80. 2018年12月13日 16:48:02 : 6aIAVX0XoM : DWeRVYbI7yM[1]
▼フランス全土が怒りに震える「黄色ベストデモ」という“階級闘争”
〜これは国民からの正当な異議申し立てだ
フランス全土が怒りに震える「黄色ベストデモ」という“階級闘争” これは国民からの正当な異議申し立てだ(現代ビジネス) 赤かぶ
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フランス全土が怒りに震える「黄色ベストデモ」という“階級闘争”(崎 順子) | 現代ビジネス | 講談社(1/4)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58845
■日本の報道への違和感
きっかけは去る11月17日土曜日、エマニュエル・マクロン政権の自動車燃料増税に反対する地方生活者が、ドライバーの安全確保用の黄色いベストを着て起こした抗議行動だ。SNSを介して集った全仏87箇所・3500人の行動は、その翌週には28万人以上の市民が参加する全国規模のデモへと膨れ上がった。
日本メディア、特にテレビによる今回のデモ報道に、強い違和感を禁じ得ない。
デモの実態や政界の対応などの核心が、適切に伝えられていないと感じる。
社会における「デモ」の意味や重要性が誤解されていることが、とても歯がゆい。
市民の声を集めて政治に届ける、激しくも有効なコミュニケーション手段の一つだ。それはフランスの国家制度である「共和制」、出自も生活レベルも異なる様々な市民が「共に和をなして生きる」ことを目指す制度の、根幹をなす権利でもある。
■これは「階級闘争」だ
黄色ベストを着ている人たちとは誰か。それはとても分かりやすく、「毎月の出費をなんとかやりくりする庶民層」である。
世帯月収25万円前後の労働者や職人、年金生活者たちで、今現在貧困ではないが、生活に余裕があるわけでもない。失業率や物価の上昇、増税の影響をもろに受ける、貧困予備層とも言える。
彼らの多くは家賃の高い大都市ではなく、周辺の住宅地や田園地帯に住んでおり、車は生活必需品だ。
マクロン大統領は昨年の就任以来、税制・社会保障改革を任期の柱に据えているが、実際の政策には、庶民層の生活に打撃を与えるものが少なくない。例えば話題の燃料増税は「環境保護」をお題目にし、価格が低く庶民に利用者の多いディーゼル燃料車を狙い撃ちにしたものだ。
政府は電気自動車への乗り換え補助金を設けているが、補助金だけで新しい自動車が買える訳もない。おまけにガソリン燃料にも増税が計画されている。輪をかけるように、ディーゼル燃料価格はマクロン政権誕生からの1年間で、リットル約40円(30サンチーム)も値上がりした。
一方で高額資産者への富裕税の廃止を敢行したマクロン氏は、いまや庶民にとって「金持ちのための大統領」にしか見えない。新世代の到来を謳って華々しく登場した若き首領への失望から、黄色ベストの背面に「裏切り者マクロン」「マクロン引っ込め」と記す。
政権発足時に評価された巧みな広報戦略は、もはや「実態のない、耳障りのいい言葉を繰り出す口だけ大統領」と批判される始末だ。
■これまでのデモとどこが違うのか
彼らには、これまでのデモ隊とは一線を画する特徴がある。
右派(保守系)・左派(社会主義系)といった政治思想による団体ではなく、そのすべてが乗り入れている「庶民」という社会階級の集団ということだ。
彼らを繋ぐのは「お金が足りない」という共通の生活不安である。そしてその原因にある、「金持ち優遇の代償に搾取されること」への怒りだ。政治思想で分断されない分、素朴で強い連帯感があり、数も多い。
右派・左派がどれだけ願っても叶わなかった「思想を超えた団結」を、SNSを介し、自然発生的にやってのけたのだ。黄色ベスト運動をフランス革命に比する声は、それが庶民VS富裕層という階級闘争の形を取っていることに起因している。
「黄色ベスト」の庶民階級には、社会運動の基礎を学んだ高学歴者が少なく、運動を効果的に行う組織力や知識が欠けている。また様々な政治思想を持った人々が混在することから、運動を体系化する際に内輪揉めが絶えない。
調査によると、黄色ベスト運動への支援を示した管理職・知的自営業者はたった29%。年金生活者や失業者では半数を超え、ライン労働などの単純労働者では6割以上に至っている。
■フランス人にとってデモとは何か
第1回のデモでは、フランス全土2034箇所で約29万人が参加した。
凱旋門など注目度の高いところで開催されるため、ニュースバリューはどんどん上がっている。
政治的効果も高く、デモ開始から3週間が経過した12月4日、エドゥアール・フィリップ首相は燃料増税の延期を発表した。曰く、「市民が増税も新税も望んでいないことは、よく理解した。いかなる増税も、国民の分断を前に行う意味はない」と。
効果が期待できるので、フランス人は頻繁にデモをする。それは彼らにとって、権力者やメディアへの有効な意思伝達手段だ。一人ひとりの声は小さくても、集ってボリュームが上がれば、耳の痛い叫びになる。
デモとは市民の拡声器で、その効果を最大限にするために、シャンゼリゼやコンコルド広場など世界の注目が集まりやすい場所で行うのだ。
■なぜ自動車が燃え上がったのか
フランスの一般市民は、デモで破壊行為はしない。敢えて過激行動に注目するメディアには、火事場の野次馬根性か、デモの主意とは異なる部分を伝える意図があるのではないだろうか。
フランス人の7割は、政府の譲歩があるなら黄色ベスト運動は沈静化すべきだと答えている。
■デモは「共和国」の根幹
黄色ベストによる3週間の行動を受けて、フィリップ首相は12月4日、譲歩案を見せたと先に述べた。譲歩の内容はさておき、「デモ権は、我が国の基盤をなす貴重な権利である」と、会見でその意義を確認・評価している。
デモの声を無視することは、フランスの政治家には許されない。そしてその理由は、非常に分かりやすい。それはフランスが「共和国」である、ということに尽きる。
共和国とは、1789年のフランス革命で市民が絶対王政を倒した後、作り上げた国家体制である。出自も生活レベルも様々な市民が「法の前に平等である」と認め合い、「共に和をなす」社会を目指すものだ。
不条理な支配体制を強いる絶対王政との闘いの末、流血沙汰の反動と改革を100年近く繰り返しながら、もぎ取った勝利だ。その後も権力者による搾取の悪夢を忘れず、独裁の恐れがある政治家は容赦無く潰してきた結果、今ではどの政権も殊更に「共和国」であることを強調する。
■子どもたちもデモについて考えている
歴史の学びから、フランス市民は「生きやすい社会とは、自ら手に入れるもの」との教育を受けて育つ。そのためには議論と対話が必要で、話を聞かない相手に耳を傾けさせる手段の一つが「デモ」だ。
それは自由・平等・友愛の共和国理念とともに、幼少期から学校で、家庭で、社会で、子どもたちに刷り込まれる。
■政界は「デモ利用」を狙い、市民は沈静化を希望
12月4日の増税延期決定は、不満と怒りの波及を止めるための妥協策でもあるのだが、黄色ベストも野党政治家も、反政権勢力は全く納得していない。「延期して、そのあとは?廃案にならない限り同じことの繰り返しだ」と主張する。
フィリップ首相は、12月15日〜翌年3月1日までを国民大討論期間とし、地方集会やネット討論、テレビ会議などで、この問題を話し合おうと提案した。また閣僚からは廃止した富裕税の再検討の声も上がっている。その一方、環境問題対策を旗印に、燃料税制の改革は諦めない、とも明言している。
■革命的なうねりになるか
フランスで起こっていることは、階級闘争だと書いた。黄色ベストの階級に属さない層は連携していないものの、彼らは、マクロン大統領への失望という意味で、黄色ベスト運動にシンパシーを抱いていることも確かだ。期待が大きかった分、失望も大きい。
黄色ベストがこのまま稚拙な内輪揉めと過激化の波に飲まれるのか、それとも他の階級と連携して運動の輪を広め、革命的なうねりを引き起こせるのか。いずれにせよマクロン大統領は就任後最大の正念場にいる。
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