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※2023年10月18日 日刊ゲンダイ19面 紙面クリック拡大
日本は貧しい国へまっしぐら…エンゲル係数が過去最高レベル、物価上昇の“体感温度”に大きなギャップ 人生100年時代の歩き方
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/330783
2023/10/22 日刊ゲンダイ
食費はかさむばかり
食費が大変で……。多くの家庭から、そんな声が聞こえてくる。値上げラッシュにも慣れてきたが、この10月はハム・ソーセージから日本酒、ソフトドリンク、オリーブオイルなどが値上がり。家計の負担は増す一方で、エンゲル係数が過去最高水準になっている。
◇ ◇ ◇
家計の約3分の1が食費に回っている。衝撃の調査リポートだ。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「エンゲル係数が過去43年間で最高域〜食料費の負担増のしわ寄せ」と題するリポートをまとめた。2022年9月〜23年8月の12カ月間の累計エンゲル係数が29%に達し、過去最高に並んだと指摘している。
「極端な表現をすれば、これまでは家計の約4分の1が食費でしたが、3分の1程度まで高まったといえます」(熊野氏)
エンゲル係数とは、家計の消費支出のうち、食費が占める割合。所得がアップすればエンゲル係数は低下していく。生活水準と密接に関係する数値で、低いほうが生活に余裕がある。戦後の日本は66%あった。それに比べれば、いまのほうがずっとマシだが、2000年代以降はしばらく25%程度で安定していた。「食費は4分の1」だった。
それが15年、16年、17年と急カーブで上昇。高止まりが続き、「食費は3分の1」に迫ろうとしている。ちなみに世界のエンゲル係数(2019年)は、統計の取り方に違いはあるものの、米国15.3%、ドイツ18.3%、英国20.8%だ。
高齢者ほど影響は大きい
高齢者ほどつらい(C)日刊ゲンダイ
熊野氏のリポートはどんな食料が値上がりしているかを分析している。食料費全体では、この10年間で15.1%アップした。調理食品42.7%、飲料28.1%、肉類26.3%、乳卵類25.0%、菓子類25.0%、油脂・調味料18.1%と凄まじい上昇だ。
2000年以降、エンゲル係数はほぼ横這いだっただけに、15年以降の急上昇は家計を直撃。ここ1、2年はロシアのウクライナ侵攻、米中の経済対立などの影響が色濃くなり、ガソリンをはじめ、電気・ガス代といったエネルギー価格も激しく上昇し、家計を圧迫している。そこにイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突が重なり、一段と厳しさを増してきた。
なかでも影響が大きいのは高齢者世帯だ。
「年金生活者にはつらい値上がりです。年金の支給額はほとんど増えないのに、食費は増えるばかり。エンゲル係数に高齢者世帯の苦しさがクッキリとあらわれています」(熊野氏)
年代別で見ると、最も低いのは50〜54歳の22.9%。55歳を越えると上がっていき、55〜59歳は23.9%、60〜64歳は26.5%、65〜69歳は27.5%、70〜74歳は29.4%だ。75歳以上は30%を超す。年を重ねるほど、食費高騰の影響を受けているのがよく分かる。
体感温度は物価8%アップ
(C)日刊ゲンダイ
物価上昇の“体感温度”が数字のマジックによって低く抑えられている面がある。
8月の消費者物価指数(CPI、総合)は前年同月比3.2%増だった。生鮮食品を除く「コアCPI」は3.1%増、生鮮食品・エネルギーを除く「コアコアCPI」は4.3%増となっている。ニュース番組などが頻繁に伝えるのは総合の3.2%。「ああ、そのぐらいか」と素直に受け入れる人もいるだろうが、毎日のようにスーパーで買い物をする主婦の感想は全く違う。
「3%程度? それって100円の総菜が103円に値上がりしたという感覚ですよね。そんなもんじゃない。実態とかけ離れていると思います」(50代主婦)
実際、8月のCPIから食料品をピックアップすると8.6%増だ。熊野氏も「体感物価は7〜8%の上昇」と指摘する。
さらにもうひとつ。“経済指標のカラクリ”がある。帰属家賃だ。これは持ち家に住んでいる人の家賃分を架空計算するもの。CPIも帰属家賃を構成比に入れている。
「帰属家賃の上昇率はほぼ0%で推移しています。つまり、帰属家賃を品目ウエートに含めることで、物価上昇率は低く見えます。仮に帰属家賃を外して8月の総合指数を算出すると、物価上昇率は3.7%。帰属家賃は0.5%ほど物価上昇率を下げているといえます」(熊野氏)
経済指標のカラクリとは
政府発表の数値は信用しないほうが…(C)JMPA
そればかりじゃない。熊野氏によると、値上がりの激しい食料品とエネルギー消費(電気・ガス代、その他の光熱費、自動車関係費)は、消費支出全体の42%を占めている。ところが、コアCPIやコアコアCPIは価格高騰の著しい2つの項目を外して算出する。これでは実態とかけ離れるのは当然だ。
政府や日銀の公表する経済指標に騙されてはダメだ。だいたい政府は賃上げムードを印象づけているが、物価を考慮した8月の実質賃金は2.5%マイナスだった。賃金アップより、物価上昇が上回っているのだ。しかもマイナスは17カ月連続。自身で生活防衛するしかないが、どうすればいい?
「少し前までは、値下がりしている品を中心とした料理でしのげたと思います。でも、今は値下がり品がほぼなくなってしまっています。消費者物価などの調査から探すのは困難な状況です。そうなると、あまり値上がりしていない品を選ぶか、食卓に並ぶ品数を減らすしかありません」(熊野氏)
エンゲル係数の上昇を防ぐには食費を削るか、収入を増やすかだ。賃上げに期待したいところだが……。
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