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※紙面抜粋
※2023年11月6日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
握手は悪手か?(イスラエルのコーヘン外相と上川陽子外相=左)/(外務省提供・共同)
この政権はやはり、米国におもねって付き従うことしかできないのか。
イスラエル軍とパレスチナのイスラム組織ハマスの戦闘が激しさを増している。イスラエル軍は、地上部隊がパレスチナ自治区ガザの市街地に入ったと宣言。空軍や海軍とも連携して攻勢を強め、5日までに2500カ所以上の標的を攻撃したと発表した。昼夜を問わず空爆が続くガザでは、学校や病院周辺への攻撃が相次ぎ、民間人の犠牲が拡大している。
3日にはガザの病院近くで救急車の車列が空爆を受け、15人が死亡。4日は難民キャンプの学校が攻撃され20人以上が死亡した。子どもの治療を専門とする病院も攻撃を受けた。
ガザ地区の保健当局によれば、確認されただけでも9500人近くがイスラエルの攻撃によって死亡し、その大半は女性や子どもだという。さらに数千人の行方不明者ががれきの下敷きになっているとみられる。殺害された子どもの数は少なくとも3900人。国連の年次報告書によると、世界の紛争で殺された子どもの数は2022年が2985人で、21年は2515人だった。ガザでは、わずか3週間で年間総数を上回る子どもたちが命を落とした。まさに地獄絵図だ。
イスラエルによる封鎖で、水や食料、医療物資も入ってこないガザの住民は、極限状態に追い込まれている。人道危機の真っただ中にあるのだ。
この週末、ガザでの停戦を訴えるデモが世界各地で行われた。ロンドン、パリ、ベルリン……。参加者は「パレスチナに自由を」「ジェノサイド(集団殺害)を止めろ」などと書かれたプラカードやパレスチナの旗を掲げて、子どもを狙い撃ちするかのようなイスラエルの民間人攻撃を非難。パレスチナに連帯を示した。
米国でもパレスチナ連帯デモ
イスラエルの友好国である米国の首都ワシントンでも、停戦を求めるデモは行われた。ホワイトハウスと連邦議会議事堂を結ぶ通りが参加者で埋め尽くされ、「フリー・パレスチナ」のコールが響く。イスラエルに肩入れするバイデン大統領を非難する声も上がった。
そんな中、イスラエルとパレスチナを訪問したのが日本の上川陽子外相だ。2〜5日の日程で中東を歴訪。3日にイスラエルのコーヘン外相と会談した上川は、「日本政府、日本国民を代表して、ハマスのテロを受けたイスラエルの方々への連帯の意を直接伝えるために訪問した」と話し、ハマスの攻撃を「断固として非難」。ハマスに拘束された人質の家族とも面会し、抱擁を交わした。
上川はガザの緊張緩和に向けた「戦闘休止」も呼びかけたが、これぞ米国ポチ外交の真骨頂と言える。同時期にアラブ諸国を訪問した米国のブリンケン国務長官の提灯持ちみたいなものだ。
米国が唱えるのは、あくまで戦闘の「pause=一時休止」であり、国際世論や国連が求める「cease-fire=停戦」ではない。停戦中にハマスが態勢を立て直して再びイスラエルを攻撃する恐れがあるという理屈で、米国は即時停戦に反対の立場を取っている。だから、上川も一時的な「戦闘休止」としか言わない。「停戦」を訴えようとはしないのだ。
「即時停戦を求めるアラブ諸国と米国との溝は深まる一方です。国際世論も停戦を求め、パレスチナに連帯を示す大規模デモが各地で行われている。ワシントンのデモには米国政府のスタッフも参加していました。そんな中でイスラエルに出向き、外相同士で握手する日本外交は、アラブ諸国だけでなく国際社会から失望を買った。米国に寄り添うことだけが国益ではないはずなのに、主体性を失っているとしか言いようがありません」(高千穂大教授・五野井郁夫氏=国際政治学)
イスラエルも米国も国際社会から孤立しつつある
イスラエル外相と会談した上川はその後、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区に移動し、自治政府のマルキ外相と面会。パレスチナには総額6500万ドル(約98億円)の追加人道支援を表明したのだが、こんな“八方美人”が国際社会で信頼を得られるだろうか。この人道危機の深刻さを理解しているのなら、「どっちにもいい顔」なんて許されるはずがないだろう。カネでお目こぼしを頼むということなら、あまりにさもしい。
上川はイスラエル、パレスチナ訪問後にヨルダンの首都アンマンで記者団の取材に応じたが、イスラエルによるガザ攻撃によって民間人に多数の犠牲者が出ていることが国際法違反かを問われると、「わが国として確定的な法的評価を行うことは控えたい」と明言を避けた。そういうことなのだ。
なぜ「ジェノサイド」「国際人道法違反」とハッキリ言えないのかといえば、岸田政権の外交も米国の顔色をうかがうしか能がないからだ。
「10月27日に国連でイスラエルとハマスの軍事衝突をめぐる緊急特別会合が開かれ、ガザ地区における『人道的休戦』を求める決議案が120カ国以上の賛成で採択されましたが、日本は棄権しました。米国が反対していたからです。この決議案は中東諸国が主導したもので、イスラエルも当然、反対した。日本は長年、中東諸国と友好的な関係を築いてきて、それは我が国の貴重な外交資産だったのに、米国追従を選んだのです。グローバルサウスは今回、多くが賛成に回った。ロシア、中国、フランスなども決議案に賛成しました。自衛を口実にガザの民間人を攻撃するイスラエルの暴挙はまったく支持されていないし、それを支援する米国も国際社会の感覚とズレてきています」(元外務省国際情報局長・孫崎享氏)
アフリカ・アジアは反発
昨年のウクライナを侵攻するロシアへの非難決議では、アフリカ各国の対応は分かれたが、ガザ地区の即時停戦に反対した国はなかった。イスラエルの手法はかつての植民地主義を想起させ、アジアやアフリカ諸国の反発は根強い。国連のグテレス事務総長も、ハマスの行為を非難しつつ、イスラエルが国際法に反した占領政策を取ってきたことが背景にあると指摘していた。
大統領選を来年に控える米国では、イスラエル支援を打ち出さざるを得ない事情もある。ユダヤ系米国人の人口は700万人以上とされ、金融ロビイストなどの資産家も多い。米人口の約4分の1を占めるキリスト教右派もイスラエルを支持している。大票田なのだ。
だが、それは日本には関係のない話だ。イスラエルにもアラブ諸国にも肩入れしない立場で同時外交を展開し、即時停戦に向けた動きを主導することもできたのではないか。
ところが、肝心の岸田首相が何をしているかというと、3日からフィリピンを訪れて“中国包囲網”の形成に熱を入れていた。
日本の首相として初めてフィリピンの議会で演説した岸田は、高揚してこう訴えた。
「現在、国際社会は歴史的な転換点にあり、私たちが当然のように享受してきた法の支配に基づく国際秩序は、重大な危機にさらされています」
「最も重視しているのが『人間の尊厳』という理念です」
「力ではなく、法とルールが支配する海洋秩序を守り抜いていこうではありませんか!」
「人間の尊厳」とか言うのなら、今こそガザの人道危機に向き合うべきではないのか? 岸田の二枚舌を見ていると、「法の支配」も「平和」も口だけで、「米国の正義」に従うだけということがよく分かる。上川の中東訪問もその一環でしかない。
7日から、東京でG7外相会合が開かれる。上川の中東訪問は、その地ならしということだ。国際世論を敵に回しても、米国の顔を立てる共同声明をまとめるのか。議長国として停戦を主導するのか。岸田外交の覚悟が問われる局面だが、このヘタレ政権には、まったく期待できそうにない。
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