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※紙面抜粋
※2024年6月20日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
3年ぶりの開催に、正論ぶつけても「時間のムダ」(党首討論の岸田首相と立憲民主の泉健太代表=左)/(C)日刊ゲンダイ
「禁止、禁止、禁止は気持ちいいかもしれない」──。岸田首相の開き直りにア然とさせられた。19日、3年ぶりに国会で開催された「党首討論」。岸田は立憲民主党の泉代表に対し、企業・団体献金や政治資金パーティー、政策活動費の禁止を訴える立憲の政治姿勢を冒頭の言葉でアテこすってみせた。
さらに「政治資金は民主主義を支える重要な要素。政治にはコストがかかるのは当然だ」と続け、「禁止、禁止、禁止で全て禁止してしまって、こうした現実を見ることがない。こういった案ではあってはならないという思いで(政治改革に)取り組んでまいりました」とまで言ってのけた。
いくら裏金にまみれた盗人集団のカシラとはいえ、盗人猛々しいにもほどがある。
党首討論に先立ち、午前の参院本会議で改正政治資金規正法が成立。法改正は前代未聞の自民党派閥の裏金事件がきっかけだ。「裏金国会」さながらに議論を進めても張本人の盗人集団は反省ゼロ。盗人どもに自分たちを取り締まる法づくりは無理な話で、案の定、自民が仕上げた改正法は抜け穴だらけだ。
いったい岸田が見つめた「現実」とは何なのか。自民議員80人超が「政治にはコストがかかる」との言い訳に甘え、国民に隠れてコソコソ裏金づくり。2022年までの5年間だけで、安倍・二階・岸田3派の裏金は総額9億6000万円。うち6億7000万円も密かに蓄財した安倍派では20年以上も悪しき慣習を続け、裏金の総額は数十億円に達しても不思議ではない。
この「現実」を直視すれば「臭いニオイはもとから絶たなきゃダメ」という古いCMじゃないが、裏金の原資である政治資金パーティーを禁じなければダメ。「現実」が見えていないのは岸田の方である。
「検討、検討、検討」の連続でウヤムヤに
裏金事件の再発防止に本気なら「政治にはコストがかかる」なんて口が裂けても言えないはず。それでも言い張る気なら「カネのかからない政治」のための議論をとことん尽くし、もう絞り切れないほど切り詰めてからにしてほしい。
でなければ「また裏金をつくります」と宣言したも同然。「政治にはコストがかかるのは当然だ」という岸田の強弁は、裏金づくり死守の「現実」をごまかす言い逃れに過ぎない。まともに政治改革に取り組むつもりなどハナからないのだ。
その証拠に改正規正法には「検討」項目がズラリ。先送りのオンパレードだ。例えば政党から党幹部に渡り使途公開の義務がない「政策活動費」。この事実上の裏金の見直し項目は、10年後の領収書の公開範囲や黒塗りの可否、年間の支出上限額、支出が適正かをチェックするための第三者機関の設置時期と権限など、ことごとく付則に「検討」と盛り込んだだけ。まさに抜け穴だらけだ。
他にも政党支部に寄付し、所得税の優遇措置を受ける脱税まがいの手口を封じる策も「検討」どまり。安倍派の菅家一郎衆院議員が裏金を原資に税優遇を受けて猛批判を浴び、平井卓也広報本部長が「同じことをしている議員はたくさんいる。ルールをつくるべきだ」と居直っても、平気の平左で先送りである。
岸田の国会答弁も「禁止、禁止、禁止」ならぬ、「検討、検討、検討」の連続。どんな場で議論し、いつまでに結論を出すのかは一切、答えようとしない。しょせん自民党の辞書では「検討」の意味は「ウヤムヤ」の代名詞。30年前の「平成の政治改革」の際、規正法の付則に盛り込んだ政党への企業・団体献金の「5年後の見直し」だって、自民はほごにしたまま。今回の改正法には一切、言及していない。
裏金死守の逃げ切りにたまるストレス
数の多さに任せてあっさり可決(C)日刊ゲンダイ
「0点どころか、マイナス点しかつけられません」と、改正規正法を評価するのは神戸学院大教授の上脇博之氏だ。裏金事件の端緒を開いた彼の目には「裏金奨励法」に映るという。こう続けた。
「改正法の本丸は裏金事件の再発防止で、自民党も罪を認めていたはずです。億単位に上る裏金の原資はパー券収入であり、その買い手の多くは自民の後援企業。しかし、企業側には事実上の企業献金であるパー券購入額の公開義務はなく、確認のすべは、あくまで派閥や議員側の収支報告書の記載を信じるしかない。企業・団体献金も同様で、国民のクロスチェックは閉ざされ、派閥や議員の“正直申告”に頼るしかなかった。その大前提すら、パー券収入の不記載という裏金事件で崩壊したのです。信頼が地に落ちた以上、政治資金パーティーや企業・団体献金の禁止しか、裏金を防ぐ道はない。そこが手つかずのままですから、今後も裏金はつくりたい放題です」
裏金温存の悪法成立に、多くの国民は納得していない。あらゆる世論調査で改正規正法を「評価しない」は7割に上り、NHK調査だと「評価する」はたった3%。朝日新聞の調査では再発防止に「効果はない」が77%に達した。
岸田政権と自民党の支持率もジリジリ下がり、共に2割を切る結果も目につく。これだけ国民世論の後押しがあるのに、かくもデタラメな政権を追い込めないのか。国民愚弄の悪法があっさり通り、20日立憲が衆院に提出する内閣不信任決議案も数の力に任せて否決。盗人集団がぬくぬくと悪事を続けるのは目に見えているから、行き場のない怒りがこみ上がってくる。
盗人のカシラの「へらず口」は聞きたくもない
裏金温存しか目にない自民と一度は手を握り、衆院では抜け穴だらけの悪法に賛成したのが、日本維新の会だ。
先月末に合意文書を交わした際、馬場代表は岸田とがっちり握手。「100%、我が党の考え方が通った」とえびす顔で成果を誇ったが、約束したはずの旧文通費を見直す立法措置の先送りに反発し、参院では一転、反対に回った。
実は合意文書には立法措置の実施時期は明記されておらず、ロクに確かめず盗人の言い分を真に受け浮かれた馬場は大マヌケ。とはいえ、盗人集団を追い込めないのはバカ丸出し維新の茶番のせいだけでもないだろう。
「世紀の悪法が成立し、裏金政党の逃げ切りを許した後に党首討論を見せられても、空しくなるだけ。どんなに野党党首が追及しても、時間のムダです。自民が採決の見返りに野党の“見せ場”づくりを与える余裕すらうかがえ、国会のペースは幕引きをもくろむ岸田自民の思いのまま。いくら数の力に劣るとはいえ、野党もだらしがない。市井と永田町の感覚のズレには、やきもきします」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
せっかくの党首討論で、デタラメ政権を解散・総選挙に追い込めなければ野党の“見せ場”にもならない。
岸田は立憲の泉に「『禁止』を言いながら実際パーティーを開いておられるとか、あるいは労働組合等から団体献金を受けているとか、こういったことをあげつらう場ではないと思っておりますが」などと、へらず口を叩いていたが、野党は完全にみくびられている。
「国会の中で決着がつかなければ国会の外、つまり解散・総選挙で白黒をつけるしかありません。ここであきらめてしまったら『国会が閉じれば国民は忘れる』という岸田自民の思うツボ。遅くとも来年秋までには必ず衆院選があるのです。それまで国民は怒りを維持するしかありません」(五十嵐仁氏=前出)
裏金自民にお灸をすえようと手ぐすねの有権者ほど、焦燥と虚無を抑え込むストレスにじれったくなる。
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