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※紙面抜粋
※2023年10月6日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
「増税メガネ」にカチン(岸田首相)/(C)日刊ゲンダイ
ネット上で飛び交う「増税メガネ」なる不名誉なアダ名がよほど、気になるのか。最近、岸田首相が人前に立つたび、「減税」をアピールだ。
岸田は4日夜、政府・与党が月内に取りまとめる経済対策に減税を盛り込むのか問われ、「あらゆる手法を動員して、思い切った対策にしたい」と含みを持たせた。対策の骨子を発表した先月25日、「税収増を国民に適切に還元する」と表明して以降、「減税」を期待させる発言を連発。増税イメージの払拭に躍起のようだ。
安倍政権の外相だった2015年、岸田は「メガネベストドレッサー賞」の政界部門を受賞するなど、メガネに強いこだわりを持っているらしい。朝日・読売と日本を代表する大新聞にまで〈「増税メガネ」と言われているのを相当気にしているようだ〉と報じられる始末。SmartFLASH(電子版9月29日)によれば、岸田は「レーシックでもすればいいのか?」とご立腹の様子だという。
「増税メガネ」の定着にカチンときて、減税に意気込む岸田につられ、自民党からも減税議論が百出。幹部たちは連日のように減税への期待論をブチ上げる。茂木幹事長が「税収増分をダイレクトに減税措置などによって、国民に還元することもあり得る」と強調すると、世耕参院幹事長は「法人税と所得税の減税も検討対象になる」と所得減税にまで踏み込んでいた。
言うだけなら、誰でもできる。所得税の減税策は過去にも実施や検討がされてきたが、実現にはハードルが高い。実際、岸田が具体的に打ち出すのは「賃上げ促進税制の強化」など、一定の要件を満たした企業への優遇策ばかり。庶民が負担減を実感できる減税策には、ひと言も触れていない。
「家計が苦しくなった」は約6割
「税に関することは国民の審判を仰がなければならない」
自民の森山総務会長はそう言って、衆院解散の大義になり得るとの認識を示していたが、岸田たちが急に言い出した「減税」議論は解散・総選挙を意識した無責任なアドバルーンに過ぎない。
不人気をかこつ「増税メガネ」が選挙戦の前面に立つのはマズイ、とイメージ刷新を狙った「減税やるやる詐欺」みたいなもので、今だけ「庶民の味方ヅラ」を気取った印象操作の域を出ない。
岸田たちが解散を探る理由も単純で、選挙は早い方が有利だから。野党がバラバラな今なら勝てるという自分勝手な都合のみだ。それこそが実態なき「選挙前減税」のいかがわしさである。
自民党総裁選を1年後に控える岸田の脳裏には、衆院選を制して再選を確実にしたいとの思惑しかない。散々庶民をいたぶってきた「増税メガネ」の“揉み手”の裏にあるのは、総裁選の再選戦略のみ。国民の暮らしに寄り添わない冷血政権が2年も続いたことで、庶民生活は悪化の一途だ。
日本世論調査会による8〜9月の全国調査では、岸田内閣発足前より家計が「苦しくなった」「やや苦しくなった」は合わせて57%。「やや良くなった」は3%にとどまった。それもそのはず。生鮮食品を除く8月の消費者物価指数の上昇率は前年同月比3.1%と高止まり。3%超は12カ月連続。食料に限れば9.2%だ。一方、物価の変動を反映した実質賃金は今年8月まで実に17カ月連続で前年比マイナス。物価高に賃上げがちっとも追いついていないのである。
貯蓄から奪った数百兆円の資産を返せ
加えて直近の円相場は一時1ドル=150円台に突入。数兆円規模の為替介入に至った昨年10月以来、1年ぶりの円安水準だ。この国がエネルギーなどを輸入に頼る以上、円安が進めば物価高に拍車がかかるのは必至。今月は食品だけで4000品目以上の値上げが予定されているのに、さらなる物価高が家計に重くのしかかっていく。まさに生活苦はエンドレスである。
「物価高に直面する国民の生活を守り抜く」という岸田の言葉を額面通りに受け取れば、打ち出す対策は既存の企業優遇策ではない。ガソリン価格や電気・ガス代の高騰に対し、企業に補助金を配って一時的に痛みを和らげるような中途半端な策ではダメだ。
庶民を苦しめる円安・物価高を解消するには、植田日銀の大規模な金融緩和策に「待った」をかけるしかない。1ドル=150円台の円安水準は、日銀の緩和策で日米の金利差が拡大している結果だ。この状況を一変させない限り、庶民の暮らしは好転しないのだ。
ところが、岸田は緩和見直しどころか、昨年と違って為替介入に動く気配すらない。その理由は、まず日本経済が大きく依存するインバウンド需要に水を差したくないから。今の円安水準は「安いニッポン」を通り越した「激安ニッポン」で訪日外国人は大喜びだろう。
さらに、日本は政府の債務残高が1200兆円を超え、GDP比250%強という世界有数の借金大国だ。財務省は今年1月、金利1%上昇により国債の償還・利払い費が26年度には約3.6兆円上振れし、30兆円に迫るとの試算を発表。難色を示しているという事情もある。
そして何より日銀の異次元緩和はアベノミクスの一貫。安倍元首相の「負の遺産」だが、岸田は最大派閥の安倍派に気兼ねしてアベノミクスからの脱却に二の足を踏まざるを得ない。ここにも岸田の国民生活無視、党総裁選の再選戦略優先という身勝手な政治的思惑が、横たわっている。
国民を「猿以下」と見くびり
経済評論家の斎藤満氏はこう言った。
「10年以上も続く異常な超低金利政策のせいで、普通預金の平均金利は0.001%。銀行に1年間100万円を預けても、税引き後の利息はたった8円程度です。この現状に庶民もすっかり慣れっこになっていますが、国民の利子所得は90年代のピーク時には年30兆〜40兆円に達していました。それが今ではスズメの涙。異次元緩和で貯蓄から奪った利息はゴッソリ、企業債務の支払利子負担の軽減に回り、所得移転された形です。
超低金利政策で国民が奪われた利子所得は過去30年で数百兆円規模に達するでしょう。岸田首相の唱える『成長と分配の好循環』が実現したところで、庶民の犠牲の上に成り立っていることを忘れてはいけない。仮に『増税メガネ』が所得減税を打ち出しても、恐らく時限を区切った特別減税にとどまる。その効果はたかが知れています。
インフレ下の金融緩和自体が異常で、せめて物価上昇率の半掛け、1.5%程度の利上げに踏み切るべきです。本来なら受け取れたはずの利子所得を庶民に還元した方が、よっぽど効果アリ。それこそ岸田首相の目指す『資産所得倍増プラン』も実現可能です。『奪った利子所得を返せ!』と強く言いたい」
しょせん岸田にとって国民生活はそっちのけ。わが身大事で1年後の総裁選で再選を果たすための解散戦略しか考えちゃいない。だから「増税メガネ」にムキになって「減税」議論で反撃しても、その場しのぎの弥縫策しか出てこないのだ。
「5年間で総額43兆円まで増やす『防衛費増強』や、年3兆円台半ばの予算が必要な『次元の異なる少子化対策』の財源議論は先送り。まだ財源が見つからないうちに『減税』だけを切り分けて考えるのは、虫がよすぎます。差し当たり選挙前は『減税』でゴマカせばいいと国民を見くびり、選挙に勝てば防衛大増税と少子化対策と引き換えの高齢者福祉カットが必ず待っている。今だけ、言葉だけ、そぶりだけの減税は朝三暮四ならぬ、『朝二暮五』で大増税路線にまっしぐら。国民はトチの実を欲しがる猿以下になってはいけません」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
増税メガネの減税詐欺を、国民はすでにお見通しだ。ヨコシマな意図にはもう辟易で、「ようやるわ、コイツら」とあきれるしかない。
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