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日本の強さは量子力学におけるトンネル効果があるため、量子と出会い、広げよう/アスキー
大河原克行 編集●ASCII によるストーリー
https://www.msn.com/ja-jp/news/techandscience/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%BC%B7%E3%81%95%E3%81%AF%E9%87%8F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%AD%A6%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB%E5%8A%B9%E6%9E%9C%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%9F%E3%82%81-%E9%87%8F%E5%AD%90%E3%81%A8%E5%87%BA%E4%BC%9A%E3%81%84-%E5%BA%83%E3%81%92%E3%82%88%E3%81%86/ar-BB1i7UOH?ocid=msedgdhp&pc=U531&cvid=c3adb62a51ea4f6a97f488e94b00cab5&ei=10
今回のひとこと
「大企業も、大学も、政府も、コヒーレント状態を作る必要がある。スタートアップ企業ともコヒーレントタイムを同期させることで、日本の失われた30年が、失われたわけではないということを示したい」
量子技術の利用者を1000万人、その生産額を50兆円規模に
一般社団法人量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)と内閣府は2024年2月5日に「Quantum Startup Day 2024〜出会いの場〜」を開催した。
量子技術スタートアップ企業の状況を理解してもらうことを目的にするとともに、ベンチャーキャピタル(VC)やコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)とのマッチングの場として用意された初のイベントで、スタートアップ企業による講演やパネルディスカッション、ブース展示を通じたネットワーキングなどが行われた。
2022年4月に内閣府が打ち出した「量子未来社会ビジョン」では、2030年に目指すべき状況として、国内の量子技術の利用者を1000万人にすること、量子技術による生産額を50兆円規模にすることに加えて、未来市場を切り拓く量子ユニコーンベンチャー企業を創出することを掲げている。とくに、ユニコーンベンチャー企業の創出では、官民が一体となって、起業家育成や研究開発支援、投資家とのマッチング、政府系ファンドを活用したリスクマネーの供給など、総合的な起業環境を整備。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の支援も活用している。
ユニコーン企業とは、評価額が10億ドル(約1500億円)を超える未上場のスタートアップ企業であり、「量子未来社会ビジョン」においては、量子コンピュータ、量子暗号通信、量子計測・センシングの3分野において、ユニコーン企業を数社創出し、スタートアップ企業の参入による市場活性化を図ることを目指している。
今回のイベントは、ここで掲げた量子ユニコーンベンチャー企業の創出を支援するものになる。
日本の強さはニュートン力学では説明が付かない
Q-SATRの島田太郎会長(=東芝社長CEO)は、「量子未来社会ビジョンでは、ハードルが高い目標値を掲げたことで世間をざわつかせたが、そのなかのひとつに、量子ユニコーンベンチャー企業の創出がある」とし、「大企業も、大学も、政府も、波動が互いに干渉しあうコヒーレント状態を作る必要がある。スタートアップ企業ともコヒーレントタイムを同期させることで、日本の失われた30年が、失われたわけではないということを示したい」と、量子技術分野の言葉を使いながら、今回のイベントの狙いを語った。
島田会長の今回の挨拶は、終始、量子技術に関わる言葉を用い、いまの状況を説明するというユニークな手法を取った。
「世の中はニュートン(古典)力学で動いており、エントロピー(混沌)が増大している。エントロピーが大きくなった状態のひとつが戦争である。日本は失われた30年と言われるが、極めて安定した状態であり、世界中で最もエントロピーが低い状態にある。つまり、世界中で一番、最適化された状態にある。しかし、安定的で、最適化しているということは、変化が起こらないということでもある。この状態を保ったまま変化を起こすのは難しい。たとえば、ニュートン力学においては、仕組み自体を根本から変える『レボリューション』という方法がある。しかし、この方法は、いろいろな人にストレスがかかっていいことではない」とし、「量子技術の世界には『トンネル効果』がある。エネルギーの順位の高いところを通り抜けて、次の世界を作ることができる」と述べた。
また、「日本の強さはなにか。それは、ニュートン力学では説明がつかず、よくわからない。たとえば、現場力が強いと言われても、現場力とは具体的にはなにかということになる。これを量子力学で説明すると、組織の壁を気にせずに、勝手にトンネル効果を行っている人たちがいるから成しえているものだと説明できる。日本は、トンネル効果をもっと活用できるようにしなくてはならないだろう」と語った。
量子技術の専門家ばかりが集まったイベントということあり、「今日、ここにいる人たちは、私が言いたいことはだいたい伝わっただろう」と笑いながら述べたが、かなり高度な話だったことは間違いない。
進化が進む量子技術、日本の企業・研究機関も成果を出している
一方、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局政策企画調整官の増田幸一郎氏は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)について言及。「シップと読む人がいるが、それは間違いであり、内閣府での正式な呼び方はエスアイピーである。ぜひエスアイピーと呼んでほしい」と述べたあと、「SIPは、複数の省庁に関係する課題を対象にしているプログラムであり、そのなかで、量子技術については、第3期において、先進的量子技術基盤の社会課題への応用促進として、4つのサブ課題を設けている。今回のイベントは、サブ課題のひとつであるイノベーション創出基盤の研究開発テーマであるエコシステム構築において実施しているものになる」とし、「SIPは、5年間のプログラムであり、2023年度に第3期がスタートしたところである。技術だけでなく、事業、制度、社会的受容性、人材の視点からも取り組み、社会実装の推進と、スタートアップ企業の参画を積極的に推進することになる。SIPや今回のイベントを通じて、スタートアップ企業の活動を理解してもらい、発展に向けた情報交換、意見交換を活発化してもらいたい」と述べた。
また、経済産業省 産業技術環境局 研究開発課 研究開発調整官の田中真人氏は、量子の産業動向について説明。「日々目まぐるしく新たな発見が起きている分野であり、足が速い領域である。それによって、産業化が一気に近づいている」と、量子技術を取り巻く状況を示しながら、「2023年度は、量子技術において大きな進展があった1年だった」と振り返った。
2023年2月にGoogleが超伝導量子ビットのエラーを訂正する量子誤り訂正の実験に成功したこと、9月にはQuantinuumが、イオントラップにおいて、3論理量ビットのエラー率を約1桁低減したこと、10月にはAtom Computingが冷却原子により、1180量子ビットを搭載する次世代中性原子プロセセッサを発表したこと、12月にはIBMがエラー率を低減した133物理量子ビット機の開発を発表するとともに、量子ロードマップを2033年まで延長し、新たな技術進化を示したこと、QuEraが冷却原子において、48個の論理量子ビットの作成に成功したほか、誤り訂正量子アルゴリズムを実現したこと、2024年1月には、東京大学が光におけるGKP量子ビットの生成を世界で初めて実現したといった事例を示しながら、「これまでは物理量子ビットの量の議論が多かったが、それが質の議論に変わっている。超伝導だけでなく、イオントラップ、冷却原子、光量子といった様々な方式において、大きな革命が起きている」と語った。
さらに、量子コンピュータによって、2050年までに創出される市場価値が最大110兆円に達すること、経済効果の80%はユーザーによる産業分野が享受すること、量子コンピュータそのものだけでなく、部材や素材のよる市場貢献も大きく、それが約1〜2割を構成し、日本が強みを発揮できる分野になることを指摘。「経済産業省では、ハードウェアやソフトウェアだけでなく、ユースケースや部材、素材にも力を注いでいきたい」と述べた。
そのほか、2023年4月に、岸田文雄首相の指示により、量子未来産業創出戦略をまとめ、国立研究所や大学で構成される量子技術イノベーション拠点(QIH)を通じて、同戦略が実行されていること、経産省では量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)を産総研に創設し、量子技術による新市場創出やグローバルエコシステムの構築を目指しているほか、ABCI-Qと呼ばれるGPUスパコンを設置し、量子コンピュータと組み合わせたハイブリッド計算環境の構築や、大規模量子デバイスの試作設備を構築していること、量子・古典ハイブリッド技術のサイバー・フィジカル開発事業(旧量子・AIハイブリッド技術のサイバー・フィジカル開発事業)によるユースケースの創出に向けた取り組みを推進していることなどを紹介した。
さらに経済産業省では、懸賞金型研究開発事業という新たな取り組みをスタート。コンテスト形式によって、最大1000万円の賞金が提供されることになるが、2024年度以降には、新たな量子分野もこの対象になる可能性を示唆した。
経済産業省の田中氏は、「量子技術の世界において、日本がイニシアティブを取るためには、ハードウェアやソフトウェアだけでなく、ユースケースの創出、部材や素材開発の評価、人材育成も必要であり、NEDOプロジェクトなどを通じて支援を行っている。量子技術の産業化、社会実装に向けた施策を実行していく」と述べた。
量子技術の利用事例を創出する
Q-STARでは、量子技術そのものを捉えるだけに留まらず、多くのユーザー企業が参加することで、ユースケースの創出を中心とした活動を推進しているのが特徴だ。そこに、量子技術分野において、日本が優位に立てる要素があると見ている。「量子技術を意識せずに使える社会の構築」がQ-STARの狙いである。進化が激しい分野において、産官学による連携に加えて、スタートアップ企業の創出と連携を加速させることで、「量子未来社会ビジョン」で示した2030年の高い目標の実現が近づくことになる。
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