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※紙面抜粋
※2024年2月29日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
岸田首相が政倫審に出るそうだが、今さらながらの意味不明に唖然(C)共同通信社
ピント外れは毎度のことだが、今さらながらのトンチンカンには唖然だ。
公開か非公開かでスッタモンダし、当初予定されていた28日の開催が見送りになった衆院政治倫理審査会(政倫審)。そこへ岸田首相が突然、出席すると言い出し、与野党に困惑が広がっている。
野党が衆院政倫審への出席を求めていた裏金議員51人は、安倍派と二階派で、そもそも岸田は含まれていない。つまり、お呼びでない。
「トップとして、出席を渋っていた議員にマスコミオープンの場で説明するよう指示すればいいだけなのに、なんで『だったらオレが出る』になるんだろう。先頭に立つって、そういうことじゃないよね」(自民党中堅議員)
岸田は28日午前、官邸で記者団に「自民党総裁として政倫審に出席し、マスコミオープンの場で説明責任を果たしたい」と表明。前日に政倫審開催の見送りが決まったことに業を煮やし、出席を決断したとされる。岸田の出席表明を受け、29日から2日間の政倫審開催がバタバタと決まった。
29日午後2時からは岸田と二階派の武田元総務相の2人、3月1日午前9時からは安倍派の西村前経産相、松野前官房長官、塩谷元文科相、高木前国対委員長の4人の審査を行う。メディアは記者クラブ限定だが、テレビカメラも入って一応フルオープンの形だ。
二転三転した挙げ句、ようやく政倫審の公開開催が決まったわけだが、裏金議員が出席を渋るわ、エラソーに非公開の条件をつけるわ、それをたしなめ、説得する術も持たない。党内調整すらままならず、土壇場で決定をひっくり返すガバナンス欠如──。この間の醜態でハッキリ分かったのは、自民党の自己崩壊だ。しかも、恐るべき速さで進んでいる。
政倫審出席は求心力低下の象徴
「岸田首相の政倫審出席は、求心力低下を象徴しています。党総裁として指導力を発揮し、他の議員の出席や全面公開を実現させることができなかった。事態を打開するためには自分が出席を決めるしかなかったのです。そこまで追い込まれた。安倍派の幹部がダダをこねて逃げ回っていたことにも呆れます。国民に対して説明責任を果たすなら、フルオープンは当たり前でしょう。そんなことも判断できない幼稚な人たちが自民党派閥の幹部をやっていた。偽証罪に問われる可能性のある証人喚問を忌避するのならまだ分かりますが、たかが政倫審開催にこぎ着けるまで、なぜこうも時間がかかるのか。グズグズしていた結果、党のトップを政倫審に出すことになってしまったのだから、本来なら自民党の大失態ですよ。政権与党の迷走は目も当てられない状況です」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)
現職総理が政倫審に出席するのは史上初だ。岸田の場合、呼ばれてもいないのに自ら手を挙げて出張っていくわけだが、安倍派の裏金の経緯を岸田が知っているわけではないだろう。
政倫審は、「政治とカネ」などで嫌疑をかけられた議員に自ら説明する機会を与え、政治的・道義的に責任があるかどうかを審査する機関である。冒頭15分間の「弁明」で岸田は何を語るつもりなのか。
もちろん、会長を務めていた岸田派にも政治資金収支報告書の不記載はあったし、予算委員会では大臣規範に反する大規模パーティーを2022年に7回も開いて計約1億5370万円を売り上げていた問題を「異常なパーティー好き、金集め」と追及されていた。岸田はパーティーではなく「勉強会」だと言い張っていたが、同じ弁明を延々と聞かされるだけなら時間の無駄。岸田の政倫審出席に何の意味があるのか。
押しかけ出席で予算委の答弁以上のことを語るのか
政倫審は出席者からの15分の弁明の後、1時間5分の質疑が行われる。岸田に対しては、26日の予算委でパーティー三昧を「異常だ」と糾弾し、「あなたが政治改革の障害になっている」と指摘した立憲民主党の野田元首相も質疑に立つ。
「これまで岸田首相は予算委で何度も裏金問題をはじめとする『政治とカネ』について問われ、そのたびに具体性のない答弁でのらりくらりとやり過ごしてきた。政倫審でそれ以上のことを語れるのでしょうか。予算委と同じような中身のない弁明を続ければ、国民は納得しないでしょう。一方で、予算委の答弁より踏み込んだ発言をすれば、予算委をないがしろにしているということになる。どちらにしても、岸田首相の政倫審出席は墓穴を掘る結果になりかねません。目先の状況を打開するために思いつきで行動しているから、そうなるのです」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
1月18日に突然、岸田派(宏池会)の解散検討を表明したことを彷彿とさせる。「生まれた時から宏池会」と、ことあるごとに派閥への愛着を語っていた岸田がニヤニヤしながら宏池会解散を言い出す錯乱に意表をつかれた自民党は浮足立ち、二階派、安倍派、森山派が雪崩を打って解散を決めた。
しかし、茂木派と麻生派は「政策集団」として存続。岸田の奇襲が度肝を抜いたのは一瞬で、やることが中途半端なのだ。だから、その後も順当に支持率は下がり続けている。「隗より始めよ」よろしく実践してみせるのはいいが、自分だけエエカッコシイで内閣支持率アップをもくろんでいることが透けて見えるから、党内の反発を招き、国民からも信頼されない。
国民の怒りの火に油を注ぐ
今回も、岸田が政倫審出席を表明したことで、他の議員もフルオープンで出席することになったのは結果オーライとしても、今後の展望は不透明だ。安倍派や二階派の幹部が「知らない」「把握していない」で押し通し、何ひとつ明らかにならなければ、国民の怒りの火に油を注ぐことになる。政倫審をフルオープンで開催すれば裏金問題も幕引きなんて考えているとしたら、甘過ぎる。
自民党が3月17日の党大会で正式に決定する今年の運動方針の原案には、「これまでの派閥から脱却し、二度と復活させない」と明記されている。表題は「政治を刷新し、改革の道を歩む」だ。政治への信頼を取り戻すため、「解体的に出直す覚悟で不断の改革努力に最優先で取り組む」とあるが、派閥をなくせばすべてが解決するわけではない。
裏金を貯め込んでも税金を払わず、説明責任も果たそうとしない自民党の体質が問題なのだ。厚顔・破廉恥は昔からだが、第2次安倍政権以降の1強状態でますますヒドくなった。自分たちの私腹を肥やし、選挙に勝っていい思いをすることしか考えていない。そして、国民からは容赦なく搾取して当然とばかりにふんぞり返っている。ここまで民意と乖離した政党は、もはや国民政党ではない。国賊のたぐいだ。
「今回の政倫審のドタバタを見ていても、自民党議員の劣化は著しいと感じます。疑惑議員が自ら率先して説明責任を果たす姿勢はないし、党幹部も指導力を発揮できない。多くの派閥が解体した自民党は統治能力を失って迷走し、自壊へまっしぐらです。自浄作用が期待できない以上、主権者の国民が選挙で審判を下すしかありません」(山田厚俊氏=前出)
国民をナメくさった自民党が崩壊するのは当然の帰結で自業自得だが、この体たらくで自民党政治がダラダラ続けば悲劇だ。国民生活が被害を受ける。「解体的に出直す」というなら、裏金議員は全員とっとと議員辞職。解散総選挙で国民の代表を選び直すしか方法はない。
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