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※紙面抜粋
※2023年8月22日 日刊ゲンダイ
※文字起こし
処理水海洋放出をめぐり、全漁連の坂本会長(右)と面談(岸田首相=左)/(C)共同通信社
結局、当事者の声は無視か。どこが「聞く耳」なのか。
岸田政権は、22日にも「関係閣僚会議」を開き、福島第1原発の敷地内に保管されている「汚染水」を福島の海に放出する時期を決定する。24日に放出を開始する予定だ。
岸田首相は20日、福島第1原発を訪れて放出計画の準備状況を視察。さらに21日は、全漁連の会長と総理官邸で会い、「処理水処分に対する政府方針にご理解をいただきたい」と告げた。
岸田本人は「これで手続きは済んだ」と思っているらしい。福島の海に汚染水を捨てるつもりだ。しかし、こんな乱暴な話はないのではないか。
汚染水の海洋放出を巡っては、安倍政権時代の2015年、政府と東電は「関係者の理解なしには、いかなる処分もしない」と福島県の漁業組合と約束をかわしているからだ。地元の漁業関係者の理解が放出の条件だったはずである。
ところが岸田は、地元漁師から話を聞こうともせず「先送りできない課題だ」などと、汚染水の放出を強行しようとしているのだから、ふざけるにも程があるというものだ。
さすがに、福島の漁師は「総理は漁業者の現場の声を聞こうとしない」とカンカンである。官邸で総理と会った全漁連の会長も「海洋放出に反対であることに、いささかの変わりもない」と反対している。
福島の漁師が汚染水の放出に反対するのは当たり前だ。もともと、親潮と黒潮がぶつかる福島の海は豊かな漁場として知られ、取れた魚は高級品として取引されていた。ところが、原発事故後は「福島の魚だ」と売れない時期がつづき、漁師は悔し涙を流していたという。それでも諦めず、歯を食いしばって漁に出ていたそうだ。3.11から12年。ようやく風評被害が薄れてきたところだった。
なのに、汚染水を福島の海に流しつづけたら、また風評被害が広がる恐れがある。12年間の苦労は台無しになりかねない。地元の漁師が「なぜ岸田首相は我々の声を聞かないのか」と嘆くのも当然だろう。
「岸田首相は20日、福島原発まで足を運んだのに、どうして地元の漁業関係者と会わなかったのでしょうか。理解不能です。福島原発の視察も、東電に『覚悟』を求めるという、ほとんどセレモニーに近いものだった。しかも、20日に福島原発を視察し、24日から放出開始──と、地元の漁師に反対の声を上げさせる時間を与えない早さです。この12年間、どれほど福島の漁業関係者が苦労してきたのか、岸田首相は分かっているのでしょうか」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)
安くて簡単だから海に捨てる
いま、福島第1原発の敷地内には、134万トンの汚染水が保管されている。すでに敷地内のタンクの容量の98%に達しているそうだ。毎日、汚染水は増えつづけているため、この秋には限界を迎えるという。岸田が口にした通り「先送りできない課題」なのは確かだろう。
しかし、本当に福島の海に捨てるしかないのだろうか。海洋放出を回避する方法は、あるのではないか。
たとえば、廃炉が決まっている福島第2原発の広大な敷地にタンクを新設することだって考えていいはずだ。
そもそも処理方法は、@海洋放出A水蒸気放出B地下埋設C地層注入D水素放出──の5案が検討されていた。コストが安くて簡単、という安易な理由で「海洋放出」が選ばれただけのことだ。
しかも、岸田政権は「IAEAのお墨付きを得た」「国際基準はクリアした」などと喧伝しているが、人体や環境に全く害がないわけじゃない。
政府は「汚染水」を「処理水」と言い換えて、さも安全かのようにPRしているが、厄介なのは、たとえ多核種除去設備「アルプス」で浄化処理しても、トリチウムだけは除去できないことだ。
トリチウムは低濃度でも人間のリンパ球に染色体異常を起こすと、日本放射線影響学会で報告されている。
カナダでは、トリチウムを大量に排出する重水炉型原発の周辺では小児白血病が増加しているという健康被害も報告されている。
トリチウムの危険性については、専門家の間でも意見が分かれているということだ。
原発問題に詳しいジャーナリスト・横田一氏がこう言う。
「政府も東電も、最初から海洋放出すると決めているのでしょう。このまま海に捨ててしまうのが一番、楽だと考えているのだと思う。トリチウムの危険性について科学的な論争があるということは、仮に安全でも安心には結びつかず、風評被害が起きかねないということです。それでも岸田首相は、風評被害が起きた場合は、漁師に補償金を払えばいいのだろうと考えているのでしょう。そうした考えは、福島の漁師をバカにすることであり、12年間の苦労を踏みにじることだということに気づいていないのでしょう」
深く考えず決断する恐さ
3.11から12年経っても、福島第1原発の「廃炉」は、ほとんど進んでいない。絶望的なのは、溶け落ちた核燃料が、どこにどれだけあるのかさえ、いまだに不明だということだ。
事故を免れた福島第2原発の廃炉でも、完了目標は40年後である。そうなると福島第1原発の廃炉は、80年後、90年後、100年後なのではないか。ということは、これから100年間、汚染水が発生しつづけ、100年間、福島の海に流れつづける恐れがあるということだ。
はたして岸田は、そこまで考えているのだろうか。いずれ豊かな福島の海は、姿を変えてしまうのではないか。
この12年間でハッキリしたことは、地震大国の日本では、原発の稼働は無謀だということだ。
日本では2000年以降だけでも、1000ガル以上の地震が17回、700ガル以上の地震は30回以上起きている。ところが、伊方原発の耐震性は650ガル、高浜原発は700ガルという低さである。これは住宅メーカー「住友林業」の3400ガル、「三井ホーム」の5100ガルより低い。
ところが岸田は、原発再稼働を推し進め、さらに従来の「原則40年、最長60年」という稼働期間のルールを変更して、60年以上、稼働できるようにしたのだから、完全にトチ狂っている。
この男は、汚染水の海洋放出といい、原発の再稼働といい、いとも簡単に大きなことをやっているが、どういうつもりなのか。
「中学生から『なぜ総理になったのか』と聞かれて答えに窮したように、もともと岸田首相は、首相としてなにかやりたいことがある政治家じゃない。その一方、昨年末に安保関連3文書を改定し、敵基地攻撃能力の保有を決めた時は、『俺は安倍さんもやれないことをやった』と高揚を隠しきれなかったといいます。恐らく、官僚から『これはレガシーになります』『安倍首相でもできなかったことです』と囁かれ、良し悪しを深く考えず、次々に決断しているのでしょう。ある意味、非常に怖いことです」(金子勝氏=前出)
なにも考えていないボンボン政治家ほどヤバイものはない。この男は政治家としての資質さえ疑わしい。一刻も早く辞めさせる必要があるのではないか。
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