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※2023年12月13日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年12月13日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
不信任案否決でニヤリ(松野博一官房長官)/(C)日刊ゲンダイ
会期末の国会は、いつになく浮足立っている。13日に臨時国会が閉じれば、東京地検特捜部が国会議員の捜査を本格化させるからだ。
自民党の「清和政策研究会」(安倍派)が政治資金パーティー収入の一部を裏金化していた疑惑で、特捜部は全国から応援検事を集め、50人規模の捜査態勢を整えているという。検事だけでなく、数十人の検察事務官も呼び寄せていることから本気度が分かる。
「すでに議員秘書が地検に呼ばれて聴取されている。国会が閉じたら、議員本人への事情聴取が始まるでしょう。国会議員会館の事務所にいつ一斉ガサ入れがあってもおかしくないと言われていて、落ち着きません」(安倍派関係者)
安倍派の所属議員は99人。その大半がキックバックを受けていたとされる。直近5年間で議員側に還流した裏金は5億円を超える可能性がある。一大疑獄事件だ。年の瀬の政界は未曽有の混乱に陥るだろう。
4月の江東区長選をめぐる柿沢未途前法務副大臣の公選法違反事件の方も、国会閉会後に動きがありそうだ。
そんな中、12日に立憲民主党が松野官房長官の不信任決議案を提出。衆院本会議で採決され、立憲、日本維新の会、共産党に加えて珍しく国民民主党までが賛成したが、与党の反対多数で否決された。その時、松野が一瞬ニヤリと不敵な笑みを見せたのが印象的だ。第2次安倍政権で文科相だった時も加計学園問題で不信任決議案を突きつけられているから、2度目は余裕ということか。
「これまでも自民党は圧倒的な数の力で不信任決議案を封じ込めてきた。しかし、政権のスポークスマンである官房長官に裏金疑惑が持ち上がり、一切の説明を拒んでいるようでは『政治に対する信頼は失墜し、国益を大きく損ない続ける』という不信任案の趣旨弁明は正論です。これを否決した自民党は、裏金も説明拒否も容認する政党ということになる。しかも、官房長官を信任した数日後には更迭することを決めているのだから、支離滅裂です」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)
「泥船」敬遠で後任人事が難航
安倍派は「5人衆」と呼ばれる幹部の松野官房長官、世耕参院幹事長、高木国対委員長、萩生田政調会長、西村経産相の全員に裏金疑惑が浮上。岸田首相はこの5人を交代させるだけでなく、政務三役から安倍派を一掃する方針をブチ上げた。明日にも人事を行う予定だが、安倍派の閣僚は4人、副大臣は5人、政務官が6人いる。この短期間で総取っ換えなんてできるのかと思っていたら、案の定、裏金疑惑に関与していない政務官は続投させるという。
そもそも、1日2回の会見に対応できない官房長官が機能不全に陥っているのは歴然で、不信任案を出される前に松野だけ先に更迭する手もあったのだが、それができなかったのは後任人事が難航しているからだ。
「総理は無派閥の閣僚経験者を中心に官房長官就任を打診したものの、ことごとく断られている。そりゃそうでしょう。沈み行く泥舟に乗りたい人なんていませんよ。総理の出身派閥である宏池会(岸田派)が責任を持って人材を出すしかないんじゃないですか」(自民党中堅議員)
ところが、その岸田派も足元が揺らいでいる。実際のパーティー収入よりも少ない金額が政治資金収支報告書に記載されていた「過少記載」疑惑が浮上したのだ。記載されていない金額は数千万円とみられるが、安倍派や二階派より少ないからOKという話ではない。「承知していない」「裏金の指摘はあたらない」と言っていた国会答弁との整合性も問われる。
潔く内閣総辞職して下野するしかない絶体絶命
政権中枢を“追放”される安倍派からは、「岸田派にも疑惑があるのに、安倍派だけがパージされるのか」と反発の声が出ている。
岸田は先週、派閥会長を辞めて首相在任中は岸田派を離れると表明したが、それで免責されるはずがない。岸田派にも問題があるのではないかと、多くの国民は疑念を抱くだろう。
「岸田派にも裏金疑惑が浮上したり、安倍派更迭で新たに入閣した人のスキャンダルが発覚したら政権は立ち往生です。岸田首相の周囲には“身体検査”をできる人がおらず、個別に具体的な調査をせずに報道ベースで安倍派を更迭する人事を進めていることに対しても、党内の不満は大きい。こんな状況で、求心力も信念もない首相にマトモな人事ができるとは思えないし、裏金疑惑の安倍派をパージして延命したとしても、政権は長くは続かないでしょう。本当は、来年度予算案の閣議決定などの節目で潔く内閣総辞職し、自民党は下野して党を立て直した方がいい。こういう年末のタイミングで小手先の内閣人事を行えば、国民生活にも影響が出かねません」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
いま、まさに国民生活に直結する税制改正大綱や24年度予算案の決定に向けた調整が大詰めを迎えている最中だ。
税制改正では、焦点になっていた防衛費増額に伴う法人税、所得税、たばこ税などの増税開始時期について来年度の大綱に明記できず、関連法案も来年の通常国会に提出できなくなりそうだ。国民が物価高に苦しんでいる時に自民党議員が裏金づくりに励んでいることがバレた以上、増税を言い出すことはできない。当然の判断である。
一方、来年度予算案は22日の閣議決定を目指している。予算案編成に支障をきたさないよう、与党側の取りまとめ役である萩生田の交代は閣議決定以降になるとの見方が強い。萩生田は自ら辞任する意向を表明している。更迭ではないと主張するためだ。
毎年恒例の閣僚折衝もできない
だが、予算案の閣議決定まで政調会長が粘っても、閣僚が交代すると影響は大きい。予算案の決定直前には財務相と各省庁の大臣が直接交渉を行う「閣僚折衝」が恒例だが、明日の閣僚交代で、予算案に関わっていない新大臣がすぐさま閣僚折衝というわけにはいかないだろう。安倍派の現閣僚は官房長官、総務相、経産相、農相の4人だ。
12日の閣議後会見で鈴木財務相は「率直に言って動きが急で、私も十分にその動きを咀嚼できない。(予算編成などに)極力影響が出ないようになることを心から望んでいるところであります」と言っていた。
昨年末の閣僚折衝では、総務相は地方交付税を前年度より3000億円多く18兆4000億円にすることで合意。経産相との折衝でも、企業の脱炭素化への投資を促すために「GX経済移行債」を4887億円発行することが決まった。そうした閣僚折衝が機能しなければ、財務省の言いなり予算が閣議決定されることになるし、仮に折衝が越年すれば国民生活への影響は計り知れない。
「自民党の裏金疑惑は規模の広がりから『令和のリクルート事件』と言われていますが、年末に人事をしなければならない状況に追い込まれた点でも1988年のリクルート事件を彷彿とさせる。当時の宮沢喜一蔵相が辞任し、竹下登首相は12月に内閣改造に踏み切りましたが、直後にリクルート社から新閣僚への献金が発覚し、竹下首相は翌春の予算成立と引き換えに退陣を表明することになった。後継首相に推されて固辞した伊東正義総務会長の『本の表紙を変えても中身を変えなければ駄目だ』という言葉は金言で、35年経っても同じことを繰り返していることに問題の根深さを感じます。金権政治は自民党の宿痾であり、悪化して死に至る病になっていると言っても過言ではありません」(五十嵐仁氏=前出)
仮に岸田が退陣したとしても、疑惑派閥から登用できなければ、次の内閣は組閣もできない。どのみち自民党は行き詰まりだ。
この先、日本の政治は、国民生活はどうなってしまうのか。リクルート事件をはるかに超える混乱が待っているのは間違いない。
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