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※紙面抜粋
※2024年7月25日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
岸田首相も茂木幹事長も総裁選で頭がはいっぱい(新たな疑惑浮上の堀井学衆院議員=右)/(C)日刊ゲンダイ
「とうとう出たね。。。」──ダウンタウンの松本人志じゃないが、案の定だ。選挙区内の有権者に香典を渡したとして公選法違反容疑で東京地検特捜部の強制捜査を受けた堀井学衆院議員(自民離党=比例北海道)に、新たな疑惑が浮上した。安倍派から還流された裏金のうち数百万円を私的流用した疑いがある。
堀井は2018〜21年、計2196万円のキックバックを受け、政治資金収支報告書に記載せず裏金化。一部の現金約500万円は、堀井自身が東京から北海道に運び出し、地元事務所で管理していたとされる。
これまで堀井は自ら運んだ裏金を「秘書から教えられてキックバックの金と知った」とし、「事務所の維持費や支援者との交際費に使った」などと説明。2月に20〜21年分の裏金計1086万円を収入として、資金管理団体「ともに歩き学ぶ会」の収支報告書に追記・訂正した際には、全額を「使途不明金」として計上していた。
ところが、堀井の説明は全くのデタラメ。「使途不明金」とはよく言ったもので、裏金は香典の原資となった疑いだけでなく、堀井本人のスーツ代や靴代、クリーニング代のほか、2年前には自身のXに「サウナー歴36年」と投稿した趣味のサウナ利用代にも流用していた疑いが、新たに判明したのだ。
事務所内でいさめる声があったものの、堀井は経費として扱うよう求めたというから、盗人猛々しい。裏金は結局、堀井がサウナで流したドロドロの汗と共に消えていたわけで、自民党が実施した裏金議員への党内調査が実にいい加減だったと改めて証明された。
夏休み返上で党内調査をやり直せ
岸田自民党は派閥裏金事件を受け、2月に所属国会議員を対象にしたアンケート調査を実施。A4の紙ぺら1枚に、設問は「記載漏れの有無」「記載漏れがあった場合の金額」の2つだけ。いつ誰が何にいくら使ったのか、実態を解明する気はゼロで、単なるアリバイ調査に過ぎなかった。
同時に匿名を条件に裏金議員ら92人の聞き取り調査を行ったが、こちらの報告書も裏金の使い道は「会合費」「車両購入費」「人件費」などと項目でのみ説明。「政治活動費以外に用いた、違法な使途に使用したと述べた者は一人もいなかった」と総括したが、こんな形だけの調査をうのみにするバカはいない。
いくら身内同士の甘い匿名調査とはいえ、「ハイ、確かに裏金を違法に使いました」と正直に告白し、外に漏れれば刑事訴追が待っている。“裏金サウナ”の堀井を含め、真相を打ち明けるマヌケはいないし、聞き出せるわけもなかった。
それでも岸田首相は国会などで「検察が捜査を尽くして得られた事実」と強調しながら、「政治活動以外への使用、違法な使途は把握されていない」と繰り返し強弁して、再調査を拒否。改正政治資金規正法とは名ばかりの抜け穴だらけのザル法成立でお茶を濁し、裏金事件の幕引きを狙ったのである。
しかし、岸田が言い訳の材料に使った「検察の捜査」の結果、党内調査と矛盾する「違法香典」と「私的流用」の疑いが、とうとう噴出したのだ。調査が真っ赤なウソだった以上、やり直しがスジ。夏休み返上で裏金の全容解明に努めるべきだ。
この期に及んで自分の生き残りが最優先
なぜか注目の的(菅前首相)/(C)日刊ゲンダイ
実際、堀井以外の裏金議員にも私的流用が行われている可能性は十分にある。本紙の調べでは、世耕弘成前参院幹事長(自民離党)が裏金1542万円の一部を原資に「ドンペリ」など高級シャンパンやワインを買い漁り、収支報告書に「贈答品代」として計上。金額は21〜22年の2年間で45万6030円に上る。
ほかにも22年7月には高級万年筆で知られるモンブラン銀座本店で5万3900円分の「贈答品」を購入。報告書に添付された領収書の宛名は「世耕弘成」の個人名義だ。いずれも地元選挙区・和歌山の有権者に贈っていれば、堀井の香典と同じく公選法違反罪(寄付の禁止)に問われかねない。プライベートの支出を政治団体に振り替えていたら政治資金規正法違反の疑いが生じる。
ちなみに「裏金ドンペリ」の1本は、21年12月24日に購入したもの。仮に世耕本人がイブの夜に誰かとグラスを傾け、裏金が「泡」と消えていたとすれば、ロコツなまでの私的流用となる。
また、杉田水脈衆院議員(比例中国)も裏金1564万円の一部を地元選挙区内のカラオケスナックに支出し「政治活動費」に計上していた。22年3月の自民党大会に出席後、都内からトンボ返りし、1万6000円を支払い、領収書は宛名ナシの空白だ。杉田は自身のXで「アニソン好き」を公言。趣味のカラオケに興じた支出を「政治活動費」と呼ぶには相当ムリがあり、堀井のサウナと同様に私的流用を疑う余地はある。
「裏金は政治家個人の雑所得とみなし、課税すべきです。しかも、堀井氏のような裏金の私的流用は、不正行為の伴う所得隠しであり、より悪質。『1000万円以下の罰金、または10年以内の懲役』の懲罰を科すべきケースです。『国民は増税、自民は脱税』では示しがつきません。検察当局もこの点を重視して、捜査を尽くしてほしい」(立正大法制研究所特別研究員の浦野広明氏=税法)
下野だけが金権腐敗の解決手段
いくら「汗」と「泡」に消えた裏金のデタラメ使途が暴かれようが、自民党に自浄能力を期待するだけムダだ。
9月の総裁選まで2カ月を切り、「岸田降ろし」を画策する面々の水面下の動きが連日、報じられるようになったが、重鎮が誰を推すとか、誰と誰が会食したといった類いの記事ばかり。党内の誰からも裏金事件の全容解明を求める声や、失われた信頼を取り戻す「政治とカネ」の抜本的な改革プランは出やしない。
世論調査では「次の首相候補」ナンバーワンの石破茂元幹事長や、現職閣僚では河野太郎デジタル相と高市早苗経済安保相が出馬への意欲を見せ、若手・中堅議員からは小林鷹之前経済安保相や斎藤健経産相らを擁立する動きも伝わってくる。
石破か河野か、やはり本命は小泉進次郎元環境相か、はたまた加藤勝信元官房長官か--と、なぜか非主流派の菅義偉前首相が誰を担ぐのかにも注目が集まり、論外とはいえ、本人はやる気満々の茂木敏充幹事長を含め、「ポスト岸田」として取り沙汰される候補の名前は次から次だ。
候補者乱立の総裁選になりそうだが、投票権を持つ自民党議員たちの評価基準は「誰なら選挙の顔として票が取れるか」が最優先。この期に及んでも皆、自分の生き残り策しか考えていない。「刷新感」のあるリーダーに代われば、きっと総選挙も乗り切れるとタカをくくっているのだ。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言った。
「金権腐敗の解決法として派手な総裁選を演出するのが、自民党政権延命の常套手段です。今回も総理・総裁という『選挙の顔』をすげ替え、裏金批判をそらすつもりでしょう。しかし、本の表紙だけを替えてもダメ。いくらトップを取り換えようが、金権腐敗体質を絶対に変えたくない議員が支えている以上、自民党の本質は大きく変わりようがない。裏金事件を巡る一連の自浄能力に欠けた動きで、国民もそのことはよく分かったはずです。今度ばかりは総裁選のバカ騒ぎで有権者をゴマカしきれません。総選挙で自民を下野させることが、唯一の金権腐敗の解決手段なのです」
大体、小選挙区制で執行部に選挙資金も公認権も握られているとはいえ、自民党内にまともな政治家がいれば、とっくに党を割っている。乱立総裁選は裏金幕引きの目くらまし。決して茶番劇に惑わされてはいけない。
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