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2024年7月2日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/336863
連載<平和国家の現在地>@
南国らしい赤瓦とコンクリート造りの民家が立ち並ぶ日本最西端の島、与那国島(沖縄県)。岬付近では天然記念物の与那国馬が悠然と歩き、ダイビングに向かうウエットスーツ姿の観光客の笑い声が響く。のどかな島は今、「台湾有事」を想定した国の動きに揺さぶられている。
自衛隊の南西シフト 鹿児島県南部から沖縄県の島々へ連なる南西諸島で、自衛隊の体制を強化する日本政府の方針。16年の与那国島(沖縄県)を皮切りに、19年の宮古島(同)と奄美大島(鹿児島県)、23年の石垣島(沖縄県)と駐屯地を次々と開設し、ミサイル部隊の新編などを進めている。
◆ミサイル部隊の追加配備が持ち上がり「国は詐欺師のよう」
「自衛隊誘致には賛成しても、ミサイル部隊となると『話が違う』と言う人はたくさんいる」。与那国町議会議長の崎元俊男さん(59)は苦渋の表情で語る。
台湾から111キロの島に100人規模のミサイル部隊の配備計画が持ち込まれたのは昨年5月。防衛省は住民説明会で「飛んできたミサイルを撃ち落とすためで、敵から攻撃を受けることはない」と繰り返した。
崎元さんは、陸上自衛隊与那国駐屯地を新設した2016年と同じやり口だと直感した。「最初は沿岸監視部隊の配備だけという説明だった。島は翻弄(ほんろう)されている。国は詐欺師のようで不信感しかない」と憤る。
◆来島した自衛隊員とその家族は地域社会を支える
島は9年前、駐屯地開設を巡って二分された。住民投票の結果は賛成632票、反対445票。団体職員の男性(64)は「あんな分断は二度と繰り返したくないから、自衛隊の話題はみんな避けている。何も言えない雰囲気になった」と打ち明ける。
島西部の駐屯地開設後、徐々に変化が現れた。15年に約1480人だった人口が1割ほど増え、過疎化に歯止めがかかった。自衛隊員と家族は島内の3集落に分散して住み、祭事や学校のPTA活動など地域活動の担い手になった。駐屯地となった町有地の賃貸料約1500万円を元手に学校給食費は無償化。町民税の税収は5000万円増えた。
電子戦部隊の追加配備もあり、24年3月時点で、隊員と家族は計350人に上り、島の人口の2割を占める。ミサイル部隊が来れば、島民の4人に1人が自衛隊関係者になる。
島内で自衛隊の影響力がじわじわと広がる中、ミサイル部隊の配備を歓迎する声も聞かれる。22年8月の中国軍による台湾周辺の軍事演習では、弾道ミサイルが島の北北西80キロに着弾し、町漁協組合は漁の自粛を余儀なくされた。嵩西茂則組合長(62)は「中国を脅威に感じる漁師は多い。米軍との連携も含めて防衛はしっかりやってほしい」と注文を付ける。
◆「住民のあずかり知らないところで物事がどんどん進んでいく」
誘致反対を訴えてきた田里千代基町議(66)は、なし崩し的に軍事力が増強される状況に危機感を隠さない。「(町長選や町議選で)自衛隊がキャスチングボートを握れば、住民の声が通らなくなる。今さら駐屯地をなくせない。でも、ミサイル部隊が来て危険なところになれば、島を出る住民はもっと増える」と島の将来を案じる。
ミサイル部隊に加え、有事に自衛隊が利用する新港の建設計画も島南部に持ち上がっている。計画地近くに住む陶芸家の山口和昭さん(76)はため息をつきながらつぶやく。「住民のあずかり知らないところで物事がどんどん進んでいくことが怖い」(川田篤志)
◇ ◇
連載<平和国家の現在地>
集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲から10年。日米の軍事的一体化で専守防衛は形骸化し、防衛力強化を目的とした自衛隊施設の建設や防衛産業の育成などが進んでいる。「平和国家」を標榜するこの国で何が起きているのか。現場の動きと背景を伝える。
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