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※紙面抜粋
※2024年5月27日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
自民はまたもや敗北、静岡県知事選に当選を果たした鈴木康友氏(C)共同通信社
与野党対決となった静岡県知事選は大接戦の末、立憲民主、国民民主が推薦した前浜松市長、鈴木康友氏(66)が当選した。自民が推薦した元副知事の大村慎一氏(60)は終盤、追い上げたものの、一歩及ばなかった。
これで決定的になったのが岸田首相の“疫病神”ぶりではないか。
県知事選なのに、この選挙が全国的に大きな注目を集めたのは言うまでもない。岸田自民の“連敗記録”と立憲の“連勝記録”がかかっていたからだ。先月28日の衆院3補選で3タテを食らった自民、3連勝した立憲。静岡の結果で自民は泥沼の4連敗、立憲は相乗りの推薦とはいえ、イケイケドンドンの4連勝だ。
いよいよ、岸田自民はオシマイ……なのだが、それにしても酷かったのが、自民党の戦い方と負け方だ。
静岡県には小選挙区が8つあるが、そのうち、自民は6つで小選挙区を制し、比例復活を含めると9人の代議士がいる。島根以上の保守王国だから、ふつうは県知事選で負けるわけがない。それが負けたのは、この代議士連中がデタラメだからだ。塩谷立元文科相(静岡8区=比例復活)は裏金問題で離党、宮沢博行前防衛副大臣(静岡3区=比例復活)は女性問題で議員辞職、吉川赳議員(静岡5区=比例復活)は未成年の女性との飲酒醜聞が報じられ、弁明もせずに逃げ回る醜悪。そこにもってきて、選挙中には応援に入った上川陽子外相(静岡1区)が「うまずして何が女性か」発言。これで自民党のジェンダー感覚がバレてしまった。
まさしく、お笑い自民党だ。
「裏金問題で大逆風なのに、そのうえ、愚にもつかない醜聞や舌禍のオンパレード。こんな惨状で“勝て”と言うのが無理ですよ。地元では裏金をパパ活に回したんだろう、と嫌みを言われ、散々でした」(自民党関係者)
お笑い自民党だった静岡県知事選の裏
そこで自民党がとったのが前代未聞のステルス選挙だったのである。選挙戦をずっと取材してきたジャーナリストの横田一氏が言う。
「大村候補は自民党推薦なのに、極力、それを隠したんです。普通ならば、小泉進次郎氏や石破茂氏が選挙応援に入るのに、今回は上川大臣だけでした。自民党色がマイナスイメージになるからで、もちろん、岸田首相も入らなかった。で、選挙戦は団体票を固める旧来型の選挙に徹していました」
選挙終盤、大村陣営の選対本部長・城内実名で「緊急檄文」なるものが配られたが、そこには「一人でも多く確認団体チラシを配布すること」などと書かれていた。旧態依然の組織固め選挙である。
与野党対決なのに、与党が隠れて、コソコソ選挙。選択肢をきちんと示し、正々堂々、民意を問えばいいのに、そうしない。岸田自民は先の補選でも東京15区と長崎3区で候補者を立てられなかった。これだけで、与党失格だが、今度もステルス選挙とは情けないの一語だ。
そのうえ岸田に至ってはハナからやる気がなかった。先の島根の補選では2回も現地入りし、「岸田のせいで負けた」と言われた。不人気を自覚したのか、今回は行かなかったが、それでも負けた。何をやっても裏目に出る。まさしく、「疫病神」首相である。
地方の首長選など眼中にない鈍感力
総裁選再選しか頭になく、支持率や地方選とか全く無関心(左から岸田首相、中国の李強首相と=昨26日)/(C)共同通信社
それにしても、驚くのは自民党からどんどん票が離れていくスピードだ。この間、自民党は小田原市長選も落としている。それも、候補者は現職で神奈川選出の進次郎や河野太郎デジタル相ら人気弁士が入ったのに及ばなかった。これを含めれば、自民党は5連敗。26日投開票の目黒区の都議補選でも自民は負けた。これで6連敗。今後8つの都議補選があるが、早くも「全敗か」とささやかれている。
有権者から完全に見放されてなす術なし。これが岸田自民の現状なのだが、政治評論家の野上忠興氏からは驚くべき話を聞いた。岸田自身は「へとも思っちゃいないフシがある」と言うのだ。
「岸田首相周辺からその話を聞いたときは私も驚きました。政治記者を50年もやっていますが、こんな鈍感な首相は初めてです。要するに、総裁選の再選しか頭になくて、支持率だとか、地方の選挙結果なんて、ほとんど、関心がないのです。それも、清和会は萩生田元文科相に恩を売った。森元首相にも気をつかった。だから、総裁選で裏切らない、とかそんな計算ばかりをしているといいます。で、外交で点数を上げ、減税すれば、支持率は戻ってくる。再選は揺るがないなどとソロバンをはじいているそうです。こうした選挙結果が自分への政治不信だということがわかっていない。“悪いのは安倍派”“俺じゃない”と思っている。恐るべき感覚ですよ。選挙事情通に聞くと、地方で“岸田さんに再選して欲しい”などと言う人は誰もいないんです。隅から隅まで岸田じゃダメだと言っている。火の玉政治改革の大ボラ、賃上げと物価の好循環の嘘、給与明細に負担増は隠し、減税だけPRする身勝手など、とことん、嫌われているのにわからない。安倍さんよりずぶといんじゃないですか」
なるほど、だから、あれほどふざけた政治資金規正法の改正案を岸田はイケシャーシャーと出してくるのか。政倫審を全員が拒否しても、のうのうとしていられるのか。フツーの感覚の持ち主であれば、衆院3補選で3タテを食らえば、焦りまくる。国民の政治不信の凄まじさを思い知り、悩み抜く。ちょっとはマトモな改革案を出さざるを得なくなるものだが、そうしないのは岸田にとって、下々の民意など眼中にないからだろう。自民党の「党内力学」しか見ていない。そんな首相だから、地方の首長選など眼中にない。チヤホヤしてくれる外交に精を出し、日中韓首脳会談で舞い上がっている。この間、落選した候補はいい面の皮だ。
これで決定的になってきた岸田おろし
もっとも、「総裁選再選」という岸田の身勝手な妄想が、現実世界で通用するわけもない。菅前首相も横浜市長選を落としたことが致命的となり、総裁選出馬断念に追い込まれた。岸田も同じ運命をたどりつつあるのは間違いない。
「岸田首相はまだ派閥の論理で総裁選を考えていますが、派閥にそんなグリップ力はない上に、今、おのおのの自民党議員が考えているのは誰が総裁であれば、自分のクビがつながるのかという一点です。岸田総裁では選挙で勝てない。不人気の極みの岸田首相が総裁選で生き残れるとは思えません」(野上忠興氏=前出)
もちろん、その前に規正法改正を仕上げられずに総辞職というシナリオもある。さらに岸田の首をすげ替えたところで、裏金と利権政治にどっぷり漬かっている自民党が再生できるわけもない。そこを国民に見透かされている以上、誰が総裁になっても、自民党は生き残れない。
今度の静岡県知事選はその流れを決定づけたとも言えるのだ。
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