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自民党の裏金事件は「脱税」にあたる重大犯罪 企業・団体の献金禁止こそ
全国商工団体連合会 第3590号 2024年2月12日付
https://www.zenshoren.or.jp/2024/02/12/post-30501
立正大学特別研究員・税理士 浦野 広明さん
岸田首相は、自民党の政治資金パーティーの裏金事件を巡り、岸田派の元会計責任者が政治資金規正法違反の疑いで東京地検特捜部から立件されたのを受けて、記載漏れは「事務的なミスの積み重ね」と釈明し、収支報告書を修正しました。しかし、この問題は“裏金の記載漏れ”を事務的に修正すれば済むのでしょうか。キックバックされた裏金の税務上の問題点を、立正大学特別研究員で税理士の浦野広明さんに解説していただきました。
政党や政治団体は政治資金パーティーで利益を得る。パーティー券は、1枚およそ2万円で売られ、ここから得られる利益が政治団体の収入になる。政治資金パーティーについては政治資金規正法において規定されており、政治団体が政治資金パーティーを開催した場合、対価にかかる収入、支出などについて政治資金収支報告書に記載した上、総務省および都道府県選挙管理委員会に提出することになる。
1.政治資金パーティー
政治資金パーティーは原則として政治団体によって開催されるものであるが、政治団体以外の者が開催することも禁止されていない。この場合、開催しようとするパーティーが1千万円以上の収入が見込まれるものであれば、開催者は政治団体とみなされ、政治団体としての届け出や収支報告書の提出が義務付けられる。
他に、@一つの政治資金パーティーにつき、20万円を超える支払いをした者については、氏名、住所などを収支報告書に記載しなければならないA一つの政治資金パーティー当たりの収入が1千万円以上のものを開催した場合、パーティー名、収入金額、対価の支払いをした者の数などを収支報告書に記載しなければならないB一つの政治資金パーティーにつき、同一の者が支払うことのできる金額は150万円までであるC案内状やパーティー券などに「この催し物は、政治資金規正法第8条の2に規定する政治資金パーティーです」などと記載しなければならない。
2.政党の納税義務
政党は、法人格の有無により「公益法人」とみなされるか「人格のない社団」となる(政党等に対する法人格付与法〔略称〕13条)。
法人税法は「収益事業」(同法2条13号)を行う公益法人や人格のない社団について法人税を課すこととしている。
3.自民党の政治資金パーティー
自民党の政治資金パーティー(裏金集会)の税金問題は、自民党の派閥が「裏金集会」の収支について、@政治資金規正法による政治資金収支報告書への過少または不記載A派閥の所属議員が、販売割当額を超えて集めた収入を「裏金」として着服すること―を組織的に続けてきたもので、以下に挙げる脱税に当たる重大犯罪である。
(1)法人税
利益率が8割前後にもなる裏金集会は、法人税法が規定する収益事業のうちの、イベントなどを行う「興行業」に該当し、利益(所得)に法人税、法人住民税・事業税が課される。
(2)所得税
裏金は全額が雑所得として所得税、住民税が課される。
(3)消費税
消費税の納税義務は、事業者が事業を行っている場合に課税されるのであり、当然、裏金集会は興行業という事業であり、課税される。
(4)附帯税(地方税は附帯金)
延滞・重加算税(金)が課される。
(5)課税期間
裏金集会に係る課税は偽計行為によるものであるから、7年間課税される。
(6)脱税の刑事罰
偽計行為により脱税した場合、所得税法第238条、法人税法第159条および消費税法第64条によって「10年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金またはこれを併科」に処される。
(7)罰せられるのは国会議員
裏金集会について、会計責任者がやったことだという議員がいるが、とんでもない。会計責任者は単なる名義人であって、背後にある実質の集会主催者は議員である。責任を問われるのは議員、それが法的実質主義の適用である。
(8)国税庁の義務
課税庁は、国税の犯則調査により、犯則があると思料するときは、検察官に告発する必要がある(国税通則法第155条)。
(9)検察官の責任
課税庁が検察官に告発することにより、犯則調査の段階で作成された調書、差し押さえ物件や、その目録等は、検察官に引き継がれる(国税通則法第159条)。検察官は、刑事訴訟法に基づき、刑事事件として捜査し、検察官が起訴(公判請求)しなければならない。
4.企業・団体献金
日本の政党の大部分は、企業、地域社会、労働組合、宗教など、さまざまな集団と深く結びついている。「企業も社会的存在」「献金は市場経済体制を守るため」などといわれる。
企業や団体の行う政治献金の裏には、利益誘導がある。政治献金と「見返り政治」は表裏一体である。
企業等の政治献金は、実質的に見るなら、企業等の参政権(政治に参加する権利)行使である。実際には政治献金の方が、投票権の行使以上に大きな力を発揮する。国民主権の日本国憲法の下では、参政権は主権者である国民のみが有する権利である。憲法は、「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と議会制民主主義をうたっている(第41条)。企業等が行う政治献金の許容は、主権者である国民の参政権を侵害し、憲法の議会制民主主義を形だけのものとする。そこでは、「国民主権」ではなく、企業等寄りの議員により「企業等主権」の政治が行われ、議会制民主主義が侵される。
政治の金権腐敗を一掃するカギは、企業・団体献金を禁止し、企業・団体と政治家の、カネで結ばれた関係を断ち切ることである。企業・団体から政治家に贈られるカネは、それが違法な「ヤミ献金」である場合はもちろん、たとえ現行法上「適法」なものであっても、民主政治の原則をねじ曲げ、国民に大変な害悪をおよぼす。もちろん、カネを受け取る側だけでなく、贈る側も厳しく規制する必要がある。
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