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※紙面抜粋
※2024年7月18日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
A級戦犯コンビ(C)日刊ゲンダイ
実質賃金は26カ月連続のマイナス。庶民生活を苦しめる超のつく円安・物価高。その元凶はやっぱり──。日本経済を誤った方向に導いた「通貨の番人」の10年前の議論の中身が明らかになった。
日本銀行が16日に公開した2014年1〜6月の金融政策決定会合の議事録のことである。決定内容は会合終了直後、議事要旨も約1カ月後に公表されるが、詳細なやりとりを記した議事録は10年後に半年分ずつ公表される。それで、14年上半期分が明らかになったのだが、当時の黒田東彦総裁以下、9人のメンバーが、物価や消費の先行きについて、驚くほど大甘見通しを展開しており、衝撃だ。
黒田日銀は13年4月に異次元の金融緩和策を始めた。第2次安倍政権の経済政策、アベノミクスの3本の矢の1本目だ。「2年程度で物価上昇率2%」を目標として、国債を大量購入するなど、市中にジャブジャブと資金を流す。金融市場は円安・株高に沸き、消費者物価指数も14年1月には1%超に上昇した。だが、それは一瞬のことだった。
黒田バズーカからちょうど1年後。14年の4月に消費税率が5%から8%へ引き上げられると雲行きが怪しくなる。決定会合の議論は、消費増税の影響をどう見るかが主要テーマだったようだ。
リフレ派の錯覚と思い上がり
同年4月30日の会合で岩田規久男副総裁は、物価上昇率2%の目標達成について、「確実性はむしろ高まっている」と手応えを口にしていた。6月13日の会合では、中曽宏副総裁が消費増税の影響について「想定の範囲内」と発言。多くの委員も「想定したメインシナリオに沿って推移している」と楽観的で、黒田総裁が「消費税率引き上げ以降も物価の基調に変化はない」と総括していた。
一方で4月や6月の会合では、「(実質所得減少が)消費の基調に影響するリスクがある」(白井さゆり審議委員)、「円安の効果が徐々に剥落していく可能性が高い」(木内登英審議委員)、「(2年で2%の実現は)不確実性が大きい」(佐藤健裕審議委員)と、3人が慎重な見方を示していたものの重視されなかった。そこには、アベノミクスの失敗を認めたくないばかりに反論を封じ込めた疑念すらある。
結局、その後どうなったか。14年の夏以降、増税の影響で消費は低迷、原油価格の急落もあり物価上昇率は鈍化した。
想定シナリオに狂いが生じてきたことを糊塗するため、黒田日銀は14年10月に追加緩和に踏み切る。さらに16年には、禁じ手のマイナス金利や長期金利を0%に誘導し、金利全体を低く抑えるYCC(イールドカーブ・コントロール)にも踏み込む。それでも「2%」の目標は達成できず、異次元緩和が長期化し、今に至る円安地獄の道へ突き進んだのである。
経済評論家の斎藤満氏はこう言う。
「消費税率が上がっただけで萎んでしまうインフレなんて、根っこのある確固たる物価上昇ではなかったということです。議事録にあるような、2%達成に自信を持つほどの根拠はなかったのに、金融緩和の効果が出ていると錯覚してしまった。金融緩和が万能だと信じるリフレ派の思い上がりで、経済を歪め、副作用を招いた責任は大きい」
「安倍2015年体制」で日銀から正常な議論がなくなった
為替介入しても…(C)日刊ゲンダイ
つまり、アベノミクスの異次元緩和は、ハナからうまくいくはずがなかったのだ。
金融緩和でインフレを起こそうというのが邪道。中央銀行が世の中に出回るお金の量を増やし、インフレ期待を高めることで、人々が「物価が上がる前に」と消費を増やし、その結果、物価も上昇するというのが「リフレ派」の考え方だ。
しかし、賃金が上がらない状態で、ない袖は振れないから消費は増えないし、物価も上がらない。当時、そういう至極当たり前の議論が、一部のアベノミクス反対派のものとされ、政府・日銀を筆頭に、反対意見に耳を貸すことなく、「楽観論」だけが広がった。
それはなぜか。当時からアベノミクスに批判的だった淑徳大大学院客員教授の金子勝氏(財政学)は、「安倍元首相がつくった2015年体制が元凶」とするアプローチから、公表された日銀の議事録を読んだという。
「安倍政権は憲法を無視して、閣議決定で集団的自衛権の行使を認め、2015年に安保法を成立させた。これは静かなクーデターでした。途上国のクーデターでは、通貨と中央銀行と国営放送を握るのですが、安倍政権は同じことをやった。日銀総裁や内閣法制局長官、NHK会長に『お友だち』を置き、“安倍独裁”の道筋をつけたのです。2015年前後のクーデターは、日銀を巡っても起きていました。本来、中立的であるはずの日銀総裁や副総裁、審議委員の多数が、安倍氏の意をくむリフレ派で固められたため、正常な議論ができなくなってしまったのです。批判的な議論をできない安倍政権の下で、日銀の議事録が『楽観論』に包まれているのは当然の帰結です」
臭いものにフタして隠蔽
「民主主義」という装置のチェック機能がきちんと働いていれば、「2年で2%の物価上昇率」の目標を達成できなかった15年4月のタイミングに、日銀の会合で反省や見直しの議論が行われたはずである。だが、異論のないまま、追加緩和を繰り返し、マイナス金利にまで突入した。
「肺炎にかかっている日本経済で、1錠飲んでも効かない風邪薬をひと瓶飲んじゃった」(金子勝氏=前出)
そうして、10年前に1ドル=100円程度だった日本円は、160円まで価値を下げた。円安効果で自動車を筆頭に輸出大企業が最高益を更新する一方で、国民は「安いニッポン」「貧しいニッポン」を思い知らされる日々だ。
インバウンド客は世界中から押し寄せるのに、日本人は夏休みでも、費用が高すぎて海外旅行に行けない。大学生は留学も諦めざるを得ない。だからといって、国内旅行もやすやすとは予約できない。ホテル代など宿泊費が高騰しているからで、生保のアンケート調査では5割近くが夏休みを「自宅・自宅周辺で過ごす」と答えている。岸田政権や連合が胸を張る5%の賃上げも、4万円の定額減税も、物価高の前に吹っ飛んでしまった。
政府・日銀は、1ドル=160円近辺を防衛ラインに為替介入を繰り返す。GWの大型連休中に約10兆円を使ったのに続き、今月11、12日に2日連続で介入し、計5兆円規模が投入されたとみられている。だが、介入は一時しのぎの対症療法にすぎず、日米の金利差がある限り、焼け石に水だ。気づけば今や、日本円は世界最弱通貨へまっしぐらである。
「金融緩和を続けて円安を加速させる一方で為替介入をするのは、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなものです。いたずらに外貨準備高を使うだけで意味がありません。10年続く異次元緩和の結果、円安で産業界をぬるま湯にして、日本経済を凋落させた責任も日銀にはある。しかし、この国の悪いところで、臭いものにはフタをして隠蔽。失敗を認めず、反省なくして、日本経済は前に進めるはずがありません」(斎藤満氏=前出)
こんなどうにもならない円安地獄に誰がした。無意味な為替介入ではなく、今こそ、アベノミクスの断罪が急務だ。「好循環」「トリクルダウン」などと甘い言葉をささやいた詐欺師たちに、落とし前をつけてもらわねばならない。
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