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※紙面抜粋
※2024年1月13日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
夜にも大勢が判明(右から民進党の頼清徳氏、国民党の侯友宜氏、台湾民衆党の柯文哲氏)/(C)共同通信社
今年は世界各地でリーダーや議会構成がガラリと変わる一年になるかもしれない。3月はロシア、11月には米国と世界情勢に影響を与える両国の大統領選に加え、EU議会、インド、韓国などでも選挙が相次ぐ。対象となる有権者は20億人以上とされ、実に世界人口の4分の1規模。世界的な「選挙イヤー」の口火を切るのが、13日投開票の台湾総統選だ。
緊迫化する米中関係をはじめ、日本を含めた国際情勢全体にも影響を与えかねず、世界が固唾をのんで見守っている。
2期8年を務めた蔡英文総統の後任選びは、彼女の路線を継ぐ与党・民進党の頼清徳副総統(64)と、最大野党・国民党の侯友宜・新北市長(66)、第3党である民衆党の柯文哲・前台北市長(64)の3人が争う構図だ。投開票日直前の情勢は、台湾への圧力を強める中国に対して毅然とした態度を示す頼氏がリード。侯氏と柯氏が追い上げる展開だった。日本時間のきょう午後5時に投票が締め切られ、夜には大勢が判明する見通しだ。
日本の大メディアは、民進党を「中国と距離を置く」、国民党を「対中融和路線」と決まって紹介。判で押したように頼氏を「反中」、野党系の2人を「親中」と色分け。頼氏当選なら「台湾有事の危機」「身構える中国」などと煽っている。
確かに頼氏は、中国と対立する米国や日本に独自のパイプを持ち、かつて「台湾独立工作者」と自称していたほどの人物だ。当選すれば、中国が警戒感を強めるのは間違いない。しかし、だからといって、いきなり台湾侵攻など、あり得るだろうか。ことはそんなに単純ではないはずだ。
「独立宣言」がなければ中国は動かない
「頼氏の当選が原因で、中国が台湾に侵攻するなど、あり得ないことです」
そう語るのは、元外務省国際情報局長の孫崎享氏だ。こう続ける。
「確かに、中国の習近平主席は総統選まで2週間というタイミングの新年の挨拶で『祖国統一は歴史の必然だ』と発言し、台湾を牽制しました。しかし、これは何ら不自然なことではありません。中国にとって台湾統一は国是で、『祖国統一』発言は基本姿勢を打ち出しているに過ぎない。仮に、台湾が独立を宣言するなど、具体的な動きを見せてきた場合は、武力で鎮圧を図る可能性はあるでしょう。とはいえ、台湾が独立を宣言するとは思えません。台湾の国立政治大学の世論調査では、過半数の国民が独立を望んでいません。新たな総統が民意に反して独立に動き出せば、すぐに降ろされてしまうでしょう」
その上、台湾では過去8年間にわたって、親米で中国と距離を取る民進党が政権を握ってきた。頼氏が勝ったとしても、これまでと同じ方針が維持されるだけで、中国が侵攻してくる理由にはならないのではないか。
そもそも、何万、何十万人の犠牲者を出しかねない軍事侵攻に中国が踏み切るとは思えない。仮に台湾に攻めたら、多くの国との国交が途切れ、中国経済は立ち行かなくなる。当然、中国共産党は人民の支持を失う。習近平がそんなムチャな選択肢を取るだろうか。
「中国政府は本音では、台湾との関係は『現状維持がベスト』と考えている」(外交関係者)とも言われている。冷静に考えれば、総統選の結果次第で「台湾有事」などあり得ないはずだ。なのに、日本の大メディアは総統選の結果と「台湾有事」を結びつけて騒ぎ立てるとは、どうかしている。
外交・安保をゆがめた歴史的な台湾びいき
大メディアの扇動報道は、政治への単なる忖度ではないのか。「台湾有事は日本有事」の言い出しっぺは、日本を「戦争できる国」につくり替えてしまった安倍元首相だ。安倍シンパたちは今なお「台湾有事」を叫び続けている。
麻生副総裁は10日、訪問先の米ワシントンで報道陣に対し「(台湾海峡有事は)日本の存立危機事態だと日本政府が判断をする可能性が極めて大きい」と集団的自衛権の行使をチラつかせた。「ヒゲの隊長」こと佐藤正久元外務副大臣は、7日の民放番組で台湾総統選で頼氏が当選した場合、「5月20日の総統就任式までの間、中国による軍事的圧力を含む介入が活発化する」と煽り立てていた。一体、どんな根拠があるのか。前出の孫崎享氏はこう言った。
「2021年3月に、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官が米国議会で『27年までに、中国が台湾を侵攻する可能性がある』と発言すると、国際社会の注目を浴びました。以後も、米軍幹部は議会で中国による台湾侵攻の可能性に繰り返し触れ『中国脅威論』をたきつけてきた。これに便乗したのが、安倍元首相に麻生副総裁、またはそのシンパたちでした。台湾有事の危機を利用して国民の不安を駆り立て、防衛費増大に筋道をつけ、そのカネで米国の武器“爆買い”を狙ったということです。喜ぶのは、米国政府と米軍需産業くらいのもの。今なお過激発言を繰り返すのは、さらなる軍拡をもくろんでいるからでしょう」
安倍シンパは、大軍拡のために国民を扇動しているに過ぎない。「台湾海峡波高し」「有事に備えろ」なんて、ハッキリ言って陰謀みたいな話だ。
裏金事件は清和会支配からの大転換の好機
そもそも、中国をことさら敵視する一方、台湾にすり寄るスタンスは妥当と言えるのか。この発想の背景には、安倍派(清和会)の歴史的な「台湾びいき」があり、そのルーツは安倍の祖父・岸信介元首相にたどり着く。
岸は1957年に首相に就任すると、初の外遊で台湾を訪問。当時の蒋介石総統と対面を果たすと、その後も頻繁に訪台し、蜜月関係を築いた。自民党きっての親台派となった岸の率いる派閥の流れをくみ、福田赳夫元首相が79年に清和会を設立。多数の親台派議員を抱えていく。清和会出身の森喜朗元首相は、首相在任中に台湾の李登輝元総統の来日を実現。安倍自身も野党時代に訪台するなど、台湾重視の姿勢が際立っていた。
台湾と清和会の関係に詳しい政治評論家の本澤二郎氏はこう言う。
「台湾が以前から清和会を物心両面で支援してきたのは有名な話です。いわゆる『台湾ロビー』が、自らに有利な政策を日本政府に実現させるために清和会所属の議員に近づいたのです。彼らの基本思想は『反共』で、敵対する中国と日本を対峙させるため、武力行使を可能にする改憲論議や軍拡へと導いていった。かつては傍流だった清和会は2000年代前半の小泉政権以降に急拡大。この20年の清和会支配のもとで、台湾重視の外交・安保政策が採用されてきたと言えるでしょう」
台湾ベッタリの清和会が政権を牛耳ってきたことで、日本は「戦争できる国」に変わってしまったとも言えよう。しかし、安倍派は目下、裏金事件でグラグラ。この好機に、日本はマトモな道に向かうべきではないか。
「安倍派の軍拡路線で、もはや防衛費は青天井ですが、今の日本は軍事に巨額の税金を使っている状況ではない。少子化対策や福祉、物価対策など、弱者に寄り添った政策を優先すべきです。特に、今は能登半島地震で多くの国民が苦しんでいる。支援が後手後手に回っていると批判されていますが、被災地支援最優先が当たり前。それこそ、地震大国の日本を襲った『有事』なのですから『台湾有事』などと言っている場合ではありません。本来なら安倍派が沈没必至の今こそ、岸田首相は指導力を発揮するべきなのですが……」(本澤二郎氏=前出)
総統選の結果次第で「台湾有事」が起きるなんて信じてはダメ。国民は選挙結果を冷静に受け止めた方がいい。
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