44. 2016年5月28日 15:02:19 : c2lS2WYWwE : 2Tt0Nk8fUlY[1]
南シナ海を中国には渡さない
南シナ海は北側を中国大陸、東側をフィリピン群島とボルネオ、西側をインドシナ半島、マレー半島、南側をスマトラ島とインドネシアの島々に囲まれた、南北が3000キロ、東西が1000キロという広大な海域である。
この南シナ海の周辺には、台湾、中国、ベトナム、カンボジア、マレーシア、シンガポール、ブルネイ・ダルサラーム、フィリピンなど10あまりの国があり、世界で最も活発に経済が拡大しつつある地域になっている。シンガポールからマラッカ海峡を抜けてインド洋に出る航路は、中東からの重要な石油輸送ルートになっている。
南シナ海周辺はアメリカにとって地政学的に無視できないだけでなく、太平洋を超えて行う貿易にとって、欠かすことのできない地域になっている。アメリカ商務省のデータによると、2013年、この地域に対するアメリカの貿易額は輸出が700億ドル、輸入が1200億ドルで、貿易総額の10%以上にのぼった。
南シナ海は豊富な地下資源にも恵まれている。ベトナム沖やフィリピン沖、インドネシア沖の海底には膨大な量の石油と天然ガスが眠っている。かつてアメリカがベトナム戦争にのめり込んだ時、ケネディ政権の首脳が、ベトナム沖にある油田を共産主義勢力に渡さないことを、戦う理由の1つに挙げたこともあった。鉱物資源だけでなく南シナ海は、豊富な魚類の棲息地でもある。
このように豊かで恵まれた海を、地政学的にも歴史的にも全く関係のない中国が、自分の領土であると主張して侵略的な行動を始めている。中国政府はこの行動を正当化するために、「13世紀に中国の海軍が南シナ海を1周した」という故事をつくりあげ、2012年、ロシアから買った古い空母に、この故事をなぞる形で南シナ海を1周した。
「遼寧」と名付けられた空母は、フィリピンやベトナムが領有権を主張している南沙諸島の岩礁地帯で式典を行い、「南シナ海は中国の領土である」と宣言した。その後中国は岩礁を埋め立てる土木工事を開始し、滑走路などの軍事施設をつくりあげた。
こうした中国の動きに対してアメリカのオバマ政権は、経済的な利害に直接つながることもあって「国際法上違法である」と抗議し、第7艦隊のイージス駆逐艦「ラッセン」を中国の人工島周辺を航行させ、中国の不法な占拠を許さない姿勢を明確にした。
中国政府は、人工島の領海内をアメリカの艦艇が航行し続ければ、「何が起きるか分からない」と警告してオバマ政権を脅しているが、中国が実際に軍事行動を起こす様子はない。中国側の脅しが口先だけなのは当然で、遠く離れた中国本土の基地から、軍艦や戦闘機を人工島に送り込むことは、難しいからである。
中国側が軍事的行動に出られない、さらに大きな理由は、アメリカが、すでに南シナ海を取り囲む形で、周辺各国に基地を設けて、中国を包囲する体制をつくっているからである。
アメリカだけでなくロシアも、ベトナムの首都ハノイ郊外のハイフォンにあるロシア艦隊の基地に潜水艦や駆逐艦を立ち寄らせて、中国海軍を牽制している。ベトナム戦争以後も、ベトナムはロシアとの関係を維持し続けているのである。
中国は、横須賀を母港とするアメリカ第7艦隊の軍事力を恐れているが、第7艦隊の幹部が私にはっきりこう言ったことがある。
「中国海軍の艦艇がアメリカの艦船に対して攻撃的な態度を取った場合には、軍事的挑発と見なして、直ちに報復攻撃を行う」
中国海軍はここ数年、アメリカの艦艇や船舶に対して、あからさまな軍事行動を取る代わりに、様々な政府機関の艦艇や巡視船、漁船などからなる「第2海軍」をつくり、挑発的な行動を取らせている。
2009年3月に、中国海警局、つまり日本の海上保安庁にあたる組織の監視船をはじめ漁船を含む5隻の中国艦艇が、南シナ海で海底調査をしていたアメリカ海軍の調査船「インペッカブル」を取り囲み、そのうちの1隻はほとんど体当たり寸前まで近づいて調査を妨害した。同じくアメリカ海軍の調査船「ボウディッチ」も監視船に嫌がらせを受けて、調査海域から追い出されたりしている。
アメリカだけでなく、インドネシア、ベトナムなど南シナ海周辺の国々の巡視船や漁船が、中国の第2海軍の艦艇に妨害されたり、追い払われたりした事件は枚挙にいとまがない。ベトナム政府は2015年だけで、すでに15隻のベトナムの船舶が、中国の第2海軍の妨害行動を受けたと発表している。
中国はこうした第2海軍の増強を図っているが、注目されるのは中国海軍の軍艦が海警局の艦艇として下げ渡されていることである。海警局の500トンクラスの艦艇は、強力な50口径の機関砲など、軍艦と同じ兵器を装備し、乗組員も銃器を携帯している。
中国政府は、第2海軍の行動は中国の領海を守る政府活動で軍事行動ではないと主張するにとどまらず、「国連の権限を代行して中国の経済水域の安全を維持している」とまで強弁している。
国際法で認められている経済水域は、それぞれの国の海岸線から200海里、360キロで、フィリピンやマレーシア、ベトナムが領有を主張している南シナ海の島々を中国が管理する権限は全くない。中国は自分勝手な理屈をつけ、アメリカ軍との衝突を避けながら不法行動を繰り返して、南シナ海を占拠しようと考えているのである。
中国がアメリカ軍から報復攻撃を受けないように、第2海軍を使ってずる賢く行動しているため、アメリカ海軍は小型のパトロール艦隊を出動させて取り締まる構想を立て、特殊小型パトロール船の建造に取り掛かっている。すでにその何隻かが完成して、ハワイやグアム島に展開されているが、そうした艦艇の中で最も強力なのが、M80スティレットと呼ばれると呼ばれる鋼鉄製の小型モーターボートである。
鋼鉄製の箱のような形をしたM80スティレットは、全長20メートル、速度は50ノット、航続距離は1000キロで、強力なミサイルを装備し、海兵隊やシールズを十数人乗り込ませることができるようになっている。
SUPER FAST米海軍M80スティレットステルス船(1)
https://www.youtube.com/watch?v=tp7Hq6q3eok
M80スティレットをはじめとするアメリカ海軍の特殊小型パトロール船隊は、南シナ海の海上を縦横に航行し、中国の第2海軍の船舶が、アメリカや東南アジアの国々の船舶を妨害したり不法に攻撃したりした場合には、積極的な軍事行動を取ることにしている。アメリカ海軍の首脳は次のように述べている。
「小型ミサイル艦艇は、中国の船舶が気づく前にすばやく接近し、海兵隊やシールズが乗り移って不法な行動を止めさせる。時には拿捕することもあり得る。中国側の行動を海賊行為と見なして、実力で阻止しようと考えている」
もっとも、この計画はまだ正式に発表されたものではない。アメリカ海軍は「南シナ海の公海上における海賊行為を阻止するための軍事活動の1つ」という説明をしている。だが中国の第2海軍の行動は、国際法上からも正当なものではなく、アフリカや中東の海域で横行している海賊行為と同じであるという指摘が各方面から強くなっているのは確かである。
アメリカ海軍はこの計画を進めるために、南シナ海を取り囲む重要な拠点に小型パトロール艦艇の戦略拠点を作り始めている。アメリカ海軍の内部文書によると、ベトナムのトンキン湾、ダナン、ブンタオの3カ所、シンガポール、マニラ近郊のスービック、パラワン島、それにブルネイ・ダルサラームの7カ所にミサイルボートと小型艦艇の基地をつくり、日常的な活動を行うことになっている。
このうち、シンガポールのチャンギとフィリピンのスービックの基地はすでに出来上がっている。私もテレビ取材でチャンギとスービックの基地を見たが、小型艦艇十数隻が常時停泊し、補給体制もできていた。
アメリカ海軍は南シナ海を守るために、これから500トン、速度40〜50ノットのM80スティレットクラスの快速艇を多数建造し、中国第2海軍の海賊行為に対抗しようとしている。
アメリカは強力な軍事力を持ちながら、これまで中国の不法な侵略的行動に厳しく対抗しようとしてこなかった。だが、中国が南シナ海を占拠すれば、アメリカの経済的な利益は大きく侵害される。このため小規模ながら小型パトロール艦隊を展開し、毅然として中国に対抗する姿勢を示そうとしている。
アメリカ海軍は戦えば勝つ
伝統的にアメリカ海軍の頭脳として知られているのが、アメリカ東北部のロードアイランド州の風光明媚な海岸沿いに立つ海軍大学である。1884年に設立された海軍大学は、優れた海軍指導者を輩出するとともに、100年以上にわたって様々な戦争のシナリオ、いわゆるウォーゲームを考え出してきたことで知られている。
現在、この海軍大学が研究している最大のテーマは、中国海軍との戦いである。2014年から2015年にかけて何回かにわたって中国海軍についての研究会が開かれたが、特に南シナ海で中国海軍と軍事衝突になった場合のシナリオに焦点を当てている。
研究会の内容はほとんどが軍事機密になっているが、外部に漏れてきた文書によれば、南シナ海における中国海軍の実力は、一般に流布されたり、中国が宣伝したりしているものとはかなり異なっているという。
海軍大学の戦術家によると、南シナ海における中国との戦いのシナリオは、まだ正式には作られていない。だが、中国海軍が南シナ海においてアメリカ海軍に攻撃を仕掛けるとすれば、次のような状況になると想定されている。
「中国海軍は主力としている巡視艇、小型モーターボート、漁船などに艦対艦クルージングミサイルを搭載して、アメリカの艦艇を攻撃してくる」
もっとも、こうした中国軍の戦術は、アメリカ海軍が赤外線とレーダーによる最新鋭の探知兵器を開発したため、効果がなくなっている。アメリカ側は中国が、実際に攻撃を始める寸前に察知して反撃し、十数時間のうちに中国艦艇のほとんどを殲滅することができる。
このアメリカ軍の最新の探査装置は、アメリカ海軍の対潜水艦攻撃用ヘリコプターMH60Rロメオに搭載されている。もともとは、海面に近い機雷を発見して破壊する兵器だが、中国側が実戦に使おうとしている小型艦艇やミサイルを極めて容易に発見し、攻撃することができる。
アメリカのイージス駆逐艦や巡洋艦には最新鋭のミサイル探知レーダーが装備されている。中国側の艦艇がミサイルを発射すれば、たちどころに捉えて撃ち落とす仕組みがすでにできている。私もイージス駆逐艦に同乗した際、レーダーでミサイルを発見し追尾して撃ち落とす実験を見たことがある。
2015年10月末、中国は南シナ海に新鋭のミサイル駆逐艦を2隻、投入したと発表した。アメリカの専門家もほぼ同時に、中国がアメリカのイージス駆逐艦に匹敵する能力を持つ2隻の新鋭艦艇を実戦配備したと述べた。
アメリカ海軍はこの中国の最新鋭のイージス駆逐艦の写真を公表したが、駆逐艦の船形やレーダーなどを見ると、アメリカやロシアのイージス艦艇を真似して建造したようである。アメリカの専門家は、ミサイルをはじめ対潜水艦攻撃レーダーも、アメリカやロシア並みのレベルに近いと推定している。
アメリカ海軍によると、中国が保有している水上艦艇のうちアメリカのイージス艦艇と太刀打ちできるのは、30隻程度と見られている。中国海軍はその30隻のほとんどを、中国本土防衛や、シーレーンを確保するための作戦に投入しているため、南シナ海で戦闘になった時に投入できるのは、2〜3隻と見られている。しかも大半の水上艦艇は、2005年以前に建造されたもので、アメリカの最新鋭のレーダーや、ソナー、ミサイルの前には威力がない。
アメリカ海軍は、航空早期警戒管制機E2Cを南シナ海周のアメリカ軍の基地や同盟国の基地から発信させて、中国ミサイル艦の行動を探知するとともに攻撃機を送り込み、空から強力な魚雷攻撃を仕掛ける体制を作り上げている。中国側は、そうしたアメリカの防衛体制に手も足も出ないと思われる。
中国軍の最大の欠陥は、新鋭ミサイル艦艇を投入したとしても、その行動を支援するための通信網や、情報探知システムを全く持っていないことである。
「中国の新鋭ミサイル駆逐艦は、西部劇で言えば、ガンマンが性能の良い連発銃を持って、1人、荒野を行くようなものだ。大勢の優秀な部下を従えたシェリフに遭遇すれば、簡単に討ち取られてしまう。中国のミサイル駆逐艦は、現在のシステマチックな海の戦いに適していない」
アメリカ海軍の専門家はこう説明しているが、中国海軍が最新鋭のミサイル艦艇を2隻、南シナ海に送り込み、アメリカのイージス艦艇に戦いを挑んだとしても、アメリカ側のクルージングミサイルや魚雷攻撃を受けて、あっという間に沈められてしまう。
南シナ海における中国海軍は、兵器などを含め戦術的な面において、アメリカ軍には全く対抗できない。アメリカ海軍と対等な戦いをすることはほとんど不可能なのである。
「中国海軍は建設途上にある。新しい兵器を取り入れるとともに、士官や水兵の訓練に力を入れている。中国本土から太平洋を超えて、アメリカまで航行できる能力を持った。今後、海軍として大きな力を持つことになるだろう」
何年か前、当時の太平洋艦隊の司令官だったラフェッド大将が、ハワイの沖を西へ向かう中国艦艇を見ながら私にこう言ったことがあるが、それから何年か経った。
中国海軍が、軍事力を近代化し海軍を増強していることは間違いないが、それ以上の速度で、アメリカは新しいハイテク兵器を実戦配備している。アメリカやロシアの技術を盗んだりして、兵器を開発している中国海軍が、アメリカの海軍力に追いつくことはまず不可能である。
アメリカ海軍大学の専門家が南シナ海で戦いになれば、アメリカ側は全て撃退させられると予想しているが、その最大の理由は、戦術的な欠陥もさることながら、中国が戦いをする上で肝要な後方支援や、基地のネットワークを南シナ海に作ることができないからである。
中国海軍は、不法に建設した人工島の周辺に、支援を受ける後方基地も、情報センターも持っていない。フィリピン沖の戦闘地域から最も近い、海南島の軍事基地まで千数百キロ、中国本土までは2000キロ近くある。燃料を運ぶタンカーや、弾薬などを補給する輸送艦も不足している。
中国はそうした状況のもとで、基地から千数百キロを超えた海域で戦闘行動を行う能力を持っていない。アメリカ側の攻撃に遭った場合に、損害を埋め合わせる手段が全くないのである。アメリカのイージス巡洋艦や原子力潜水艦から、1回攻撃を受けただけで全滅することになる。
中国は海を遠く越えて飛ぶ航空兵力も持っていない。陸上からの航空機の攻撃行動半径は、せいぜい200〜300キロで、タンカーを伴って攻撃を行わない限り、空の戦いはできない。中国軍には、南シナ海の洋上でも空でもアメリカ軍と戦う能力がない。
中国はこうした決定的な欠点を補うために、いわば沈まない空母として人工島を南シナ海につくり、滑走路などの軍事基地を建設しているが、アメリカ側が今のところ中国の不法な行動を積極的に阻止していないのは、中国が島をつくり軍事拠点を持ったとしても、その拠点を活用する能力がないからである。
中国本土に展開している航続距離の短い戦闘機をどうやって南シナ海の人工島まで運ぶのか。現在、中国空軍が使っている航空機を島に持ち込んだとしても、航続距離が短いうえ海上戦闘能力に欠けているため、艦艇の戦闘を助けることはできない。
中国は何機かの長距離爆撃機をロシアから買い入れて、実戦配備している。こういった爆撃機を人工島の基地に運び込むことはできる。だが地上基地を爆撃するために作られたロシアの大型爆撃機を海上戦闘に使えるわけがない。特に洋上の艦艇を攻撃することは不可能である。
こういったいくつかの欠点だけでなく、中国が南シナ海で海上戦闘を行えない、さらにもう1つの欠点がある。広大な海上で戦う艦艇の戦闘は、今や衛星通信によってコントロールされている。後方の司令部が全ての情報や命令を発信する。戦闘分析も後方司令部が行い、戦闘艦に伝える。中国軍には、こういった現代の戦いを行う組織力を備えていない。
私は第7艦隊の訓練取材を通じて何度も見てきたが、第7艦隊の「ブルーリッジ」は毎朝、全体会議を開き、ホワイトハウスやペンタゴン、横須賀基地や西太平洋に展開する空母、潜水艦などと情報を交換している。
空母や駆逐艦のブリッジに立ってみると明らかだが、見渡す限り何もない。大きな海原と大空だけである。中国が領土として宣言した人工島の12海里にしても標識があるわけではない。船の位置、周辺の情勢など、あらゆる情報は、衛星からの通信や映像に頼らざるを得ないのだ。
艦艇が軍事行動を行う前の現状分析は、後方の総司令部が行い指令を受ける。海中深く潜っている潜水艦隊にしてもハワイの潜水艦隊司令部の指令を受ける。潜水艦は、大きなネットワークの中で、海上艦艇と連携して行動するからである。中国は100隻の潜水艦を保有していると宣伝しているが、組織的に効率的に動かす仕組みがなければ、役には立たないのである。
21世紀のアメリカ海軍戦略が動き出した
アメリカ海軍は、空母機動艦隊を主力として世界の制海権を独占するという戦略を大きく変えようとしている。2015年初め、前アメリカ海軍総司令官(日本語訳では作戦部長とも訳されている)のジョナサン・グリナート大将が、海軍研究所の文書の中で次のような政策を明らかにしている。
「東シナ海や南シナ海では今後、大規模な空母機動艦隊を中心とする作戦よりも、陸上攻撃型の新鋭の艦艇や小型艦艇を中心とする、局地の戦闘が重要になってくる。アメリカ海軍は局地戦に対応する能力を強化しなければならない」
アメリカ海軍は明らかに、グリナート大将が提示している政策にしたがって動き出している。まず手をつけたのが小型艦艇による戦力の強化である。クルージングミサイル8発を積んだ駆潜艇8隻をグループとする艦隊を8つ作り、世界各地の紛争地点に出撃する体制を取ることになった。
この他に小型のミサイルを搭載する700トンクラスの小型艦艇60隻を建造し、6つのグループに分けて戦闘態勢を取ることになった。この小型艦艇は速度が30〜35ノット、3000マイル(4800キロ)の行動半径を持ち、射程100キロ程度の艦艇攻撃用ミサイルを60発ないし80発搭載している。
こうした小型艦艇は全て最新鋭のレーダーとソナーを装備し、敵の艦艇に接近して戦闘を行う能力を持っている。このほか海上戦闘だけでなく、敵地に接岸して地上戦闘を行うことのできるズムウォルト型駆逐艦を、これまでの3隻から20隻に増強することになった。
これまでアメリカ海軍は大型の海上艦艇に力を入れ、11隻の空母、1万トンクラスのイージス巡洋艦22隻、アーレーバーク型の4000トンクラスのイージス駆逐艦62隻を展開して、世界の制海権を握ってきた。
アメリカ海軍の新しい方針によって、こうした空母機動艦隊の任務が限定されるとともに、法律で決められている空母11隻体制が見直されることになった。海軍内部では、空母は6隻ないし8隻でよいのではないかという声が強い。
第二次大戦以来、アメリカは11隻の空母を先頭とする機動艦隊によって、世界の海を制圧してきた。もっとも、11隻の空母のうち常時、出撃態勢をとり世界各地で威力を見せつけているのは4隻である。3隻はドックで修理、他の4隻で乗組員や航空機部隊の訓練を行っている。つまり、11隻体制のもとでこれまで第一線配備についていたのは、アジア、中東、ヨーロッパでそれぞれ1隻ずつの3隻だった。この体制が8隻ないし6隻になれば、常時、第一線で行動する空母は2隻になる。
これまでアメリカ海軍の造船、訓練、教育などの計画は全て、空母機動艦隊の行動を支援することが中心となってきた。アメリカ海軍の空母機動艦隊は、アメリカ軍の中でも特別の存在を誇ってきたのである。
私は何度もアメリカの空母に同乗したが、空母に乗っている機動艦隊司令官はもとより艦長から水兵に至るまで全員が、アメリカ海軍のエリートであるという気概を持っていた。
「空母は艦載機を90機近く載せている。空軍で言うと1つの飛行大体、つまり空軍基地に匹敵する破壊力を持っている。こうした強大な航空兵力を載せた空母が洋上を動き回り、戦闘地域に現れる。敵にとってはこれほど恐ろしい存在はない」
アメリカの空母の艦長が私にこう言ったことがある。空母の艦長はほとんどが、艦載機のパイロットの経歴を持つ大佐クラスである。空母艦長はアメリカ海軍のまさに中堅クラスのエリートなのである。
この艦長が言ったように、アメリカと戦う相手にしてみれば、空母というのは、目の前に突然、大きな空軍基地が出現するようなもので、心理的にも強烈な衝撃を受ける。
アメリカの空母は大きな図体のわりに速力が速い。1日、百数十キロを移動することも珍しくない。空母は日本地図で言えば、東京から名古屋の間を自由に動き回り、敵の前に突如として現れ攻撃を加えることができるのである。
十数年前までは空母は護衛の艦艇を従えて航行していたが、最近では墜落した艦載機を救助するための小型駆逐艦が随行している程度で、ほとんど単独行動することが多い。衛星を使ってあらゆる情報が管理されているため、空母の周辺は完璧な安全区域となっているのである。空母は最新科学の粋を集めた空間というわけである。
アメリカ海軍はこうした空母の力を熟知している。これまでは東シナ海や南シナ海、さらにマラッカ海峡からインド洋へ実戦パトロールを行い、アジアの国々にアメリカの軍事力を見せつけるとともに、強い安心感を与えてきた。
アメリカ機動艦隊の取材の中で最も印象的だったのは、アメリカの空母「コンステレーション」で、シンガポールを出港し、南シナ海から台湾沖、そして東シナ海に入る航行に同乗した時であった。空母機動艦隊は、南シナ海と東シナ海という中国を取り囲む海域をまるで、アメリカの内海を行くかのように航行した。アメリカの力による安定を実感させられる航海だった。
これまでもアメリカの空母機動艦隊が、国際情勢に大きな影響を与えたことが何回かあった。1996年の3月、中国が台湾近辺にミサイルを撃ち込み、いわゆる台湾海峡危機が勃発した際、アメリカは2隻の空母を台湾海峡に送り込んで、中国の不法な行動をやめさせた。また冷戦の最中の1973年10月、ソビエトとエジプトの間でスエズ運河をめぐる紛争が起きた際、ソビエトが地上部隊を送り込もうとしたため、ニクソン大統領が空母「ケネディ」を地中海に派遣して戦う姿勢を示した。このためソビエトはエジプトに対する攻撃を取り止め、問題は国連に持ち込まれて解決を見た。
アメリカ海軍が空母機動艦隊を中心とする戦略を大きく変えようとしている理由の1つは、アメリカの先端技術がめざましく進み、小型艦艇の性能が驚くほど向上し、広い海域で行動できるようになったことである。
アメリカ海軍の信条は、19世紀の最も偉大な戦術家と言われるアルフレッド・セイヤー・マハンの「海を制する者は世界を制する」という考え方である。第二次大戦後、アメリカはまさにこの信条にしたがい、空母機動艦隊を展開することによって世界を制してきた。
アメリカ海軍がこの戦略を変えようとしているのは、艦艇の能力や兵器類の性能がめざましく向上したことや、IT技術によって情報収集能力が驚くほど進んだこと、通信網が発達して多数の空母機動艦隊を展開しなくても制海権を維持できるようになっているからである。アメリカ海軍大学の報告は次のように述べている。
「ある海域において敵の行動を制圧し、自由に軍事活動を行わせないことが制海権の基本になっている。アメリカはこれまで空母機動艦隊の戦力によって世界の制海権を維持してきたが、新しい技術と兵器によってその力を維持することができる」
アメリカ海軍が空母の数を減らそうと考えているもう1つの理由は、空母の建造費が高騰していることである。このためアメリカの法律で決められている、空母11隻体制を見直さねばならないという声が強くなっているのである。アメリカ議会軍事委員会の委員の1人が私にこう言ったことがある。
「巨大な空母は建造にも維持にも恐ろしく金がかかるが、巨大なために今や中国のミサイルの標的にされている。数千ドルのミサイルで、数千万ドルの空母を破壊されてはたまらない」
この委員の発言は、中国が「空母キラー」と呼ぶミサイルDF21Dを開発したと宣伝していた頃のもので、アメリカの軍事専門家はその後、このミサイルは空母を沈没させる威力はないと一致して述べている。
アメリカの空母は、数は少なくなるものの性能はさらに向上し、強力になっている。横須賀を基地とする第7艦隊の空母は、古いニミッツ型の「ジョージ・ワシントン」から新しいニミッツ型の「ロナルド・レーガン」に代わった。「ロナルド・レーガン」は戦闘爆撃機EA18Gグロウラーや、ヘリコプターMH60Rシーホークといった最新鋭の艦載機のほか無人偵察機を搭載している。まもなく最新鋭の早期警戒管制機E2Dホークアイも搭載されることになっている。
「ロナルド・レーガン」の新しい航空機部隊は、中国のレーダーやミサイルの電波を簡単に妨害し、レーダーサイトを正確に攻撃できる能力を持っている。無人偵察機は中国の電波やレーダー波を確実に捉え、空母「ロナルド・レーガン」の戦闘司令室に送り込む。戦闘司令室はその情報を素早く分析し、瞬時に航空機を動かして拠点攻撃を行う。
現在の11隻体制が8隻体制になった場合、そのうち4隻はJクラスと呼ばれる最新鋭の「ジェラルド・フォード」型になり、艦載機もステルス性のF35になる。これから配備される空母は、私が同乗した従来のニミッツ型空母とは比べものにならないほど強力な情報収集力と分析力、そして戦闘能力を持っているのである。
アメリカ海軍はまた最新鋭の技術を駆使したハイドロシステムを採用しようとしている。潜水艦と海底に敷設した機雷、衛星、それに航空機を一体とするシステムによって戦闘能力を飛躍的に高める。
このようにアメリカ海軍は、数は少なくなるものの性能が格段と向上した空母、小回りがきき広範囲で活動できる小型艦艇、射程の長い高性能ミサイルなどの兵器類、そして素早く組織化された軍事行動を可能にする最新技術によって、世界の制海権を維持していく。
アメリカ海兵隊が台湾を守る
アメリカのアジア西太平洋戦略の中で、最も重要とされてきたのは、台湾有事に対処することである。つまり中国が台湾を攻撃し、占領しようとした場合、アメリカがこれを軍事的に阻止するという戦略である。
第二次大戦後、アメリカのトルーマン政権のアチソン国務長官が次のような声明を出した。
「アジア西太平洋においてアメリカが軍事的に維持しなくてはならないのは、日本海から東シナ海にかけての海の生命線である」
この声明は、「アジアの本体とも言える中国大陸を重要視しない」と受け取られ、その結果、ソビエトのスターリンの指令を受けた毛沢東が、朝鮮戦争を始めてしまった。その後登場したアイゼンハワー政権は、朝鮮半島で断固戦うとともに台湾を防衛する姿勢を明確にした。ところが、1972年2月にニクソン大統領が中国を訪問し、米中両国の国交を正常化するという共同声明を出したことから、アメリカの台湾に対する政策が変わってしまった。
アメリカはその後1979年、いわゆる「1つの中国」を主張する北京政府に同意しつつ、台湾関係法などをつくって台湾との関係を維持するという、曖昧で不分明な対台湾政策を取り続けているが、オバマ政権の登場によって、さらに中国寄りになった。
台湾関係法
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B0%E6%B9%BE%E9%96%A2%E4%BF%82%E6%B3%95
2013年6月、アメリカ海兵隊の中でもオバマ寄りとされているジェームス・エイムス大将が、アメリカ海兵隊司令官に任命され、次のように述べた。
「今後、海兵隊は伝統的に重視してきた、強襲攻撃による敵前上陸作戦をやめる」
オバマ大統領はこの構想をすばやく受け入れた。朝鮮半島と台湾の有事に備えて配備されていた沖縄のアメリカ海兵隊は、1個師団がオーストラリアのダーウィンに移され、残る1個師団も中東に移動させられた。アジアの共産主義勢力と戦うはずのアメリカ海兵隊が、朝鮮半島や台湾から引き離されてしまったのである。
その頃、アメリカ軍の中国に対する基本戦略は「エア・シー・バトル」、つまり、中国本土に近づくことなく周辺の空と海で戦うというものであった。この基本戦略に、海兵隊の上陸作戦が含まれていないのは当然である。
しかしながら、2015年3月、アメリカ海軍の前司令官ジョナサン・グリナート大将と海兵隊司令官のジョセフ・ダンフォード大将、アメリカ沿岸警備隊の司令官ポール・ツークンフト大将は、共同で新たな海軍戦略を発表し、その中で海兵隊の敵前上陸作戦を復活させた。
「21世紀の海軍勢力による総合戦略」と呼ばれる新しい構想では、海兵隊はこれまでどおり遠征部隊を編成し、強襲上陸作戦を行うことになった。つまり有事の際、アメリカ軍は朝鮮半島や台湾で、中国が軍事的な侵略を行った場合には、敵前上陸作戦を実施することを決めたのである。
この決定に基づいてアメリカ海兵隊は、特殊航空機MV22オスプレイ、ヘリコプターCH53Kキングスタリオン、ステルス性戦闘爆撃機F35Bライトニング2を、多数保有すると同時に新鋭の上陸用艦艇を佐世保と沖縄の基地に増やし、上陸作戦部隊を強化拡充する。
アメリカ海兵隊の新しい戦略に基づいて、強襲揚陸用空母が2隻、建造されることになっている。この新しい形の空母は、従来のものよりも一回り大きく、海兵隊員1870人を乗せた上、24ノットのスピードで航行することができるほか、40機のオスプレイと大型ヘリコプターを搭載することが可能である。
アメリカはこれまで60隻の強襲揚陸用空母を配備してきたが、古い形のものはこれから順次、廃棄ないし第一線から外すことにしている。代わりに配備する「アメリカ」や「トリポリ」「マリオンアイランダー」などの新鋭艦は、ステルス戦闘爆撃機F35を搭載することになっている。
アメリカ海兵隊はアメリカ遠征軍という名前で呼ばれ、大規模な地上部隊が到着して敵を破壊する前に乗り込む先端部隊として行動してきた。その海兵隊に、最先端の兵器や航空機、艦船が加わり、台湾有事に対する戦闘能力はこれまで以上に強化されることになる。
アメリカ海兵隊は、オバマ大統領とその取り巻きによって、伝統的な戦いを中止させられそうになったが、2015年以降、台湾有事に際して強襲上陸作戦を実施する体制を続けることになった。その上、新しい戦いの方式を取り入れることになった。
「21世紀の海軍勢力による総合戦略」には、アメリカ海兵隊をスペシャルフォース化し、特殊作戦を展開する能力を強化するという構想があり、すでに南シナ海では、小型ミサイル艦艇に海兵隊を乗せる作戦が始まっている。アメリカ海兵隊のスペシャルフォースは、南シナ海やその周辺における中国の不法な行動に対して、局地戦でも対抗しようとしている。中国に支援された共産主義ゲリラが紛争を起こした場合、海兵隊のスペシャルフォースが対応するという構想である。
海兵隊のスペシャルフォースは、空母や駆逐艦、巡洋艦に同乗し、ヘリコプターで紛争地点に乗り込み、戦闘を行うことになっている。さらにその一部は、アメリカ海軍のシールズとともに特殊原子力空母「オハイオ」「ミシガン」などに同乗し、敵地の奥深くに潜入し秘密作戦を行うことになっている。
アメリカ海軍の消息筋によると、アメリカ海兵隊は北東アジアから南シナ海にかけての紛争地点で、アメリカ軍の最先端部隊として従事することになっている。
「アメリカ海兵隊がスペシャルフォースとしてアメリカ海軍の艦艇に乗り込むというが、歴史的に見ると昔のアメリカ海軍のやり方に戻ったとも言える」
ハドソン研究所の軍事専門家がこう言ったが、アメリカ海軍の創生期には、海兵隊は艦長のボディーガードとして戦艦に乗り込んでいたのである。
アメリカ海軍のあらゆる艦艇に海兵隊のスペシャルフォースが乗船していれば、緊急事態の際、最前線にいるアメリカ艦艇の艦長の命令で直ちに海兵隊が紛争地点に上陸して戦闘を行うことができる。
地中海沿岸や中東などの紛争地帯では、難しい外交的な折衝を行わなければアメリカの戦闘部隊が介入することはできないが、海軍の艦艇から海兵隊のスペシャルフォースが密かに侵入して攻撃を加えることは可能である。アメリカ海軍の責任者はこう言っている。
「海兵隊のスペシャルフォースはグアム島を基地として、東シナ海や南シナ海で中国が不法行為を行った場合、迅速に対処できる」
今後アメリカ海兵隊は、アメリカ海軍の一員として海上や周辺の紛争の解決にあたることが可能になるが、アメリカ海軍の関係者は次のように述べている。
「海兵隊の迅速な行動能力は、石油輸送の重要なルートとなっているアジアのマラッカ海峡と中東のホルムズ海峡の安全を確保するために、極めて有効である。中国が南シナ海や東シナ海で不法な軍事行動を取った場合、アメリカ海兵隊が素早くマラッカ海峡を抑えて、中国の船舶の航行を阻止することもできる」
私は空母「ロナルド・レーガン」に同乗してマラッカ海峡を通り抜けたことがあるが、航路が狭いうえ、海峡の中央に難破した船の残骸があったりして、極めて航行しづらい。この難しい海峡に、海兵隊のスペシャルフォースが出動し管理することになれば、中国の行動は大きく制約されることになる。石油の輸送が阻止されることになれば、中国は手痛い打撃を受けることになる。
ホルムズ海峡も砂嵐が多く航行が難しいうえ、現在はイスラム国などの過激派による海上テロや機雷設置が懸念されている。こういった危険な地域に大量の地上部隊ではなく、海兵隊のスペシャルフォースが駆逐艦や掃海艇などから出動し、管理することによって安全航行が可能になる。
話を元に戻すと、アメリカ海兵隊は、中東からマラッカ海峡、そして南シナ海における中国の不法行為に対して、極めて柔軟に即応態勢を取る能力を持っている。同時に台湾の有事に対しては、強襲攻撃による敵前上陸作戦を含む伝統的な軍事活動を行う能力と体制を維持している。
アメリカ海軍と海兵隊は、新しい軍事情勢と中国の脅威の拡大に対して、新しい兵器と軍事構想によって対応能力を強化するとともに、有事に際して戦う姿勢を取り続ける。
2015年11月、習近平主席と馬英九総統がシンガポールで話し合った。両者は中国と台湾が1つの中華民族に属していることを強調することによって、台湾の中国合併への方針を明確にした。
アメリカの情報機関やシンクタンクは、馬総統の支持率がわずか20%であることから、2016年1月に行われる選挙では国民党候補が、独立派である民進党の蔡英文候補に敗れることは確実と見ていたが、事実その通りとなった。台湾の人々は中国と、中国から台湾にやってきた国民党の双方を拒否し、独立国家として進もうとしているのである。
中国の経済の停滞が止まらず、国内が混乱し、反政府的な動きが強くなった場合、政府が国民の心をそらすために台湾統一に向けて強硬手段に出る危険は常に存在している。中国が台湾に軍事行動を仕掛け、台湾有事が勃発した場合、アメリカは海兵隊を出動させる。海兵隊は台湾を中国に渡すことはしないだろう。
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