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※紙面抜粋
※2023年8月26日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
マトモな説明責任を果たさないまま放出強行(C)共同通信社
福島第1原発にたまり続ける「処理水」の海洋放出を強行してから、わずか1日。25日、政府は早くも風評被害対策として用意した基金を取り崩す考えを示した。放出に猛反発する中国が、日本産水産物の輸入を全面停止したことを受けての措置だ。
計800億円の基金のうち、水産物への被害抑制のために創設した300億円を使って水産物の輸出減に対応する。松野官房長官は「新たな輸出先のニーズに応じた加工態勢の強化など臨機応変に対策を講じる」と語ったが、昨年の水産物の輸出額は中国が871億円でトップ。10都県を対象に日本産水産物の輸入停止に踏み切った香港が続き、755億円だった。
1〜2位だけで昨年の輸出総額3873億円の4割強を占める“上客”だ。さらに中国は25日、日本の水産物加工品の購入や使用、販売を禁止すると発表。鮮魚だけでなく、魚肉ソーセージやちくわなどの加工品にまで「被害」は拡大し、800億円の基金がアッという間に吹っ飛びかねない。
処理水を「核汚染水」と呼び、海洋放出に反対してきた中国政府と国営メディアの論調は「危険」「無責任」と批判一色。それを受けて中国国内では食の安全への不安が高まり、海水からつくる塩はそれほど多くないのに、スーパーやネットショッピングで食塩の買い占めが横行している。
この過剰ともいえる反応を日本の大メディアがタレ流し、SNSには「冷笑」する書き込みがあふれているが、日本でも新型コロナウイルス禍で最初の緊急事態宣言が発令される直前、買い占めパニックに陥ったのを忘れてしまったのか。
約束を反故にしながら盗人猛々しい言い分
こうした上から目線で中国を揶揄する人々が、きっとSNS上で放出に反対する漁業者らに「補償をもらうためにゴネている」「廃炉に協力せず国益を損ねる」などと心ない言葉をブツけ、苦しめているのだろう。その振る舞いこそ放出反対の中国を悪者にし、自分たちの「愚かな決断」から国民の目をそらそうとする岸田政権の思うツボだ。
海洋放出を「外交カード」に利用する中国の肩を持つ気はさらさらないが、日本の姿勢も決して胸を張れるものではない。むしろ、漁業関係者の反対を押し切り、風評被害が起きると知りながら故意に処理水を海に流すのは、倫理や道徳に反する。中国側に外交カードを切るスキを与えたのも、日本政府のモラルの欠如と言えよう。
今さら「非科学的で非論理的な対応」(河野太郎・食品安全相)とこぶしを振り上げても、あとの祭りだ。計800億円を計上した漁業補償だって原資は税金。怒りたいのは血税を搾り取られっぱなしの国民の方である。
海洋放出は順調に進んでも30年に及ぶ大事業だ。岸田首相は「たとえ今後数十年の長期にわたろうとも、処理水の処分が完了するまで、政府として責任を持って取り組む」と明言。風評被害にも「国が全責任を持って対応する」と強調するが、まさに盗人猛々しい。
地元・福島の漁連と誓った「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」との約束を反故にしておきながら、「責任を持つ」と言われても、信じるバカはいない。それでも岸田が責任を持とうとするのなら、被害対策の基金に血税が使われる以上、国民全体が「関係者」だ。国民が抱く、次の疑問に答える必要がある。この間、抜本対策を放り投げて、汚染水をいたずらにため込んできたのは誰の無策なのか──。
崩れ去った「最も現実的」の根拠
福島第1の敷地内には、1000基を超えるタンクが林立し、約134万トンの処理水が保管されている。今年度中に約3万1200トン、タンク30基分を海へ流す計画だが、今も汚染水は発生し続けている。
原発事故で溶け落ちた核燃料を冷やすため、大量の冷却水をかけており、そこに地下水や雨水が加わり、汚染水が日々約90トンずつ増えている。東電の試算では汚染水が1日100トン増えると、今年度中に純減する処理水は差し引き1万2200トン。減らせるのはタンク約10基分に過ぎない。
この先、放出量を徐々に増やしても、処理水に残るトリチウムの放出量は年間22兆ベクレル未満と定められており、劇的なタンクの削減はムリ。汚染水の発生をゼロにしない限り、永遠に処理水放出は終わらないのだ。
これだけ厄介な問題なのに、東電の見通しは甘かった。原発事故直後はすぐに解決できると考え、耐久性の低い急ごしらえのタンクに汚染水を貯蔵していたが、水漏れ事故が続発。詳細な科学的、技術的な議論もないまま、345億円もの国費を投じた「凍土壁」も効果が薄く、失敗に終わった。批判を恐れた安倍政権が2013年に汚染水対策の関係閣僚会議を設置し主導権を握ると、東電は政府任せの姿勢に終始。「汚染水ゼロ」への道筋は今なお描けないでいる。
海洋放出は完全な見切り発車だ。なぜ、我々の税金を使って東電と政府の尻拭いをしなければならないのか。彼らが「海洋放出が最も現実的」とする根拠も崩れ去っている。経産省の専門部会は@海洋放出A水蒸気放出B地層注入C水素放出D地下埋設──を検討。16年に海洋放出へと道筋をつけたのは処分期間「52〜88カ月」、処分費用「17億〜34億円」との試算が「最も短期間、低コスト」と結論づけたためだ。
「その試算が今では完了まで最低30年はかかるとされ、費用も漁業補償の基金創設や海底トンネルなどを合わせると、現時点で1290億円に達するとの指摘もある。薄めようが、海底を通そうが、海に流す以上、漁業関係者への補償が必要なのは当然。海洋放出が安上がりなんて嘘っぱちで、汚染水問題を解決する方法は他にもあります」(原発行政に詳しいジャーナリスト・横田一氏)
漁業者がゴネているとの印象操作
例えば近畿大学の研究チームは汚染水からトリチウムを分離・回収する方法と装置を開発済みで、実用化すれば低コストで海に流すことも可能だ。「ところが」と前出の横田一氏はこう指摘する。
「近大のチームがさらなる研究のために政府系の補助金を申請しても通らず、東電に福島第1の敷地内での試験を打診したところ、拒否されました。かくも政府・東電は海洋放出ありきで非科学的にコトを進めてきたのに、中国の対応を『非科学的だ』と批判するのは本末転倒です。中国の全面禁輸が長引けば、補償を上積みせざるを得ませんが、それが政権の狙いではないか。札束で解決するどころか、多額の税金が補償に消えるのは漁業関係者がゴネているせいだと印象操作。賛否が二極化する原発問題への分断をあおり、漁業関係者が意見をしづらい環境にして、完全に沈黙させる気なのかと疑いたくなります」
政府は常に「最後は金目」で、税金を自分たちのカネだと思って都合よく使いたがるが、冗談ではない。金を出す国民に満足のいく説明をすべきだ。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「実害がないことが証明されて初めて『風評』です。溶け落ちた核燃料に直接触れた汚染水を処理しても、通常原発の排水とは含まれる放射性核種は異なる。その検証もロクにしなければ国民の不安は募るばかりです。それなのに、岸田首相は福島原発を視察した際も東電関係者にハッパをかけただけで、地元の漁業者らとは面会さえしなかった。国民の理解と納得を深めるという民主的プロセスを踏まず、『やってる感』の演出のみ。このタイミングでの放出は窮屈な政治日程をにらんだ結果で、どこまでも自己都合が最優先。異なる意見を出し合い、より良い解決策を探るのが成熟した民主社会です。首相はその前提となる信頼構築を度外視しています」
この国では全くと言っていいほど、民主主義は機能していない。
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