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イスラエルによるガザでの大量虐殺を無視する西側諸国と国連特別報告者
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202412270000/
2024.12.27 櫻井ジャーナル
シリアではアメリカなどの外国勢力が送り込んだ武装勢力によってバシャール・アル・アサド政権は倒され、ハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)を中心とする親欧米派の新体制が樹立されようとしている。このHTSはムスリム同胞団やサラフィ主義者を主力とするジハード傭兵の一派であり、指導者のアブ・ムハンマド・アル・ジュラニはダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国とも表記)と関係が深い。どこかの時点でNTSやアル・ジュラニが「穏健派」に豹変したということはない。雇い主の都合でタグを付け替えるだけだ。
送り込まれたジハード傭兵はシリアで殺戮、破壊、略奪の「三光作戦」を展開し、キリスト教徒も殺戮の対象だ。シリアの戦乱が始まった翌年の2012年6月、メルキト・ギリシャ典礼カトリック教会のフィリップ・トゥルニョル・クロス大主教はシリアを調査、ローマ教皇庁のフィデス通信に対し、「誰もが真実を語れば、シリアの平和は守られる。紛争の1年後、現地の現実は、西側メディアの偽情報が押し付けるイメージとはかけ離れている」と報告している。クロス大主教が調査した理由のひとつはそこにある。
しかし、それ以上の殺戮がパレスチナのガザでイスラエル軍によって行われてきた。すでに4万5338名が殺され、そのうち約4割が子どもであり、女性を含めると約7割に達する。そのほか医療関係者やジャーナリストも狙われている。こうした人びとは「戦争の巻き添え」で殺されているわけではない。イスラエル軍は意図的に非戦闘員を殺している。
実は、こうしたことをイスラエル政府は隠していない。昨年10月7日に戦闘が始まった直後、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は「われわれの聖書(キリスト教における「旧約聖書」と重なる)」を持ち出し、パレスチナ人虐殺を正当化しているのだ。
聖書の中でユダヤ人と敵だとされている「アマレク人があなたたちにしたことを思い出しなさい」(申命記25章17節から19節)という部分を彼は引用、「アマレク人」をイスラエルが敵視しているパレスチナ人に重ねたのである。その記述の中で、「アマレク人」を家畜と一緒に殺した後、「イスラエルの民」は「天の下からアマレクの記憶を消し去る」ことを神は命じている。
サムエル記上15章3節には「アマレクを討ち、アマレクに属するものは一切滅ぼし尽くせ。男も女も、子供も乳飲み子も牛も羊も、らくだもろばも打ち殺せ。容赦してはならない。」と書かれている。これこそがガザでイスラエルによって行われていることだと言えるだろう。ネタニヤフによると「われわれは光の民であり、彼らは闇の民」なのである。
ネタニヤフ政権はパレスチナ人だけでなく家畜も皆殺しにした上、彼らの存在を歴史から抹殺すると言っているのだ。そのイスラエルをアメリカやイギリスをはじめとする西側諸国は支援している。
そうした中、ローマ教皇フランシスコは12月21日、ガザでの爆撃は残虐行為であり、戦争ではないと非難、ピエルバティスタ・ピッツァバラ枢機卿がガザへ入れなかったことを批判した。22日にイスラエル当局は枢機卿のガザ入りを許可したが、その日、教皇はイスラエルがガザで続けている子どもの虐殺を改めて非難している。
教皇に言われるまでもなく、イスラエルはパレスチナ人を大量虐殺してきた。その事実を覆い隠すために「反ユダヤ主義」という呪文が使われてきたが、アメリカやイギリスを後ろ盾としてイスラエルが行っていることの基盤はシオニズムだ。
シオニズムとは「シオンの地」にユダヤ人の国を作ろうという「ブリティッシュ・イスラエル主義」で、エリザベス1世が統治していた16世紀後半にイギリスで出現した。アングロ-サクソン-ケルトは「イスラエルの失われた十支族」であり、自分たちこそがダビデ王の末裔だとする信仰だ。
イギリスのエリートにはそう信じる人が少なくなかったようで、イングランド王ジェームズ1世は自分を「イスラエルの王」だと信じていたという。その息子であるチャールズ1世はピューリタン革命で処刑されるが、そのピューリタンを率いていたオリヴァー・クロムウェルの周辺にもブリティッシュ・イスラエル主義を信じる人がいたようだ。
近代シオニズムの創設者とされている人物は1896年に『ユダヤ人国家』という本を出版したセオドール・ヘルツル。シオニズムという用語は1893年に初めて使われたのだが、その直前からテル・アビブを中心とする地域の土地を買い占める富豪がいた。フランス人のエドモンド・ジェームズ・ド・ロスチャイルドだ。
実際にパレスチナに「ユダヤ人の国」を作るという動きが現れるのは20世紀に入ってからだ。イギリスの外相だったアーサー・バルフォアが1917年にウォルター・ロスチャイルドへ出した書簡が始まりだと考えられている。
いうまでもなくパレスチナにはアラブ系の人びとが生活していた。その人びとを追い出すか殺害し、ユダヤ人を連れて来なければ「ユダヤ人の国」を作れない。そうした中、ドイツでユダヤ人弾圧が始まった。
ドイツでは1933にナチスが国会議事堂放火事件を利用して実権を握るが、この年の8月にシオニストはナチス政権との間でユダヤ系ドイツ人をパレスチナへ移住させることで合意した。「ハーバラ合意」だ。ユダヤ人弾圧はシオニストにとって好ましいことだった。
第2次世界大戦が終わって間もない1948年4月、「ユダヤ人の国」を作るために先住民であるアラブ系の人びとの排除に乗り出す。そこで4月4日に「ダーレット作戦」を発動、6日の未明にハガナの副官、イェシュルン・シフがエルサレムでイルグンのモルデチャイ・ラーナンとスターン・ギャングのヨシュア・ゼイトラーに会い、ハガナのカステル攻撃に協力できるかと打診。イルグンとスターン・ギャングは協力することになる。
まず、イルグンとスターン・ギャングはデイル・ヤシンという村を襲うが、この村が選ばれた理由はエルサレムに近く、攻撃しやすかったからだという。村の住民は石切で生活し、男が仕事で村にいない時を狙って攻撃するプランだった。早朝ということで、残された女性や子どもは眠っている。
4月9日午前4時半にイルグンとスターン・ギャングはデイル・ヤシンを襲撃。マシンガンの銃撃を合図に攻撃は開始、家から出てきた住民は壁の前に立たされて銃殺され、家の中に隠れていると惨殺、女性は殺される前にレイプされている。
襲撃の直後に村へ入った国際赤十字のジャック・ド・レイニエールによると、254名が殺されていた。そのうち145名が女性で、35名は妊婦だった。イギリスの高等弁務官、アラン・カニンガムはパレスチナに駐留していたイギリス軍のゴードン・マクミラン司令官に殺戮を止めさせるように命じたが、拒否されてしまう。ハガナもイルグンとスターン・ギャングを武装解除しようとはしない。(Alan Hart, “Zionism Volume One”, World Focus Publishing, 2005)
そして5月14日、エドモン・アドルフ・ド・ロスチャイルドやアブラハム・フェインバーグといった富豪をスポンサーとするシオニストはイスラエルの建国を宣言したのだが、ユダヤ人はシオニストの思惑通りに集まらなかった。ナチスによる弾圧で多くのユダヤ教徒がドイツ国外へ逃れたが、ヨーロッパの生活様式に慣れた人びとはパレス地でなくアメリカやオーストラリアへ向かった。(Will Banyan, “The ‘Rothschild connection’”, Lobster 63, Summer 2012)
フェインバーグはアメリカン・バンク・アンド・トラストの会長を務めた人物で、アメリカ民主党の重要な資金提供者。ハリー・トルーマンやリンドン・ジョンソンのスポンサーとしても知られている。また熱心なシオニストで武装組織ハガナのエージェントだったとも言われている。(Jonathan Marshall, “Dark Quadrant,” Rowman & Littlefield, 2021)
こうして出現したイスラエルはパレスチナで殺戮、破壊、略奪を繰り返すことになり、先住民であるアラブ系の人びとにとっては地獄のような日々が続くことになる。現在、ガザで行われていることを理解するためには、こうした歴史を理解する必要がある。
そしてローマ教皇はイスラエルの大量虐殺を非難したのだが、イスラエルのヤロン・サイドマン駐バチカン大使は教皇のジェノサイド批判は「根拠がない」と主張、またイスラエル政府はバチカン大使を召喚したという。
これまで国際的な人権団体、例えばアムネスティ、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、国境なき医師団などはアメリカ支配層を厳しく批判することはなかった。スポンサーに刃向かうことは避けたかったのかもしれないが、イスラエルが強制収容所化したパレスチナで行っている大量虐殺はあまりにも露骨で深刻なため、その明白な事実を報告書として発表している。こうした団体はイスラエルがパレスチナ人の絶滅を目指しているとも指摘している。
一方、拷問や残虐で非人道的な行為などに関する国連特別報告者を務めているアリス・ジル・エドワーズはガザで拘束されている「人質の即時かつ無条件の解放」を求めと表明、これは国際法に違反する違法行為であり、残虐行為であり、戦争犯罪だと主張したのだが、イスラエルが拘束しているパレスチナ人に対して行っている性的暴力を含む拷問には触れなかったことを批判する人がいる。パレスチナの人権団体が提出した記録を無視しているというのだ。昨年10月以来、拘束されているパレスチナ人の数は急増していると言われている。
エドワーズに限らず、西側では根拠のないイスラエル側の主張は大々的に取り上げられるが、根拠が示されているパレスチナ側の主張は無視されてきた。エドワーズに対する公開書簡をパレスチナの人権団体などは発表しているが、これでアメリカを中心とする勢力が変化することはないだろう。ただ、その書簡によって状況を知る人は増えるかもしれない。
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