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※2023年10月27日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年10月27日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
実質賃金下がり続けGDPは4位転落、支離滅裂の愚策ばかり(岸田首相)(C)日刊ゲンダイ
我々の税金を弄ぶのはやめて欲しい──。「物価高対策」の名の下に、連日のドタバタを見せつけられ、国民は悲鳴を上げている。
岸田首相は26日、首相官邸で開いた政府与党政策懇談会で、定額減税の方針を表明、「1人当たり4万円」と金額を明示した。併せて、低所得者世帯には7万円を給付する。岸田は「4万円」という数字を出すことに、ことさらこだわったという。自身の指導力のアピールらしいが、ちゃんちゃらおかしい。
この1カ月、減税をめぐる動きは、朝令暮改でクルクル変わった。岸田は「税収増の一部を国民に還元する」と繰り返したが、そもそも「還元」とは何なのか、から始まり、「即効性のある給付だ」「いや、所得税減税だ」「消費税を減税すべきだ」などと議論百出。定額減税の方向になった後も、「2万円じゃ少ない」「扶養家族も対象」「所得税3万円、住民税1万円」と毎日のように新たな数字が飛び出し、制度設計のないツギハギだらけの場当たり減税なのが丸わかりだった。
防衛費や少子化対策費など、いずれ増税が行われるのである。今度の定額減税は、しょせん、支持率対策や選挙対策の類いのもの。来月2日に閣議決定する予定の総合経済対策に盛り込まれるが、減税の実施時期は来年6月。既に自民党内から「物価高対策として意味があるのか」という疑問の声が出るほどなのだから、国民がシラケムードになるのは当然だ。
没落していく衰退途上国
消費者物価指数は今年9月までで25カ月連続上昇している。岸田は23日の所信表明演説で「経済、経済、経済」と三唱していたが、何を今さら、だ。首相に就いてからの2年間、一体、何をやっていたのか。
今春闘で30年ぶりの高水準の賃上げが実現したと息巻くが、実質賃金は17カ月連続で下落している。急激な物価高が原因ではあるが、実は、過去30年で比べてみても特に岸田政権時の急落は際立っている。それは、「労働時間当たりの実質賃金指数を見るとよく分かる」と、インフィニティ・チーフエコノミストの田代秀敏氏がこう続ける。
「短時間やパートで働く高齢者や女性が多くなると平均賃金は下がります。男性正社員の名目賃金は増えているからと、岸田政権は実質賃金が下落してもあまり問題視していないようです。しかし、時給換算するように、労働時間当たりの実質賃金指数を算出すると、深刻さは明確。2020年を100として、23年上半期は92.95です。この数値は2010年以降で最低であるだけでなく、バブル崩壊後の31年前の1991年(90.80)と92年(93.42)との間の水準です。今のインフレが急激であるのに対し、賃金の伸びがいかに鈍いのかが分かります」
国際通貨基金(IMF)が公表した経済見通しによると、23年の日本の名目GDP(国内総生産)はドルベースで世界3位から4位に転落し、人口が日本の約3分の2のドイツに逆転される。150円前後と大幅に進行した円安の影響で、ドル換算で目減りしてしまうからだ。
超がつく円安が、国民生活を苦しめる諸悪の根源なのに、輸出大企業を優遇する岸田政権は動かない。そのくせ庶民には、効果の期待できない焼け石に水のバラマキ。支離滅裂なトンチンカン首相に任せていたら、日本経済はドン底のままだ。
「岸田首相は所信表明で、世界第3位の経済大国から第4位へ転落するというIMF予測に言及しない一方で、『30年ぶりに新たな経済ステージに移行できる大きなチャンスが巡ってきました』と吠えたのには唖然としました。岸田首相に日本経済の成長力を回復しようという意欲は見えません。とりあえず、何万円かを“ボーナス”として『還元』すればいいだろう、という程度でしかない。これでは日本は先進国から没落していく衰退途上国です。日本経済を抜本的に体質改善することが急務なのに、結局、岸田首相は次の選挙しか見ていないのでしょう」(田代秀敏氏=前出)
経済オンチ、外交オンチが「俺は正しい」の高揚感
「外交の岸田」もからっきしだ。
「今年はG7議長国」だと肩で風を切って歩いていたのは、いつのことだったか。それほど最近は存在感ゼロ。パレスチナのイスラム組織ハマスとイスラエルの衝突では、日本政府の対応の迷走ぶりばかりが目立つ。
邦人を退避させるために政府が手配したチャーター機を利用するのに「1人3万円」を徴収して猛批判を買ったのは序の口。イスラエルとパレスチナ双方に配慮する「バランス外交」と言えば聞こえはいいが、実態は、イスラエルを支援する欧米とパレスチナへの連帯を示すアラブ諸国の両方の顔色をうかがいながらの右往左往である。
ハマスによる攻撃の発生当初、岸田はX(旧ツイッター)で、ハマスを「強く非難する」としつつも、「全ての当事者に最大限の自制を求めます」と投稿した。欧米諸国がすぐさま「テロ」と非難したのに対し、原油の輸入の9割を中東に依存する日本の特殊な事情があるゆえ、中立的な立場を強調していた。
ところがその後、ハマスの攻撃を欧米同様に「テロ」と言及するようになる。一方で、上川外相をエジプトで開かれた国際会議「カイロ平和サミット」に急きょ、派遣。上川は来月2〜5日の日程で、今度はイスラエルとヨルダンを訪問する方向だという。
岸田は26日まで行われた衆参の代表質問で「日本はこれまで独自の取り組みを通じて中東各国と良好な関係を築いてきた」と答弁していた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻以降、対米追従をますます強め、常にバイデン政権に同調する一本足外交でやってきた。それが今や完全に裏目に出ている。
70〜80年代の宏池会外交に学べ
高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。
「日本は防衛費を5年で43兆円に増額する。安倍政権ではやれなかったものを、バイデン米大統領のプッシュがあって岸田政権が実現させたわけで、米国にすれば、安倍・菅時代より岸田首相はさらにくみしやすいと思っている。そして、岸田首相も政権維持のためにも米国と波風を立てないようにしている。しかし、ハマスとイスラエルの戦闘が周辺国も巻き込んで激化し、ホルムズ海峡が封鎖されたり、第5次中東戦争に発展してしまったら、日本は原油をどこから手に入れるのか。米国が助けてくれるわけありません。G7メンバーのうち日本を除く6カ国が、イスラエルの自衛権を支持する共同声明を出した一件では、日本が取り残されたような捉え方もありますが、日本は堂々と、『私たちはアジアの一員。アラブ諸国の痛みが分かる』と主張すればいい。日本の立ち位置を計算に入れた賢い外交ができていない現状を懸念しています」
経済オンチ、外交オンチの首相が、国民の不満や不安をよそに「俺は正しいことをやっている」という高揚感の中にいるのが日本の今の姿だ。
「岸田首相は1970〜80年代の宏池会の外交をあらためて見直してみたらどうでしょう。いかに中東を大切に扱ってきたか。米国一辺倒ではない国づくりをしてきたか。国家の安全保障は軍事力のみでは達成できず、外交や経済など非軍事も総動員して国の平和と安定を図ろうという『総合安全保障』の考え方から、一定の解答を得られるはずです」(五野井郁夫氏=前出)
「聞く耳」すら持ちえない岸田に、先達の教えに学ぶ謙虚さがあるのかどうか。このままなら、日本経済も日本外交も絶望的なのは間違いない。
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