1. 2017年8月17日 11:16:35 : AzfSNbOTDH : 1aFz1OTXl7Q[1]
イスラエル・エンドレスウォー
第3章 インテリジェンス最前線/1(その1) 97年ハマス幹部暗殺未遂
毎日新聞2017年8月17日 東京朝刊
危うい「自衛のため先制」
【エルサレム大治朋子】1997年、イスラエルの諜報(ちょうほう)機関モサドが隣国の友好国ヨルダンで、イスラム原理主義組織ハマスの当時の政治部門トップ、ハレド・メシャル氏(当時41歳)の暗殺を試みた。シナリオを描いた当時のモサド長官、ダニー・ヤトム氏(72)は毎日新聞の取材に詳細な舞台裏を明かした。それは、イスラエルや米国が「テロ対策」として正当化する「自衛のための先制攻撃」の危うさを物語る内容だった。(3面にクローズアップ)
元モサド長官「抑止力」
イスラエルは67年6月、第3次中東戦争でヨルダン川西岸や東エルサレムなどを占領、併合。抵抗するパレスチナ人に対し「テロの芽を摘む」として武装勢力幹部を暗殺してきた。97年夏もハマスの自爆攻撃が続き、当時首相だったネタニヤフ氏は治安機関に報復案を要請。国際法は報復を禁じているが、ヤトム氏は暗殺リストを作成し首相も同意した。だがその後首相は「(リストになかった)メシャルを狙いたい」と翻意。政治部門最高幹部だったが、戦闘部門の「最高司令官と見なした」という。世間に知られた「顔」を暗殺することで、メンツ回復を狙ったようにも見える。
モサドは首相直轄の組織で、暗殺や工作活動について定める明文の規定はない。ヤトム氏は薬物使用を選んだ理由について「静かな方法が必要だった。友好国ヨルダンのメンツをつぶしたくなかった。(微量なら、工作員が)身体検査を受けても見つからないし、遺体にも残らない」と語った。薬品名は「答えられない」としたが、首相府直轄の生物化学研究所で、モルヒネの200倍の強さとされる合成麻薬性鎮痛薬フェンタニルを含む、体内に吸収されやすい物質が生成されたとの情報がある。突然の不審死となれば「イスラエルの仕業かと臆測を呼ぶ。通りで頭を撃ち抜くより抑止力になる」。ハマス幹部に「次は自分か」と思わせる心理戦も狙いだったとヤトム氏は語る。
メシャル氏は97年9月25日、路上で何者かに液状の薬物をかけられ、昏睡(こんすい)状態に陥った。現地にいたモサド工作員8人のうち2人が治安当局に拘束され、ヤトム氏はヨルダン国王に謝罪。工作員釈放と引き換えに解毒剤を提供し、メシャル氏を死のふちからよみがえらせる。国家による暗殺は、先制攻撃の一種とされる。米シンクタンク・ランド研究所は、世界の先制攻撃の事例として同事件やイスラエルによるイラク原発空爆(81年)などを挙げる。この空爆で非難を浴びた当時のベギン・イスラエル首相は、国連憲章第7章51条に基づく自衛権の行使だと主張。これは後に「ベギン・ドクトリン」と呼ばれ、今では無人機による暗殺の正当化理論などとして世界的に採用されている。だが国連憲章51条の自衛権行使は本来、急迫不正の侵害▽他に手段がない▽必要な限度内−−が要件。その判断は非公開で、主観的、独善的になりやすく、拡大解釈や乱用の危険性を常に伴う。
http://mainichi.jp/articles/20170817/ddm/001/030/153000c
http://www.asyura2.com/17/kokusai20/msg/330.html#c1