<■316行くらい→右の▽クリックで次のコメントにジャンプ可> 性別適合手術は受忍限度内の措置 正論 2023年12月号 麗澤大学教授 八木秀次 「性同一性障害者の取扱いの特例に関する法律」(特例法)は、家庭裁判所が性同一性障害者の請求によって、その者の性別の取扱いの変更を審判する際に5つの条件を定めている。 @18歳以上であること(年齢条件) A現に婚姻をしていないこと(未婚条件) B現に未成年の子がいないこと(子無し条件) C生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること(生殖不能条件) Dその身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること(外観条件) 5つの要件を全て満たし、性同一性障害に係る医師2名の診断書の提出がなされれば、家庭裁判所はその者の性別を変更する審判をすることができる。 審判を受けた者は、民法その他の法令の適用について、他の性別に変わったものと見做され、変更した性別による婚姻や養子縁組等が可能となる。 尚、審判前に生じた身分関係や権利義務関係への影響はないとされている。 2020年末までに性別の取扱いの変更を行った者は累計で1万301人になる(「日本性同一性障害・性別違和と共に生きる人々の会」調べ)。 5つの要件のうち、CDを合わせて性別適合手術と言うが、現在、最高裁でその合憲性が争われている。 大法廷が2023年10月25日に決定を出す予定になっており、2023年9月27日には申立人(男性)側の弁論が行われた。 判断次第では手術要件が撤廃されるが、親子関係などの社会秩序や性別で区別される制度・慣行を揺さぶり、社会を大きく混乱させる可能性がある。 性別適合手術とは、精巣や卵巣などの生殖腺の切除(C)と、例えば、男性から女性への性別移行には陰茎の切除(D)を指す。 女性から男性への性別移行には男性ホルモンの投与で陰核が肥大し陰茎に近似した形状になるため、男性から女性への性別移行よりも負担が少ない例が多い。 性別移行には身体を傷付ける手術を必要とすることから憲法13条(個人の尊重、幸福追求権)と14条1項(法の下の平等)に反すると主張されている。 2023年10月12日、静岡家裁浜松支部は 「生殖腺を取り除く手術は、生殖機能の喪失という重大で不可逆的な結果をもたらすもの」 で、 「性別変更のために一律に手術を受けることを余儀なくされるのは、社会で混乱が発生する恐れの程度や医学的見地から見ても、必要性や合理性を欠くという疑問を禁じ得ない」 と、Cの生殖不能要件を違憲とし、無効とする決定を出した。 最高裁判断に先立ったもので注目される。 ■性自認と生殖能力は別物 最高裁は同じテーマについて2019年1月23日、第2小法廷で 「現時点では、憲法13条、14条1項に違反するとまでは言えないものの、その疑いが生じていることは否定できない」 としたため、約5年後に改めて大法廷で結論を出すことになった。 2019年時点で最高裁が性別適合手術を是認したのは 「変更前の性別の生殖腺により子が生まれることがあれば、親子関係等に関わる問題が生じ、社会に混乱を生じかねない」 からだった。 明示はないが、性自認と生殖能力は別物で、性自認は生物学上の性別から別の性に変わっても、変更前の性別の生殖腺が残れば、それに伴う生殖能力が残るとの認識があるものと考えられる。 また、性自認は変化する。 即ち性同一性障害者を含むトランスジェンダーであった者が生物学上の性別に伴う性自認に戻るケースも多く確認されているという事情への理解も前提にあったものと思われる。 生物学上の性別に伴う性自認に戻るケースが多くあることは、米国のトランスジェンダーの相談サイトの主宰者ウォルト・ヘイヤー氏が本誌で語っている(「『男→女→男』の私が言う『性』は変えられない」『正論』2022年5月号)。 同氏は自らも元トランスジェンダーでこれまで1万人以上の相談を受け、性自認が元に戻るケースを多く確認している。 その意味では性別適合手術は元の性別に伴う生殖能力を完全に失わせ、子が生まれることがないようにするための不可逆的な措置だと考えられる。 法律上の性別を変更した以上、変更前の性別に伴う生殖能力は完全に失わせ、肉体を変更後の新しい性別に近似させ、たとえ性自認が生物学上の性別に伴うものに戻ったとしても、再び法律上の性別変更がないようにするための措置だと考えられる。 性別適合手術を行い、その後は生涯に渡って変更後の性別で生きていくことを決意させる措置とも言える。 本人の性自認を尊重する考え方からすると、性自認に合わせて法律上の性別を変更しても構わず、身体を傷付ける性別適合手術を要件とするのは苛酷ではないか、ということにもなろう。 性別適合手術は社会保険適用がなく、高額な自己負担が必要にもなる。 同情の余地がないわけではないが、問題はそう簡単ではない。 ■性別の概念が壊れるケースも 2019年に最高裁が 「変更前の性別の生殖腺により子が生まれることがあれば、親子関係等に関わる問題が生じ、社会に混乱を生じかねない」 として性別適合手術を合憲とした際には具体例を示していないが、性別変更前の生殖腺を残したまま法律上の性別変更ができ、婚姻も可能であれば、以下の事例が生じ得る。 1)「女性から男性に性別変更した人」(FtM)が女性との間に非配偶者間人工授精(AID)で第三者の男性の精子提供で子を儲ける場合、法律上は夫の摘出子となるが、その子の法律上の父は女性の生殖腺を残した生物学上、女性である。 外見が女性であることも考えられ、性自認も元の女性に戻る可能性もある。 事実上の女性同士による同性婚ともなる。 2)「女性から男性に性別変更した人」(FtM)が女性と結婚するが、自分も子を産みたいとして第三者の男性の精子提供で出産した場合、生まれた子の母は法律上、男性である。 この場合も性別変更前の女性の生殖腺を残していることから妊娠・出産は可能である。 外見が女性であることも考えられ、性自認が元の女性に戻ることも考えられる。 事実上の女性同士の同性婚であり、双方が妊娠・出産する場合も考えられる。 3)「女性から男性に性別変更した人」(FtM)が女性と結婚するが、不貞行為によって第三者の男性との間に子を儲けた場合、子の母は法律上、男性である。 この場合も性別変更前の女性の生殖腺を残していることから妊娠・出産は可能となる。 性自認が元の女性に戻ることも考えられる。 この場合も不貞行為は別として、女性の生殖腺を持つ者同士の関係であり、婚姻の段階で同性婚が成立していることになる。 4「男性から女性へ性別変更した人」(MtF)が男性と結婚するが、不貞行為によって第三者の女性を妊娠させ、出産した場合、子の父は法律上、女性である。 この場合は男性の生殖腺を残していることから第三者の女性を妊娠させることは可能となる。 外見が男性で性自認が元の男性に戻る場合もあり、この場合は事実上の男性同士の同性婚となる。 5)「男性から女性へ性別変更した人」と「女性から男性に性別変更した人」が結婚して子を儲けた場合、子の母(出産した者)は法律上、男性であり、父は戸籍上、女性となる。 男女が逆転しているケースだが、共に性別変更前の生殖腺を残していれば、元の性別での生殖能力により、妊娠・出産できる。 外見が元の性別のままであり、性自認も元の性別に戻る場合もある。 こうなれば、最早性別は意味を持たなくなる。 性別の概念自体が壊れる。 実際には稀なケースだろうが、生じない可能性はない。 性別変更前の生殖腺が残っており、それに伴う生殖能力が維持されていれば、十分に生じ得るケースだ。 まさに 「親子関係等に関わる問題が生じ、社会に混乱を生じかねない」 事例と言ってよい。 その間で生まれ育つ子供の福祉についても考慮しなければならない。 少数でも生じれば、受け入れるよう家族制度全体の変更も余儀なくされる。 1)について補足しておくと、性別変更によって女性から男性となった人(夫)の妻がAIDによって第三者の提供精子で子を懐胎・出産した場合、かつては、その子の夫の摘出でない子(非摘出子)として取り扱ってきた。 しかし、最高裁第3小法廷は2013年12月10日に 「性別の取扱いの変更の審判を受けた者については、(中略)一方でそのような者に婚姻することを認めながら、他方で、その主要な効果である同条(民法第772条)による摘出の推定についての規定の適用を、妻との性的関係の結果儲けた子であり得ないことを理由に認めないとすることは相当ではない」 との決定を出し、法律上、夫の摘出子となるとした。 夫の摘出子としなくとも、特別養子縁組で法的な親子関係を生じさせることもできる。 それを敢えて夫の摘出子と正面から認めることで生物学上は女性である父親の存在を公認したことになった。 この問題は本誌でも西部邁氏との対談で批判したところだ(「《対談》何サマや最高裁!婚外子・性転換『父』子裁判の浅慮と傲慢を糺す。」『正論』2014年3月号)。 ■性別の再変更による混乱 2013年の時点では最高裁は性別適合手術を行って女性には再び戻らない存在を法律上の父と認める判断をしたが、10年後には性別適合手術の撤廃を求める判断をし、女性の生殖腺を維持し、場合によっては外見や性自認も女性のままの法律上の父を認めることになるかもしれない。 これは 「女性の肉体をした法律上の父親」 「男性の肉体をした法律上の母親」 を誕生させるなど親子関係を混乱させる。 しかし、実は既に元女性で現在は男性の母や元男性で現在は女性の父は存在する。 特例法が規定する5つの要件のうちの 「B現に未成年の子がいないこと(子無し要件)は2003年の制定当初は 「現に子がいないこと」 とされていたが、2008年に現行の規定に改正された。 当初の 「現に子がいないこと」 との要件は 「女である父」 や 「男である母」 が生じることによる家族秩序の混乱や子の福祉への影響を懸念する議論に配慮したものだった。 最高裁も2007年10月19日、第3小法廷で 「(この規定は)合理性を欠くもとは言えないから、国会の裁量権の範囲を逸脱するものと言うことはできない」 と合憲判断したが、既に子がいる性同一性障害者について一律に性別変更ができないとすることへの批判が強まり、 「現に未成年の子がいないこと」 へと改正され、要件が緩和された。 これにより成年に達した子との関係では 「女である父」 や 「男である母」 が生じることになった。 性別変更前の生殖腺を残したまま性別変更し、婚姻できるとすることは、1)2)3)4)の事例のように事実上の同性婚を認めることを意味する。 女性の生殖腺を維持し、外見も女性だが、法律上は男性である者と、生まれながらの女性との婚姻を可能にする。 場合によってはその法律上の男性の性自認は女性に戻っている可能性もある。 その逆に男性の生殖腺を維持し、外見も男性だが、法律上は女性である者と、生まれながらの男性と婚姻を可能にする。 場合によってはその法律上の女性の性自認は男性に戻っている可能性もある。 次には性自認が女性に戻った法律上の男性は、法律上の性別を男性から女性に再変更することを求めてくるかもしれない。 逆に性自認が男性に戻った法律上の女性は、法律上の性別を女性から男性に再変更することを求めてくるかもしれない。 もうこうなってくると法律上の性別が何を意味しているのかも分からなくなる。 現行法では性別の再変更は不可能だが、可能にする法改正を求めるかもしれない。 性別の再変更が実現すれば、法律上の女性同士、法律上の男性同士の婚姻となる。 ■外見とは別の法律上の存在 最高裁は既に2023年7月11日、第3小法廷で経済産業省に勤めるトランスジェンダー女性職員が職場の執務階の女性トイレを使用することを制限されたことについて、制限は 「違法」(国家公務員法違反) として撤回を求める判断をした。 裁判官の補足意見には 「(原告は)性別適合手術を受けておらず、戸籍上は尚男性であっても、経済産業省には、自らの性自認に基づいて社会生活を送る利益をできる限り尊重した対応を取ることが求められていた」 [宇賀克也裁判官(学者出身)] 「自認する性別に即した社会生活を送ることは、誰にとっても重要な利益であり、取り分けトランスジェンダーである者にとっては、切実な利益であること、そして、このような利益は法的に保護されるべきものと捉えること」 [長嶺安政裁判官(外交官出身)] とする意見もあった。 本人の性自認の尊重を 「切実な利益」 「法的に保護されるべき利益」 と擁護している。 この判決の原告は性別適合手術を健康上の理由から受けていない。 宇賀裁判官は補足意見で 「性別適合手術は、身体への侵襲が避けられず、生命及び健康への危険を伴うものであり、経済的負担も大きく、また、体質等により受けることができない者もいるので、これを受けていない場合であっても、可能な限り、本人の性自認を尊重する対応を取るべきと言える」 と性別適合手術要件の撤廃を主張している。 性別適合手術が不要になれば、専門医の診断が必要であるが元の生殖腺や外性器を残したまま性別変更ができる。 そうなれば、これまでの性別概念は崩れる。 生殖腺や外性器で判断せず、本人の性自認を重視することになれば、男性の外見をした法律上の女性や女性の外見をした法律上の男性が存在することになる。 生殖腺や外性器、外見などで男女の性別を区別してきた性別概念が意味を持たなくなり、性別を前提とした社会制度や慣習が瓦解する。 性自認を虚言して性別変更すれば、同性婚も可能だ。 性自認や外性器を残したままであれば、性自認は別として生殖能力もある。 ■性自認は主観的な領域 性自認は心の問題で優れて主観的な領域だ。 性自認が固定せず、流動的な人もいるとされ、極端な場合は日替わり、ある時は男性、またある時は女性という場合もある。 更に性自認と性的指向は必ずしも対応せず、様々な組み合わせがある。 性自認を女性とする自分や女装した自分に、男性として性的に興奮を覚えるというケースもある。 性的嗜好(好み)は多様で、性自認だけを取り上げて尊重すればよいというものでもないらしい。 例えば、トランスレズビアンと呼ばれる生物学上は男性だが性自認は女性で性的指向は女性に向かう人たちは、性別適合手術をしていない場合が多数だが、彼らには男性の生殖能力があり、かつ女性を性愛の対象にする。 性自認の尊重が 「法的に保護される利益」 となれば、こういった人たちの性自認は可能な限り尊重されなければならない。 性自認は女性であるからトイレを含む女性専用スペースへの立ち入りも認められなければならない。 しかし、生まれながらの女性には拒否感情や恐怖の念がある。 男性の生殖能力や性欲を持つことへの恐怖心だ。 海外では女性刑務所にトランスレズビアンを収容し、女性受刑者がレイプされ、妊娠した事件もある。 女子スポーツ界へのトランスジェンダー女性の参入についても、性別適合手術が不要になれば、男性の生殖能力や外性器を持つ人たちを女性として受け入れることになる。 体格や心配能力、腕力が一般の女性より優れていることに加えて、男性ホルモンを分泌しており、闘争心が強い。 スポーツの公平性が問われる。 性別適合手術は身体を傷付ける外科手術であり、当人には苛酷だが、変更した性別で生きることと社会を混乱させないことを両立させるための不可避の受忍限度内の措置と言える。 最高裁には社会全体の在り方を考えた賢明な判断を期待したい。主張 性別変更 社会の不安招かぬ対応を 2023/10/26 5:00 https://www.sankei.com/article/20231026-WPBHCKJ6B5MB3P4E6DXCRU45AA/ 医学・社会の変化対応 性別変更要件、手術必要の「制約」判断変える 2023/10/25 20:36 https://www.sankei.com/article/20231025-QKT7DJVHPFPIXB2FHCFJRISTLU/ 自民議連幹部「困った判決」 性別変更を巡る最高裁決定で 2023/10/25 20:28 https://www.sankei.com/article/20231025-6UTCMWTJ7JMITKHNCEUDOKGO6Y/ 「15人で国の根幹変えてよいのか」ジャーナリストの櫻井よしこ氏、性別変更手術要件の違憲決定に 2023/10/25 20:05 https://www.sankei.com/article/20231025-NQVS2A2S6JMJNCKNLNQTMACDU4/ 「手術は唯一の客観的基準」 手術で性別変更の女性、最高裁決定に憤り 2023/10/25 18:49 https://www.sankei.com/article/20231025-SCSXJVEAIZKYDEW5IQSMYJI6FA/ 手術要件の条文削除など法改正へ 性同一性障害特例法 2023/10/25 18:31 https://www.sankei.com/article/20231025-QAT2SHYDNFKFVLE7ERNFHZCFA4/ 戸籍上の性別変更、認められたのは20年間で1万人超 2023/10/25 18:11 https://www.sankei.com/article/20231025-YEXLYKD7KRJOZCRTDGEYATQBXQ/ 森屋官房副長官「関係省庁で精査し適切に対応」 性別変更を巡る最高裁決定 2023/10/25 17:21 https://www.sankei.com/article/20231025-LL3AO4NPV5JWRDST7LJM7TN5RM/ 生殖不能手術要件は「違憲」 性別変更規定巡り最高裁が初判断、4年前から変更 2023/10/25 15:16 https://www.sankei.com/article/20231025-PHRZXWXMHBPZTB3MDTZENUM3CE/ 性別変更時の手術要件は「違憲」 静岡家裁浜松支部が初判断、当事者の申し立て認める 2023/10/12 20:36 https://www.sankei.com/article/20231012-XBK4I5HQLRL5TB5RB4MTKFIAAE/ 正論 最高裁のあり方根本的見直しを 福井県立大学名誉教授・島田洋一 2023/10/9 8:00 https://www.sankei.com/article/20231009-RWMFL5NWYFM65L2RBJ2QQVDQCY/ 性別変更要件 決定要旨 2023年10月26日 産経新聞 性同一性障害特例法の規定を違憲とした2023年10月25日の最高裁大法廷の決定要旨は次の通り。 【多数意見】 特例法は性別変更の要件として 「生殖腺がない、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」 と規定し、該当するには原則、生殖腺除去手術を受ける必要がある。 規程は、治療としては手術を要しない性同一性障害者に対し、性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けるという、個人の人格的利益を実現するために、手術を受けることを余儀なくさせる。 この制約は、憲法13条が保障する 「身体への侵襲を受けない自由」 の重要性に照らし、必要かつ合理的と言えない限りは許されない。 合理的かどうかは、規定の目的のために制約が必要とされる程度と、制約される自由の内容、性質、具体的な制約の態様などを衡量して判断すべきだ。 規定の目的は、性別変更審判を受けた人が変更前の性別の生殖機能により子が生まれることがあれば、親子関係の問題が生じかねないなどの配慮に基づくと解される。 しかし、規定がなかったとしても問題が生じることは極めて稀だ。 法律上の親子関係は、法令解釈、立法措置により解決を図ることができる。 加えて、特例法施行から約19年が経過し、1万人超が性別変更審判を受けた中で、性同一性障害への理解は広まりつつある。 制約の必要性は、前提となる諸事情の変化により低減している。 特例法の制定当時は、性別適合手術は段階的治療の最終段階として位置付けられていた。 生殖腺除去手術を受けたことを前提とする要件を課すことは医学的にも合理的関連性があった。 しかし、特例法制定後、段階的治療という考え方が採られなくなり、このような要件は合理的関連性を欠くに至った。 規定は、治療としては手術を要しない性同一性障害者に対し、強度な身体的侵襲である手術を受けることを甘受するか、または性自認に従った取り扱いを受けるという重要な法的利益を放棄して性別変更審判を断念するかという過酷な二者択一を迫るものになった。 生殖能力の喪失を性別変更の要件としない国が増えていることも考慮すると、制約の程度は重大だ。 以上を踏まえると、規定による制約は、現時点で必要かつ合理的ではなく、憲法13条に違反する。 これと異なる平成31年の最高裁決定は変更する。 申し立てを却下した高裁決定は破棄を免れず、高裁で判断していない特例法3条1項5号の 「性別変更後の性器に近似した外観を備えていること」(外観要件) に関する主張について、更に審理を尽くすため、高裁に差し戻す。 【三浦守裁判官の反対意見】 外観要件に該当するには、外性器の除去や形成術、または相応のホルモン治療を受ける必要があり、同様に身体への侵襲を受けない自由を制約する。 公衆浴場など社会生活上の混乱を考慮したと考えられるが、性同一性障害者が公衆浴場などを利用して混乱が生じることは極めて稀だと考える。 外観要件による制約の必要性は相当に低い。 他方、憲法13条に反する。 申立人の性別を変更する決定をすべきだ。 【草野耕一裁判官の反対意見】 公衆浴場などで 「自己の意思に反して異性の性器を見せられて羞恥心や嫌悪感を抱くことのない利益」 が損なわれる事態を懸念する人がいることは理解できる。 ただ性同一性障害者の全人口に占める割合の低さなどを考えれば、利益が損なわれる可能性は低い。 外観要件も違憲だ。 【宇賀克也裁判官の反対意見】 外観要件も過酷な二者択一を迫り、違憲だ。 申し立てを認めるべきだ。
[18初期非表示理由]:担当:スレ違いの長文多数のため全部処理
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