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※紙面抜粋
※2024年3月28日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
バブル経済後期以来の円安水準(上は、日銀の植田和男総裁)/(C)日刊ゲンダイ
日銀のマイナス金利解除から1週間余り。政策金利を17年ぶりに引き上げても、円安が止まらない。27日は一時1ドル=151円97銭近辺と1990年7月以来、約34年ぶりの円安水準となった。
植田日銀が11年も続いた異常な金融緩和策を修正、利上げに踏み切れば理論上は円高に向かうはずだった。すでに米連邦準備制度理事会(FRB)は、年内3回の利下げを示唆。主な円安要因である日米の金利差が縮小されることが想定されるからだ。
ところが、円相場は1週間チョットで一気に3円近くも円安に振れてしまった。緩和が終焉に向かえば記録的な円安も収まる。エネルギー、資材、原材料などの輸入コストも下がり、家計を圧迫し続けた物価高も少しは和らぐ──。そんな期待を込めた庶民にすれば、真逆の展開には「聞いてないよ〜」と言いたくなる。
なぜ、円安の流れは変わらないのか。そのカラクリをひもとくと、まず植田日銀の過剰な「配慮」にブチ当たる。恐れたのは政策転換に伴う株式市場の混乱だ。利上げに踏み切り、円高傾向に転じれば、円安で潤う輸出大企業が牽引する日経平均には急落リスクとなる。バブル期以来、34年ぶりに最高値を更新し、史上初の4万円超えフィーバーに冷や水を浴びせることになってしまう。
そんな損な役回りは、ご免こうむりたいという意識が働いたのだろう。責任回避のため、日銀の審議委員たちは利上げにあたり、事前に「政策転換」を揃ってにおわせ、いざ正式発表しても市場はノーサプライズ。おまけにマイナス金利解除の会見で、植田総裁が自ら「緩和的な金融環境が継続する」と言い放ち、「しばらく、追加利上げはない」との観測が強まったせいで一段と円売りが進んだ。
株高維持のしわ寄せが庶民生活を蝕む
27日も日銀の田村直樹審議委員が講演で「ゆっくりと、しかし着実に金融緩和政策の正常化を進める」と発言。日銀内でも金融引き締めに積極的な「タカ派」とみられていた田村氏までが、追加利上げに慎重な姿勢を示したことで円安が加速した。おかげで日経平均は3日ぶりに反発。34年ぶりの円安水準を好感した動きである。
急激な円安進行を受け、財務省と金融庁、日銀は27日夕方、緊急の情報交換会合を開催した。会合後、神田真人財務官は「あらゆる手段を排除せずに適切な対応を取っていく」と円買い介入をチラつかせ、投機筋を牽制。鈴木財務相も同調しているのに、植田総裁は意に介さず。会合に先立ち、衆院財務金融委員会で「緩和環境の継続」を強調。相変わらず、恐る恐るのアナウンスで様子見を決め込んでいる。
円安容認で株価急落を回避。植田日銀はソフトランディングに成功したつもりかもしれないが、そのしわ寄せは確実に庶民生活を蝕んでいく。
円安による原油価格の上昇を受け、ガソリン価格も4週ぶりに値上がり。政府はガソリン価格の高騰を抑制する補助金について、補助率を縮小せず4月末までの期限を延長する調整に入った。
22年1月の開始以来、延長は今回で実に7回目。すでに延長続きで予算総額は6.8兆円に及び、日本の国防費に匹敵するほどの巨大事業と化している。与党内には9月までの延長論が出ており、再び兆単位の税金がつぎ込まれるのは間違いない。
「ガソリン補助金に投じる巨額の税金を負担するのは、国民です。円安の弊害に伴うバラマキ策の財源を国民に負わせるのは、まるで腹をすかせたタコに自分の足を食わせるようなものです。植田日銀が諸外国同様にインフレ抑制のために金融を引き締め、円高に持っていけば巨額の税金を投じる必要はない。株高という見かけの好景気維持を最優先。物価高を招く円安容認は、時の政権や財界への『政治的配慮』以外の何物でもない。植田日銀は目先の株高の誘惑に駆られ、本来の『物価の番人』の役目を放棄しています」(経済評論家・斎藤満氏)
二兎どころか「三兎」を追うチグハグぶり
植田総裁が19日の会見で「異次元の緩和は終焉」「役割を果たした」と明言したのは口先だけ。投機筋がそう受け止めるのも無理はない。実際、植田総裁が繰り返す「緩和的な環境」は継続中だ。日銀が世の中に直接供給するお金である「マネタリーベース」は2月末時点で、約664兆円。その規模は各国と比べても突出している。
国債買い入れも当面は現状の6兆円程度を維持する。11年間に及ぶ異常な緩和策で、日銀が抱え込んだ国債残高は約600兆円にまで膨らんでいるが、国債引き受けは一向に変えようとしない。いざ国債残高の圧縮にカジを切るのは、極めてリスクが大きすぎるからだ。
この10年で国の国債発行残高は4割強も増え、昨年末には約1045兆円に到達している。対GDP比は約255%という世界随一の借金大国でありながら、これまで大きな懸念が生じてこなかったのは異常な大規模緩和の副産物。日銀が国債を爆買いしてきたからだ。
国の発行残高の約54%を引き受ける“お得意さま”となり、長期金利を低い水準で抑え込んできた。「事実上の財政ファイナンス」とされる禁じ手である。
「海外の投機筋が安心して円を売っていられるのは、日銀が国債引き受けをやめられないことを知っているから。それが最大の理由です」と指摘するのは金融ジャーナリスト・森岡英樹氏だ。こう続けた。
「日銀が金融政策の正常化に向け、保有国債を売る気配を見せただけで、たちまち長期金利は上昇。政府の国債利払い費が十数兆円規模で膨らむ恐れすらあります。いよいよ、借金大国の財政を圧迫しかねないから、植田日銀は国債引き受けを維持せざるを得ない。二兎を追う者ですら一兎を得られないのに、植田日銀は円高回避に株高維持、そして金利上昇の抑え込みという三兎を追う“離れ業”をやってのけようとしている。そのチグハグぶりを投機筋に見透かされ、思う存分、円は売られてしまっているのです」
若い世代ほど見切りをつける日本経済
円安がどんどん進む謎解きは単純明快。異常な緩和策が実質継続しているからだ。海外の投機筋にはとうに見抜かれているのに、17年ぶりの利上げに「歴史的転換」とはしゃぎ立てた大マスコミはつくづく、おめでたい。植田会見に騙されていたのは日本のメディアと日本人だけ。改めて突きつけられたのは、アベノミクスの大規模緩和の罪深さである。
物価目標2%が実現したのも、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻で原材料費高騰が物価を押し上げたから。庶民の暮らしには負の効果でしかなく、恩恵が滴り落ちるはずの「トリクルダウン」は結局、実現しないまま。
庶民生活を犠牲にした円安政策で輸出大企業は潤ったものの、為替効果にあぐらをかき、技術革新を怠った。みるみる日本経済は国際競争力を失い、今や「安いニッポン」を求めるインバウンド頼み。気が付けばGDPは世界4位にまで沈んでしまった。前出の斎藤満氏はこう言った。
「円安のぬるま湯につかった日本企業はハンデを下げて勝たせてもらうゴルファーと同じ。喜んでいるうちに練習をさぼり、腕は鈍ってしまいます。34年ぶりの円安水準も、見方を変えれば、落ち込んだ『日本の実力』を反映しています。円の実力を示す『実質実効為替レート』はナント、53年ぶりの低水準。1ドル=360円の固定相場制だった時代に逆戻りです。新NISAの外国株人気が円安の一因になっているのも、若い世代ほど日本経済に見切りをつけている証拠ですよ」
植田日銀がアベノミクスの毒から抜け出せない限り、日本の実体経済は衰退の一途をたどる。
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