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2024年4月7日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/319713?rct=tokuhou
16日告示の衆院島根1区補欠選挙では、原発稼働も焦点になっている。この選挙区は推進派の代表格だった故細田博之氏の地盤で、中国電力が8月の再稼働を見込む島根原発(松江市)がある。ただ、先の能登半島地震では住民避難の限界が露呈。その中で行われる補選は細田氏の後継に加え、脱原発を主張してきた元職が出馬を予定する。推進派の牙城で能登の教訓がどう判断されるか。各地の脱原発派も注目する。(曽田晋太郎)
◆集落が散らばる道の先に、島根原発を見た
島根県庁や国宝松江城がある松江市中心部から車で30分ほど。市街地のにぎわいとは打って変わり、のどかな田園風景が広がる。
距離にして10キロ弱。海沿いに点在する集落を通り過ぎると、だんだんと道幅は狭くなり、山肌が切り立つ。落石注意を呼びかける看板が立ち、所々ひびが入った道をさらに進むと、山の中腹から開けた視界の先に巨大な建屋が見えた。日本海に臨む島根原発だ。
その島根原発の2号機は今、注目を集めている。中国電力が8月に再稼働させる計画だからだ。定期検査で2012年から停止中だが、21年に原子力規制委員会の審査を通過。22年には丸山達也知事が再稼働に同意した。今年5月に安全対策工事を完了させる想定だ。
そうした中、今年の元日に能登半島地震が発生。いくつもの道路が寸断され、多数の集落が孤立した。震源に近い北陸電力志賀原発でもし、深刻な事故が起きていれば、住民避難は難航していたと目される。
◆原発30キロ圏内に人口45万人
島根原発を抱える島根1区でも不安は広がる。
「人ごとではない」。市街地で出合った会社員男性(24)は「お正月の能登地震以来、原発への不安を意識し始めている。動かすなら、みんなが避難できる万全の態勢を整えてほしい」と語る。
地元の無職男性(80)は「原発をやめたらエネルギーはどうなるかと思うこともあるが、ここで事故が起きたら死ぬしかない」。今の避難計画にも疑問があり「私の場合は事故があったら車で3時間半くらいかかる山口県の近くまで避難することになっているが、そんなの絵に描いた餅。とても無理」と断じる。
島根原発は北に日本海、南に宍道湖や中海があり、原発近くから逃げる場所が限定的。全国で唯一、県庁所在地に立地し、松江市中心部は10キロ前後の圏内に入る。避難計画が必要な30キロ圏には約45万人が暮らし、高齢者ら避難時に支援が必要な人は約5万人に上る。
◆「今、能登のような地震があれば…」
原発から500メートルほどのところに暮らす無職男性(68)は表情をこわばらせる。「事故があった時に住民が避難する道は1本しかなく、その道が寸断されたら逃げられない。寸断されなくても皆が一斉に逃げたら渋滞して大混乱が起こるだろう」とも語る。
原発への恐怖も増している。「この近くにも活断層がある。いつどこで地震が起こるか分からない今、能登のような地震があれば、壊滅的な被害を受ける可能性が高い」
原発近くの集落に暮らす無職女性(78)は、遠くを見つめながら声を潜める。「大地震があって原発で事故が起きたら一巻の終わり。わざわざそんな危ないものを動かさなくていいのに。原発はいらない」
◆自民擁立予定の新人「原子力災害の悲惨さは十分理解」
高まる原発への危機感。そんな中である補選は、自民党の新人と立憲民主党の元職による事実上の一騎打ちとなる公算が大きい。原発推進派と慎重派が対峙(たいじ)する構図でもある。
長く島根1区で勝ち抜いてきたのが、自民の細田博之氏。旧通産省を経て政界入りし、政府や党の要職を歴任、晩年は衆院議長を務めた。他方、原発の旗振り役でもあった。再稼働を後押しする自民の電力安定供給推進議員連盟で会長に。小泉純一郎元首相の脱原発論に関し「短絡的だ。科学に立脚しない政策を採るべきではない」と批判した。
補選で自民が擁立する元財務省中国財務局長の新人錦織功政(にしこりのりまさ)氏(55)も稼働を容認する立場。取材に「エネルギー需給の向上やカーボンニュートラルの実現という意味で原子力発電は活用すべきだと考えている。ただ十分な安全措置が大前提の条件。私自身、復興庁で3年間勤務して原子力災害の悲惨さは十分理解しており、そこは声を大にして求めていく」と語る。
◆立民擁立予定の元職「再稼働このままでは進められない」
立民から出馬を予定するのが亀井亜紀子氏(58)だ。島根を地盤とした元国会議員、久興氏の長女。07年の参院選に国民新党公認で島根選挙区から出馬し、初当選した。3・11後には超党派国会議員の「原発ゼロの会」のメンバーに。脱原発を掲げる「みどりの風」の結党にも参加した。共産党は今回、「脱原発の姿勢で立民と考えに矛盾はない」と擁立を見送った。
ただ陣営幹部は「基本的に脱原発のスタンスだが、支援者の中には原発をなりわいにしている人や容認派もいるので、あまり表だって言えない」とジレンマを抱える状況を解説する。
亀井氏本人は「島根原発の再稼働に対していろんな意見があるが、このままでは進められない。共通して言えるのは、避難計画がしっかりしていることと、安全だと保障してくれないと怖くて住めないということだ。能登半島地震を受けた今、避難計画に疑義があるので、一回立ち止まって検証し見直すべきタイミングだと思う」と話した。
◆能登の地震から初の国政選挙に意義がある
補選前の論戦では自民の裏金疑惑、少子高齢化が進む地元の活性化が主に語られる。原発再稼働の議論はいまひとつ。立地地域の松江市鹿島町の住民は「立候補予定者が集落に来ることもない。原発を進めるか、やめるか、二者択一の争点しかないのに」と漏らす。
とはいえ今回は能登の地震後、原発稼働を問う初の国政選になる側面もある。
島根原発2号機運転差し止め訴訟の原告団長、芦原康江さん(71)は「国が推進の方針を決めている中、国政選挙は民意を表明する機会として重要。有権者が選択できるよう、立候補予定者はきちんと考えを語ってほしい」と求める。
推進派の牙城での審判は各地からも注目を集める。
東北電力女川原発(宮城県)の再稼働差し止め訴訟の原告団長、原伸雄さん(81)は「能登の地震があっても平然と稼働を進めようとする現政権への審判。再稼働の流れに歯止めをかける上で大事な機会。非常に関心を持っている」と語る。東京電力柏崎刈羽原発に厳しい視線を向けてきた新潟国際情報大の佐々木寛教授(政治学)は「現政権のエネルギー政策の是非が問われれば国政全体へのインパクトにもなる」と語り、こう続ける。「民意がどう現れるか、固唾(かたず)をのんで島根の結果を見ている」
中国電力島根原発 1974年3月に営業運転を開始。3基あり、1号機は廃炉作業が進む。2号機は東京電力福島第1原発と同じ「沸騰水型」と呼ばれるタイプで、同型で稼働すれば福島事故後初。3号機は新規稼働に向けた原子力規制委員会の審査中。
◆デスクメモ
自民の重鎮だった細田氏。その地盤である厳しい選挙。何とか支持を広げて補選を勝ち、自民の悪政にくさびを打つ。亀井陣営の大義は分かる。が、支持拡大のために原発問題と距離を取る状況が悩ましい。他地域でも生じるジレンマ。いいかげん、解決に向けた妙案を考えねば。 (榊)
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