1. 2017年1月19日 14:57:52 : tPo1a4fY0A : 7LPM3POXQX0[1]
江藤哲郎のInnovation Finding Journey
ここまできた翻訳マシン、AIと働く日はもうすぐ!
起業パワー都市(その5)
2017/01/19
江藤哲郎 (ベンチャーキャピタリスト)
私は昨年12月初めに、マイクロソフト本社のあるワシントン州レドモンドのビルディング99でMSR(マイクロソフト・リサーチ)のチーフ・プロダクト・オフィサーであるヴィクラム・デンディと会い、スカイプにAIを搭載した日英のリアルタイム・トランスレータのデモを体験した。まだ発表前の製品だったが、英語から日本語への同時通訳にかなりの自信を持っているようだった。思わず、同行していた日本の大手メーカーやIT各社幹部と目を合わせたが、やはり反応は芳しくなかった。日本語に関しては我々が日本人であり要求レベルが高いことを差し引いても、まだかなり改良の余地ありだった。しかし私は思った。日本語が最後の方に後回しになるよりは良かったと。一方で英中のデモ映像は上海の会議場で収録されたもので、それを見る限り精度は実用化のレベルまで達していた。
シアトルから望むマウント・レーニア ©︎Naonori Kohira
同社はその3カ月ほど前の9月、それまで各部署に分散していたAI開発と事業関連の部署全てをMSRが母体となる形で一カ所に統合した。約5000人の部隊として発足したのがマイクロソフトAI&リサーチ・グループだ。この新しい事業部の活動によりコルタナは勿論、スカイプ、オフィス365などの同社の代表的製品がAIの機能を順次搭載していく。同社の言うAIの民主化の一環であり、現実的なアプローチだ。これらは世界中で使われている正にグローバル・スタンダードのソフトウェアであり、この何億人というユーザーがAIのベネフィットを最初に享受するべきだという考え方だ。
真のオープン化
日本に戻った私は年末に、同社品川オフィスにて80年代のサードパーティ同窓会の様な面々の集まりに参加した。日本のWindows対応ソフトの草分けであるイーストの下川和夫社長の呼びかけだった。そこで伊藤かつら役員配下の現役のエバンジェリストの皆さんから説明を受けた。同社のAIのサービスを受けるにあたり、OSはもはやWindowsである必要はない。MacでもLinuxでもいい、と。素晴らしいことだ。最もユーザー本位の考え方であり、真のオープン化だ。これなら対応ソフトを開発する側もやりやすい。四半世紀ほど前、Windowsソフトを増やすためにコンソシアムを立ち上げた身としては、本当に嬉しかった。アップルとのユーザ・インターフェイス訴訟、IBMとのOS/2を巡る確執、ソフトバンクの孫正義社長にコンソシアム会長就任をお願いしビル・ゲイツと握手して貰ったことなどの数々の記憶が頭を巡ったが、ここにエバンジェリズムは脈々と生きていた。
同社はこれに先駆けオープン・プラットフォームに方針を転換しているが、これには大きな理由がある。主戦場がクラウドに移行したのだ。アジュールに収容してくれさえすれば、その上で機能するOSなどプラットフォーム以上のレイヤーは何でもいいということだ。それらのレイヤーでのテクニカルなギャップはプラットフォーム事業者などBtoBの世界で全て吸収してくれるので、ユーザーはそれぞれが持っている端末からのアクセスが可能になる。
主戦場となったクラウドの提供者は、アマゾン、グーグル、IBMを加えた所謂4強であり、AIエンジンの4強でもある。各社とも技術のオープン化を推進しつつ、スタートアップの囲い込みには余念がない。中でもマイクロソフトとアマゾンはお膝元のシアトルでAI関連の有望なスタートアップにはアジュールとAWSを無償供与している。青田買いのための奨学金供与競争みたいなもので、しかもマシン・ラーニングのモジュールとセットだ。そのためシアトルではAIで有望なスタートアップが多いこと、マイクロソフト・アクセレレータで現在育成する10社は全てマシン・ラーニングかデータ・サイエンスであることなどは第7回でも述べた。こうしてこの地ではAI産業の裾野が広く形成されつつある。
AIといえば、多くの方々がチャットボットを連想するほどになったが、この分野も日進月歩だ。マイクロソフトが以前デビューさせたTayは悪意による攻撃で差別や陰謀論を学習したために停止を余儀なくされたものの、問題となった部分に制限をかけZo.aiとして12月に再公開された。Zoは前述のレドモンドでのデモで見たスカイプにも搭載されるという。日本語対応の精度向上と共に期待したい。
アマゾンの動きもAIのオープン化へ向けて加速中だ。2014年に他社に先駆けて発売したチャットボット家電とも言えるエコーはAI搭載スピ―カーで、そのAIの名はアレクサ。出荷が遅れたグーグル・ホームやJiboなどライバルを尻目に、既に500万台以上を販売した。アレクサは家庭やオフィスで人々と会話しながらどんどん賢くなって行く。注目すべきはアレクサのインターフェイスを公開することで、他社の製品やサービスとの接続が可能になったことだ。レノボのスピーカー、GEの冷蔵庫などの家電は今後ユーザーがアレクサと会話をすることによる操作が可能になる。
右肩あがりの自動車向けAIニーズ
私のカークランドのオフィスからほど近くに、交通情報を分析し渋滞予測を含めたインテリジェント・データとして放送局などに提供するINRIXがある。私は2年ほど前にCEOのブライアン・ミステレと会い話したが、フォード、マイクロソフトで幹部を歴任した彼は、自動車のインテリジェント化に20年来取り組むパイオニアだ。INRIXはアマゾンのアレクサを同社の自動車運転席用プラットフォームであるOpenCarと接続し、社内のオーディオを操作するサービスを開始する。運転者や同乗者が喋る声だけで選曲し、音読してほしい本のリクエストもできるわけだ。さらに同社が最も得意とする交通情報は乗車中のみならず、出発前に家庭やオフィスでエコーに話しかければ答えてくれるようになる。
近年ニーズが右肩上がりの自動車向けAIは、その利用法が自動運転から車内エンタテインメントや車内外での情報取得へと広がっている。家電とAIとの接続も米国勢によりどんどん実用化が進む。自動車とエレクトロニクスが未だ基幹産業である日本にとっては、脅威に映るだろう。しかし、その動きを加速させているキーワードがオープン化であり、台風の目はスタートアップであり、彼らの目指すところがグローバル・スタンダードであるということを理解していれば、他国でも打つ手は沢山ある。AIスタートアップの取り込み方次第では、勝ち組になるチャンスもまだまだある。もちろん日本にも。
その日本でAIについて講演をしていると、シンギュラリティについて意見を聞かれることがある。私は昨今問題とされている2045年にAIが人知を超える云々という点より、もっと手前に大きな課題があると考えている。シンギュラリティの遥か手前、2020年代にも会社の中に必ずAIがやって来る。コーポレート・シンギュラリティの時代の幕開けだ。これは日本にとって歴史的なインパクトになる。
世界ではじめて体験する日本
そもそも日本は大企業がリードする企業社会だ。これまで人々は所属企業に尽くしながらその人生を形成してきた。会社の中でのポジションや成果を必死に求めてきた日本人の目の前に現れるAIは、会社と彼ら彼女らとの間に入って来る。AIはすでに経理、法務などのバックオフィス部門のみならず、営業などの現場でも業務を支援し、あるいは顧客に対しても相対し始めている。今後はチャットボットがより進化した形で前面に出て来るだろう。日本は少子高齢化とコーポレート・シンギュラリティの両方を、世界に先駆けて身を持って体験する国となる。
近年、企業の現場では顧客からの注文がより高度化細分化し、特に上場企業は順守せねばならないルールが増えた。しかしそれら全てに対応するためとはいえ、労働時間を増やす方向には行けない。人も時間も増やせない以上、システムにAIにそのリソースを求めていくのは当然だ。そういう意味でも日本はAI先進国となる必然性がある。
実は人々が求めているのは、自分の質問などのリクエストに対して常時誠実に答えてくれるチャットボットAIではないだろうか。いわば相棒だ。パソコンやスマホ、あるいは車内で端末は違っても同じ相棒AIを頼りにしながら仕事をし、話し相手としても共に生活する。そうなれば仕事場でもプライベートでも、AIはもっと身近で欠かせない存在となるはずだ。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8688
http://www.asyura2.com/17/hasan118/msg/107.html#c1