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※紙面抜粋
※2023年10月7日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
ワシントン郊外の米国防総省で栄誉礼を受ける木原稔防衛相(左)。右はオースティン米国防長官=4日(C)共同通信社
創業者の故ジャニー喜多川氏の性加害問題をめぐり、ジャニーズ事務所が2日に開いた記者会見が、とんでもないデタラメだったことで、報道がますますヒートアップしている。記者会見で質問をさせない「指名NGリスト」の存在まで発覚し、会見を運営した外資系コンサル会社が謝罪。メディアはジャニーズ側の記者選別を一斉に批判し、ワイドショーもこぞってこの問題を取り上げるなど騒然だ。
そんなドサクサに紛れ、岸田政権はまた、安全保障上、大きな政策変更をシレッと実行に移した。油断も隙もありゃしない。木原稔防衛相が4日、米ワシントンでオースティン国防長官と会談し、米国製巡航ミサイル「トマホーク」を1年前倒しして調達する方向となったのだ。
トマホークは、政府が「反撃能力」と言い換えた「敵基地攻撃能力」の手段となる武器だ。相手の領域内にあるミサイル発射基地などをたたく敵基地攻撃能力の保有については、専守防衛の逸脱や国際法違反の先制攻撃になるという議論があるのに、岸田政権はおかまいなしに突き進んでいる。「12式地対艦誘導弾」や島しょ防衛用の「高速滑空弾」といった国産の長射程ミサイルの開発も進めながら、それらの実戦配備までのつなぎとして、昨年導入が決まった。
調達の前倒しはトマホークの取得時期を早めるのが目的だ。これまでの計画では、2026、27年度に最新型の「ブロック5」を最大400発購入する方針だった。このうちの半分を1世代前の旧型である「ブロック4」に変更し、25〜27年度にかけてブロック4を最大200発、ブロック5を最大200発の計400発を購入することになる。既に23年度当初予算に取得費2113億円を計上済みだが、半分を型落ちに変えることで「安価になる見込み」と防衛省は説明しているようだ。
国民を黙らせるマジックワード
だが、ブロック4と5では、射程はともに約1600キロで、目標への誘導方式や発射システムは共通であるものの、飛行中の精密誘導に必要な通信能力などがブロック4は落ちるという。
米国から能力の劣るポンコツを買わされるのは毎度のことだ。無人偵察機グローバルホークは、購入した3機全ての納入が済んでいないうちに、米軍では「もう古くて使いものにならない」と退役させているし、そもそもトマホークは40年も前に開発されたミサイルだ。“在庫一掃”に協力してくれる日本は、米国にとってさぞかし上顧客なのだろう。
では、そんな型落ちをなぜ積極的に前倒ししてまで購入するのか。木原はこう言った。
「より厳しい安全保障環境を踏まえ、取り組みをさらに前倒しして実施する必要がある」
厳しい安全保障環境──。安倍政権以来、多用される、国民を黙らせるマジックワードである。念頭にあるのは中国なのだが、周辺国をいたずらに警戒させる敵基地攻撃用のミサイル取得時期の急な変更なのに、これほど何の説明もなくあっさり前倒しされてよいものか。決定過程がまったく見えない。
防衛ジャーナリストの半田滋氏がこう言う。
「安全保障環境がより厳しくというより、日本政府として緊張感を表に出して、国民に見せるためだろう。今月14日から南西諸島で『レゾリュート・ドラゴン』と呼ばれる日米共同訓練が行われるのも、『いよいよ大変な時期になる』と喧伝する目的がある。しかし、トマホークが早く届いたからって、すぐにイージス艦に載せましょうということにはならない。イージス艦の改修や日米でのテストも必要です。そもそもトマホークの購入自体が、急に話が出てきて、1カ月程度で決定していることがおかしい。必要性についてきっちり詰めていない。政治家の勇み足で、防衛費が43兆円もあるのだから、国産ミサイルの開発を進めながら、あれもこれも買え、となってしまっている。超タカ派の木原防衛相が『台湾有事が早まる』と前のめりで、防衛省の現場はびっくりしているんじゃないか」
親台湾のタカ派防衛相と悪しきシビリアンコントロール
木原の台湾への入れ込みは筋金入りだ。超党派の「日華議員懇談会」の事務局長で、今年7月には、フェリーで沖縄県の与那国島を訪れた台湾の立法院長(国会議長)らを、同議連の古屋圭司会長とともに現地まで出迎えに行っている。そして、そのフェリーに同乗して訪台し、蔡英文総統を表敬、「『台湾有事は日本有事』を語り合った」と台湾外交部が伝えている。
防衛費を5年間で43兆円へと増額することを決めた際は、自民党の安全保障調査会幹事長として防衛力増強を主張する「軍拡路線」の旗振り役だった。それがいまや防衛相である。まさか台湾防衛のためのトマホーク前倒し調達なのか。台湾向けの個人的なアピールの意図すら疑いたくなる。
しかし、である。前出の半田滋氏が言うように、トマホークの導入をいくら急いでも、自衛隊はすぐには使いこなせないのだ。25年度の配備まであと2年しかないのに、イージス艦8隻すべてを改修できるのか。そもそも、自衛隊は飛来してくるミサイルを撃ち落とすことはできても、敵基地攻撃などやったことがない。運用体制を2年でつくれるのかどうか。
朝日新聞は〈トマホークは、日本にとって米国との緊密な連携を国際的にアピールする政治的ツールでもある〉と書いていた。木原と会談したオースティンは「今は日米同盟の中でも歴史的な機運がある時だ」と言ったが、旧型だろうがなんだろうが、大盤振る舞いで爆買いしているのが日本だ。
半田滋氏によれば、FMS(対外有償軍事援助)による米国製兵器の調達額は1兆7000億〜1兆8000億円にまで膨らんでいるという。安倍政権時の最大だった7000億円からの倍増どころじゃない。国防上、「手の内を明かすことになる」と理屈をつけて、国会でもマトモに説明せず、やりたい放題はエスカレートの一途である。
「タガが外れています。悪しきシビリアンコントロールの典型です。政治案件で購入し、配備を停止したイージス・アショアと同様の無駄遣い。安倍政権と同じ轍を踏んでいます」(半田滋氏=前出)
国会軽視で既成事実を積み上げ
悪辣なドサクサ紛れは、安保政策の大転換となる敵基地攻撃能力の保有や防衛費43兆円への増額を盛り込んだ、安保3文書改定の閣議決定からしてそうだった。
昨年11月末の国会会期末ギリギリに与党で敵基地攻撃能力の保有の協議が始まり、岸田が突然、「5年後の27年度に防衛費をGDP比2%にする」とブチ上げた。43兆円はドンブリ勘定で、何にどう使うのかの説明も議論もない。それどころか、不足する予算は増税で賄うと決めた。
今回のトマホーク調達の前倒しについても、臨時国会が召集される前にサッサとやってしまった。またしても一切の説明ナシだ。
ジャーナリストの鈴木哲夫氏が言う。
「防衛費の増額は、まず金額ありきで決まった。中身の説明はなく、財源もこれから。岸田政権ではこういう話ばかりです。安倍元首相の国葬も国会での議論なく決めて、検証も形だけ。『異次元の少子化対策』を言い出したのも年頭会見でした。国会閉会中に与党内で既成事実を積み上げて、国会を開いた時には『もう決まったこと』と議論しない。こんな国会軽視はありません。安倍政権時代からそうでしたが、岸田首相は国民の声を聞くと言っているだけに、なお罪深い」
岸田は自分に都合のいいことだけアピールするモニターを使った説明ではなく、記者会見を開いて兵器爆買いについて説明したらどうか。もちろん、ジャニーズ事務所がマネした「1社1問」「NG記者はあてない」というデタラメ会見ではない、まっとうな記者会見をすべきなのは言うまでもない。
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