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2024年4月12日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/320706
パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まってから、7日で半年が過ぎた。ガザ保健当局によると戦闘の死者は3万3000人を超えた。イスラエルはガザ各地から避難者が集まる最南部ラファに侵攻する構えを見せ、停戦の見通しは立たない。深刻な人道危機に、日本は適切に向き合ってきただろうか。ガザの人々を支える国連機関への対応を含め、改めて振り返る。(山田祐一郎、曽田晋太郎)
◆最南部ラファに、避難者たちの無数のテント
「状況は悪くなる一方だ。避難できるところには、既に人があふれている」。11日に東京新聞「こちら特報部」のオンライン取材に応じた国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の保健局長で医師の清田明宏氏(63)は、ガザが置かれた状況を危惧した。「戦闘行為が続き、ラファへの侵攻の恐れもある。人々はどうしていいか分からず、限界を超えた状態だ」
UNRWAは1949年の設立以降、パレスチナ自治区とヨルダン、レバノン、シリアで、パレスチナ難民に食料や、教育、医療などを提供してきた。
清田氏は3月20日〜今月10日ラファを訪れた。元々30万人が住んでいた土地に150万人ほどが避難し、西側の海岸線は見渡す限りテントが並んでいた。
◆日本もUNRWAへの資金拠出を一時取りやめ
UNRWAが運営する避難所も状況は深刻だった。「3000人を収容する避難所に10万人が身を寄せている。上下水道は機能せず、食料不足に悩まされ、飲み水は1人1日500tもない」と明かす。「劣悪な衛生環境でA型肝炎が広がっている。戦闘開始前、ガザの人口の1%だった栄養失調は今、10人に1人。急激に健康状態が悪化している」
社会や経済活動の崩壊にも危機感を募らせる。「現地ではイスラム教のラマダン(断食月)が明けたばかり。新しい服を着てラマダン明けを祝う光景がエジプト側では見られるが、わずか1キロしか離れていないラファでは全く状況が異なり、ショックだった」
UNRWAの運営も不安定さに直面している。財政面では各国の拠出金に支えられてきたが、1月末、最大の拠出国の米国をはじめ、2022年に約3000万ドル(約45億円)を負担した日本など10カ国以上が拠出をやめた。イスラエルの情報提供で、UNRWA職員がハマスによる攻撃に関与した疑いが浮上したことが理由とされた。
ラザリニUNRWA事務局長は3月末に来日し、上川陽子外相に組織のガバナンス強化など改善策を報告。日本政府はカナダやスウェーデンなどに続き、今月2日に資金拠出再開を決めた。
清田氏は「体制の見直しを理解してもらい、資金拠出が再開されることを大変感謝している」と受け止める。ただ、米国やドイツは拠出を止めたままだ。
◆援助食料の略奪も発生 ガザは崩壊の一途
イスラエルに封鎖されているガザでは、戦闘開始前の10倍ぐらいのレベルで物価が高騰している。流通する現金が不足し、数少ないATMには長蛇の列ができている。援助の食料の略奪も起きているという。
援助の専門家から「コソボやウクライナでもこれほどの人の移動や、人道的な危機は見たことがない」との声を耳にする。清田氏は「多くの人が避難を繰り返す中、人々の心が壊れ、町や村などの社会構造も壊れている。経済も破綻し、ガザは崩壊の一途にあるということを知ってもらいたい」と強調する。
そしてこう訴える。「何よりも必要なのは停戦だ。そのために国際社会が政治的な解決に力を尽くしてほしい」
◆家族の写真「みんなやせてきている」
攻撃から半年に際し、パレスチナで活動する日本のNGOや研究者が、恒久的停戦や支援物資の安定供給を要望する共同アピールを発表した。題名にはこうあった。「ガザの『声』を聞いて下さい」
アピールに加わった日本国際ボランティアセンター(JVC)のエルサレム事務所で現地調整員を務める大沢みずほ氏(39)の元には、ガザにいるパートナー団体のスタッフや友人から悲痛な叫びが届く。
数日前にガザ中部にいるスタッフとオンラインで話した時には近くでの大きな爆発音が聞こえた。ラファに逃れた何人もの友人が「もうガザから出たい」と訴えている。知人から送られてくる家族の写真は「みんなやせてきている」。
◆「日本は本来、平和をリードすべき国」
大沢氏は「パレスチナで日本への信頼が落ちている」とも心配する。日本は戦闘開始直後の昨年10月16日、ロシアが国連安全保障理事会に提出した停戦決議案を米国や英国とともに反対した。
ガザの知人らから「なぜ反対したのか」と詰め寄られた大沢氏は「日本は本来、平和をリードすべき国。欧米追随ではなく。独立した立場でイニシアチブを取ってほしい」と求める。
人々の苦境を深める戦闘の長期化を懸念する声が専門家からも聞こえる。
東京大中東地域研究センターの鈴木啓之特任准教授(中東近現代史)は「ガザなどに対するイスラエルの攻撃は、短期決戦を目指すのがこれまでのパターン。半年続くとは想定していなかった。前代未聞という認識を強くしている」と語る。
国連安保理は先月25日、ラマダン期間中という条件付きながら、即時停戦を求める決議を初めて採択。イスラエルの後ろ盾の米国も拒否権は発動せず、棄権にとどめた。
今月、米国の食料支援団体メンバーがイスラエル軍の空爆で死亡し、バイデン米大統領が非難するという一幕もあった。
イスラエルに対する国際世論が厳しさを増す流れにあるが、鈴木氏は「米国の圧力が強まっている点にイスラエル国内の指導者も非常に関心を持っているものの、停戦も休戦もいまだ見通せない」と指摘する。
ハマス殲滅(せんめつ)を掲げるイスラエルのネタニヤフ首相が意欲を示すラファ侵攻については「ガザでの戦闘の仕上げになるという位置付け。政権を支える連立与党からも、侵攻しなければ連立離脱するとの発言も出ており、侵攻の可能性は依然として高く残る」とみる。
◆欧米とは異なる日本の立場 解決にどう取り組む
こうした状況の中、日本の対応も問われている。
鈴木氏はUNRWAへの資金拠出を一時停止したことについて「中東和平に関し独自外交を掲げてきた日本が、ガザで動ける国連の枠組みとして最大の機関に圧力をかけてしまった」と批判。「UNRWAはガザ以外の地域でも難民支援を行っており、集団懲罰に近い形でパレスチナ社会全体に打撃を与える行為。全く評価できない」と断じた。
日本の拠出再開について、慶応大の錦田愛子教授(現代中東政治)は「中東諸国はパレスチナ支持のため、米国の拠出再開を待って後れを取ると、石油の輸入などで問題が生じることを気にしたのだろう」と推し量りつつ、UNRWAの運営は米国やドイツの拠出停止継続で「綱渡り状態が続く」と予想する。
錦田氏は日本の役割として「欧米の政権は国内のユダヤ票を意識せざるを得ない面があるが、そうした縛りにとらわれずに、いろいろな国に停戦を促す働きかけができる」と強調する。
先の鈴木氏はこう指摘する。「パレスチナ、イスラエル両方との関係性があるのが日本外交の強みとして認識されてきた。双方が対立した時にどういう働きかけをするのか。(両者が共存する)2国家解決を掲げる日本は、責任ある形で行動できるかが問われている」
◆デスクメモ
大沢氏の元には、この3カ月以上、新鮮な野菜を食べていないという声も寄せられている。命をつないでも人間的な生活からは程遠い。欧米に歴史的なしがらみがあるのなら、日本はより主動的に、戦闘終結に向けて尽力すべきだ。これ以上、多くの犠牲を生じさせてはならない。(北)
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