227. 中川隆[-13112] koaQ7Jey 2019年1月09日 13:50:19 : b5JdkWvGxs : DbsSfawrpEw[-22222]
経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった 「デジタル経済の嘘とホント」(ダイヤモンド・オンライン)
http://www.asyura2.com/18/hasan130/msg/496.html
2019.1.9 岩本晃一:経済産業研究所/日本生産性本部 上席研究員 ダイヤモンド・オンライン
2019年も年初から「米国第一」を掲げるトランプ政策で振り回されることになりそうだ。
1月には日米物品貿易協定(TAG)交渉が始まり、また、米国が25%追加関税実施の期限を3月末に延期して「一時停止」状態にある米中貿易戦争も、中国側の改善努力が足りないと米国が判断すれば、さらなる泥沼に入り込む可能性がある。
トランプ大統領は
IT化の「真実」語らず
トランプ大統領は、米国人の失業や中流層の賃金低下による所得層の二極化、いわゆる経済格差が拡大した原因は、流入する移民や中国などから輸入される安い製品が米国人の雇用を奪っているからだと主張している。
それで移民の流入を防ぐためにメキシコ国境に「壁」を作り、一方で中国などには貿易不均衡を迫って強硬な姿勢を続けている。
だが、これは政治的な意図を持った宣伝に過ぎず、経済格差の発生原因はそこにはない。
トランプ大統領が誕生したのは、工場の閉鎖や海外移転でさびれた「フローズンベルト」と呼ばれる中西部の、職を失ったり賃金が下がったりした白人労働者らの支持があったからだというのはよく知られたことだ。
こうした白人中流層らの根強い支持は、昨年秋の中間選挙でも同じだった。
こうした地域と対極にあるのが、IT企業が集まるカリフォルニアのシリコンバレーだろう。
また聞きなので、どこまで正確かわからないが、今、シリコンバレーに立地する企業に勤める社員の平均賃金は約1300万円だと、知人の米国人研究者は話していた。
先日、放映されたNHKのフェイスブック社の特集番組のなかでも同社の社員の平均賃金は2300万円と説明していた。
シリコンバレーは、不動産価格や賃料も高騰し、それはかつての日本のバブル期をはるかにしのぐ状態で、大学生の中にはアパートも借りられず、ホームレスになる学生もいると聞く。
ワシントンDC本拠のシンクタンク「Institute for Policy Studies(IPS)」が先日、発表したレポートによれば、米国のお金持ち上位400人である「フォーブス400」にランク入りするための最低資産額は上昇が続いている。
1982年の最低資産額は1億ドルだった。今年の最低資産額は過去最高の20億ドル(約2260億円)に達している。
「この状況が続けば、過去数十年続いている一部の人々に富が集中する流れは、さらに強まっていく」とレポートの共同執筆者のJosh Hoxieは述べている。
IPSの報告によるとフォーブス400に登場する富豪らの合計資産額は、米国の下位64%の人々の合計資産額を上回っている。下位64%の人々の人口は“メキシコやカナダの人口の合計よりも多い”という。(出典;2017/11/10フォーブスジャパン)
政治的プロパガンダで
移民や中国を「敵」に
米国における経済格差の推移を見る最も簡単な指標は、ジニ係数である(図表1)。
米国はジニ係数が上昇し続けており、しかもOECD諸国と比べても水準は高く、国内での経済格差が拡大し続けていることがわかる。
しかし一方で、図表2を見れば、アメリカのジニ係数のもう1つの特異さがわかる。
図表の横軸は、所得再分配前のジニ係数であり、縦軸は所得再分配後のジニ係数だ。
所得再分配というのは、例えば、税制や社会保障政策で、所得の高い人から低い人に政策的に所得を再分配することだ。金持ちほど税金が高くなる所得税の累進税率や税収による低所得者への住宅や教育費の補助などが典型だ。
この図表を見ても、米国政府には所得再分配を行う意思がほとんどないように見える。一方、ドイツは、強力な再分配を実施することで、稼いだ人の富を他者に分配している。これを求めて移民・難民がドイツに殺到しているのである。
もしトランプ大統領が米国内の経済格差が問題というのなら、富裕層から貧困層への富の分配をすればよい。この図からもわかるように、米国もドイツのように強力な所得再分配策を実施すれば、国内の経済格差はかなりの程度、緩和される。
それをしないで、移民や対米貿易黒字国の中国や日本などを非難するという、外に「敵」を作って攻撃しているところに、トランプ大統領の政治的意図を見ることができる。
格差の原因は情報化投資
雇用・所得の二極化を生み出す
では、経済格差が拡大してきた「ホント」の原因は何なのか。それは国内の活発な情報化投資だ。
以下に紹介するのは、デイビッド・オーター(David H. Autor、1967年生まれ)がJournal of Economic Perspectives, Volume 29, Number 3, Summer 2015 に投稿した論文“Why Are There Still So Many Jobs? The History and Future of Workplace Automation”である。
同氏は、ハーバード大で修士号・博士号を得て、現在、MITで教授をしている。労働経済学が専門で、これまで、Econometric Society (2014)、American Academy of Arts and Sciences (2012)、Society of Labor Economists (2009)などで賞を得ている著名な研究者だ。
将来、ノーベル賞を受賞してもおかしくないくらい経済学会での存在感は大きい。
オーターが本論文で解明しようとした課題は、古くは機械の導入やロボット、ITなどと雇用や格差の関係だ。
すなわち、過去2世紀にわたって新しい技術の出現は多くの職業を奪ってしまうと警告され続けてきた。19世紀には、英国で、織機を打ち壊すラッダイト運動も起こった。雑誌TIMEは1961年2月24日号で「オートメーションが職を奪う」とのタイトルで特集記事を組んだ。
だが現実にはそうはなっていない。2世紀経った今でも多くの職業が存在している。それは、「嘘」だったのか。いやそうでもない。
彼は、独自の計算方法で、米国における1つひとつの職(ジョブ)に対して、「スキル度」(例えば、当該職業で働く大卒比率やその他要因などを加味して計算)を算出し、横軸にスキル度0%の職(ジョブ)から順に100%に向けて、左から右に向かって並べた。
例えば、低スキルの職とはトイレの清掃員、中スキルの職とは企業の経理職員、高スキルの職とは企業コンサルタントやアナリストなどである。
そしてそれぞれの職(ジョブ)ごとに、縦軸に雇用比率の変化をプロットした。それが次に示した図だ。
つまり、1979年から1989年、1989年から1999年、1999年から2007年、さらに2007年から2012年まで、それぞれの変化率を4本の折れ線で示した。
恒常的にマイナスになっている部分は、1979年から2012年まで恒常的に雇用者が減少していることを示している。
「スキル度」の計算は、オーター独自のものだが、図自体が示す各職種のスキルによって雇用比率が、米国で1979年から2012年までにどう変わってきたかという傾向は、歴然たる事実である。
この図から次のことが言える。
第1に、中スキルの職業の労働者が、情報化投資によって機械に代替され、過去、継続的にずっと減少を続けている。
オーターは、過去、職を失ってきた労働者は、機械に代替されてきた「ルーティン業務」であるとしている。
「ルーティン業務」は、どんなに難しい仕事であったとしても、また人間が仕事をするために長年の訓練が必要であってとしても、ロジックに基づいているので、簡単にプログラム化できるからである。
一方、オーターは、中スキルであったとしても、プログラム化できない対人関係業務の労働者は増えてきたとしている。
第2に、低スキルの職業の労働者が過去、継続的にずっと上昇を続け、かつ、上昇スピードが加速している。
第3に、高スキルの職業の労働者が過去、継続的にずっと上昇を続けているが、上昇スピードが減速している。
技術が進むほど高スキル者に対する企業の需要はますます強くなるが、それに応えられる人材の市場への供給がますます難しくなるため、労働者の伸びは鈍化し、高スキル者の賃金は上昇してきた。
第4に、雇用が失われる境界が、より高スキルの職の方に移動している。
そして、第5に、職を失った中スキルの労働者が移動する先は、高スキルか、または低スキルのどちらかだが、これまで記したように、技術が進むほど企業が求める高スキルのレベルは高くなり、中スキル者だった人がいくら自己投資しても高スキルに移行していく人はとても少ない。
例えば、そこそこの大学を出て年収300万円くらいで経理業務をしていた人が、いくら自己投資をしても、情報機器を使いこなしてさまざまなビッグデータを分析し、数千万円を稼ぐ企業コンサルタントやアナリストになることは難しい。
そのため、大部分の中スキルだった人は、低スキルに落ちていったことがうかがえる。
低スキルの仕事がほとんど増えないなかで、中スキル者が低スキルに落ちていって低スキルの総労働者数が増えているため、賃金は低いままに据え置かれ、かつ雇用がますます不安定化している。
これが米国で言われている「高学歴ワーキングプア」であり、そこそこの大学を出ても、企業経理のような仕事もなく、低スキル者がするような低賃金の不安定な仕事しかない、という状態である。
第6に、情報通信技術の進歩が、いまの米国の経済格差を発生させている大きな要因であることだ。
このことは、次に示したOECDによる日独米が世界に占めるICT投資割合の調査結果を見ればわかる(図表4)。
2000年後半以降、中国におけるICT投資が急増したにもかかわらず、米国の比率が増加している。これは、米国におけるICT投資の絶対金額が急増していることを示している。
これに対して、日米独のICT投資を比較すると、 日本のGDP・人口は、ドイツの約1.5倍なので、GDP原単位当たり・人口1人当たりのICT投資はドイツの約2/3と考えられる。米国には圧倒的に及ばない。
「誤解」「うのみ」は
社会をおかしくする
つまり、オーターの分析によればここ40年、米国では、IT化によって、例えば、工場の生産ラインの調整・管理や、オフィスでのデータ管理や会計などの業務がITに置き換わり、かつ海外への外注が進んだ。
そのために、そうした仕事をしていた人が失業したり賃金が下がったりする一方で、GAFAに象徴されるITビジネスの成功者が巨額報酬を得るという経済格差発生のメカニズムが起きたのである。
具体的に経理業務を例に挙げると、電卓が出現し、経理ソフトが出現し、いまはRPAの出現により、経理課の人員はますます少人数化している。
一方で、いま企業が最も欲しがっているデータサイエンテイストはごく少数であるため、巨額の報酬を得ている。
そしてその原因が活発な情報化投資だということがわかる。
このことは、米国の経済学者の間ではほぼ合意されている。移民の流入や中国・日本からの輸入の増加は、経済格差とはほとんど関係ない。
ここにITと経済格差、雇用をめぐる「ホント」がある。
トランプ大統領はそのことを知っているはずである。
もしトランプ政権が国内の経済格差を本当に深刻な問題だと認識するなら、(1)国内の情報化投資を抑え、かつ(2)富の再分配を強力に実行することである。富の強力な再分配はドイツやフランスなどは実行しているのだから、米国政府もやる気になればできるはずだ。
それを全くしないで、関係のない外敵を攻撃しても、図表1からわかるように、これから米国の経済格差はますますものすごい勢いで拡大するだろう。
そうなったら、今のままでは米中の対立は、収まるどころか、もっと激しさを増していく、そして日本も大きな影響を受ける。それが私の予想であり懸念だ。
ライフスタイルへの影響が大きいのに
社会科学研究の専門家少ない
IoT、AIなどに象徴されるデジタル化は、急速に経済社会を変え始めているが、メディアなどからは、こうした政治的プロパガンダがそのままの形で伝えられ、その情報をうのみにしてしまうという例が少なくない。
それはなぜなのかといえば、日本にはデジタル化について社会科学的なアプロ―チで研究する専門家が少ないことが一因だ。
この分野に、研究時間の1〜2割程度を使っている人は、最近、やっと出てきたが、この分野が主専門という人は私の知る限り、日本には他にいない。
社会科学とは、経済学、経営学、商学、社会学、ビジネスマネンジメント、テクノロジーマネンジメント等の分野を指す。
IoT、AIなどデジタル分野では、人間のライフスタイルに与える影響が大きく、単に進んだ技術だけを開発してもだめで、自然科学と社会科学の両分野の専門家同士が、車の両輪のごとく協力しあいながら、開発を進めることがとても重要なのだ。
このことはAIの研究・開発だけでなく、応用がいかに人間の生活を変えるかを考えればわかりやすい。
日本はかなり以前から、「技術で勝って商売で負ける」と言われてきた。
単に、先端的な技術を開発するだけではだめで、それを企業の商品やサービスとして販売し、グローバル競争に勝たなければ意味がない。
最近の事例で言えば、有機ELがそうだ。日本人の偉大なる発明であり、その研究開発費に多額の公費が投じられた。だがそれを商品化して利益をがっぽり得たのは韓国企業だ。
それは、有機ELを商品化して世界で売るための社会科学研究が日本では全くなされてこなかったからだ。
そしてこのことは、企業の競争に限らず、日本社会全体にとって大きなマイナスになっている。
日本には、IoT、AIなどデジタル化の社会科学分野の専門家がほとんどいないため、さまざまな分野で、誤解したり、誤った情報をうのみにしたりという現象がみられる。今回はその一例を書いてみた。
これから、折に触れ、デジタル経済の「定説」と考えられているものが、いかに
http://www.asyura2.com/09/revival3/msg/704.html#c227