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※2023年11月29日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年11月29日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
曖昧答弁で時間稼ぎ(岸田首相=28日、参院予算委)/(C)共同通信社
「ちゃんとやれよ岸田」
岸田首相にこう不満を抱く男が28日、防衛省の正門玄関で包丁をかざす騒動を起こした。暴力行為処罰法違反と銃刀法違反容疑で警視庁牛込署が逮捕したのは、都内で居酒屋を経営する前林誠容疑者(45)。包丁を突き付けられて「大臣を呼べ、大臣を出せ」と迫られた警備員は敷地内に逃げて門を閉めたため、幸いケガはなかったが、実力組織の本拠地に包丁で乗り込むとは、跳ねっ返りにもほどがある。前林が犯行前後に乗車したタクシーのドライブレコーダーには、「僕は三島由紀夫先生が大好きだ」「切腹してやるから、おまえもちゃんとやれよと岸田に言いたいんですよ」「俺は死んでもいいぐらいの覚悟でやっているのに、岸田アホなんじゃないですかね」という音声記録が残っていたという。前林は容疑を一部否認している。
いくら憤懣やるかたなくとも、暴力行為は断じて許されない。だがしかし、怒りを爆発させたくなる政治状況なのも事実だ。28日の参院予算委員会もひどかった。とりわけ自民党を揺るがす「政治とカネ」の問題だ。政治資金パーティー収入の裏金化疑惑は底なし沼。刑事告発を受けた東京地検特捜部は、自民党5派閥の政治団体による2018〜21年の政治資金収支報告書への過少記載を捜査している。各派閥が「事務的ミス」で逃げ切ろうとする中、22年の収支報告書でも過少記載が判明。組織ぐるみの疑いは濃厚になる一方だ。もっとも、指摘されているのは政治団体による購入分だけで、企業や個人については判然としない。
政界は裏から見ればカネの世界
質問に立った共産党の田村智子議員から「企業が複数の議員からパーティー券を購入していれば同じ問題が起こり得る。企業購入分を含め、パーティー券収入の全体調査をするように各派閥や政治団体に指示しているんですか」と迫られた岸田は、「訂正内容等について各政治団体において適切に説明するよう党幹事長に指示を行ったところ」と論点ずらし。「調査もせずになぜ『裏金なんかない』と断言できるんですか」と追及されると、「自分の派閥の政治団体の収支について報告を受けている範囲でのこと」などとゴマカした。統一教会(現・世界平和統一家庭連合)と所属議員の癒着を調べず、「点検」で押し通したのと同じパターンだ。墓穴掘りにしかならない調査をする気はサラサラないのがよく分かる。自民党6派閥の22年の収入総額はパーティーが8割弱を占め、その額9億2323万円。岸田の資金管理団体が回したパーティーの利益率は9割に上り、まさにボロ儲け。「カネのなる木」はブラックボックスでこそ価値があるというわけだ。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言う。
「1994年の政治資金規正法改正で政治家個人への献金は禁止されましたが、政党支部への献金とパーティー収入の抜け穴は残された。特に使い勝手がいいのがパーティー券。1回につき20万円を超えた購入は収支報告書に記載義務があるというハードルはあるものの、誰でもいくらでも購入できる。献金を禁じられている国の補助金を得ている企業も、赤字続きの企業も、外国人も外国企業も購入できる。金権政治はより巧妙化し、疑獄が表沙汰になりにくくなってしまった。汚れたカネをつかんでは要所要所に流し込み、権力を維持する。自民党は55年体制で染み付いたそうした発想から抜け出せない。政治の世界は裏から見ればカネの世界。政治とカネの問題を看過すれば、国民主権に反する政治が延々と続いてしまいます」
ポスト岸田の蠢きは「コップの中の争い」
予算委で最後に質疑に立ったれいわ新選組の山本太郎議員から「総理のポリシーとして知られるのは『聞く力』。これまで人々の声を聞き続け、総理大臣になって形にした政策の中で一番手応えがあったものは?」と問われた岸田は、何と答えたか。
「防衛力の強化ですとか、エネルギー政策の転換ですとか、子育て政策の拡充ですとか、G7議長国としての外交の取り組みですとか。こうしたものについて一定の手応えを感じているところであります」
どれもこれも世論の賛意を得ていない政策だ。防衛費を倍増させて敵基地攻撃能力を保有する安全保障政策、原発回帰のエネルギー政策の転換にいたっては、国会に諮ることも、事前に国民に説明することもなかった。岸田の「聞く耳」はハナからすたれているが、財界と米国しか見ていないのがアリアリである。
それにしても、次から次へと出てくる自民党とカネの話。政務三役3人の辞任ドミノでは、国民に納税を求める立場にある財務副大臣に税金滞納の常習犯を就ける“適材適所”も発覚した。自民党は12年に政権復帰して以降、長期政権の驕りとモラル欠落、国民愚弄以外の何物でもない。検察がお縄にしなければ、説明もせず悪事を続ける政党に政権を預けたままでいいのか。
ジャーナリストの鈴木哲夫氏はこう言った。
「岸田首相は何をやりたいのか分からない。言葉も常套句ばかりで具体性がない。岸田首相が自民党総裁選に名乗りを上げた時から批判的に見てきましたが、本当に中身がない政治家です。じゃあ、その後はどうするのか。自民党内で『ポスト岸田』を探る動きが出てきていますが、どう転んでも『コップの中の争い』に過ぎません。疑似政権交代に惑わされてはいけない。この2年、岸田路線を修正できなかった自民党の責任は大きい。与党としての矜持は全く見えなかった。ウソと矛盾だらけの政治を変えるには、政権交代しかありません。自民党を下野させなければダメです。A級戦犯は岸田首相ですが、首相を担いできたのは自民党なのですから」
経済対策の物価対応はたった2割
国民に求められるのは、政権交代の覚悟だ。1強他弱が固定化し、野党第1党の立憲民主党の政権奪還への意気込みは心もとない。日本維新の会は「第2自民党」を自任しているし、国民民主党は「自民党のアクセル役になりたい」と恥も外聞もなく、一部議員は大臣病にうかされている。それでも、どんなに野党が混乱しても、腐敗堕落の自民党よりマシ。いったん非自民政権に代わらなければ、この国は浄化されない。米国隷従に徹し、世論を無視して戦争のできる国に作り替え、身内とオトモダチに甘い汁を吸わせる政治の私物化。第2次安倍政権でデフォルト化した国民蚊帳の外のデタラメ政治を是正するには、混乱覚悟の荒療治以外にない。
28日まで審議された23年度補正予算案は、29日の参院本会議で可決・成立する見通し。円安を招くアベノミクスを踏襲する岸田が「急激な物価高から国民生活を守る」と言って打ち出した総合経済対策を裏付けるものだが、総額13兆円超のうち物価高対応はたった約2.7兆円だ。複数年度にわたって企業へのバラマキに使える基金の創設や増額に全体の約3分の1にあたる4.3兆円。建設費倍増に世論が反発する大阪・関西万博関連に750億円を振り向ける。財源は7割近い8兆8750億円を国債の追加発行で賄う。つまり借金だ。こんな自民党政治に満足する市井の人が一体どれほどいるのか。
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