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勝者称え敗者敬うのが五輪精神
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2024年8月 4日 植草一秀の『知られざる真実』
パリ五輪が佳境を迎え、連日熱戦が繰り広げられている。
かつてのアマチュアリズムは消滅し、巨大な商業イベント化している。
日本経済の凋落が進行して、いまや巨大資本もスポーツ分野を収益事業分野の重要な一角に組み込んでいる。
アスリートが巨額の年収を計上する現代においては、スポーツに取り組むアスリートも収益動機、営利目的でスポーツに取り組んでいる場合が少なくない。
アスリートの才能と努力の発揮の場としては最高位の舞台として位置付けられる五輪。
商業イベントとしての見ごたえはあるだろう。
しかし、オリンピックは本来、平和の祭典であって、オリンピズムの目的は、人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励することにある(オリンピック憲章3)。
また、オリンピック・ムーブメントの目的は、いかなる差別をも伴うことなく、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって相互に理解しあうオリンピック精神に基づいて行なわれるスポーツを通して青少年を教育することにより、平和でよりよい世界をつくることに貢献すること(オリンピック憲章6)にある。
かつてNHK解説者はオリンピックを「国威発揚の場」だと述べたが、これは完全な誤りである。
上記の目的があるからこそ、巨大な血税がオリンピック活動に投下されている。
単なる民間の事業ではなく、国民の財政負担の下にオリンピック活動が存在することを踏まえることが必要だ。
五輪競技のなかでもさまざまな運営上のミス、トラブルは発生する。
試合の結果判定が人間の判断に委ねられる場合にはその判定に疑問が付けられる場合も少なくない。
公正で公平な判断が示されるためにはルール設定の適格性、正当性が求められるが、ルール設定があいまいであるために判定に疑問が提示される場合も少なくない。
ビデオによる判定が導入される場合には、判定に疑問が付けられる場合のビデオ判定を求める権利=リクエストが適正に設定されていれば、判定に対する苦情が発生する確率を引き下げることができる。
正当なルールが設定されている競技もあれば、そうでない競技もある。
これだけの大きな興行を運営するのであるから、本来は万全のルール設定が行われるべきだが、競技の種類によっては対応が遅れているものも多く存在しているように見える。
制度は完成されておらず、発展途上にある。
ところが、現実の大会の進行と結果に関する日本の報道を見ると、判定等に対してクレームを付ける報道があまりにも目に付く。
制度は不完全であり、判定が人為によるものであるから、結果の完全を求めることに無理がある。
判定のなかに、日本選手にとって不利なものになったものもあると考えられるが、逆に、日本選手にとって有利になった判定も多く観察されている。
ところが、日本で報じられるメディア報道において、判定の歪みで日本選手、日本チームが不利に取り扱われたとクレームを付けるものがあまりにも多い。
客観的に見て、そのような現実が存在するとは思われない。
試合後のインタビューで「本来の力を出せなかった」とのコメントも多く聞かれるが、緊張を強いられる本番の競技で実力を完全に発揮できないことがあるのは当然のこと。
その点を含めて世界のトップアスリートが全力を注いで真剣勝負を行う。
その結果として優勝劣敗が決せられるが、勝利しても敗北しても、潔く結果を受け入れることがスポーツマンシップである。
敗北した場合には謙虚に力不足を認める必要があるし、勝利した場合には勝利の幸運を手にしたことに対する感謝の念が表出されるべきだ。
勝者に対する敬意、敗者に対する敬意の両方が重要だ。
敗北したときに勝者を称えることをせずに、審判の判定にクレームを付ける、プログラムの操作に疑問を提示するのは、気持ちの良い対応と言えない。
柔道の団体戦では、文字通りの死闘が演じられて、フランスが劇的な勝利を収めた。
日本選手団も力の限りを尽くして奮闘した。
しかし、結果としてはフランスが厳しい戦いを制したのであり、フランスの奮闘に対する賞賛と敬意が必要である。
ところが、この点を置き去りにして、判定の不正をあげつらったり、代表選が男子90キロ超クラスになったことを「陰謀」だと主張する論を張り巡らせたりすることは、五輪の価値を貶めるものになる。
男子サッカーでのビデオ判定でオフサイドが認定されてゴールが成立しなかった事例もあるが、ビデオ確認による判定である限り、これをクレームの対象とすることは正当でない。
身びいきではなく、オリンピズムの精神に基づく五輪の戦いの結果に対して、勝っても負けても、双方を正当にリスペクトする姿勢が重要だ。
五輪論評が日本の国柄を示すことになることを十分に踏まえるべきである。
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