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※紙面抜粋
※2024年5月20日 日刊ゲンダイ
※文字起こし
馬脚を現したか(発言に関し、囲み取材に応じる上川陽子外相=静岡市)/(C)共同通信社
人間、ちょっとした一言で、正体が透けて見えてしまうことがある。「次の首相」人気ランキングで急浮上していた上川陽子外相もその一人ではないか。
静岡出身の上川は今月26日投開票の静岡県知事選の応援で何度か地元に入っている。そこで18日、女性支援者の前でやらかしたのが、この一言だ。
「(立候補という)一歩を踏み出したこの方を、私たち女性がうまずして何が女性でしょうか」
聞いているのは“身内”の女性支援者だから、「女性=産む」という軽い例えで、「当選させましょう」と訴えたのだろうが、案の定、野党は「産めない女性もいるのに配慮に欠く」と猛批判、大手メディアも一斉に取り上げたため、翌19日、あっさり、発言撤回となった。
この発言、すぐに対応したので、もう沈静化するだろうという見方もある。が、上川の場合、ちょっと違う。ジャーナリストの山田惠資氏が言う。
「上川さんは岸田派ですが、岸田派枠のポスト岸田候補ではないんです。女性枠の候補者なんですよ」
裏金事件とジリ貧経済、増税メガネ政治に有権者は怒りに震え、衆院3補選で自民に鉄槌を下したことは周知の通り。
「そんな逆風下で、ポスト岸田に上川さんが浮上してきて、自民党も期待していたと思います。彼女であれば、男性による差別社会に苦しんできた女性層や多様性を重んじる無党派層にアピールできますからね。それだけに、この発言には“アレッ、こんな人だったの?”と思った人も多いのではないですか。ちょっと前のこともありますしね」
本気で女性の地位向上で戦っているのか
山田氏が言う「ちょっと前」とは今年1月、麻生太郎副総裁が講演で「このおばさんやるねえ」と上川を持ち上げた時のことだ。舌禍の麻生は「そんな美しいとは言わんけれど」と付け加えて炎上した。これに対し、上川は怒るのかと思いきや「どんな声もありがたく受け止める」と“大人の対応”をしたのである。
「この時も“違和感”を覚えました。ふだんから女性の地位向上に本気であれば、麻生さんの発言を許さず、噛みつく選択肢もあったはず。実際、そうしなかった上川さんに“失望した”という声もありました。そこにもってきて、今度の発言でしょ。古い価値観を押し付ける社会、風潮に対し、敏感に反応、毅然と戦う政治家であれば、使わない表現だと思う。それも安直で無造作な置き換えです。女性票を見込んだ上川カードというのは、完全に傷ついたなと思いましたね」(山田惠資氏=前出)
もちろん、この一言で、上川が女性の地位向上に不熱心だとは言わない。言わないけれども、もともと「初の女性総理にいいんじゃないか」と上川を持ち上げていたのは保守の権化、安倍晋三元首相である。安倍に可愛がられ、麻生におもねり、上手にのし上がってきたのが上川だ。そのうえに、今度の発言を重ねてみると、風景が違って見えてくる。自民党の言う「多様性」なんて、斜めから見ておいた方がいい。
安定の1割支持率の政権がなぜ、続くのか
それにしても、国民はますます、自民党政治に絶望的になってきたのではないか。「女性初の総理候補」「ポスト岸田で急浮上」なんて言われた上川も、“この程度”なのだ。
今月10〜13日、時事通信が行った世論調査によると、岸田内閣の支持率は18.7%。安定の1割台である。これでよく首相を続けられるものだが、支持率以上に耳目を引いたのが「首相をいつまで続けて欲しいか」の設問だ。「9月の総裁選まで」が38.2%、「すぐ交代して欲しい」が27.4%、「今国会閉会まで」が15.7%。3つを足すとなんと、81.3%だ。そして、「9月以降も続けて欲しい」はたったの6%だったのである。
凄まじい不人気ぶりではないか。ふつうの人間だったら落ち込んで寝込んでしまう。国会閉会後の総辞職を本気で考える。周囲も浮足立ち、ポスト岸田を巡る動きが表面化してくる。政局の号砲が高らかに鳴るところだ。ところが、そんな動きは見当たらない。「なぜだ」と国民は苛立ち、憤慨しているが、その一因は「ポスト岸田」の不甲斐なさにあるのではないか。
上川のようにすぐに馬脚を現してしまう女性候補者。かと思えば、ぐずぶりや軽さばかり目立つのもいる。上から目線、居丈高、権力欲しか見えない「勘違い」もいる。これじゃあ、岸田もラクチンだ。
裏金問題に沈黙のポスト岸田たち
石破茂元幹事長は笑っている場合ではない(C)日刊ゲンダイ
目下、ポスト岸田で名前が挙がっているのは人気順に石破茂元幹事長、小泉進次郎元環境相、上川陽子外相、河野太郎デジタル担当相、茂木敏充幹事長、加藤勝信前厚労相らだが、政治ジャーナリストの角谷浩一氏はバッサリだ。
「これだけ裏金問題で騒がれている時にポスト岸田の候補者たちは何を言いましたか? 石破氏以外は沈黙しています。立場上言えない部分はあるにせよ、政治家でありながら、1年以上、何も言わない、批判しない、改革案を口にしないのはあり得ません。それだけでポスト岸田の任にあらずと思います」
すべての後始末を岸田にやらせて、自分は様子見。計算高く、保身に動く。そんな魂胆が透けて見える連中ばかりだ。それらに比べれば、石破はマシだが、「予算が成立したら辞めるのもありだ」と岸田に迫っていたのに、最近はおとなしい。小泉純一郎元首相や山崎拓元副総裁に「総裁選に出ろ」とせっつかれたらしいが、「当面は岸田政権を支える」と答えたとされる。「動くも動かないも国会閉会後の改造人事を見てからだろう」(永田町関係者)などという声もある。かくて、ずぶとい岸田は「オレはよくやっている」とまだ「やる気」だ。6月13日からはイタリアのG7首脳会議に出て、その後スイスに飛び、「ウクライナ平和サミット」に行く日程を急きょ、決めた。世界中が呆れているのではないか。
志の政治家が消えたのも安倍政権の「負の遺産」
同じように政治とカネが大問題になった1993年は、政治改革を巡って自民党内も四分五裂したものだ。小沢一郎元自民党幹事長らが造反し、宮沢内閣の不信任案が可決。衆議院は解散され、自民党は総選挙で敗れ、下野した。
小沢や羽田孜は新生党をつくり、同じく自民党を飛び出した鳩山由紀夫や武村正義は新党さきがけを結成。渡海紀三朗政調会長はその時のメンバーである。
当時はそこまで「改革」に熱気と「危機感」があったのに、今は誰もが口をつぐんでいる。その結果、こんな政権がダラダラと続き、政治はどんどん腐り、景気はガラガラと崩れている。なぜ、こんな国になってしまったのか。
「今頃になって世の中はアベノミクスの罪の深さに気づきましたが、もうひとつ、安倍政権には負の遺産がある。人材を徹底的に払底させたことですよ。政治家も官僚も意に沿わない者は切っていった。そのため、心ある者も牙を抜かれ、権力におもねり、出世とカネ集めだけを考えるようになってしまった。自民党は小粒化し、総裁候補を見回しても、ただ総理になりたい人だけ、“なってから”を考えている候補はいるのかと思います。自民党は岸田首相が駄目ならシャッポを替えて、選挙をやればいいと考えているかもしれませんが、甘すぎます。積年の負のレガシーの結果がこの惨状であって、泥棒が自分を縛れないように、自民党に政治改革はできません。有権者にもそれはハッキリわかっていて、もうゴマカせるレベルではありません」(高千穂大教授・五野井郁夫氏=国際政治学)
クーデターも起きない起こせない自民党でゾンビのように岸田政権が続く悪夢。石破に一寸の魂、気概があるなら飛び出さなきゃダメだ。
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