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※2024年8月16日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字起こし
※紙面抜粋
※2024年8月16日 日刊ゲンダイ2面
再登板狙いで一回休みか(C)共同通信社
これまで変わらなかった政党がなぜ、岸田が退き、別の顔になると変わるのか。すべてが自己保身の目くらましだが、候補者の顔ぶれを見ても、裏金問題に頬かむりしてきた面々ばかり。派閥の暗躍も相変わらずで、自民党は一回、解党以外に再生の道なし。
◇ ◇ ◇
どこまで行っても保身しか頭にない岸田文雄首相(67)の唐突な退陣表明により、号砲が鳴った自民党総裁選が本格化している。15日の閣議と閣僚懇談会を終えた後、岸田が「総裁選に名乗りを上げることを考えている方もいると思う。気兼ねなく、閣僚としての職務に支障のない範囲で堂々と論戦を行ってほしい」と呼びかけたとかで、くびきが解けた途端に「われもわれも」状態だ。
3年前の総裁選決選投票で岸田に敗れた河野太郎デジタル相(61)が会見で「非常に多くの閣僚を経験し、今の日本が抱えている大きな課題を担当してきた。いつか、この経験を生かせる日が来ればというふうに思っている」と言えば、同じく再挑戦となる高市早苗経済安保担当相(63)は靖国神社参拝後に「日本を強く豊かにし、次世代に引き渡す使命を負っている」とタカ派むき出しで前のめり。横死した安倍元首相の路線の継承を強調した。キングメーカー気取りの麻生太郎副総裁(83)の放言でスポットライトを浴び、化けの皮が剥がれた感のある上川陽子外相(71)も「何をすべきか熟慮した上で決断し、行動に移す覚悟だ」と言い出し、世間的には無名の斎藤健経産相(65)までもが「(出馬を求める)声を真剣に聞かないといけない」などと意欲をにじませた。
向こう1カ月はお祭り騒ぎ
世論人気は断トツの石破茂元幹事長(67)はすでに「私のような者でも一緒にやろうという方々が20人いれば、ぜひとも総裁選に出馬したい」と言っていて、党ナンバー2の茂木敏充幹事長(68)も麻生に出馬意向を伝えたという。正式な立候補には推薦人を20人集める必要がある。何人が本選に出るかは別として、雰囲気だけは百花繚乱だ。
ジャーナリストの青木理氏はこう言う。
「自民党というのは、本当にしぶとい。思想信条なし、理念なしの選挙互助会の本領を発揮し、向こう1カ月はお祭り騒ぎを繰り広げ、裏金事件をはじめとする金権腐敗に対する嫌悪感を吹き飛ばそうというのでしょう。野党第1党とは良くも悪くも力量が違う。もっとも、世論が求める政治改革を断行する意思を持つ人物は見当たらない。誰がポスト岸田の座を射止めても、自民党は変わらないでしょう」
直前まで揺れていた岸田が総裁選不出馬の理由に挙げたのが、銃撃事件につながった統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との半世紀を超える癒着、そして裏金事件が招いた国民の政治不信だ。被害者救済法を成立させ、政治資金規正法改正にも手を付けたが、内閣支持率は上向かない。賃上げ、原発再稼働、少子化対策、防衛費倍増、G7広島サミット開催、日韓関係の改善などなど、イイコトをたくさんやっても、ちっとも評価されない--。岸田の発言を丸めると、そんなところ。にっちもさっちも行かず、「総裁選では自民党が変わる姿、新生自民党を国民の前にしっかりと示すことが必要」「自民党が変わることを示す最も分かりやすい最初の一歩は、私が身を引くこと」となったわけだが、岸田が前回総裁選で「生まれ変わった自民党をしっかりと示す」と約束してから3年。これまで変わらなかった政党の顔をすげ替えただけで、なぜ変わると言えるのか。最後まで嘘八百だ。
推薦人20人は同志か、烏合の衆か
あれから3年(C)J MPA
政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。
「岸田首相の言葉を引けば、自民党再生の第一歩を踏み出すべく、退陣を決断した。再生とは、要するに改革です。誰にその後を託すのか。誰なら実現できるのか。疑似政権交代だとか、疑似リセットでごまかされたらたまらない。推薦人20人の顔ぶれも重要です。改革を志向する同志の集まりなのか、数合わせの烏合の衆なのか。クリーンな20人を集めるのは至難の業です」
刷新感を打ち出したい中堅・若手から待望論がある「コバホーク」こと小林鷹之前経済安保担当相(49)は推薦人の確保にメドが付いたようだが、大臣室で口利きワイロをポケットに入れた甘利明前幹事長のひも付きだ。
しかも、ゴリゴリのタカ派。一体どんなメンツをそろえたのか。若手枠のお株を小林に奪われつつある小泉進次郎元環境相(43)は、菅義偉前首相の推し。続投を阻まれた恨み骨髄で「岸田降ろし」の急先鋒だった菅の手持ちカードではあったが、岸田退陣で情勢は変わった。「今回は見送る公算大だが、コバホークに先を越されたら『進次郎総裁』の目はなくなる」(永田町関係者)なんて言われている。
菅政権で官房長官を務めた加藤勝信前厚労相(68)、事実上温存している岸田派ナンバー2の林芳正官房長官(63)、3年前の総裁選に滑り込み出馬した野田聖子元総務相(63)の立候補も取り沙汰されているが、裏金問題に頬かむりしてきた面々ばかりだ。
懸念される改憲の争点化
とりわけ茂木をめぐっては、政治資金を移動させ、使途を分かりにくくさせるマネーロンダリングさながらの手法で裏金をつくっていた疑惑がある。党政治刷新本部の本部長代行に就きながら、超が付くほど消極的だった。進次郎も幹事だったが、口先だけ。当初は「中途半端な結論になれば刷新にはならない」と威勢がよかったが、「派閥から人事と金を切り離したという決断がいかに自民党の運営にとって大きいことか」と尻すぼみ。石破にしても、裏金問題に言及したのは国会の外だけ。この総裁選は悪あがきの政治ショーだ。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう指摘した。
「裏金問題に決着をつけない限り、買収の温床を絶つことはできません。国民の審判から何としても逃れようと仕組む自民党にメディアが加担する懸念と同時に、改憲が争点化する危惧を感じています。岸田首相は先週、党憲法改正実現本部で自衛隊の明記について今月中に論点整理を行うよう指示し、会見でも〈自衛隊の明記と緊急事態条項について、条文の形で詰め、初の発議までつなげていかなければならない〉と発言した。この国に9条がある限り、米軍と自衛隊が一体化し、海外で戦争する理論づくりは非常に難しい。集団的自衛権の行使を容認した第2次安倍政権以降、軍国化が進められていますが、9条は最後の歯止めになっている。ですが、高市氏や小林氏は言うまでもない改憲論者で、石破氏についても戦力不保持をうたう9条2項を削除した上で、自衛隊を『国防軍』に改めて明記すべきとの主張。総裁選を足がかりに焼け太りしはしまいか。そうなれば、岸田首相は身を引いたことで改憲議論を前進させた総裁として、自民党のレジェンドになりかねない」
そうでなくても、岸田は再選のお墨付きを与えなかった麻生に対抗する構えで、キングメーカーの座を奪いにかかっている。つまり、派閥の暗躍は相変わらず。自民党は解党以外に再生の道はない。
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