。一次産業と観光業の「イメージの復興」は進んでいません。たとえば農業。米の生産量が震災前比で85%回復しているなど生産自体は再開していますが、市場に流通する際の価格は、作物によりますが、3割、4割と大幅に下落しています。観光も同様に90%回復しているものの、福島への修学旅行での訪問数は震災前と比べて半減している状態がつづいている。もともとゴルフ、温泉、スキーなどの観光資源があり、外国人にも人気がありますが、例えば、震災前は年4万人来県していた韓国人観光客、今は3000人台になってしまっている。これだけ「爆買い」とか「インバウンド」とか言われているにもかかわらずです。
生活面では、避難や賠償問題は落ち着きつつも尾を引いています。避難者数はピークをすぎ減少傾向にあるものの、いまだ残る問題は一筋縄ではいかないものばかりです。例えば、双葉町に丁寧なメンテナンスが行き届いたバラ園があって重要な観光地だったんですが、ここにあるバラには賠償基準が定められている「草木」の金額を超える付加価値があるわけです。数字に換算できない損害。そういうものの落としどころをどう見つけていくかのフェーズに来ています。
危機的な状況は脱したのに
「福島はめんどうくさい」化はつづく
たつた・かずと/大学卒業後職を転々としながらマンガ家としても活動。震災を機に被災地で働くことを志し、12年から福島第1原発で作業員として働く。現場の労働の模様を克明に淡々と描いた「いちえふ」は新人としては異例の初版15万部を記録。世界的に話題となった。
竜田 原発は危機的な状況は脱しており、場内の整備をしつつこれからどうするか考える、といった段階ですね。冷却をどうしよう、建屋が崩れるのでは、放射性物質の大量放出がまた起きる、などの「何か起こったらヤバイ」状態はもう過ぎている。水素爆発で中身が露わになった姿が何度も報道された4号機と3号機ですが、4号機はカバーも付いて燃料取り出しは終わり、3号機も上部の鉄骨瓦礫がほぼ撤去され姿を大きく変えています(*1)。
汚染水を浄化するためのALPSシステムも安定的に動いています。当初あった、濃縮されたストロンチウムの入った汚染水の処理はすでに終わっていて、仮に流れ出ても問題ない状況になっています。よく汚染水漏れで報道された、ボルト型のフランジ型タンクは解体され、溶接型の大きなタンクがどんどん立っている状況です。遮水壁も完成して汚染水の漏出問題については、現在はもうほぼなくなったといっていい。現在手つかずなのは、原子炉の格納容器本体くらいじゃないでしょうか。
開沼 一方、僕が『はじめての福島学』で書いた「福島はめんどうくさい」という状態はより進行している。福島をめぐる報道や言論をステレオタイプの再生産でずっと続けている人たちがいるからです。
震災後満5年たつ2016年3月11日に向けても、「原発・放射線・除染・避難・賠償金・こどもたち」というこれまでの固定キーワードに絡めながら「福島はこうです」という、ろくに取材もしないで、2011年当時の福島のイメージにもとづいた「答えありき」でお手軽に寄せ集めた情報を垂れ流してウケ狙いしようとする報道や情報がたくさん出てくるのでしょうね。また「復興が遅れてる」とか知ったようなこと言うんでしょうが「遅れてるのはあんたの頭の中だよ。プロなら愚直に手足動かして情報をあつめて現実をつかめ」っていう話でしかない。現場はもうそういうステレオタイプとは関係なく、いいものもわるいものも目まぐるしく動いている。メディアを通して語られる福島の姿と実際のギャップは広がるばかりです。実際に現場に取材に来た人は、「あれ、なんか思っていたのと違う」と気が付くのでどう報じていいのかわからなくなってそういう安直な描写に走るんでしょうが。
――放射能の状況についても、とかくセンセーショナルに伝えられることが多いですね。
竜田 「放射能についてわからないことがある」というのは、全体の半分がわからないのではなく、100あるうちの1以外は、汚染状況についても健康影響についてもほぼすべて解明されている、くらいのイメージなんですけどね。
例えば、汚染水関係で現在よく漏れたと騒がれるのは雨水ですが、実際に数値を見ても大した数値ではない。ですが、漏れた事実だけが騒がれる。実際にこうしたニュースの後の周辺海域の魚に対しても放射性セシウムND(検出限界値以下)がほぼ99%以上です(*2)。そこは地元漁協ももっと自信をもって言うべきですよね。
開沼 福島の海が汚染されたのは事実です。ただ、いまでもセシウムが検出される魚は、震災前から生きていて事故直後に原発付近の餌をたべたとか、明確な理由があるごくごく一部でしかない、ということが明確にわかってきている。にもかかわらず、あくまでも「全体がダメで、今後も危ない」かのように主張し、報道する。
いや、これから大変な作業も残っているのは事実ですよ。デブリ取り出しとか作業環境の改善とか、まだまだ大きな課題です。こっちに残る課題をどうするか議論を盛り上げようというならわかります。ですが、そういう丁寧な取材が必要なことをせず、この的外れなことを針小棒大に話を盛りまくってでっち上げてウケ狙いしようとする浅はかな行為が、結局本来語るべき本質的な問題を先送りしてしまう。こういうことが5年たってもいまだ起こっていることこそが一番の問題です。
竜田さんがおっしゃった雨水問題にしてもそうですけど、「福島めんどうくさい」化が進む中、悪しき相対主義というか、ニセ科学を両論併記の一方にのせて正当化してしまうような報じ方しかできなくなっているのも問題ですね。「なぜあんまり理解してないのにそんな適当な報じ方をしたんですか」という質問に対して返ってくるのは「福島のことを報じ続けるのが義務だから」「風化を防ぎたい」という答えです。ですが、デタラメ流すのは逆効果。それが風化を招いている。そもそも自分が触れている問題の基礎知識を報じている側が理解・判断ができていない。
――福島を取り巻く世論の変化をどうご覧になりますか?この5年で変わったことはあるのでしょうか。
竜田 正義を目的に福島を語って来た人は、いまでもあまりスタンスは変わっていないんじゃないですかね。最初からそこまでの主義主張がなくて、ふわっと正義に触れることを言ったりして最初のころはそっちの意見につられていた人が、冷静さを取り戻してきていることはあると思います。そういう人に対して「今の現場ではこうなんだよ」ということを伝えることは効果があるのではないかなと。
開沼 一時に比べればよくも悪くも落ち着きつつあるんじゃないでしょうか。ただ、風化と風評というキーワードがよく出てきていますが、多くの人は風化を懸念しますが、圧倒的に風評の問題の方がよほど大きくせり出してきていて、それによる誤認識が課題解決を遠ざけていることに気づいていない。福島の農家で話を伺うと「変な噂が流れ続けるくらいなら忘れてもらった方がいい」という方はとても多いです。
あと、いまだに原発周辺地域のイメージが福島全体と思われている可能性はある。さらにその原発周辺地域ですら、現在の情報は知られていない。たとえば、原発の立地自治体である大熊町には、今東京電力の750戸の社宅が建設中で、作業者向けの給食センターもできてトラクターが元気に田畑を耕している状態です。
いまもたまに「原発がある町には何万年と人が住めなくなってしまった」とか情感たっぷりで書いた文を目にしますが、「いやいや、事故をおこした1−4号機がある自治体にはもう人住むんですが」っていう話。そういう基本的な現状認識を知らないままモノが語られるケースが多すぎるんです。
「『不幸なフクシマ』のままでいてほしい」人が
たくさんいる
竜田 今の現場からの情報発信が足りていないんじゃないでしょうか。結局ぼくが『いちえふ』を描いたあとに続く原発ルポマンガは現時点までに出てないし。事故直後はルポライターみたいな人が入って、結構デマっぽい記事も出ましたが。伝える側も、新しい情報を仕入れようとしていないですよね。
開沼 これは伝える側の問題だけではなく、視聴者や読者もわかりやすいセンセーショナルな非日常を求めるんでしょうね。被災地復興に限らないですけど、課題も希望も日常・正常の中に隠れているものなのに。現場感覚が欠けています。「『不幸なフクシマ』のままでいてほしい」人たちがたくさんいますよね。
まあ、こういう無意識のバイアスに基づくイメージの再生産に依存するメディア・言論の薄っぺらい構造であったり「マイノリティ憑依」「ヘッドライン寄生」は他の分野でも散々やられてきたことですが。「きれいな目をした子供たちがいるアフリカ」みたいな。「きれな目」をしてないと急に怒り出す。現場からしたら「知らねえよ、あんたの意のままに動く玩具じゃないんだよ」っていう話です。まあそうしたメッセージの出し方が現地にメリットがあるならいいのですが、逆に迷惑をかけているとなると放ってはおけません。
竜田 ただ、現場からの発信、といっても難しい面はあるんですよね。さっきの大熊町の話も、本来なら住んでいる人が伝えるべきなんでしょうが、現在人が住んでないですからね。給食センターのおばちゃんくらいしかいない。かといって東電が発信したところで「やつらの言うことだから信用できない」という受取り方をされてしまう。第三者が実際のところを伝えていくしかない。そこに関心のあるメディアが行って正しく伝えていただくしかないのかなと、思います。
>>12月26日(土)公開予定の第2回に続きます。
*1 Q 原発周辺は今も放射線量の高い「死の町」なの?
A 特別対談にもあるように、現在廃炉作業員として約7000人が働いており、原発までの作業員の通勤ルートである国道6号線は、朝晩慢性的な渋滞が発生しているほどだ。事故直後にむき出しになった4号機にはカバーが付いた。
2011年は作業員の拠点となっていたJビレッジから、原発まで全面マスクとタイベック(放射線防護服)装備で移動していたが、現在では原発構内の汚染数値も大幅に下がり、そのため屋外も含む原発構内の多くの部分で、通常の作業服で行き来ができる。
*2 Q 汚染されている福島の食品が流通しているんでしょ?
A 事故直後、放射性物質が検出される可能性がある食品には全て出荷規制がかけられた。その後出荷基準値を超えた物は市場に流通させない仕組みもできた。これまで、福島県、各農協・漁協などで出荷前検査を行い安全性が確認された物だけが流通している。検査数は県だけでもこれまで累積で100万件を優に超える。
現在、出荷基準値を超える食品は、出荷を前提としない検査用の野生の獣肉などに限られ、その比率も全体の0.3%程度しかない。
主食の米についてはさらに全量全袋をスクリーニング検査する方法が取られ、毎年1000万袋以上が検査された上で、出荷基準値を超えない物のみが出荷される。
現在福島県内で生産者が出荷を自粛している主な物は近海魚類だが、事前の3万件のモニタリング調査から、一定期間以上検出限界値(装置で測定できる限界)未満が確認されている魚種67種に限って、出荷前に検査の上、福島県近郊を中心に流通している。
原発事故前から、日本人は大気・大地・宇宙線などから年間2.1ミリシーベルトの自然被ばくをしていた。事故を契機に国は長期的な目標として年間での追加放射線被ばく量1ミリシーベルトという目標を定めたが、これは「超えると人体に影響が出る」数字をはるかに下回る、あくまでも管理上の長期目標。出荷基準値は「日常的に汚染された食品を食べ続けた」と仮定しても、この目標に届かないとして設定された基準にすぎない。放射性物質は量の概念が最も重要で、実際に食べる形に調理し日本人の食生活に合わせた場合の数値で見る必要がある。日本の基準は世界と比べてもかなり安全に設定されている。
http://diamond.jp/articles/-/83687
http://www.asyura2.com/15/genpatu44/msg/581.html#c2