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【解説】ヴァンス米副大統領が見ている世界とは――なぜそれが重要なのか/
BBC News によるストーリ
https://www.msn.com/ja-jp/news/world/%E8%A7%A3%E8%AA%AC-%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%82%B9%E7%B1%B3%E5%89%AF%E5%A4%A7%E7%B5%B1%E9%A0%98%E3%81%8C%E8%A6%8B%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%A8%E3%81%AF-%E3%81%AA%E3%81%9C%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%81%8C%E9%87%8D%E8%A6%81%E3%81%AA%E3%81%AE%E3%81%8B/ar-AA1AOFYM?ocid=msedgdhp&pc=U531&cvid=a87df5759f27497eafba772fe2238564&ei=11
マイク・ウェンドリング、BBCニュース
米ホワイトハウスでの口論が、アメリカとウクライナの同盟関係を破綻させ、欧州首脳を揺さぶった。そして、ドナルド・トランプ米大統領の外交政策を強引なまでに表現するという、J・D・ヴァンス米副大統領の主な役割を浮き彫りにした。ヴァンス副大統領はこのところ、世界を舞台に次々とパンチを繰り出している。そうやって攻勢に出る本人を動かすものは、その世界観を突き動かすものは、いったい何なのか。
ヴァンス氏は2月中旬、ミュンヘン安全保障会議で演説した。副大統領として初めて国外で行う重要演説だった。その内容は、大勢を驚かせた。
副大統領は、ウクライナで激しく続く戦争に焦点を当てるどころか、第2次世界大戦以降の欧州で最多の犠牲を出しているこの紛争については、さらりと触れるだけに済ませた。
その代わり、ヴァンス氏はこの国際舞台へのデビューで、アメリカの同盟諸国を批判し続けた。アメリカと親しい各国に対して、移民や言論の自由について厳しく非難し、欧州のエスタブリッシュメント(主流派)が反民主的だとほのめかした。欧州のエスタブリッシュメントが自国民の意思を無視していると攻撃し、欧州はいったいどういう共通の価値観を、アメリカと共に守ろうとしているのだろうかと疑問を呈した。
「自国の有権者を恐れて逃げ出しているなら、アメリカはあなた方のために何もできないし、実際のところ、あなた方もアメリカ国民のために何もできない」と、ヴァンス氏は警告した。
ヴァンス氏はこうして、ヨーロッパの同盟諸国を怒らせた。世界への自己紹介という意味では大胆なやり方だったし、もしかすると本人にも予想外の結果につながった。しかしこの数日後、ヴァンス氏は再びニュースの中心にいた。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と激しく口論し、ゼレンスキー氏を恩知らずだと非難したのだ。
だがヴァンス氏の台頭を研究してきた人々にとって、この二つの出来事は決して意外なものではなかった。
さまざまな思想を遍歴
ヴァンス副大統領は今や、アメリカの保守運動における知識派を代表している。つまり、トランプ主義を言語化し、具体化し、特にそのアメリカ第一主義が国境を越えてどのように適用されるかを言い表す存在のことだ。
副大統領は著作やインタビューで、アメリカの労働者と国際エリート層、そして世界全般におけるアメリカの役割について、点と点を線にして結びつけるようなイデオロギーを表明している。
昨年の米大統領選でトランプ氏と各地を遊説した際には、ヴァンス氏は民主党を厳しく批判し続け、報道陣との舌戦を繰り広げた。これは、伝統的に副大統領候補に与えられる攻撃役としての役割でもある。
そしてトランプ政権の発足当初は、イーロン・マスク氏の存在感があまりにけた外れで型破りだったため、相対的に影が薄かったものの、ミュンヘンでの演説と大統領執務室での口論を通じて、今やトランプ氏の副官としての存在感を高めている。
それだけに、ヴァンス氏がアメリカの保守運動に参加する中で、どのような思想的遍歴をたどってきたのか、そして本当のところ、今はいったい何を信じているのか、各方面から疑問が出ているのだ。
「彼は、何かの思想を最優先するイデオローグというよりは、現実的な実践を重視するプラグマティストだ」。英ケンブリッジ大学の宗教哲学准教授で、ヴァンス氏が自分の「イギリスでのシェルパ」と呼ぶ友人のジェームズ・オー氏はこう言う。(編集注:シェルパはネパールの少数民族だが、歴史的にヒマラヤ登山のガイドを務めてきたことから、ここでは指南役を意味している。)
「彼は何がアメリカの国益になるかならないかを、明確に表現できる」のだと、オー氏は説明した。「ここで言うアメリカの国益とは、抽象的なユートピアの利益ではなく、さまざまな提案や理念の集合体の利益でもなく、アメリカ国民の利益を意味している」。
この「アメリカ第一主義」、あるいは「アメリカ人第一主義」とも呼べるテーマに、ヴァンス氏は演説で頻繁に言及する。アメリカ政府が国外で推進する政治経済の正統的な外交は、アメリカ各地で取り残された労働者たちの苦難と、あまりにかけ離れていると非難するのだ。
例えば、昨年夏の共和党全国大会でヴァンス氏は、アメリカ各地の小さな町で、「仕事が海外に移され、子どもたちが戦争に送られた」ことを嘆いた。そして、当時のジョー・バイデン大統領を攻撃し、「彼は半世紀もの間、ひたすらアメリカを弱くして貧しくし続ける、ありとあらゆる政策を推進してきた」と非難した。
しかし、ヴァンス氏はここに至る前、米東部アパラチア地方にルーツのあるオハイオ州の家族のもとで生まれ、厳しい生い立ちを経験した後、自伝「ヒルビリー・エレジー」でいきなり有名になった。そしてこれまでに、さまざまな思想や考え方を試行錯誤してきた。
ヴァンス氏は2016年当時、トランプ氏を「非難すべき」「愚か者」と評し、自分は「絶対にトランプ支持者にはならない」と表明していた。また、当時のヴァンス氏は農村部の貧困層が苦しむ原因のほとんどは、個々人の責任だと書いている。
しかし 最近のヴァンス氏は、農村の貧困層の窮状の責任はエリート層にあると、攻撃の矛先を変えている。エリート層とはこの場合、民主党員、伝統的な共和党員、リベラル派、企業リーダー、グローバリスト、学者などを意味する。
ヴァンス氏は演説で、「アメリカは単なる理念ではない(中略)アメリカとは国のことだ」と繰り返し主張する。
そして、この話と併せて、ケンタッキー州にある自分の先祖代々の墓地の話をする。その墓地にいずれ自分も妻も、そして子供たちも、そこに埋葬されるだろうと言い、アメリカの伝統的な根本的理念のいくつかよりも、家族と国土こそ大事なのだと主張する。
ヴァンス氏に言わせると、何世代もアメリカに住みながら国の莫大な富をほとんど享受していない国民の暮らしを向上させることこそ、トランプ政権は最優先すべきなのだ。
ヴァンス氏の友人でもある保守系のアメリカ人著者ロッド・ドレーアー氏は、彼の考えを次のように説明する。
「穏健的な普通の共和党員は、いわゆる永遠の戦争を止めるために何もできなかった。それに、彼の地元に大勢いる普通のアメリカ人、グローバリズムのせいで経済的に苦しみ、大量の移民や(麻薬性鎮痛薬)フェンタニルの影響で苦しんでいる人たちにも、普通の共和党員は何もできなかった」という信念から、ヴァンス氏の考え方は生まれているのだと。
「言うなれば彼は、ドナルド・トランプにレッドピルを飲まされたんだ」と、ドレーアー氏はBBCラジオ番組で話した。
「レッドピル(赤い薬)」とは、もとは映画「マトリックス」に出てくる小道具で、今では隠されていたらしい真実にいきなり目覚めるという意味の、インターネット用語になっている。特にインターネット上の右派がよく使う表現で、自分たちこそ誰よりも現実を特別によく知っており、リベラルや中道派や体制派は批判的思考を持たないと、そう考えている人たちが好んで使用している。
ヴァンス副大統領は、大統領よりもはるかに深くインターネット・カルチャーに通じているように見える。ソーシャルメディア「X」を熱心に利用し、政治家の多くが声明発表の場としてのみXを使うのとは異なり、しばしばXでの議論に直接飛び込んでいる。
上院選で支持を集めようとしていた当時は、極右系ポッドキャスト番組にしばしば出演した。アメリカは「子どものいない猫おばさん」が仕切っているなどの挑発的な発言と合わせて、過去のそうした言動は本人への格好の攻撃材料となっている。
インド移民二世の女性と結婚していることを理由に、アメリカのオルタナ右翼は副大統領を拒絶しているし、本人もオルタナ右翼を批判している。しかし、思想的には共通する部分もある。それとは裏腹に、シリコンバレーのトップにも、そしてシリコンバレーのあまり知られていない一角にも、副大統領の友人や仲間がいる。
ヴァンス氏は イェール大学ロースクールを卒業後、シリコンバレーの有力保守派ピーター・ティール氏によってベンチャーキャピタルの世界に引き入れられた。後にヴァス氏が上院選に出馬した際、資金面で支えたのもティール氏だった。
さらにヴァンス氏は、著名ブロガーのカーティス・ヤーヴィン氏といった人たちをしばしば引用する。ヤーヴィン氏とは、ハイテクが支え、強力な専制君主が率いる超資本主義社会という幻想を夢見る「新反動主義」運動の中心的人物だ。
インターネットの片隅に生息する一部しか知らない極論にヴァンス氏がいかに精通しているかは、移民がペットを食べているという虚偽のうわさや、ウクライナの汚職疑惑を本当のこととして広めたこれまでの言動からも明らかだ。ウクライナの汚職疑惑については、その出所がロシア政府だとBBCは突き止めた。
「あの人はオンラインの世界でずっともやもやしている感じ」なのだと、ライターのキャシー・ヤング氏は言う。反トランプの保守派メディア「ブルワーク」で執筆するヤング氏によると、それと同時に、家族の墓地や国土について副大統領が繰り返す話は、別の政治的傾向も示している。
別の傾向とはつまり「不穏な土着主義、排外主義をうかがわせる」もので、「それを不穏に思う人もいる。それは当然の反応」だと、ヤング氏は言う。
「アメリカの伝統の一部として、アメリカは移民の国だというのがある。ロナルド・レーガン(元大統領、共和党)はかつて、世界のどこから来てもアメリカ人になれるというのが、この国の大きな特徴の一つだと言っていた」
「アメリカ第一主義」を掲げるヴァンス氏の考えは、ウクライナでの戦争の問題にも明らかに及んでいる。上院議員だったころのヴァンス氏は、アメリカの関与と費やされた額の大きさをしばしば批判していたと、ジョシュ・ホーリー上院議員(ミズーリ州選出、共和党)は振り返る。
「当時の彼の立ち位置は、今とよく似ていた。つまり、この紛争は終わらせる必要があるという意見だった」と、ホーリー議員はBBCに話した。
「(ウクライナでの戦争は)アメリカの安全保障に最も有利な形で終わらせる必要があり、欧州の同盟国が今より多くの責任を担うような形で終わらせる必要がある」というのが、ヴァンス氏の考えだと、ホーリー議員は述べた。
ヴァンス氏はかねて、バイデン政権は不法移民の流入抑制よりもウクライナに熱心だと、しきりに非難していた。ロシアのウクライナ全面侵攻が始まった後、そして上院選の最中だった2022年に書いた文章で、彼は「この国の南側の国境が不法移民の津波に飲み込まれている最中に、ウクライナの東川の国境を最優先にするなど、あり得ない話だ」と述べている。
ウクライナに関するこうした意見は今年2月末、あの大統領執務室での場面で一気に表面化した。ゼレンスキー大統領との劇的な口論の中でヴァンス氏は、ゼレンスキー氏には敬意が足りない、政治家をウクライナの「プロパガンダ・ツアー」に送り込んでいる、アメリカの援助への感謝が足りないと、たたみかけて非難した。
「アメリカ合衆国と、あなたの国を救おうとしている大統領に、何か感謝の言葉を伝えたらどうです」と、彼はウクライナ大統領に迫った。
このやりとりを見た欧州各国の首脳は、ゼレンスキー大統領を擁護しようと躍起になった。そしてそれと同時に、和平協定の可能性を探る交渉をなんとか維持しようと努めた。
ヴァンス氏はさらにその後、「30年も40年も戦争をしていない、どこかの国からの」軍隊派遣でウクライナの安全を保証するなどばかげていると見下す姿勢を示した。このこともあらためて、多くの同盟国の怒りを買った。
本人は後になって、自分の発言は英仏についてではないと釈明した。ウクライナに平和維持軍を派遣する意向を公表しているのは、英仏だけなのだが。
しかし、同盟国の怒りを買っても構わないという副大統領のその姿勢もまた、本人の世界観を反映している。本人の言葉を借りるならば彼は、「どの国が良い国でどの国が悪い国かなどという、道徳を気にしている」暇はないのだから。
「これは、道徳などどうでもいいということではなく、どういう国と交渉しているのか、そのことについて正直でいなくてはならないという意味だ。この国の外交政策の主流派のほとんどが、この点についてまったく失格だ」。ヴァンス氏は昨年、米紙ニューヨーク・タイムズのコラムニストにこう話している。
ヴァンス氏の論調は、上院議員としての2年間と、トランプ氏の副大統領候補に選ばれて以降で変化している。民主党のコーリー・ブッカー上院議員は、ヴァンス氏はかつて「とても現実的で思慮深い」人物だったと話す。
「なので最近のいろいろには驚いている」とブッカー議員はBBCに話した。
昔と今でヴァンス氏は人が変わったと、同じように言う人はほかにもいる。
米誌アトランティックで執筆するデイヴィッド・フラム氏は、15年以上前のヴァンス氏と今の副大統領で、物の見方はかなり違うと言う。当時オハイオ州立大学に通っていた元海兵隊員のヴァンス氏に、フラム氏は自分のウェブサイトに保守政治について寄稿するよう初めて依頼した。
「当時の彼は今とは違って、国の社会政治の風潮のために闘う戦士では決してなかった」
フラム氏はジョージ・W・ブッシュ元大統領のスピーチライターで、今ではトランプ大統領を厳しく批判する。そしてそのフラム氏は、ヴァンス氏がロシアを「イデオロギー的に見上げて」いるに等しいと言う。
ミュンヘン安全保障会議で言論の自由について語ったヴァンス氏は、西側諸国の保守派やキリスト教徒が関わった事案をいくつか挙げた。しかし、ロシア政府が表現の自由を厳しく取り締まっていることには、何も触れなかった。
ヴァンス氏とその関係者は、彼がロシアのウラジーミル・プーチン大統領に共感しているという意見を否定する。
2024年のミュンヘン安全保障会議で当時オハイオ州選出の上院議員だったヴァンス氏は、 「プーチン大統領が親切で親しみやすい人だなどと主張したことは一度もない」と演説で述べた。
「(プーチン氏に)賛成する必要はない。彼と争っていいし、今後もしばしば争うはずだ。しかし、彼が悪者だからといって、基本的な外交に取り組んではいけないとか、アメリカの国益を優先してはいけないとか、そんなことがあるわけはない」
BBCはホワイトハウスに、ウクライナとロシアに関するヴァンス氏の立場についてコメントを求めている。
ヴァンス氏に言わせると、ウクライナでの紛争を素早く終わらせるとは、何千マイルも離れた場所で何十億ドルも使い続けるのを止めさせるという、それだけで済む話ではない。
アメリカとその友好国は、ウクライナよりも大きな問題に注力すべきなのだと、ヴァンス氏は自ら口にしている。それは中国のことだ。ヴァンス氏は,
中国が「今後20年から30年にかけて、この国にとって最も重要な競争相手になる」と発言している。
ヴァンス氏はウクライナに対する持論を、その内容もさることながら、公の場で堂々と披露してみせた。それはトランプ第2次政権の初期を印象付ける、劇的な場面だった。
しかもあの場面は、劇的だったというだけでなく、副大統領のイデオロギーや、トランプ政権における彼の重要性、そして彼が世界におけるアメリカの立場をどう見ているかを、鮮明に示すことになったのだ。
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