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自民裏金事件を政治資金研究の第一人者が斬る「改革には透明性と外部監査が必須です」 注目の人 直撃インタビュー
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/337191
2024/03/11 日刊ゲンダイ
岩井奉信(政治学者)
政治学者の岩井奉信氏(C)日刊ゲンダイ
昨年末に自民党派閥のパーティー収入の裏金化が発覚してから、4カ月が経過した。複数の国会議員と会計責任者が立件され、今なお政界を揺るがしている。安倍派や二階派の衆院議員が政治倫理審査会で弁明したが、実態解明からは程遠い。裏金議員を根絶するにはどんな規制が必要なのか。政治資金研究の第一人者に聞いた。
◇ ◇ ◇
──億単位の裏金が発覚した今回の事件をどうご覧になっていますか。
私が知る限りで過去最悪の事件です。1988年に発覚したリクルート事件と比較されることが多いですが、あの当時は法制度に不備があった。ところが、今回の場合はそもそも違法行為ですからね。大勢の議員が長年にわたって組織的に不法行為を行っていたわけですから、ちょっと考えられないです。最近の「政治とカネ」は個人の問題として捉えられ、議員が辞任して終わりとなるケースが多い。しかし、今回は個人のモラルの問題ではありません。
──特に安倍派は裏金額が大きかった。
「自民1強」「安倍1強」時代が長く続いたことで、捜査機関はどうせ手が出せない、と安倍派の議員たちは甘く見ていたのかもしれません。不正が平気でまかり通ると思っていたのではないか。
──1強の弊害ですね。
問題が明るみに出る前から、不自然さは感じていました。安倍派の政治資金収支報告書を見ると、パーティーの規模に比べて収入が異様に少ない。参加者数が麻生派のパーティーの倍なのに収入が半分程度で、明らかにおかしい。これは自民党内でも噂になっていました。検察も2年ほど前から目をつけていたといわれている。2022年の安倍派パーティーの直前に、安倍元首相が「不透明なことはやめよう」と指示したのも、党内の噂や検察の動きを察知したからではないかとみています。
──リクルート事件後、自民党は政治資金の透明化などを含む「政治改革大綱」をまとめたのに、また「政治とカネ」の問題が起きてしまった。
私も民間政治臨調の一員として、政治改革に関わりましたが、不十分な点はあったかもしれません。例えば、政治資金をチェックする第三者委員会をつくるよう求めましたが、受け入れられなかった。現金授受の禁止については、一顧だにされませんでした。ただ、企業団体献金の規制強化、政治資金の公開基準の厳格化などは達成できた。大綱が掲げる理念を順守すれば、今回のような問題は起きなかったはずですが……。
現行制度は“抜け道”“トンネル”だらけ
──改革の理念が議員らに守られなかったと。
政治改革で政治資金規正法が改正された後、“抜け道”をあちらこちらにつくられてしまったわけです。例えば、企業団体献金は「政党」だけに集約するとしたのですが、後々に議員本人が代表を務める「政党支部」にも道が開かれました。また、政治家の資金面における公私峻別の徹底が求められ、政治家個人への寄付が禁じられたにもかかわらず、政党から政治家個人にカネを渡してもOKということにされてしまった。これが、政党から党幹部に渡され、使途の公開義務がない「政策活動費」の背景にあります。“抜け道”どころか“トンネル”です。
政治団体に「マイナンバー」を
「自民1強」「安倍1強」時代が長く続いたことで、安倍派議員たちはどうせ手が出ないと…(C)日刊ゲンダイ
──再度、制度改革すべきですね。
抜本的な見直しが必要です。政治資金制度の改革について、各党がアイデアを出しています。各党による議論は重要ですが、本格的な制度改革は独立した第三者機関が進めるべきです。政治家が進めても、どうしても自分たちに甘くなってしまうので、改革が中途半端になる恐れがあります。現状で与野党議員から「第三者機関が進めるべき」という声が上がらないのは、厳しい改革を求められることを恐れているからかもしれません。
──制度変更する上で、重要なポイントは?
何よりも、政治資金の透明化です。透明化して監視を受けやすくすれば、不正の抑止力になります。第一歩は、現金授受の禁止でしょう。先進諸国で現金授受を全面的に認めているのは日本だけ。米英では少額の現金授受は認められていますが、一定額を超えるものは禁じられています。今回の裏金事件でも、資金は現金で動いていた。政治家にとっては、足がつかない現金が便利なのでしょうが、現金授受が禁止されていれば、キックバックを現金で渡した時点で違法になります。
──不透明な資金移動を抑えられるでしょうね。
もうひとつは、収支報告書のデジタル化です。現状の収支報告書の管理手法は明らかに非効率で、チェックがしづらい。政治団体の届け出先が総務省と各都道府県の選挙管理委員会で分かれており、非常に調べづらいですよね。それから、例えば総務省届け出の政治団体が支部をつくった場合、支部は元の政治団体とは全くの別団体となってしまい、チェックが行き届かない。こうした状況を解消するため、デジタル化に加え、政治団体に「マイナンバー」をつけるべきだと思っています。マイナンバーがあれば、支部をつくろうが、政治団体の名称を変更しようが追いかけることが可能になります。
──今の収支報告書はネット上で画像ファイルでアップされていますが、手書きのものがあり、見づらいです。文字検索もできません。
デジタル化すれば収支報告書をデータで管理することになりますから、そうした状況は改善されます。また、現状では、総務省や選管が収支報告書の提出を受け、エクセルで計算間違いがないかチェックし、画像データに変換した上でアップしています。ものすごい手間がかかり、公開まで相当な時間がかかっている。毎年11月に前年分の収支報告書を公開するというスピード感のなさです。デジタル化すれば、データをやりとりするだけなので役所側は手間が省けますし、公開までの時間もかからない。デジタル化が進む米国では提出から24〜48時間で公開されています。
──企業団体献金を禁止すべきとの声もあります。
全面禁止は少し乱暴だと思います。企業も団体も社会の構成員ですから、規制の下でアクセスする権利は認めるべきでしょう。ただ、上限は下げてもいいと思います。
「蛇口」を閉めれば「裏」に回る
──今回、問題となった政治資金パーティーはどうでしょう?
現状は行き過ぎですから、パー券購入者の公開基準を20万円から5万円に引き下げるべきです。ただ、全面禁止はやはり乱暴だと思います。元々は個人献金に代わるものとして位置づけられているので、原点に戻るのであれば、容認して構わないと思います。また、パーティーに政治資金を依存する各地の首長を考えると、認めざるを得ないと思います。そのためには、第三者が資金の流れをチェックする仕組みが整うことが重要です。
──第三者によるチェックは必須ですね。
民間の企業事件では、まず監督官庁の関連組織が査察に入りますよね。その上で悪質な場合は告発に至る。こうした仕組みが必要です。米国では、政治資金をチェックする独立した組織があり、告発権を持っています。日本でも告発権を保有した「政治資金委員会」のような組織を設置すべきでしょう。
──透明化とチェックが重要で政治資金全体を削減すればいい、というわけではないと。
「カネの蛇口」を閉めれば「裏」へと回っていくものですから、絞れば事が済むというものではない。それに、独裁主義と違って民主主義にコストはつきものです。とはいえ、各党に配分される総額300億円超の政党交付金の原資は税金です。どこかで歯止めをかけなければいけない。政治家は「政治にはカネがかかる」と言いますが、ではコストの中身はどうなっているのか。政治家側が全面開示した上で、第三者のチェックによって無駄な部分を削っていく。政治資金の透明性を高め、外部監査の仕組みを整えれば、状況は改善できると思います。
(聞き手=小幡元太/日刊ゲンダイ)
▽岩井奉信(いわい・ともあき) 1950年生まれ。76年、日大法学部卒業。81年、慶大大学院法学研究博士課程修了。日大法学部教授などを経て、現在は日大名誉教授。「政治とカネ」の問題を受け、92年に与野党合意の上設置された「政治改革推進協議会(民間政治臨調)」に有識者として参加した。
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