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※紙面抜粋
※2024年3月21日 日刊ゲンダイ2面
異次元緩和終焉へようやく一歩 副作用への覚悟とアベノミクスの総括が必要だ
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/337801
2024/03/21 日刊ゲンダイ ※後段文字起こし
会見する日銀の植田和男総裁(C)共同通信社
ようやく日本も「金利のある」正常な世界に戻ることになった。
日本銀行が19日、11年間もつづけた「異次元の金融緩和」を終えると決定した。異次元緩和は、「マイナス金利政策」と「長期金利操作」の2本柱。
日銀はマイナス金利をやめて金利をプラス0.1%に上げ、長期金利を低く抑えてきた「長短金利操作」(イールドカーブ・コントロール)の枠組みも廃止する。さらに、上場投資信託(ETF)と、上場不動産投資信託(Jリート)の買い入れもやめるという。
マイナス金利をつづけていたのは世界でも日本だけだった。異次元緩和は物価高騰を招くなど、弊害ばかりが目立ち、以前から政策転換を求める声が強かった。正常化は遅すぎたくらいだ。
しかし、なぜ日銀は、このタイミングで政策転換をしたのか。大手メディアは、「賃金と物価の好循環を確認し、2%の物価目標を見通せる状況にいたった」という植田総裁の発言をそのまま伝えているが、実際には政治的な事情があったのは間違いない。経済評論家の斎藤満氏がこう言う。
「日銀の政策転換は遅すぎました。本当は国民が物価上昇に苦しんでいた1年前には、異次元緩和をやめるべきだった。物価の安定をはかるのが、中央銀行の最大のミッションだからです。なのに異次元緩和をつづけたために、円安が止まらず輸入物価が上昇し、国民は2年もインフレに喘いでいる。日銀も本当は政策転換をしたかったようですが、日本政府と欧米の金融当局から圧力をかけられ政策転換できなかったといいます。日本政府は低金利による株高と円安による企業の好業績を優先し、一方、欧米の金融当局は、自分たちは金融引き締めに舵をきったが、世界経済が冷え込まないように日本には金融緩和をつづけさせたかった。日銀が19日の政策決定会合で異次元緩和の終結を決めたのは、日本政府と海外からの圧力がなくなったからというのが真相でしょう」
日銀の政策転換は、岸田政権にとっても好都合だという。経済の好調さと経済政策の成功をアピールする好機になるからだ。岸田首相周辺からは「6月にデフレ脱却宣言を出して、解散総選挙になだれ込むべきだ」との声まで上がっている。
国力を低下させ、格差を広げた
しかし、異次元緩和の終結は当然としても、11年間もつづけてきた政策だけに、やめたら副作用が生じるのは間違いない。どんなマイナスがあるのか、さらにアベノミクスの“第1の矢”だった異次元緩和が日本社会に何をもたらしたのか、その検証と総括も必要なはずだ。
「金利のある」世界に戻ることで、真っ先に打撃を受けるのが中小企業だ。帝国データバンクの調査によると、企業の借入金利が1%まで引き上げられた場合、対象9万社のうち7.1%が赤字に転落するそうだ。この先、中小企業がバタバタと倒れていく恐れがある。
異次元緩和の最大の問題は、貧富の格差を拡大させたことと、国力を低下させたことだ。
異次元緩和の目的は、要するに、資金をジャブジャブにすることと、「円安」を加速させることだった。その結果、行き場を失ったマネーが株や不動産に流れ込み、富裕層をさらに富ませることになった。また「円安」が輸出企業の業績を急回復させた。安倍元首相が「アベノミクス」を掲げて政権復帰した2012年、為替は1ドル=85円台だったのに、いまや150円台である。ここまで円安が進めば、輸入物価は高騰してしまうが、輸出企業は黙っていてもボロ儲けできる。
経済ジャーナリストの荻原博子氏はこう言う。
「アベノミクス推進派は、いずれ庶民にも恩恵があると“トリクルダウン”を唱えていましたが、結局、潤ったのは投資する余裕資金のある富裕層だけでした。いま都心の不動産は上がり過ぎて、庶民には手が出ない。アベノミクスによって、持つ者と持たざる者との差が広がってしまった。また円安は、経済大国だったはずの日本を『安いニッポン』に変えてしまった。いま日本株が買われているのもインバウンドが盛んなのも、外国からみたら“割安”だからです。自国通貨の価値が下がるのは、国力が落ちるのと同じこと。実際、エネルギーや食料の調達にもコストがかかるようになっています」
黙っていても儲かる「円安」というぬるま湯につかった大企業は、企業努力を怠り、あっと言う間に国際競争力を失ってしまった。日本のGDPも、就業者数が日本の3分の2しかいないドイツに抜かれ、世界4位に転落。
日銀の植田総裁は「大規模緩和は役割を果たした」と、まるでアベノミクスが成功したかのように発言していたが、まさか本気で評価しているのだろうか。
11年間で抱えた巨大爆弾
株価が4万円を突破しようが、庶民には好景気の実感はまったくない。いかに異次元緩和が愚策だったか、結果をみれば一目瞭然である。よくも日銀は、11年間も弊害だらけの政策をつづけられたものだ。
それもこれも、何から何まで、国民生活ではなく、政治と大企業の都合を最優先してきたからなのではないか。
どれほど国民がインフレに苦しんでいるか、日銀だって知っていたはずである。日銀が1月に発表した「生活意識に関するアンケート」によると、現在の暮らし向きについて56.2%が「ゆとりがなくなった」と答え、ゆとりがなくなった理由は「物価が上がったから」が90.8%だった。1年前に比べて、どのくらい物価が変化したと感じるかを尋ねると、平均16.1%上昇、中央値も10%アップだった。日常的に買うモノは、肌感覚だと10%以上、値上がりしているということだ。84.5%が物価上昇を「困ったことだ」と答えている。
国民の生活苦を知りながら、なぜ植田日銀は物価高を招いている異次元緩和を見直そうとしなかったのか。
「そもそも異次元緩和には、庶民から大企業への所得移転という性質があります。異常な低金利によって、普通預金の平均金利は0.001%。銀行に1年間100万円を預けても利息は10円程度です。その代わり、企業の支払利子負担が軽くなっている。庶民の犠牲の上に成り立っていたのが異次元緩和です」(斎藤満氏=前出)
最悪なのは、異次元緩和の後遺症が、この先、何年もつづくことだ。
「異次元緩和をつづけたために、日銀はETFを簿価で37兆円分、時価ベースで67兆円も保有し、事実上、日本株の最大の株主になっています。このETFをどうやって処分するのか。場合によっては、株を暴落させる恐れがあります。さらに、国債を買いつづけたために、日銀が保有する国債は約500兆円と、いまや発行残高の50%に達している。この処理も大変です。もし、金利が上昇したら、日銀のバランスシートは一気に傷ついてしまう。11年間も異常な金融政策をつづけたために、日銀はいくつも爆弾を抱えてしまった形です」(荻原博子氏=前出)
日銀が大量に国債を買ってくれるため、政府には放漫財政が染みついてしまった。これからも赤字国債を発行して、巨額な予算を組もうとするのは間違いない。そのたびに日銀は、国債を買いつづけることになるのではないか。
異次元緩和をつづけた責任を、日銀はどうとるつもりなのか。
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