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(回答先: 世界をかける「MANGA」 若者の支持集め大衆文化の一翼に 投稿者 日経ネット記事 日時 2003 年 10 月 05 日 18:14:20)
http://parts.nikkei.co.jp/parts/net2/switchtab_we.html
マンガ界全体の構造改革を――マンガ・コラムニスト 夏目房之介さんインタビュー
《写真》夏目房之介さん
http://www.nikkei.co.jp/weekend/news/image/manga/natume2.jpg
NHK「BSマンガ夜話」でのシャープなマンガ批評が印象的な夏目房之介さんは、マンガの手法からその市場にいたるまで、幅広い調査を進めているマンガ研究の第一人者だ。海外におけるマンガの現状や旧作のリバイバルブーム、日本マンガ界が取り組むべき課題などを語ってもらった。
●「4強」の動きだけでは分からない海外動向
日本のアニメやマンガが、海外でも巨大なマーケットを形成しつつあると報道されることがありますが、それはもう少し詳しく検証する必要があります。
「ポケットモンスター」「ドラゴンボール」「美少女戦士セーラームーン」「AKIRA」、この4タイトルは海外でも高い人気を誇っており、ビジネス的にもそれぞれ大きな成果を収めています。
そしてこの「4強」以外は、どちらかというとマニアに支持されている傾向が強い。日本のマンガやアニメの熱心なファンたちです。かなり多くの作品が出ているものの、マニア一人で何種類ものマンガを買ったりしますから、そのすそ野はあまり広くはない。4強の動きだけに目を奪われても、逆にマニア受けしている部分だけをとらえても、全体像が見えているとはいえないわけです。
●アジア、米国、欧州――それぞれの受け止められ方
ひと口に海外といっても、もちろん国や地域によってその受け入れられ方は違います。アジア地域では、もともと欧米に比べ、若者や大人がマンガを読むことへの社会的抵抗は少なかった。また、決して良いことではありませんが、大量の海賊版がすでに出まわっていたことで、本格的に日本のマンガが乗り出していった時にはすでに下地ができあがっていた、ということもいえるでしょう。しかし、個人の可処分所得はやはり低い水準にあるため、どうしてもマンガに回すお金は少ない。それが少しずつ改善され、いよいよマンガも売れ始める、という時期に97年のアジア経済危機が起きた。そこでブレーキをかけられてしまった感はありますね。
現在多くの産業が注目しているように、中国はマンガにとっても大きな市場として期待されています。しかし、ビジネス的に見ると有望だが先が見えない、というのが正直なところでしょうか。人民元の為替レートが安いことを考えると、マンガという単価の低い商品を売ってもあまり収益を上げられるとは思えない。今はマンガの技術移転をしている段階ともいえます。器用な国民性ですから、そのうちに気付いたら日本より優れた作品を作り出していた、というようなことになるかもしれません。
米国では、かなり早い段階から英訳した日本のマンガは売られていたんです。しかし、あまり伸びなかった。その理由としては、米国の大衆文化特有の保守性や、コミック全般に対する“ややレベルの低い文化”という偏見があったことなども挙げられるでしょうが、やはりネックは何といっても流通でしょう。米国では、コミックは一般の書店ではなく、新聞を販売しているスタンドで買うほうが一般的です。そうすると、スタンドに差し込むことができる、薄い冊子でなくては置いてもらえない。そうしたことも含め、とにかくマンガを流通させるにあたっての障壁が多い。にもかかわらず、ポケモンのサクセスストーリーに影響されてか、米国で成功すればビッグビジネスになる、という期待は強く、多くの企業がこの市場に目を向けています。
しかし、「契約社会」ともいわれる米国でビジネスを展開するのは、相当にタフな仕事です。個人的には、まず欧州の市場で実績を固めて、それからハリウッドを頂点とする米国のコンテンツ市場に勝負を挑む、というほうが現実的ではないでしょうか。
欧州で、すでに成功を収めているのがフランス・ベルギー地域とドイツです。フランスには「バンド・デシネ」と呼ばれる独特のコミック文化があります。これは、絵のレベルが非常に高いのが特徴で、アート的な色彩の強いものといえるでしょう。日本で特に絵がうまいといわれる作家でも、その中に入ればかすんでしまうほどです。しかし半面、日本流のコマの展開で読ませるマンガに慣れている人には、ちょっと読みにくい印象もありますね。一方で、子供たちに親しまれているマンガとしては、ベルギー生まれのエルジェ(1907-1983)の「タンタン」シリーズなどが今なお人気を誇っています。しかしこの2つの中間にあたる層、思春期ぐらいの世代が読むコミックというのがありませんでした。そこに日本のマンガが入りこんだ、というのが成功の理由だと思います。
ドイツは、つい最近まで「コミック不毛の地」といえるほど、コミック文化に縁遠い国でした。ところが、96年から97年ぐらいに、突如としてコミックブームが起きたんです。ドラゴンボールやセーラームーンなど、日本のアニメが放送されたのがきっかけでしょうか。現地の出版社の人に聞くと、常識では考えられないほど部数が伸びたといいます。フランクフルトで開かれている世界最大の本の見本市「ブックフェア」でもマンガが取り上げられていますし、欧米では珍しく、日本のマンガを中心にした雑誌も販売されています。
●日本マンガは「すき間産業」だ
日本のマンガが海外で受ける理由の一つは、それが結果的に「すき間産業」になっている、ことにあると思います。さきほどお話ししたように、フランスではアート的なコミックと子供向けのコミックの間が抜けていて、そこに日本のマンガが入りこんだ。実は、米国でも似たような状況があります。戦後、過激な反共運動であるマッカーシズムの影響がコミックにも及び、ヒーローものを中心とした無難な内容のものばかりが残ったという事情です。思春期の若者が読むような作品は少なく、潜在的なマーケットは十分にあると言えるでしょう。
日本のマンガ業界では、例えば小・中学生のころは「少年ジャンプ」を読み、高校生になると「ヤングジャンプ」を読む、というように、各年齢層ごとにマンガが提供されています。ライフサイクルに対応したマンガの構造ができあがっているのです。ですから、ある国のコミックの対象年齢層に「すき間」があれば、それがどんな層であれ日本のマンガはそのすき間を埋める準備ができている。これは、海外進出における大きな強みです。
強みといえばもう一つ、やはりアニメーションとのかかわりを挙げずにはいられないでしょう。日本では、60年代ごろから、マンガとアニメの共闘体制ができあがっていました。この、メディアミックスの先駆けともいえる体制によって、お互いのマーチャンダイジングを支えるという構造があったために、まず海外にアニメを輸出し、それからマンガを輸出するという、国内の読者とは時間的に逆方向のコンテンツ提供も可能になりました。アニメなら、言葉の問題もクリアしやすいですし、ページを右に開くか左に開くか、といった細かい問題も発生しない。それに子供のころ見たアニメというのは強烈に印象に残りますからね。日本のマンガにとって、アニメとの関係は実に幸せなものだったといえるでしょう。
●旧作の再発売イコール新作の枯渇ではない
最近、旧作を文庫や、コンビニ向けの廉価版、高価な愛蔵版などにして再発売する動きが活発です。これを、新しい魅力的な作品が出なくなったからだと見る向きもあるようですが、僕はそうは思いません。優れた作品は確実に生み出されています。むしろ、繰り返し読まれるべき名作や、長く親しまれる力のある作品が、その登場の機会を得やすくなったと考えれば、歓迎すべきことではないでしょうか。少なくとも、読者の立場としてはたくさんの作品に出合える豊かな時代になった、といえると思います。
むしろこの動きから読み取るべき重要なポイントは、これまで性別や年齢層によって大雑把(おおざっぱ)に分類できた読者層が、流動性を高めているということだと思います。児童マンガ、少年マンガ、青年マンガ、成人マンガと読み進んできた人たちが、また少年マンガを読んだり、あるいは男性が少女マンガを読んだり、といった具合です。マンガの消費構造が確実に変わっていることを出版業界もよく認識して、自らの構造改革を進めていかなくてはならないでしょう。
どうも出版業界は、消費者ニーズを汲み上げることが伝統的に苦手な側面があります。しかし今後はより読者が便利なように、流通の体制や最新技術の導入を進めていくべきです。現在の廉価版は古書店対策のようなところがあり、一過性のものだとみていますが、コンビニという拠点は大いに活用すべきでしょう。インターネットもそう。さらに、電子ペーパーのようなテクノロジーを使った新しいメディアの開発なども面白いものになるのではないでしょうか。もっともその場合にも、「ページをめくる」といった、マンガを楽しむのに不可欠な感覚は、うまく再現してほしいですね。
●マンガ界全体で構造改革を
出版会社だけでなく、マンガ界全体の構造改革を進めることも必要です。これは何といっても、マンガ家にもっとリターンがあるような構造にすることを考えるべきです。ほとんどのマンガ家は低収入にあえいでいますし、それは人気作家といわれるようになっても変わらない場合が多いのです。それではマンガ界の発展性は期待できないではありませんか。
行政も、日本のコンテンツ産業の重要な部分をマンガが占めていることは認識しているようです。各種の賞などが設けられたりしていますが、より実効性のある振興策が必要です。例えば、産業でいえば基礎研究に当たる部分です。マンガがどのような構造、手法で成り立っていて、それがどうして面白さを生むのか、といった研究をしている人は、僕を含めてごく少数しかいません。また、マンガを日本の輸出産業と位置付けるなら、各国のマーケットや商慣行がどうなっているのか、どうしたら参入できるのか、ということも徹底的にリサーチすべきです。こうした研究分野に、もっと力を注がなくてはいけません。
今後、マンガ界がどうなっていくのか、それは誰にも分かりません。テクノロジーや経済とも密接にかかわってくる問題であり、予想することは極めて難しい。しかしこれらの改革を成し遂げなくては、日本のマンガが衰退していくことだってあり得ない話ではありません。もっともそうなったら、日本という枠組みにこだわらず、海外のクリエーターやビジネスマンともボーダレスに連携して、いい作品を生み出していけばいいんです。面白いマンガが読めること。それが一番大事なのですから。
<なつめ・ふさのすけ>
1950年東京生まれ。青山学院大学卒。出版社勤務後、マンガ、エッセイ、マンガ評論などを執筆。マンガ評論の著書に「手塚治虫はどこにいる」「手塚治虫の冒険」(筑摩書房) 「マンガ 世界 戦略」(小学館)「マンガはなぜ面白いのか」(NHK出版)ほか多数。エッセイに「これから」(講談社)「あっぱれな人々」(小学館)など。
夏目漱石の孫であり、「漱石の孫」(実業之日本社)も著した。96年よりNHK衛星放送「BSマンガ夜話」にレギュラー出演。99年、マンガ批評への貢献により朝日新聞社手塚治虫文化賞特別賞受賞。同年、国際交流基金主催「現代日本短編マンガ展」を企画構成、欧州各地を巡回。近年は海外のマンガ事情を調査研究し、世界各地で講演も行っている。
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