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※紙面抜粋
※2024年3月2日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
何が何でも年度内成立(岸田文雄首相)/(C)日刊ゲンダイ
政権が推し進める「働き方改革」と逆行する展開である。1日の衆院予算委員会はスッタモンダの連続。駆け引きが深夜にまで及び、岸田自民は徹夜覚悟で新年度予算案の強行採決に固執し続けたのだ。
予算案を巡っては、自民党の小野寺五典予算委員長がおとといの理事会で、翌日(1日)の委員会で集中審議と締めくくりの質疑を行ったあと、採決することを職権で決定した。
これに、野党が猛反発。採決に至る予算委での審議は通常80時間だが、1日朝時点で11時間も不足していたことに加え、自民党派閥による裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会と予算委を同時に開くことに抵抗した。業を煮やした立憲民主は1日午前、単独で小野寺の解任決議案を衆院に提出したのだ。
一方、与党は予算案を2日までに衆院で通過させ、何が何でも年度内に自然成立させるべく動いた。解任決議案を審議する午後の衆院本会議では、立憲の山井議員が約3時間にわたる趣旨弁明を展開。予算案の採決を遅らせるためのフィリバスターに打って出たが、最終的に与党側が解任決議案を粛々と否決した。
その後、夕方から予算委の集中審議が始まると、立憲が今度は政倫審の終了を機に鈴木財務相の不信任案を提出し、審議がストップ。本会議で与党が不信任案を再度、否決したのは午後11時過ぎ。結局、日をまたいでの新たな予算委審議は見送られ、きょう午前9時に開くことで与野党が合意。徹夜国会は避けられたが、岸田自民は改めて2日中の衆院通過を目指す方針だ。
事件幕引きと安いプライド
予算案の早期の衆院通過について、岸田首相は「震災復興をはじめ、国民生活にとって大変重要な来年度予算が期日通りに成立しないことがあってはならない」と発言。予算委で与党側の筆頭理事を務める加藤前厚労相も「能登半島地震の被災地からは『政治とカネの問題も大事だが、復旧・復興につなげるため一日も早く予算案成立の見通しを示すべく、衆議院の通過を図ってほしい』という声が出ていた」と言っていた。
「被災地のために早く衆院通過させろ」と言わんばかりだが、とんでもない話だ。今回の強行採決には1ミリたりとも正義はない。岸田自民の狙いは、自らが抱える裏金、脱税問題の早期幕引きだ。
憲法の衆院優越規定で、予算案は参院送付から30日で自然成立する。2日までに衆院を通過させ、今月中の成立を確実なものにしなければ、参院での審議は野党ペースとなり、裏金事件を徹底的に追及されかねない。実態解明でさらに右往左往し、年度内成立にも失敗すれば岸田の求心力はガタ落ち。お呼びじゃないのに岸田が政倫審に出席したのも、野党の要求通り安倍派幹部を表舞台に引っ張り出し、予算案採決に応じさせるためのパフォーマンスに過ぎない。こんな不純な動機で衆院通過を急いでいるわけだ。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。
「自民党幹部は予算案が年度内に成立しないと震災復興が滞るかのような発言をしていますが、そんなことはほぼ確実に起こり得ません。既に能登の復旧・復興のため国会の議決を経ずに閣議だけで、23年度の一般会計と特別会計の予備費から被災地支援のために支出することが決まっています。予算案の年度内成立が実現できなければ、世間に自民党がヘマをこいたと受け止められてしまう。だから、きょう中の衆院通過にこだわる。岸田首相のプライドを守りたいだけです」
たった一夜で国賊与党の黒い正体がこれでもかと露呈した。完全な自己都合の国会軽視で、国民愚弄は明らかである。
森喜朗元首相を国会招致するしかない
派閥ぐるみで裏金をつくり、課税対象の雑所得としか思えないのに知らん顔。肝心の実態解明もまるで進んでいない。国民が煩雑な確定申告に追われる中、脱税議員をおとがめなしにしていいはずがない。
1日の政倫審には、安倍派の西村前経産相と松野前官房長官、高木前国対委員長、塩谷座長が出席。2022年4月に安倍元首相がキックバックの廃止を決めたのに、8月の協議で復活した経緯について、協議に参加していた西村は知らぬ存ぜぬ。塩谷も「還付を希望する声が多く、その要望に沿って還付が継続された」と曖昧だった。派閥の裏金については、4人とも「把握していなかった」と“我関せず”である。(3ページに関連記事)
野党は裏金2728万円の萩生田前政調会長や、裏金3526万円の二階元幹事長ら巨額“脱税”議員の政倫審出席や参考人招致を求めているが、岸田自民は聞く耳ナシだ。
安倍派のキックバック不記載が始まったのは、森元首相が派閥会長を務めていた十数年前から20年以上前だったとされる。政倫審で元幹部たちが「知らない」と口を揃えている以上、実態解明には、もはや森を国会招致するしか道はない。ところが、岸田は政倫審で「(党内調査で)森氏の具体的な関与を指摘する発言はなかった」と言い、“御大”をかばってみせた。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。
「真相解明には、森元首相や二階元幹事長ら、裏金スキームを知り得る人物に話を聞くしかない。それも、ウソをつけば偽証罪に問われかねない証人喚問で追及すべきです。岸田自民は、全てを知っている可能性がある彼らが、本当に真相を語ってしまうことを恐れているのでしょう。どんな展開になるか予想がつかず、真相解明そっちのけで、サッサとこの問題を終わらせたいのだと思います」
自民幹部は、大リーグの大谷翔平選手の結婚に触れ、「大谷のニュース一色だ」と、政倫審の話題が小さくなることにほくそ笑んでいるという。フザけた態度にますます、怒りが湧いてくる。
実態解明と裏金議員の処分を急げ
ここへきて岸田は、政倫審で会計責任者だけでなく政治家の責任も問う「連座制」導入や、政治団体に対する外部監査の導入、収支報告書のデジタル化に言及し始めた。こうした制度改革に触れなければならないほど、エラソーに掲げてきた「政治刷新」の“やってる感”が国民に見透かされ、追い込まれていることを物語る。
「連座制や外部監査、デジタル化は、いずれも重要なポイントです。与野党で結束してどんどん進めればいいでしょう。ただ、同時に裏金事件の実態をキチンと解明して、責任の所在をハッキリさせなければ、もはや国民は納得しません。岸田首相は政倫審で『関係者の処分を党として判断する』と言いました。ならば、組織的な裏金づくりがいつから、誰の発案で始まり、何に使われてきたのか。その実態を明らかにした上で、処分すべき人物にケジメをつけさせる必要がある。でなければ、国民の信頼は回復しない。小手先の政治刷新など欺瞞でしかありません」(五十嵐仁氏=前出)
脱税集団に国の予算を預かる資格ナシ。ましてや能登の被災者を“人質”に取り裏金追及の幕引きを図り、予算案の強行通過など、あり得ない。世紀の破廉恥政党をのさばらせていてはダメだ。
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