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※紙面抜粋
※文字起こし
検察は「聖域」に手を突っ込んできた安倍元首相(右)に恨み骨髄か、左は昨2022年の安倍派パーティー(C)日刊ゲンダイ
「安倍派 裏金1億円超か」──。1日の朝日新聞のスクープで、永田町の景色が一変した。自民党最大派閥にメガトン級のスキャンダルが炸裂。派閥パーティーを巡る問題が新たな局面に突入したからだ。
清和政策研究会(安倍派)がパーティー券の販売ノルマを超えて集めた分の収入を議員側にキックバックし、政治資金収支報告書に記載せず組織的に「裏金」としてきた疑いが浮上。総額は直近5年間で1億円を超えるというのだ。大手メディアも堰を切って一斉に後追い報道。特捜部は故意性が強い上に規模も大きいとみて、政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)容疑での立件を視野に安倍派を重点的に調べているもようだ。
検察が「安倍派立件」に動き出したことに、所属議員も戦々恐々。かつて安倍派の事務総長を務めた松野官房長官は1日の会見で裏金疑惑への言及を避け、何を聞かれても「政府の立場として答えは差し控える」と繰り返した。同じく事務総長経験者の西村経産相も会見で「個々の政治団体の活動に関して政府の立場で答えることは差し控える」と語るのみ。口裏を合わせたかのような他人事じみた発言は、逆に事態の重大性と安倍派の衝撃度をうかがわせる。
安倍派の塩谷座長は「これから事実関係を精査する」としおらしく語ったが、何を今更だ。前日の派閥会合後、キックバックの慣習について「あったことはあったと思う」と記者団に認めたばかり。数時間後に記者団を再び集めると一転、発言を撤回したが、時すでに遅し。最高幹部が裏金づくりを白状したも同然で、もはや安倍派は司直のメスから逃れられないのではないか。
ヤクザさながらの集金システム
関係者によると、自民党の各派閥は1枚2万円が相場のパー券販売について、所属議員の役職などに応じてノルマを課している。安倍派の場合、最高幹部は約750万円、閣僚経験者は約500万円、ヒラの議員は50万〜100万円とされる。
最高幹部はノルマ達成に300枚以上を売りさばく義務が生じるが、そこは集金力がモノをいう世界。それくらいの“営業力”を見せつけないとメンツは立たない。ヒラ議員にとっても派閥への貢献度の見せどころ。セールス力にたけ、派閥を潤す議員ほど出世に直結する。
ノルマを超えた分が自身の懐に入るとなれば、なおさらシャカリキとなる。
まさに派閥と所属議員の悪しきウィンウィン関係で、議員同士がシノギを削り合うシステムだ。ヤクザさながらの“商慣習”が、政権与党の最大派閥内で横行しているとは、ア然だ。
派閥や議員側の政治団体が団体間の資金のやりとりとして、ノルマ超過分を収支報告書に記載していれば不問に付されるが、後ろめたさの表れだろう。安倍派の政治団体はノルマ分のみをパー券収入に記載。超過分の出し入れは派閥・議員側とも報告書に一切、記載ナシだ。
パー券収入不記載問題は昨年11月、共産党の機関紙「しんぶん赤旗」日曜版がスクープし、神戸学院大教授の上脇博之氏が東京地検に政治資金規正法違反の疑いで各派の会計責任者らを刑事告発。告発状によると、2018〜21年分の安倍、麻生、茂木、岸田、二階の5派閥の収支報告書に計約4000万円分が記載されていなかった。うち安倍派が約1900万円と突出。特捜部は各派閥の事務担当者らを任意聴取している。
これまで各派閥とも複数の議員が同じ団体に個別に購入を依頼した結果、規正法が記載を義務付ける20万円を超えるケースの「名寄せ」ができていなかったとし、収支報告書を訂正。裏金化は否定し、「事務的なミス」でゴマカそうとしてきた。
だが、そんな言い逃れはケタ違いの裏金疑惑が浮上した以上、もう通用しないのである。
裏金は党全体に蔓延とみるのが妥当
「各派閥の組織的な裏金づくりに利用されている可能性があり、そこまで検察には捜査して欲しいと願いを込めて告発状を出しましたが、まさか、ここまでの額とは……」
告発した上脇博之氏もそう言って驚きを隠さない。こう続けた。
「それだけ自民党議員たちが、自由になるカネを求めている証拠です。法の規制があろうと、足のつかないカネは喉から手が出るほど欲しい。ノルマ超過分のキックバックは、恐らく政治資金パーティーを裏金づくりの温床にするために生み出したスキーム。パー券収入を裏金にすれば、決して表に出せない政治活動にも好き勝手に使えます。例えば対立候補へのネガティブキャンペーンの費用など、支出先を伏せたい選挙活動にも使い放題。まさに闇から闇です。安倍派だけでも1億円もの裏金づくりが平然と横行しているのなら、自民党に年間約160億円もの政党交付金を受け取る資格はない。原資は国民の血税で健全な政治活動を目的としています。サッサと返上すべきです」
はたして安倍派は1億円を上回る巨額の裏金を何に使ったのか。今回こそは検察も最大派閥の捜査に本腰を入れる構えだ。
立件に動き出した背景には、安倍政権末期の「横暴人事」への意趣返しとの見方もある。20年のコロナ禍に世論の批判が渦巻いた騒動を覚えているだろうか。「官邸の守護神」と呼ばれた黒川弘務・東京高検検事長を検事総長に昇格させるため、勝手な法解釈変更で黒川氏の定年延長を閣議決定。それを正当化しようと、後付けで検察庁法の改正を強行しようとした「アレ」である。
34年経っても中身は相変わらず
当時は抗議のツイッターデモが700万件を超える巨大なうねりとなり、当の黒川氏が「賭けマージャン」スキャンダルで辞職。安倍元首相のヨコシマな企ては失敗に終わったが、検察組織の怒りは収まっていないようだ。常に政治的中立を求められ、特別法で規律された検察人事という「聖域」に手を突っ込んできた安倍に恨み骨髄。組織を挙げて安倍派の裏金の全容解明に乗り出すとみられているのだ。
「安倍派に限らず、どの派閥ともパー券収入の不記載は複数年にわたって継続し、かつ多額で見落とすことはあり得ない。自民党全体に裏金づくりが蔓延しているとみるのが妥当で、もちろん、検察は安倍派以外にも切り込むでしょう。安倍政権の呪縛から解放されたのであれば、思う存分、捜査して欲しい」(上脇博之氏=前出)
今月13日に臨時国会が終われば、安倍派関係者の立件もあり得るし、今回の不記載は「あくまでも入り口」との声も聞こえてくる。
すでに検察のターゲットとして安倍派の大物議員の名前も取り沙汰されており、国会終了後は逮捕者、議員辞職の連続で自民党内は阿鼻叫喚。いよいよ、内部崩壊が始まっても何ら不思議ではない。
「1993年の細川政権誕生前夜をほうふつさせます」と前置きし、法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言った。
「あの時は、自民党最大派閥だった竹下派が最高幹部の金丸信氏の金銭スキャンダルを機に分裂。金権腐敗にウンザリした有権者が、自民党に過半数割れの鉄槌を下したのです。当時も今も共通するのは野党の弱さ。それでも8党派連立で政権を樹立できたように、たとえ今はバラバラでも、いざ野党がまとまれば政権交代は十分可能なはず。89年のリクルート事件後、自民党総裁に推された伊東正義氏は『本の表紙だけを変えても、中身が変わらないと駄目だ』と言って固辞したものですが、34年経っても党の中身は相変わらず。これ以上、表紙を交換しても無意味です。有権者も自民党に見切りをつける覚悟が問われています」
最大派閥に浮上した1億円超の裏金疑惑は、腐敗堕落政党の終わりの始まり。その期待を検察は裏切ってはいけない。
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