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http://www.asahi.com/national/update/1006/005.html
長野県生坂(いくさか)村の東京電力生坂ダムで80年3月、同県麻績(おみ)村の会社員、小山福来(よしき)さん(当時21)が水死体で発見される事件があった。首や手足にロープが巻かれていたが、県警は「自殺」と処理し、公訴の時効も成立した。ところが、20年後の00年4月、覚せい剤取締法違反の罪で服役中の男(54)が「私が殺した」と告白した。再捜査の結果、県警は男の犯行と断定し、先月末、遺族に捜査の誤りを謝罪した。事件発生から23年6カ月がたっていた。
80年3月29日、ダムの管理事務所職員が放水後のダム底に小山さんの遺体を見つけた。手足が物干し用の青いビニールロープで縛られていた。しかし、松本署は司法解剖や聞き込み捜査の結果、自殺と断定し、捜査を打ち切った。
00年4月、覚せい剤取締法違反の罪で愛知県内の刑務所に服役中の男が犯行をうち明ける手紙を長野県警に郵送した。捜査員が男に面会、再捜査した結果、男が小山さんをロープで縛り、生きたままダムに投げ込んだと断定した。犯行に使われたと見られるロープを購入した店も特定した。
同署は今年9月30日、小山さんの母親(67)に初めて経緯を説明し、謝罪した。男の供述によると、80年3月1日、知人と2人で車に乗っていたところ、松本空港近くで女性と車に乗っていた小山さんとトラブルになった。女性を残したまま、小山さんを自分たちの車に乗せたという。
当時の捜査幹部によると、(1)ロープの縛り方が緩く、第三者が縛ったようには見えなかった(2)検視の結果、外傷はなかった(3)殺人につながる証拠が得られなかった――として、ダム上流から入水したと断定。ロープについても「水中でもがくのを防ぐために自分で巻き付けた」とみていた。
自殺を信じられなかった母親は、縛られていたロープを警察から提供してもらい、販売した店を特定するため雑貨店を回った。だが、有力な手がかりは得られなかった。
当時は長野、富山両県を舞台に、若い女性2人が相次いで誘拐され、身代金を要求、殺害された連続誘拐殺人事件があった。小山さんの遺体が発見された翌30日夜には、容疑者が逮捕されるなど、長野県警は連続誘拐事件に大規模な捜査態勢を敷いていた。
小口彰夫県警刑事部長は「当時の資料がなく、捜査員も辞めているため、再捜査に3年かかった。男から話を聞いたら、犯人しか知り得ない事実があったため、殺人事件と断定した。母親には申し訳ないことをした」と話している。
同県警は近く男を殺人容疑で書類送検する。事件から15年で時効が成立しているため、起訴はできない。
母親は「犯人が打ち明けてくれたのはありがたいが、何度も捜査するように訴えたのに、動いてくれなかった。なぜあの時、ちゃんと調べてくれなかったのか」と話している。 (10/06 03:00)